概要
- 野村総合研究所(NRI)は2024年9月7~8日にかけて、関東に住む満15~69歳を対象にChatGPTに関する第3回目のネットアンケート調査を行った。2023年6月調査と比較するとChatGPTの認知率は68.8%から72.2%へ拡大し、利用率は15.4%から20.4%へと上がった。男性若年層(20代、30代)の利用率は頭打ち傾向が見られるものの、男性中年層(40代、50代)および女性若年層(20代、30代)の利用率が大きく伸びている。
- 職場におけるChatGPT利用の不安や懸念は「回答が不正確な場合があること」(2024年9月調査47.7%)、「AIに頼って自分で考えなくなること」(2024年9月調査39.6%)が多いが、2023年6月調査からの変化では「AIに頼って自分で考えなくなること」が2.8%減少している。
- 職場におけるChatGPT利用用途の想定としては「文章の要約」(2024年9月調査31.4%)が2023年6月調査からの変化では4.8%増加する一方で、「人の代わりのコミュニケーション相手になる」(2024年9月調査11.9%)は4.3%減少していた。「人の代わりのコミュニケーション相手になる」については飲食店・宿泊業および医療・福祉業における利用想定の減少が特に大きい。
認知は69%、利用は15%まで伸びている(2023年6月3~4日時点)
ChatGPTに対する日本人の認知・利用度については、2023年6月に公表したレポートにて、2023年6月3~4日に実施したChatGPTに関する第2回調査結果として認知68.8%、利用15.4%であることを紹介していた。その後、1年3ヶ月が経った現在の状態として、ChatGPTの普及状況を調査した。NRIでは関東地方在住の満15~69歳を対象に継続的にインターネットアンケートを行っており、2024年9月7~8日にかけて、ChatGPTの認知・利用動向に関する第3回目の調査を実施した。調査結果としては、ChatGPTを知っていると答えた人が72.2%、実際に利用したことがあると答えた人は20.4%であり、認知は頭打ち傾向が見られるものの利用は伸びていた。性別では前回調査に続いて男性の比率が高く、認知率では77.6%(男性)対66.7%(女性)、利用率でも26.9%(男性)対13.8%(女性)と大きな差がみられるが、男性の認知は概ね頭打ち傾向が見られるのに対し、女性の認知は若年層中心に大きく高まっていた(女性20代:61.4%→72.0%、女性30代:56.4%→74.7%)。また利用においては男性では若年層では頭打ち傾向が見られるものの中年層(男性40代:19.3%→29.6%、男性50代:15.8%→21.8%)および、女性若年層(女性20代:16.0%→22.4%、女性30代:10.2%→17.1%)において利用が大きく伸びており、利用者の幅が広がったことが伺える。
図表1:ChatGPTの性年代別<認知率>の変化(関東地方満15~69歳)
出所)NRI「インサイトシグナル調査」2023年4月15~16日、2023年6月3~4日、2024年9月7~8日
図表2:ChatGPTの性年代別<利用率>の変化(関東地方満15~69歳)
出所)NRI「インサイトシグナル調査」2023年4月15~16日、2023年6月3~4日、2024年9月7~8日
ChatGPT利用の不安や懸念は「回答の不正確」と「自分で考えなくなること」
ChatGPTに関する2023年6月調査および2024年9月調査では、職場におけるChatGPT利用の不安や懸念についても分析した。主な不安や懸念で挙げられるのは「回答が不正確な場合があること」(2024年9月調査47.7%)、「AIに頼って自分で考えなくなること」(2024年9月調査39.6%)であった。2023年6月調査からの変化では「AIに頼って自分で考えなくなること」が42.4%から39.6%へ2.8%減少していたこと、「サイバー犯罪に巻き込まれる可能性があること」が17.5%から14.5%へ3.0%減少していた。「AIに頼って自分で考えなくなること」については、実際にChatGPTを利用してみて正確な情報が自動で出力されるというわけではなく、出力結果の解釈・確認や正しい出力結果を得るためにインプット情報に工夫が必要など、ある程度自分自身で考えながらChatGPTを利用する必要があることが認識されたためではないかと推察される。また「サイバー犯罪に巻き込まれる可能性があること」の減少に関しては、ChatGPTが普及したものの、思ったよりも目立ったサイバー犯罪が発生していないことが理由として考えられる。
図表3:職場におけるChatGPT利用の不安や懸念の変化(関東地方満15~69歳)
出所)NRI「インサイトシグナル調査」2023年6月3~4日、2024年9月7~8日
ChatGPTの利用用途は文章の要約が伸びるものの、人の代わりのコミュニケーション相手は減少に
業務におけるChatGPTの利用用途を調査した結果が図表4である。全体としては「文章の作成」や「情報収集」用途としてChatGPTを利用する想定が高く、2023年6月調査からの変化としては「文章の要約」が26.6%から31.4%へ4.8%増加していた。ChatGPTの特性として、文章の要約であれば誤った情報が出力される可能性が低いことから、有効手段として利用が進んだものと想定される。
図表4:職場におけるChatGPT利用用途の変化(関東地方満15~69歳)
出所)NRI「インサイトシグナル調査」2023年6月3~4日、2024年9月7~8日
一方、「人の代わりのコミュニケーション相手になる」については16.2%から11.9%へ4.3%減少していた。これについて業種別に詳しく分析したものが図表5である。「人の代わりのコミュニケーション相手になる」については各業界で減少傾向にあるのだが、特に飲食店・宿泊業や医療・福祉業ではその傾向が高い。2023年6月調査時点では飲食店・宿泊業や医療・福祉業においてChatGPTの利用用途として「人の代わりにコミュニケーション相手になる」を挙げる人が多かったのだが、それが全体平均並みに減少している。これについては飲食店や福祉業ではロボットによる配膳や介護支援が普及してきていることから、2023年6月調査時点では日常的なコミュニケーションの相手としての役割を担うことも期待されていたと想定されるが、現状のChatGPTでできる利用の範囲を見るに、そこまで至っていないことから利用用途の期待として大きく減少したことが伺える。また生成AIをコールセンターに活用したところ、回答の精度が低く使い物にならなかった、という話もあり、ユーザー側が現時点での実力を把握したとも言える。
しかし、飲食店・宿泊業や医療・福祉業では人手不足が課題であり、ロボット活用は進んでいること、配膳や介護補助としての使われ方だけでなく、利用者とのコミュニケーション目的も担うことができれば、益々これら業界の人手不足解消に一役買うことができるだろう。さらにセールスフォース社が2024年9月より始めたAIエージェント事業(Agentforce)のように、ChatGPTなどの公開生成AIと、自社が開発しているAIを組合せ、さらに顧客企業が保有しているデータを上手に活用することで、回答精度を著しく高めるような取り組みもあり、今後の技術進化によって「人の代わりのコミュニケーション相手になる」という回答は再び増える可能性もあると考えている。
図表5:利用用途「人の代わりにコミュニケーション相手になる」の変化
(業種別、関東地方15~69歳)
出所)NRI「インサイトシグナル調査」2023年6月3~4日、2024年9月7~8日
ご参考
アンケート調査の概要
調査名 | 「インサイトシグナル調査」 2023年6月実施 |
「インサイトシグナル調査」 2024年9月実施 |
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実施時期 | 2023年6月3日~2023年6月4日 | 2024年9月7日~2024年9月8日 |
調査方法 | インターネット調査 | |
調査対象 | 関東1都6県(茨城、栃木、群馬、千葉、埼玉、東京、神奈川)の満15~69歳の男女個人(20歳~59歳は人口構成で年代割付) | |
有効回答数 | 3,161人 | 2,985人 |
主な調査項目 | メディア(テレビ、新聞、雑誌、デジタル、交通広告など)への接触 クリエイティブ認知状況 商品・サービスに対する購買プロセス 消費価値観、趣味、悩みなど チャネル利用状況、SNS等のツール利用状況など 世帯構成、職業、金融資産など |
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インサイトシグナル調査は約2か月間に渡って、同一の回答者に調査を続けるシングルソース形式の調査であり、
2023年6月調査は第141回調査パネル(2023-04-22_2023-07-01)の中で、上記期間にて実施
2024年9月調査は第150回調査パネル(2024-07-27_2024-10-26)の中で、上記期間にて実施
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