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さらなる物流イノベーション推進へ向けた基本的な考え方

~アジア・シームレス物流フォーラム2024 パネルディスカッション「シームレス物流のインテグレータ”3PL”の視点からみた日本の物流の未来」より~

2024/05/30

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1.はじめに

2024年度がはじまって2か月が経ようとしている。2024年問題については、物流や流通、製造業界としてあらかじめ準備をしてきたとはいえ、運賃高騰や人手不足感は否めない。またM&Aや業務提携なども活発化してきた。もっとも、対応の巧拙が表面化するのにはもうしばらく期間を要するであろう。
こうした中、「アジア・シームレス物流フォーラム(日本マテリアルフロー研究センター主催)」が今年も開催され、筆者はその最後を飾るパネルディスカッションの司会を務めた。パネリストは日本を代表する3PL事業者:ロジスティード、センコー、鴻池運輸の3社である。荷主のエージェントでもあり、かつ物流事業者として物流の現場をよく知る3PL事業者が、「2024年度初頭の今、何を考えてどう動こうとしているのか」について具体的な議論を交わすことができた。米国と比較し3分の1といわれる日本の物流・流通業の生産性の低さを抜本的に変革するためにどのようなアイデアが提起されたか。本コラムでその一部をご紹介したい。

2.さらなる物流イノベーション推進へ向けた基本的な考え方

「2020年代の物流施策大綱」以降、政府でも多数の委員会や研究会が開催され、2024年問題についての議論が繰り広げられた。ここではその議論を全て振り返ることはしないが、これまでにない踏み込んだ議論と具体的な政策パッケージが実行された※1ことは注目に値する。政策当局の献身的な努力に敬意を表したい。政策パッケージは、「商慣行の見直し」、「物流の効率化」「荷主や消費者の行動変容」と大きく3つの論点から構成される。
特に、今回の政策パッケージの最も注目すべき論点だと思うのが、「荷主や消費者の行動変容」を正面から取りあげた点である。物流問題の解決は物流産業だけでは解決できず、荷主の物流部門の行動変容が必要との認識から規制的措置として、事実上「物流担当役員の設置」が一定以上の規模の企業には義務づけられるとの認識と制度的裏付けを示したことを高く評価したい。

パネルディスカッションでは、これらの政策を高く評価するとともに、物流のインテグレータとして、荷主と物流業の両方の視点をもつ3PL事業者の方々との間で、さらなる物流イノベーション推進に向けた長期で俯瞰的なビジョンについて議論を行った。
ここではあくまでも司会を行った筆者の視点から、またシンポジウムにおいて触発されたアイデアを含めて議論を整理してお伝えしたい。文責はあくまでも筆者にある。

1)長期俯瞰的にみた物流空間構造の長期構想①首都圏環状ネットワークの戦略的活用

まず、長期俯瞰的にみた物流ネットワークの空間構造をどのように考えるかである。首都圏でのインフラ整備で特筆すべきは首都圏環状道路ネットワークの整備が進んだことであろう。ご存じの通り国土交通省が首都圏整備計画を立案し、長い年月をかけて整備してきた国道16号線、圏央道(首都圏中央連絡自動車道)などの環状道路網がようやく完成に近づきつつあるということである。
実際、過去10年以内に建設された大規模物流センターの多くは、この首都圏の環状ネットワークの近隣に整備されている。これらの大規模な物流センターは、REITを活用し国際的な金融市場からのファイナンスを行い、先行的に整備を行っている物流不動産業が運用しており、必ずしも倉庫業や運輸業者自らが整備し保有しているわけではない。また、特定荷主というよりもマルチテナントでの運営という特徴がある。投資家は日本の大都市圏郊外の大型物流センターを安定的な収益を獲得できる投資対象と考えていることがわかる。
共同配送を推進し積載効率を上げるためには、小型の物流センターを統合していくことが有効である。このため首都圏環状ネットワークを活用した大規模な流通物流機能は今後も計画的に整備していくいことが極めて重要であろう。
特に、国土交通省と農水省、経済産業とでタッグを組んで進めてほしい点が2点ある。1つは、首都圏環状道路網を戦略的に活用するための土地利用の最適化、具体的には農業振興地域内農地の用途変更による計画的な流通・物流機能の整備である。
さらに、首都圏内の都市部に多数存在する公設の生鮮市場の移転・再整備である。首都圏都市部には、設備が老朽化しつつある公設の生鮮市場がまだ多数存在しており、持続性が危ぶまれている。こうした公設の生鮮市場を16号沿線や圏央道沿線に計画的に整備される流通・物流機能と併せて整備し、機能形成の呼び水とするという発想である。跡地は都市機能(オフィスビルや商業施設)として高度活用をすることが効果的であろう。

もう少し詳しく説明しよう。もともと現在の公設市場は首都圏の空間範囲がまだ小さい範囲だった数十年前にその当時の首都圏の周縁に整備された。ところがこの数十年で首都圏の姿は約4000万の人口を抱える世界でも稀にみる巨大都市圏に変貌したのである。再配置の検討が必要なのは半ば当然ではないだろうか。
荷主である消費財の製造・流通事業者からみてもこれは有り難い。なぜなら、消費財が製造されて最終消費者の手に届くまでの複雑な輸送ルートを圧倒的に簡略化できるからである。
消費財が製造されて最終消費者の手に届くまでの複雑な輸送ルートは、かなり省略して記載したとしても下記のようになる。GMSなどの小売業になると数十万アイテムの商材を扱う。商品カテゴリにより卸業も異なるが、ここでは生鮮品と加工食品を例として説明しよう。

①生鮮品の場合(簡略表現)
公設生鮮市場→仲卸→生鮮(肉、野菜、果物、鮮魚別)プロセスセンター(いわゆるパック工程)→小売業の専用物流センター→小売業店頭、さらにネットスーパーの場合は店頭ピッキング→宅配

②加工食品の場合
素材メーカー工場→加工食品メーカー工場→工場倉庫→メーカー首都圏物流センター(多品種化のため全商品が1つの工場で生産されることは稀である)→卸業の首都圏物流センター→卸業の地域物流センター→小売業の専用物流センター→小売店舗(→店頭ピッキング→宅配)

これらを空間構造として眺めてみるとどのようになるであろうか。全国や海外からの輸入食材は、首都圏に点在する公設市場に個々のカテゴリごとに、集約され、さらに首都圏に複数あるプロセスセンターに輸送され……と、他カテゴリ商品との混載で店舗納品業務を効率化するためにさらにまた首都圏内を“行ったり来たり”する。荷主、つまり所有権が変わるたびに何度も何度も輸送され、上記のような複雑なルートを通過しているのである。
もし、これらの物流・流通機能が近接して立地していたら、もしくは首都圏の環状ネットワークにすべてが位置していたら、輸送効率や積載効率が格段に上がることは言うまでもない。つまり、公設市場を呼び水として、プロセスセンターや卸の物流センター、小売の専用物流センター(ネットスーパー機能あり)を移転再配置するのである。何より、小口の都市内物流と混在しないことのメリットは大きいと考えられる。

もともと、消費財の工場や物流センター、特に小売業の専用物流センターなどは、経済の拡大とともに逐次的に整備されてきた経緯がある。現在の市場の規模や空間構造に対して最適なネットワークにはそもそも設計されていないのである。もしくは長期のネットワーク設計をする暇もなく、逐次的に高度経済成長に対応してきたというわけである。長期の成長を見越して大規模な物流センターを整備すると、短期的には稼働率が下がるため逐次的な整備になるのは自然な流れでもあった。
このため21世紀の今、これらの流通・物流機能を、首都圏環状ネットワークに計画的に整備される大規模な流通・物流機能空間に移転・再配置することは、長期的にみて物流コストを圧縮でき生産性を向上させ、サステナブルな環境を形成するという意味でも大きな戦略となるのではないか。物流問題を解決するには、そもそも流通・物流拠点を集約立地し、ネットワークを簡素にし、複雑な輸送を発生させないことにすればよいというアイデアである。
10年前までは、それでは運輸事業者の仕事が減少するのでは……という懸念や政策的な配慮もあったのかもしれないが、この人手不足の中ではそのような懸念もないだろう。運輸事業者も単なる輸送そのものではなく、より高度な物流サービスへ転換したいのである。
こうして形成された首都圏環状ネットワーク上の流通・物流拠点と中部圏、関西圏との間での長距離幹線輸送が、高速道とのダブル連結トラックなどにより効率的に輸送されることになると考えられる。パネルディスカッションでは、長距離幹線トラック輸送での中継輸送マッチングエリアの整備の重要性が改めて指摘されたことも紹介しておきたい。

2)オペレーション改革と標準化の長期構想 ~設備投資を阻むものは何か~

物流イノベーションを現象論として捉えると「マンパワーに多くを依存する労働集約的な運輸産業から、設備型、もしくは装置産業への進化だとよく指摘される。では、物流の現場で「装置産業への進化」を妨げるものは何なのだろうか。パネルディスカッションでは短い時間であったが貴重な指摘があった。様々な論点が提示されたが、筆者の理解や解釈を含めて下記の7点を挙げたい。

①物流産業が装置産業への展開ができないのは「設備投資の採算がとれないから」である。さらに個々の荷主との契約が短期契約の場合はとても大規模な設備投資のリスクも負えない。

②さらに、その主な理由は、荷主から要請される「ムリ・ムダ・ムラ」の存在である。 最終消費者の購買行動の波動への対応は必要だが、卸の営業の月末ノルマ達成のためなどのそれ以外の月次波動やリベート獲得のための人工的な波動は、物流コストを意識していないために起こっているのではないか。このような波動を極力排除すれば、設備投資が採算に乗り、装置産業への移行が進み、各段に物流の生産性は向上する。

③毎日受注翌日配送の非効率さ
さらに時間帯による、稼働率の変動の大きさも論点の一つだ。マテリアルハンドリングへの設備投資を行っても、荷主からの要請が「毎日受注の翌日配送」では、作業の一日のスケジュールが固定化され、ピークに対応せざるを得ないため、24時間でみた稼働率は低くならざるを得ない。例えば、設備稼働時間が夜間の数時間だけというのはあまりにもムラが大きい。できれば物流センターは24時間稼働させたい。

④計画情報の共有
③のためには、欧州では常識となっている物流計画の共有を契約に取り込み、計画自由度が高く、生産性の高い物流へシフトすべきである。これまでは、物流業への直接の発注者は荷主の物流担当部長であった。多くの物流担当部長は、物流サービスの調達を行うのみで、物流業務を含むサプライチェーン全体の業務プロセスについての設計、運用改善の責任や権限が乏しかったのである。例えば、3PLから物流部長に出荷計画情報の共有をいくらお願いしても、格上の営業本部長(役員)に掛け合ってまで、出荷計画、もしくは販売計画情報の共有について、社内調整をしてくれる物流部長はほとんどいなかった。

⑤業務プロセスの標準化
今後、3PLは荷主や荷主の業種に依存しない形態で物流に関わる業務プロセスから標準化を行い、荷主へも標準業務への協力を求めていく所存である。業種ごと、企業ごとのきめ細かい個別対応を「サービス競争」として競う時代は終わったと思う。これが結果的に荷主のためにもなるのである。

⑥荷姿の標準化の推進
首都圏郊外でのマルチテナント型の大規模物流センターであっても、荷姿(パレットだけではなくオリコン(折りたたみコンテナのこと。フィジカルインターネットではPIコンテナと呼ぶ)までの標準化)や業務プロセス、取引のためのEDIやAPIが標準化されていないため、実はDXやマテリアルハンドリングへの設備投資は進んでいない。一方、荷姿(オリコンなど)が標準化されれば、マテハンへのへの設備投資は飛躍的に進むはずである。

つまり物流事業者からすると荷主の行動変容と各種の標準化が生産性向上の最大の鍵ということになる。是非、対等なパートナーとして、荷主企業と物流企業との間での議論が活発化することを期待したい。

⑦最後に「オペレーション改革と各種の標準化が進んだ場合の近未来物流の姿」を示してみよう。1)では、所有権の移管に伴い輸送が発生しているという表現を採用したが、物流DXのねらいの1つに所有権移管と輸送の分離がある。所有権がメーカーから卸、小売、消費者と移管される度に発生している輸送自体を無くすのである。つまりメーカーから3PL等のプラットフォーマーに商品が出荷された後は、商品の所在と所有権を分離して管理するという仕組みを構築するである。実はこれまでも「倉荷証券」「船荷証券」などの有価証券と商品とを紐づけ、商品は蔵置したまま、もしくは船で輸送されている間に所有権を売買する取引形態は開発されている。商品の所有権を3PLなどのプラットフォーマーが管理し、取引ごとに商品を輸送すること自体を辞めてしまうのである。こうすることで、店頭や宅配までの物流を可視化し最適化していこうというアイデアである。
「そのようなことはさすがに無理ではないか」という方も多いと思うが、現在、欧州で開発されているGAIA-XやIDSA、日本でも開発されているウラノスエコシステムなどの極めて信頼性の高い自律分散協調型のデータ連携システムと個体のトレービリティシステム、例えばデータマトリックスとAAS(資産管理シェル技術などとを組み合わせることで、所有権と輸送の分離を行い、円滑でムリ・ムダ・ムラを極力省いた流通・物流機構を整備していくことは、理論上は可能である。欧州や日本の一部の大手商社では、既にこうしたアイデアに基づいた取組ははじまっている。次期の物流施策大綱へ盛り込まれることに期待したい。

3)物流担当役員の登場と3PL事業者。物流イノベーションの推進へ向けて
~ようやく顧客がうまれた3PL事業~

政策パッケージでは物流担当役員の設置が一定以上の規模の企業には義務付けられることになったが、このことは3PL事業者などの高度な物流サービスを志向する物流事業者にとってどのような意味を持つのであろうか。
一言でいえば「ようやく顧客がうまれた」ということである。物流担当役員の業務は、大きく3つあると筆者は考えている※2。①長期俯瞰的な視座からの物流ネットワークの設計と運用・改善、②全社のSCM業務プロセスの設計と運用・改善、役員会議でのSCMネットワークの定量的な提案、③取引先との物流関連の契約内容の設計と運用・改善である。一方、これまでの物流担当部長がこの3つの業務を明確に任されていることは稀であり、その権限も無い場合が多かったのではないだろうか。
3PLは単なる輸送の手配師ではない。まさに、上記3つの業務について、物流担当役員の傍にいて、物流担当役員のエージェントとしてその機能役割の一部を代替するサービスを担うのだ。実際、パネルディスカッションでは、物流ネットワークの設計と運用・改善を行う具体的なソリューションを示した上で、「既にその準備はできている。問題はこれまで顧客がいなかったことだ」という意見も披露された。
今後は荷主の物流担当役員、またその補佐役として、運輸事業者の3PL事業への参入も拡大し、また3PL事業者を事実上のリーダーとして日本の物流が発展していくのではないかとの印象を強くもった次第である。

執筆者情報

  • 藤野 直明

    産業ITイノベーション事業本部

    シニアチーフストラテジスト

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