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消費者ニーズに向き合いATM事業を拡大

2015年4月号

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現金を出し入れする際、コンビニのATMの活用が当たり前の選択肢になって久しい。便利な場所で365日、24時間、安定稼働している安心感が、利用者を増やし続けている。本来であれば、銀行にとって他行は競合他社。しかし、ATM事業で差別化を図るセブン銀行にとっては共存共栄の相手。他行とともに、ATMの進化をどう図っていくのか、セブン銀行の取締役常務執行役員 石黒氏に語っていただいた。

金融ITフォーカス2015年4月号より

語り手 石黒 和彦氏

語り手

株式会社セブン銀行
取締役常務執行役員
石黒 和彦氏

1980年 三和銀行(現 三菱東京UFJ銀行)入行。1998年 システム部次長。2001年 ユーフィット(現 TIS)出向、取締役。2004年 UFJIS(現 三菱UFJインフォメーションテクノロジー)出向、取締役。2006年 同社出向、常務取締役。2009年 セブン銀行入行、執行役員システム部長。2010年取締役執行役員システム部長。2013年より取締役常務執行役員。

聞き手 齊藤 春海

聞き手

株式会社野村総合研究所
専務執行役員
齊藤 春海

1982年 野村コンピュータシステム(現 野村総合研究所)入社。ITプロジェクト推進部長、ECソリューション開発部長を経て、2002年にe-ナレッジ事業本部長。2004年 執行役員 証券システム事業本部副本部長に就任。情報技術本部長を経て、2009年4月より金融システム事業本部長。2010年4月より常務執行役員、2015年4月より現職。

ATM事業を柱に展開

齊藤:

セブン銀行は、今年で15年目を迎えられます。ATM事業に特化したユニークなサービスから開始され、現在、国内のATMの台数は2万台を超える規模になっています。年間の利用件数も7億件を超えると聞いています。

石黒:

もともと当社は、「セブン-イレブンにATMがあったらいいな」というお客様の声から生まれた銀行です。今では、セブン-イレブンのほぼ100%にATMが置いてあります。

ATMは、セブン銀行が開業するずっと前から銀行の店舗内にあり、そこで、お客様はお金をおろしていました。また、その回数も、月に1回か2回が一般的だったと思います。それが、コンビニですぐに引き出せるようになったことで、お財布にたくさんお金を入れておくことも、また家に置いておく必要もなく、その都度下ろせばいいんだ、という考え方に変わっていったと思います。少し大げさに言うと、新たな需要をつくったということでしょうか。

齊藤:

特に若い世代は、新しい行動パターンに順応します。野村総合研究所が行った調査では、現金の引き出しにおいて最もよく利用する方法として、コンビニのATMを挙げる人が、20代、30代に高くなっています。また、50代、60代にもコンビニのATMの利用者は広がっていることが伺える結果が出ています。

石黒:

便利であるという側面が大きいと思いますが、ATMの稼働が安定しているという信頼感も、お客様に受け入れていただいた要因だと思います。この14年間、大きなトラブルはほとんどありませんでした。ATMにお金がなくなって引き出せなかった、というケースも少ないです。

サンドイッチを買いに行ったら、売り切れていた。そういう欠品ロス、機会ロスを避けるために、セブン-イレブンは努力をしてきました。ATMもそれと一緒で、いつ行っても動いているし、お金が出てくるようにしています。そうした安心感の積み重ねが利用につながっていると思います。

齊藤:

システムそのものが安定して動き、また現金を切らさないようにするために、どのような工夫をされているのでしょうか。

石黒:

システム面ではかなり堅牢なシステムをつくっています。普通、銀行は法人にお金を貸して、それが返ってこないと不良債権で倒れてしまいますが、当社は、システムが止まるとお金が一銭も入ってこなくて倒れてしまうという特殊な銀行です。ですから、ATMと提携金融機関をつなぐシステムは東西で常に稼働しており、大地震が発生しても片方は必ず動いている仕組みにしています。

齊藤:

ATM自体も進化しているんですよね。

石黒:

第1世代は、2001年から稼働したもので、コンビニの店舗に置けるように小さく設計し、機能を絞った画期的なものでした。しかし、スピードはそれほど速いものではありませんでした。普通であれば5~6年使うと思いますが、3~4年で見切りをつけて、2005年から第2世代に替えました。スピードが約4倍になり故障率も下がりました。また、グループで発行している電子マネー「nanaco」のチャージもできるようにしました。

第3世代は2010年から入れ始めています。このスピードは、第2世代の約2倍になりましたし、省エネの対応を進めることで、使う電気を半分ぐらいに抑えられるようになりました。


他行と共存共栄を図る銀行

齊藤:

セブン銀行の経営ポリシーの中に「共存共栄」という言葉が使われています。120行以上の銀行と提携していると聞いていますが、同じ銀行同士ですので、バッティングするエリアも当然出てくると思います。そういう中で一番考慮されている点をお聞かせいただけますか。

石黒:

提携金融機関のカードが当社のATMで使えることが当社の顧客サービスです。例えばATMでお客様が提携銀行のカードを使った場合、我々はATM受入手数料を提携銀行からいただいています。つまりATMを使っていただく最終のユーザーと提携銀行の両方がお客様です。したがって、提携銀行とウイン・ウインの関係にならないと事業は成り立ちません。そういう意味で、共存共栄が一番大切なんです。

もちろん、提携金融機関のカードが利用できることだけが共存共栄ではありません。ATMでのサービスを充実させたり、セブン-イレブンを巻き込んで提携金融機関と一緒にキャンペーンをやったり、協働でATMを設置する活動も共存共栄の考えのもとに成り立っています。

齊藤:

セブン-イレブンとコラボした企画には、どのようなものがあるんですか?

石黒:

例えば、提携金融機関で新規に口座を開設された方や給与振込口座を指定された方に、セブン-イレブンの商品の引換券を発行するといったキャンペーンがあります。

また、地方銀行から紹介いただいた遊休地に、セブン-イレブンとその銀行の支店を一緒に出店したり、銀行の広い敷地の駐車場にセブン-イレブンを出店させていただくこともあります。これにより、お客様の利便性向上と相互送客がはかれると考えています。

ATMについては、更に共存共栄を進めていきたいと思っています。当社のATMは提携金融機関との共同ATMです。自行のATMだと思っていただいて、いろいろサービスができるということをもっとアピールして伸ばしていきたいと思っています。例えば、セブン銀行のATMの入出金待ちの際に表示される画面などで、提携金融機関はカードローンや投資信託の宣伝をしていますが、そういった宣伝だけではなくて、ATMで申込みが完結できるといったところまで活用していただけたらいいなと考えています。

また、昨年、銀行事務の受託業務を営むバンク・ビジネスファクトリー(BBF)という会社を設立しました。銀行の事務は本当に多種多様なため、人手がかかるものが多いですし、繁閑差が激しいという特徴もあります。ですので、そういう事務処理をBBFに出していただくことで、事務面での共存共栄のサービスにつながるのではないかと考えています。


ATM事業を活かした海外戦略

齊藤:

海外戦略も積極的に進めていらっしゃいますね。2012年には米国のATMの運営会社を買収されたり、2014年にはインドネシアのATMネットワーク会社と合弁会社を設立されました。

石黒:

米国はセブン-イレブン発祥の地で、セブン-イレブンが至る所にありますし、外国資本に対する規制が少ないということもあり、まずは米国で始めようということで2012年10月にATM運営会社を買収しました。

東南アジアでのビジネス展開も随分前から考えていました。東南アジアでも日本で培ったノウハウを十分に生かせると思っていましたが、東南アジアの国々は、規制、特に外国資本の金融に対する規制が厳しく、なかなかうまくいかなかったということがあります。いろいろと検討する中で、インドネシアで、条件が適したパートナーが見つかりました。パートナーと組んで一からネットワークを広げていく取り組みを今やっているところです。

齊藤:

海外の国では、紙幣が日本ほど綺麗ではないため、ATMでの読み取りが大変である、という話をよく聞きます。

石黒:

東南アジアでは、偽札の問題もあり、入金できるATMは少ないです。日本のようにリサイクル型のATMにしてしまうと、入金された偽札が、そのまま出金にまわってしまうことになり、そうなると当然信用問題にもなります。ですので、その辺りは慎重にやらないといけません。

また、東南アジアでは、機械からお金が出てくるのは全然構わないのだけれども、機械にお金を入れることにすごく抵抗があるんです。

齊藤:

取られてしまう、という感覚があるんですね。

石黒:

ですから、ほとんどが出金専用です。ですが、やはりリサイクル型のATMはすごく効率的ですので、その辺りは現地の事情と併せて考えていきたいと思っています。

齊藤:

昨今、訪日の旅行者が増えています。円安の影響もあり、銀座に行きますと、中国や台湾からの旅行者を多く見受けます。そういう旅行者に対してのATMのニーズも多々あると思うんです。その辺りはどんなサービスをお考えでしょう。

石黒:

セブン銀行では2007年から、海外のカードの取り扱いを始めました。最初はなだらかな伸びでしたが、ここ数年で3倍ぐらいの量になってきています。2013年度が240万件、14年度は400万件を超えると思います。

利用件数の伸びは嬉しいことですが、一方、海外カードは結構偽造が多いんです。スキミング対策などのセキュリティへの投資が必須になってきます。また、今後はICカードの国際標準規格はEMVになりますので、それへの対応もしていく予定です。

齊藤:

訪日客は、積極的に地方へも観光に行かれてますね。

石黒:

地方銀行から、外国人の方が来られても日本円を引き出すATMがない、という話をよく聞きます。そこは、私どもが協力できるところだと思っています。

実際、飛騨高山にある十六銀行高山駅前支店に私どものATMを置かせていただきました。普通、自行の支店に他行のATMを置くことは考えられないと思うんです。お客様のニーズに応えようとする十六銀行さんの大英断だと思います。

そのほかにも、地方の空港にも国際便が発着しますので、地方銀行からのご紹介で、空港でのATMの設置を進めています。

齊藤:

日本に住む外国人のための海外送金のサービスなども実施されていますが、その辺りのニーズも高くなっているのでしょうか。

石黒:

おかげさまで海外送金もかなりの勢いで伸びています。サービスを開始したのが2011年3月で、ちょうど東日本大震災の起こった月でした。当時は、日本から帰ってしまう外国人が多くいましたので、どうなることかと思いましたが、順調に推移しています。昨年度が39万件、今年度は60万件を超えてくると思いますので大体5割増しのペースで伸びています。

齊藤:

どこの国の方の利用が多いんですか。

石黒:

圧倒的にフィリピンが多いです。フィリピンは、海外で働いて母国に送金するという比率が高く、GDPの10%に相当するといわれています。しかも、フィリピンの方々は毎月1回、まめに送金されるので、利用件数はかなり多いです。

齊藤:

私は海外送金をしたことがないんですが、銀行の振り込みに比べてかなりお安くできるのでしょうか。

石黒:

そうですね。銀行の窓口で送金する場合に比べると、安いし早いと思います。セブン銀行に口座をつくって海外送金の契約をしていただければ、24時間、365日、いつでも送れます。利便性は高いと思います。

齊藤:

銀行の窓口が空いている時間に送金に行かれない人も多いので、セブン-イレブンなど身近な場所で時間帯を気にせず利用できるのは本当に便利でしょうね。


新世代のサービスに向けて

齊藤:

セブン銀行は、お客様のニーズに、更に利便性を加えたサービスを常に考えていらっしゃいます。3月11日には、また新たなサービスとして、新しい移動ATM車両を披露されました。

石黒:

東日本大震災の後、ATMが稼働するまでに時間を要する地域に移動ATM車両を3台派遣し、被災地のお客様の生活を支援しました。その時に寄せられた意見を反映したものが、この度できあがった新移動ATM車両です。

今までの移動車両では、お客様が階段をのぼって車両の中でATMを利用する形態でしたが、ATMを車両の外に設置できるようにし、高齢者や体の不自由な方にも利用しやすくしました。また、ATM専用バッテリーを搭載したり、従来より小型の車両にすることで、場所を選ばずにサービスが提供できるように改良を行っています。

3月14日から仙台で開催された国連防災世界会議でも、新移動ATM車両を披露し、お陰様で好評を得ました。

齊藤:

ATMの利便性が増す一方で、いろいろなテクノロジーが生まれてきており、電子マネーが若者を中心に普及したり、幾つか新しい決済の波のようなものも来ています。

石黒:

現金の需要がどこまであるのか、現金を下ろすという行為が未来永劫続くのかというと、決してそうではないと思っています。一方で、10年後、20年後に現金がこの世の中からなくなって全部電子化されるかというと、それもないと思っています。ですので、ATMでの現金の出し入れの事業は続くと思っています。現金の流通が減ると、利用件数が少なく、採算の合わないATMは徐々に撤去されていくかもしれませんが、その時に我々が現在以上のシェアを持ち、最後のとりでとして、現金の決済を守っていかないといけないと考えています。

ただ、現在のATMは、現金の出し入れができる、電子マネーのチャージができるといった機能がメインですが、必ずしも、これからはそうではないかもしれません。コンビニという今や日本の社会インフラになった場所に置いてある箱で現金の出し入れ以外に何ができるかということも含めて、幅広に考えたいと思っています。

是非、その辺りは、NRIさんにもご協力いただきたいと思っています。

齊藤:

是非、協力させていただきたいと思います。

本日は、貴重なお話をありがとうございました。

(文中敬称略)

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