はじめに
生成AIの導入は多くの企業にとって中長期的な競争力向上の鍵となっています。しかし、具体的な投資対効果や実効性の不透明さから、試行(PoC)の段階で停滞し、本番化や業務の定着に至らないケースが多いのが現状です。
このような課題に対し、NRIでは3回にわたって生成AI活用のウェビナーを開催し、企業での生成AI活用をスケールさせ、変革を推進する方法論について掘り下げました。
ウェビナーには予想を上回る多数の申し込みがあり、参加者から数多くの質問やご意見をいただくなど、大変な盛況となりました。期間限定でウェビナーのアーカイブ動画を公開しておりますので、詳細な内容や具体的な事例を再度確認したい方は、以下のリンクからご覧ください。
生成AIの技術革新と市場動向の要点
生成AIは、企業活動に大きなインパクトを与える技術として急速に進化しています。
技術革新のスピード・市場の急速な拡大・社会的なルール整備の進展という3つのポイントを踏まえると、生成AIが企業活動に与えるインパクトは非常に大きく、今後ますますその重要性が高まることが予想されます。
出所:ウェビナー資料より一部抜粋
生成AI活用の現状と課題
生成AIの導入が進む中、多くの企業がその可能性に期待を寄せています。しかし、道半ばで足踏みしている企業も多く、特に「スケールの壁」に直面しています。「スケールの壁」とは、企業が生成AIを本格的に導入し、広範な業務プロセスに適用する際に直面する障害のことです。この壁を乗り越えられない企業は、生成AIの潜在力を十分に引き出せずに終わるリスクがあります。
出所:ウェビナー資料より一部抜粋
生成AIを効果的にスケールさせるための視点とアプローチ
生成AIを効果的にスケールさせるためには、以下の3つの視点に基づく5つのアプローチが重要です。
出所:ウェビナー資料より一部抜粋
生成AIの「スケール」は、変革度合いを大きくするスケールアップ(効果最大化)と、それを横に広げていくスケールアウト(QCDRを確保しつつ拡大)の両面から考える必要があります。この2つの側面からアプローチを行うことで、企業変革のスケールを実現できるのです。
経営・事業視点で解くべき課題を設定
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アプローチ1:経営視点で、”将来の姿”から”解くべき課題”を明確化
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最初に取り組むべきは、経営・事業視点で解くべき課題を明確化することです。このアプローチでは、経営視点から「将来のなりたい姿」を描き、それに基づいて解くべき課題を明確にします。これにより、生成AIの導入が企業全体の戦略にどのように寄与するかを具体化し、企業の成長を促進します。
具体例として、製造業の特許調査の効率化を挙げます。新製品の開発時には、多くの文献を読む必要があり、開発者の負担となっています。生成AIを導入することで、文献の自動読解や要約が可能となり、開発者の負担を軽減できます。
さらに、特許調査の効率化にとどまらず、開発プロセス全体の効率化や人材不足問題、バリューチェーン全体の改革につなげる「開発プロセスの効率化」の視点が重要です。製造業の開発プロセスにおいては、多くのドキュメント作成やレビューが必要ですが、生成AIで過去のレビュー蓄積データをもとに対話型論点生成を行うことで、デザインレビューが飛躍的に効率化します。このように、生成AIの導入により、開発サイクルが短縮され、新商品の市場投入スピードが向上するのです。
このように、現場発のボトムアップの課題を、経営視点からとらえ直すことで、経営改革まで視野に入れた取り組みに昇華することができると考えています。
最終的には、生成AIの活用が企業のビジネスモデルそのものを変革する可能性を考慮しなければなりません。2030年、2040年を見据えたシナリオプランニングを行い、生成AIがもたらす未来の変化に対応する戦略を構築することが、今後、益々重要となるでしょう。
業務・顧客・技術特性の視点で価値を最大化
次に、業務・顧客・技術特性の視点で価値を最大化するユースケース設定の3つのアプローチについて、ご説明します。
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アプローチ2:一連の業務プロセスでユースケース化
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企業における生成AIの活用には、メールや架電でのAI活用、応対記録を取る際の音声認識でのAI活用など、様々な業務シーンへの適用が挙げられますが、単発的になりがちです。これらのAI活用を広く普及させ、定着を図るためには、一連の業務プロセスでユースケース化することが重要と考えています。
具体例として、ノルウェーのAIテック企業Simplifaiが保険会社の請求処理業務に対して生成AIを適用した事例を取り上げます。この例では、補償根拠の抽出から追加質問への回答、被保険者への追加書類の依頼までの一連の業務プロセスに生成AIを適用することで、保険査定士の業務を大幅に効率化することに成功しました。このように、一連の業務プロセスにAIを適用することで、効果を生み出す領域を広げ、ユーザへの定着も図ることができるのです。
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アプローチ3:顧客チャネル全体の視点でユースケース化
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顧客チャネル全体の視点でAIをどう活用できるかを考えることも重要です。従来は、電話、メール、Web、アプリ、チャットなどの様々なチャネル毎にシステムも担当する人間も異なる、というのが当たり前でした。しかしながら、AIがサポートすることで、チャネルを横断して、お客さまのセルフ解決やパーソナライズコミュニケーションのような顧客体験の高度化、オペレータ応対やFAQナレッジの作成・更新など、バックエンド業務のスリム化が可能となります。
具体例として、「FAQナレッジマネジメント」に着目した業務改革例をご紹介します。コールセンタ、チャットボット、Webポータルといったチャネル毎にFAQナレッジを維持更新し続けるのには大変な負荷が掛かっています。生成AIを活用することで、どのチャネルも活用可能な形で、FAQナレッジを維持・拡張し続けることが出来れば、大きな生産性向上が期待出来ます。
当社のAIソリューション「TRAINA」ではこのような利点に着目し、生成AIが新たに生成したFAQをスーパーバイザ承認を経て追加登録するという形で、生成AIをワークフローに埋め込むことで自動的に応対ナレッジを育て続けることができる仕組みを取り入れています。
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アプローチ4:AIをエージェントとして活用
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生成AIを“エージェント”として利用することで、人間が担っていた業務を代替したり、大幅に効率化することが可能になるという点も見逃せません。AIエージェントは、生成AIを複数のモデルや機能を組み合わせることで、人間の指示や意図を理解し、人間とデータ・AIの仲介者(エージェント)として振る舞うAIシステムです。自律的な目的遂行と言う点に加え、生身の人間を超越した対話を物理的な制約なく稼働できるという特徴から、AIエージェントとして活用することには大きな可能性を秘めています。
具体例として、慢性的な人手不足に悩まされているリアル店舗のマネジメント支援にAIエージェントを活用するユースケースを考えてみて下さい。本社からのマニュアルやPOS情報、商圏データをAIエージェントが取りまとめ、問題解決をサポートすることが出来れば、本社による教育コストの低減、店舗経営者の負担軽減に寄与し、効率的な店舗経営が可能となります。
ガバナンス・基盤の整備
最後に、ガバナンス・基盤の視点からのアプローチについてお話します。
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アプローチ5:リスクに加え、効率性、品質視点で全体アーキテクチャやGoodデータの整備
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AIがスケールする際には、AIリスクへの対応を企業として統制する「AIガバナンス」、スケーラビリティや再利用性を意識した「アーキテクチャ」、精度の高いAIを作るための良質なデータの生成・拡大の好循環サイクルを実現する「Goodデータマネジメント」が必要不可欠です。
AIガバナンスを発揮するためのAIポリシーやガイドライン、これを各部門のAI施策に対して適用するための統制プロセスを整備することで、AIシステムを安心してリリースし、業務適用を拡大することが出来ます。
また、AIシステムの将来的な拡張性を担保するためには、共通的な思想に基づくアーキテクチャを定義することが望まれます。
AIシステムが実務に耐えうる性能を発揮するためには、AIが活用しやすい良質なデータ“Goodデータ”を定義し、Goodデータが貯まり続ける仕組みを整備することが重要となります。
これらの5つのアプローチの具体的な事例や詳細な方法については、ウェビナー動画をご覧ください。
最後に
本ウェビナーでは、企業変革をスケールさせるためのポイントを、3つのカテゴリー、5つのアプローチでお話しました。これらの取り組みをしっかり進めることで、企業変革に繋がる価値を生み出し、生成AIのスケールアウトを実現できると考えています。
当社のAIコンサルティングサービスでは、企業が生成AIを効果的に活用し、競争力を高めることができるような、経営視点でのシナリオ立案やAIポリシーの策定、Goodデータの継続的な蓄積といったサポートを提供しています。生成AIの導入に際して、皆様が直面しうる課題の解決に向けての知見も持ち合わせており、円滑なプロジェクト推進にお力添えできますので、お困りの際は是非ともご相談ください。
執筆者情報
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