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地域を超え欧州諸国との安全保障分野での連携強化を進める岸田政権

2023/01/13

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欧州歴訪で安全保障面での連携強化を確認

2023年、日本は7年ぶりにG7(主要7か国)の議長国となる。5月には広島サミットも開かれるが、そこに向けた地均しとして岸田首相は現在、欧州・北米5か国を歴訪中だ。

岸田首相は地元で開催される広島サミットで、「核兵器なき世界」を強く打ち出したいと考えているとみられる。しかしながら、ウクライナ戦争でロシアが核を使用するリスクに直面している欧州諸国あるいは米国にとっては、核廃絶を目指すよりも、まずは核の利用を回避することの方がより差し迫った現実的な課題である。

この点を受けて、歴訪中の岸田首相も、核廃絶を強く打ち出すことを控えているように見える。その代わりに岸田首相が打ち出しているのは、「核兵器による威嚇や使用を断固拒否する」とのフレーズである。

岸田首相は、9日に行われたフランスのマクロン大統領との首脳会談で、自衛隊とフランス軍との間で部隊の往来や共同訓練を実施することで一致した。さらに2023年前半に、外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開く方針も確認している。10日のイタリアのメローニ首相との会談では、外務・防衛当局間の協議立ち上げで合意した。また、両国関係の戦略的パートナーシップへの引き上げも確認している。

安全保障分野での連携強化が特に際立ったのは、11日の英国スナク首相との会談であった。岸田首相とスナク首相は、自衛隊と英国軍が互いの国を訪問しやすくする「円滑化協定(RAA)」に署名した。英国海軍が日本に寄港しやすくなり、共同訓練を通じて英国のインド太平洋地域の安全保障への関与を深めることが狙いである。日本が円滑化協定に署名するのはオーストラリアに続いて2か国目となる。これによって、日英両国は「準同盟」に近づくことになる。

さらに、日英とイタリアの3か国では、次期戦闘機を共同開発する計画についても協力を申し合わせた。日本が大型の防衛装備品を米国以外と共同開発するのは初めてのこととなる。

地域を超えた安全保障面での連携の進展

岸田首相は2022年6月に、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席し、「欧州とインド太平洋の安全保障は切り離せない」と強く訴えた。インド太平洋地域で中国やロシア、北朝鮮の軍事的な脅威に直面している日本としては、米国のみならず欧州諸国もインド太平洋地域の安全保障に積極的に関与することを望んでいる。それが、同地域における中国、ロシア、北朝鮮の軍事的行動に対する抑止力として働くことを期待しているためだ。特に、台湾有事のリスクに関してG7で連携することが、中国への強い抑止力になると期待しているのである。

実際のところ、欧州諸国によるインド太平洋地域への関与は強化されてきている。フランス軍は2021年2月にフリゲート艦を日本へ寄港させ、同年5月には日本国内での日米などの共同訓練に初めて参加した。ドイツも海軍フリゲート艦や空軍の戦闘機をインド太平洋に相次ぎ派遣している。

今回の岸田首相の欧州歴訪を通じて、地域を超えて、価値観を共有する国々が安全保障面での連携を強化するという、日本にとっては新たな国際安全保障体制の姿がより見えてきた感がある。

他方で、欧州諸国によるインド太平洋地域への関与を求めるためには、日本も欧州地域における安全保障上の安定に従来以上に貢献することが必要となる。ウクライナへの支援強化が一層求められるだろう。また、対ロシア制裁においては、ロシア産原油輸出の上限価格設定から、日本のサハリン2を除外する措置が取られているが、今後は対ロシア制裁の強化を求められる可能性もあるだろう。

日本は今後、ウクライナ問題への対応を中心に、欧州地域の安定確保により積極的に貢献する必要が出てくるが、それを実現するには日本国民の理解を得ることが重要となる。この点も、岸田政権の大きな課題だろう。

(参考資料)
「岸田首相、東アジア安保提起へ G7議長国外交を始動」、2023年1月10日、日本経済新聞電子版
「G7結束強化を優先 首相の欧州歴訪 核廃絶の発信 影潜める」、2023年1月12日、中国新聞
「日本と欧州の安全保障、近づく距離 中ロ脅威で認識共有-日本、英国・イタリアと次期戦闘機開発で協力確認」、2023年1月11日、日本経済新聞電子版
「日英、太平洋で共同訓練活発に 両首相が円滑化協定署名」、2023年1月12日、日本経済新聞電子版

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