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NRI トップ サステナビリティ ステークホルダー・ダイアログ 2017年度 CSRダイアログ(本編)

サステナビリティマネジメント

2017年度 CSRダイアログ(本編)

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2017年7月31日、英国ロンドンに在住の5名の有識者をお迎えして、NRIでは初となる海外でのダイアログを「CSRダイアログ」として開催しました。その後、9月12日に東京でも3名の有識者をお迎えし、「CSRダイアログ」を開催しました。ダイアログでは、常務執行役員の横山賢次および管理職数名と、「ESGを巡る状況」や「NRIグループに求められる対応」などについて意見を交わしました。

出席者

(所属、役職は2017年9月時点)

写真:コリン・メルヴィン氏

コリン・メルヴィン氏(Colin Melvin)

アルカディコ・パートナーズ 創設者および代表

20年以上にわたって、企業リーダーシップ、スチュワートシップ、サステナビリティ、責任投資の分野を率いる、ソートリーダー(社会にポジティブな変化をもたらす思想的リーダー)かつ実務者。自身も投資に係る他、企業戦略、企業リスクマネジメント、コーポレートガバナンス、インセンティブの創出等において、豊富な経験を有する。アルカディコ・パートナーズの創設者かつ代表の他、Future-Fit財団の会長、The Future of the Corporation企業アドバイザリーグループのメンバー、Tobacco Free PortfoliosおよびInfluenceMapのアドバイザリーボード。

写真:鈴木 祥氏

鈴木 祥氏

ハーミーズEOS エンゲージメント担当マネージャー

慶應義塾大学経済学部を卒業後、ロンドン大学東洋アフリカ学院にて開発学修士号を取得。EIRISにて上級調査員として日本企業のESG実績に関する評価、ならびに賄賂や汚職に関する調査を担当した後、2010年より現職。日本および東南アジアの企業とのエンゲージメント、および工業セクターの責任者。英国CFA協会の投資管理資格を保有。

写真:スティーブ・ウェイグッド氏

スティーブ・ウェイグッド氏(Dr. Steve Waygood)

アビバ・インベスターズ チーフ・レスポンシブル・インベストメント・オフィサー

企業の人権ベンチマーク(Corporate Human Rights Benchmark:CHRB)の共同創設者かつ会長。その他に、持続可能な証券取引所イニシアティブ(Sustainable Stock Exchange initiative)およびCorporate Sustainability Reporting Coalitionの共同創設者、国際統合報告評議会(IIRC)のアンバサダー。以前には、国連持続可能な開発会議(UN Rio+20会議、2012年)へのイギリス政府派遣団のメンバー、欧州委員会に設置された企業統治および企業の社会的責任に関するエキスパートグループのメンバー。2003年から2010年までは英国においてESG投資を推進するUKSIFのボードメンバーであり、2006年からは会長も務めた。国連責任投資原則(UNPRI)の策定に携わった。

写真:ピーター・ウエブスター氏

ピーター・ウエブスター氏(Peter Webster)

EIRIS財団 CEO

1983年のEIRIS創設以来、EIRIS(合併後、Vigeo Eirisの一部)の活動を牽引する。ESG観点での企業ランキング、ESG関連調査、投資家によるESG調査の活用支援、「責任ある投資」というコンセプトの具体化に尽力。受託者責任、ESGの発展、責任ある投資が持続可能かつ強固な金融システムの構築へ果たす役割(貢献)等に精通し、多くの場でスピーカーを務める。2011年まで、20年以上にわたりUKSIFの理事(treasurer)を務める。2013年10月には、PRIアセットマネージャーと署名機関によって、PRI運営委員会(アドバイザリーカウンシル)に選出された。Vigeo Eirisの国際担当ディレクターも務める。

写真:マウリッチオ・ラザラ氏

マウリッチオ・ラザラ氏(Mauricio Lazala)

ビジネス・人権資料センター 副センター長

国際刑事裁判、Mexican Commission for the Protection & Defence of Human Rights、ベツェレム(Israeli Information Centre for Human Rights in the Occupied Territories)等で働いた後、2006年より現職。シニアマネジメントチームの一員として、ビジネス・人権資料センターの戦略、業務、財政面のすべての意思決定に携わる。また、「Business, Civic Freedoms and Human Rights Defenders」プロジェクトを運営。2014年より、EIRIS財団のボードメンバーを務める。ケンブリッジ大学法学部卒、エルサレム・ヘブライ大学政治・歴史学部卒。

写真:プヴァン・セルヴァナサン氏

プヴァン・セルヴァナサン氏(Dr. Puvan J Selvanathan)

ブルーナンバー財団 CEO

個人情報をグローバルで共有できるプラットフォームを提供するブルーナンバー財団(国際的NPO団体)のCEO。以前には、国連人権理事会のビジネスと人権に関する特別任務保持者、国連グローバル・コンパクト本部「食と農業」の責任者、及び国連&WTO 国際貿易センターの代表を務めた。またそれ以前は、マレーシアのコングロマリット企業「Sime Darby」のグループチーフサステナビリティオフィサーを務める。企業のサステナビリティに関するMBAおよび DBAを保持する一方で、建築家でもある。官民連携によるICT 先端都市の実現に携わった経験も持ち、「モザンビークにおける e-ガバメント戦略」を執筆。

写真:ヘイリー・セント・デニス氏

ヘイリー・セント・デニス氏(Haley St. Dennis)

人権ビジネス研究所 広報担当

人権ビジネス研究所(IHRB)で広報担当をしており、メディアに対するIHRBのコミュニケーションとエンゲージメントの戦略的なマネジメントを担っている。雇用、人材派遣、ICT、アパレル、農業など幅広い業界において、人権及び責任あるビジネスに関する国際基準の適用に係る豊富な経験を有する。また、Mega-Sporting Events Platform for Human Rights (the MSE Platform)およびCorporate Human Rights Benchmark (CHRB)のプログラムリーダーを務める。

写真:星野 智子氏

星野 智子氏

環境パートナーシップ会議(EPC) 副代表理事

地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)の運営を行う環境パートナーシップ会議(EPC)の副代表理事。 リオ+20、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)、G7サミット、同環境大臣会合などの国際会議や、国連持続可能な開発のための教育(ESD)における環境NGO活動をサポートするとともに、対話の場づくりなどパートナーシップの推進に努めてきた。東京2020に向けたNGO活動にも取り組んでいる。アフリカ日本協議会理事、日本NPOセンター理事、SDGs市民社会ネットワーク理事。

写真:横山 賢次

横山 賢次

野村総合研究所 常務執行役員

サステナビリティ、グローバル業務企画、コーポレートコミュニケーション、総務、業務、調達管理、経理財務を担当。
中長期の視点から事業を通じた社会課題の解決やサステナビリティ活動を先頭に立って推進する。

野村総合研究所(NRI)のその他の出席者

野呂直子 コーポレートコミュニケーション部長
敷野嘉朗 総務部長
本田健司 サステナビリティ推進室長
藤澤茂  サステナビリティ推進室上級

ファシリテーター

石田寛氏 経済人コー円卓会議(CRT)日本委員会 専務理事事務局長
髙橋宗瑠氏 Business Human Rights Resource Centre(BHRRC)日本代表

CSRダイアログ in London

横山:

NRIは、これまでに日本国内においていくつかダイアログを実施してきました。今回、初めて海外でダイアログを実施します。NRIでは、現在、グローバル化を進めており、近日中にオーストラリア企業のM&Aも完了する予定です。現在の海外売上高比率は約7%ですが、今後、上昇すると考えています。事業のグローバル化を進めるNRIが、グローバルの投資家に魅力ある企業になるべく、ESGや人権といった視点から考慮すべきことや注意すべきことは何でしょうか?

最近の投資行動の変化(ESGを配慮した投資への動き)を、どのように見ていますか?

コリン・メルヴィン氏:

短期的視点と長期的視点での価値の創造(value creation)は異なります。私たちがCSV (Creating Shared Value)というとき、その「Shared value(共通価値)」は何を意味しているのでしょうか。今、私たちは、長期的視点での価値を共有しはじめています。1970年代、私たちは、個の富の最大化を追い求めましたが、これは結果として、外部費用を発生させ、社会全体の利益の増進を妨げ、社会的な繋がり(ハーモニー、調和)を希薄にしました。

今、若い世代は、より広い意味で「ビジネス」を捉えます。彼らにとって「ビジネス」とは、一時点での「取引」ではなく、「社会との接点」や「社会に貢献する方法」を意味します。若い世代は、短期的視点に基づいた「取引」よりも、長期的視点に基づいた「関係性」や繋がりに関心を持っているのです。これは、投資行動に変化をもたらしています。アメリカでは、戦後のベビーブーマー世代が定年を迎えつつありますが、彼らの資金はこれまでのシステムから、ミレニアル世代の貯蓄に移動するでしょう。ミレニアル世代は、これを原資に、これまでのような証券の売買といったような「取引」を中心とした活動ではなく、新しい価値モデルの創出や、責任ある企業への関与といった「関係性」を重視した投資を行います。投資家の関心は、これまで以上に、企業の業績ではなく、その企業が何を目的に活動し、そして社会・環境・経済に対してどのような影響力を有するかといった点に向かうでしょう。

「取引」から「関係性」への視点の変化はまた、リーダーシップの形にも変化をもたらしています。リーダーと組織とシステムの間での同期を意味する「シンクロナス・リーダーシップ」という概念に示されるように、今、より内発的な動機付けによる、自分自身の行動変化を通じて、より良い世界を生み出そうという新しいリーダーシップの形が登場しています。これは、これまでのような、より良い世界を生み出すために他者に対して行動変化を求めるリーダーシップの形とは異なるものです。

NRIは、投資家とどのような関係を築くとよいのでしょうか?

コリン・メルヴィン氏:

「受託者責任」の解釈は、国によって、また、投資家のタイプによっても異なります。ネガティブ・スクリーンが対象とする業種も、また、利益の最大化を測る上で対象とする期間も様々です。報告期間について言えば、私は、企業と投資家が四半期報告を求める動きを止めるべきと考えています。例えば、ユニリーバ社は、現在、四半期報告を行っていません。ユニリーバ社は、四半期報告を止めることによって、長期的視点を持って、ユニリーバ社のサステナビリティ課題に対して高い関心を示すような、これまでと異なる投資家や株主層を引き付けました。CEOであるポール・ポールマン氏のこの判断は、これまでユニリーバ社に投資を行っていたヘッジファンドからの投資を引き上げさせることに成功したと言えるでしょう。これは、企業の適切な行動が、適切な投資家からの投資を促すことを示しています。

本田:

長期的視点からの投資行動は、自己資本利益率(ROE)を追求する動きとは逆行するのではないでしょうか?

コリン・メルヴィン氏:

企業と、投資家や従業員や消費者といった幅広いステークホルダーとの「関係性」を測ろうとするとき、将来のキャッシュフローの現在価値の単純分析や自己資本利益率(ROE)は十分な計算手法であるとは言えません。その企業が「富の創出」や「長期的視点からの価値創出」に対してどのような能力を有しているかを正しく把握するためには、より綿密な分析が必要です。綿密な分析によって初めて、私たちは「成功」を正しく測定し、投資家と企業が共有可能な利害(関心事項)について理解できるようになります。例えば、NRIが「Shared value forum」といった場を設けるのはどうでしょうか。その場で、企業とステークホルダーが共に成功を勝ち取るためはどのような「関係性」を構築すべきかについて議論し、この議論の内容を広く社会に発信することで、社会へ大きな影響を与えられるのではないでしょうか。

コリン・メルヴィン氏:

PRI(責任投資原則)や他のイニシアティブが真に狙うことは、社会・環境・経済面での利益を増進させるべく、ビジネスと投資行動のあり方を変えることです。だからこそ、私たちは、私たちの活動(responsibility)が、事業から切り離された、何か別の新しいものを作り出すことのないように注意しなければなりません。複数のESG指標が存在しますが、いずれも、責任ある事業への転換を促すものでなければなりません。企業による豊かな社会への貢献を十分に説明しないもの、単なる企業の比較評価に終始するものであってはいけません。このためにも投資家は、目的に合致した指標を用いているかどうかを把握する必要があります。「企業の唯一の目的は株主価値の最大化」というミルトン・フリードマンの名言がありますが、これは間違っています。企業は「社会経済における富の創出の原動力(エンジン)」なのです。企業にとって「利益」とは、良い活動、有益な活動を適切に実行することによってもたらされる「結果」なのです。

NRIが、自社のガバナンス体制を説明する際に、網羅すべき点は何でしょうか?

横山:

昨年、ヴィジオアイリスから独立した意見を取得して、グリーンボンドを発行しました。独立した意見を取得する際に、ヴィジオアイリスの評価方法に反映されたグローバル基準と、私たちが考える日本基準とのギャップに接しました。これは、ガバナンスについても言えることかと思います。日本の独特の制度の中では、グローバル基準への対応が難しい部分もあります。結局、形式以上に実態が重要だと考えています。

鈴木 祥氏:

コーポレートガバナンスの制度は国によって異なり、これは一国のモデルが他国に合うとは限らないためです。これを踏まえた上で、日本の制度の下でも、グローバル基準が求めるところの本質を捉え、それに応えるための仕組みの整備や開示を進めることが重要ではないでしょうか。例えば、取締役会の構成に関して、私たちは、監査役設置制度自体が必ずしも悪いとは言っておらず、取締役会の有効性を高めることが重要だと考えています。これには独立性が重要ですが、それだけでなく、監視機能の有無も確認する必要があると考えています。必ずしも「この形がいい」と決めるのではなく、エンゲージメントを通じて、いろいろとお話を聞きながら個々の企業の状況について判断することが重要です。多くの場合は、IRレベルからエンゲージメントを開始し、必要に応じて独立の役員との会議もお願いしています。イギリス企業では会長がでていらっしゃることも珍しくありません。

本田:

例えば「取締役会メンバーの半数以上は社外取締役」といったグローバルからの期待事項を理解しつつも、例えば、実際にCSV(Creating Shared Value)に取り組む際には、その社外取締役が日本の古(いにしえ)の考え方や自社を理解してくださっている方か、CSVに明るい方かといった点も、考慮すべきと思います。コーポレートガバナンスにおける実効性の確保と、そこで言われる、例えば、取締役の独立性にはトレードオフの関係が存在するとお考えですか。

鈴木 祥氏:

社内取締役でも、転職経験を有する場合には、「外」の視点があると考えられます。例えばイギリスでは、労働市場に流動性があり、人事や財務といった専門分野に特化しつつ多様な業界を経験した人も多くいます。このような人材を社内取締役に登用すれば、その会社の事業に関する理解度を損ねることなく、バランスの取れた視点を取り入れることができるでしょう。監査委員会や報酬委員会が設置されていれば良いかというと、必ずしもそうではありません。また近年増えている諮問委員会でも、実際にどれだけ独立性や権限があるのか、意味のある意見が最終的に取締役会で取り入れられているか、といった点が重要です。

多くの企業において指名プロセスが不透明なため、社外役員の独立性に疑問が持たれる場合があります。社外役員の独立性を確保するための方法の一つとして、第三者機関のサーチ会社を利用して指名を行うということが考えられます。また、「独立」とされている人が十数年も継続的に同じ企業に関わっていれば、その独立性に疑問がでますので、私たちは、在任期間も独立性の判断材料に含めています。その他に、「多様性(性別や国籍、人種等)」も世界においてよく議論されるテーマです。例えば、日本企業で海外売上比率が非常に高いにも関わらず取締役はすべて日本人という状況には疑問が投げかけられるかもしれません。

敷野:

アジア企業、例えば韓国企業などは、外から見ると独立性は高いように見えますが、社外取締役が友人というケースも多いように思います。社外役員の割合が高いといっても、必ずしも、グローバル基準が求めるところの本質を捉えていないこともあるかもしれません。

投資家がNRIに求める開示情報とは、どのようなものですか?

鈴木 祥氏:

統合報告というとき、単にサステイナビリティレポートとアニュアルレポートを一緒にしただけでは不十分です。なぜ、環境や社会が本業と関連してくるのか、どのような考えで事業に不可欠な要素として認識されているのか、それを踏まえた上で環境や社会問題にどう対処されているのかを報告されるとよいと思います。

鈴木 祥氏:

取締役会の実効性評価については、それを行ったという事実だけでなく、ネガティブな内容も含めた結果を開示していただきたいと思います。取締役会に必要なスキルを明示し、現任の取締役がそれを満たしているかを確認した結果を開示する企業もあります。取締役会における議論内容を開示することで、取締役会の実効性評価について透明性を高めることが重要です。第三者機関から評価を得ることも有効でしょう。また「社外取締役との面談の場を持ちたい」といった株主からの要望には、ぜひ応えてほしいと思います。

藤澤:

スタンダードを上げる、ゲームのルールを変えるための取組みは、NRIの本業の中で、社会提言として実施しています。このような取組みも評価されるでしょうか。

鈴木 祥氏:

例えば公共政策に関するエンゲージメントや、規制や炭素税が導入される等で社会的な構造が変わってきたときにどう対応すべきかといった提言は重要であり、評価されるでしょう。

横山:

日本では最近、GPIFが3つのESGインデックスを選択しました。国内でも徐々に、ESG投資が進展しつつあります。人権もESGの重要な要素であると認識しています。これまで年1回、国内においてステークホルダーダイアログを行ってきましたが、人権は、グローバル化を進めるNRIでも関連事項もあり、今回は初めて海外で行うことにしました。

NRIが考慮すべき人権課題とは何でしょうか?

スティーブ・ウェイグッド氏:

CHRBは、今後、ICT業界を調査対象に含む予定です。ICT業界では、デジタルライツが大きなテーマになると考えています。これには「表現の自由」が含まれます。「表現の自由」について、今、政府が一方的にインターネットをシャットダウンし、表現の自由に制限をかけるといった事態が起きており、これが問題になっています。デジタルライツに関して、利用者の「表現の自由」や「個人情報の保護」に対する、企業の取組みをランキングするプロジェクトが実際に存在します。NRIは、事業を人権視点から捉え、事業を通じて「表現の自由」や「個人情報の保護」といった権利をどのように侵害する可能性があるのか、また、侵害された人々をどう救済できるのかを考えるとよいでしょう。

マウリツィオ・ラザラ氏:

ICT業界といっても様々な事業形態があることを理解しています。貴社の事業に照らし合わせれば、「表現の自由」よりも「個人情報の保護」の方が、より事業との関連性が強いと言えるかもしれません。

スティーブ・ウェイグッド氏:

貴社のマイナンバーに関する事業が、自動的に個人情報を吸い上げるものであるならば、このサービスが人権に及ぼす影響の有無について、世界人権宣言に照らし合わせて考察する必要があると思います。

横山:

NRIは、製造業とは大きく業態が異なり、サプライチェーンに工場を持っておらず、工場労働者がいません。一方で、プログラマーがいます。しかし、人権が共通の問題であることは理解しました。

本田:

例えば、オフショア開発という位置づけで、中国で5,000から6,000名の協力会社の社員が当社のために働いています。

ピーター・ウエブスター氏:

自社・サプライチェーン問わず、労働者の権利、性別や国籍による差別の禁止といった、ILO(国際労働機関)中核的労働基準は、(他の業界と同様に)ICT業界にとっても重要なテーマです。協力会社においてももちろん、協力会社とそこにおける労働者の労働環境を知ることが重要です。

マウリツィオ・ラザラ氏:

人権課題は、サプライチェーンの上流にも存在するでしょう。例えば、「利用するサーバーに紛争鉱物が使用されていないか」「顧客にサービスを提供するべく稼働するサーバーのエネルギー源は何か」を確認することも重要です。

NRIは、どのように、事業を通じて、人権の尊重に寄与することできるでしょうか?

スティーブ・ウェイグッド氏:

ポジティブな影響力の行使、といった観点にも触れてみましょう。例えば、貴社のコンサルティング事業を通じて、企業に人権配慮の取組や、その価値を伝えていくという取り組みが考えられるでしょう。UN、OECD、ダボス、World Investment Forumが開催する会議には、サステナビリティに関心を持つ人々が多く集まり、いいネットワーク構築の場です。このような会議に参加し、サステナビリティの側面においてブランドを築くことも考えられるでしょう。

ピーター・ウエブスター氏:

貴社の共同利用型サービスを、サステナビリティや人権の分野に適用することも考えられるでしょうか。マネージャーがポートフォリオを判断する際に、人権側面から有意義な情報がITを通じて提供されると助かるものと思います。すでに、貴社が提供するサービスの中に人権に関する事項を取り込むことも、考えられるかもしれません。

CSRダイアログ in Tokyo

ESGを巡る状況と海外展開を進めるNRIに求められる対応とは?

野呂:

今日、グローバル企業にとって、ESG(環境・社会・ガバナンス)課題への対応は持続的にビジネスを行っていく上で不可欠なものであると認識しています。
NRIは長期経営ビジョン「Vision2022」でグローバル化の推進を戦略の一つに掲げていますが、ESGの観点から何を重点的に進めるべきでしょうか。

プヴァン・セルヴァナサン氏:

人権・環境を含めた各々のESG課題は、NRIのグローバル戦略とそれぞれ密接に関連しているため、個々別々に捉えて考えるべきではありません。ESGはもはやグローバルに普遍的なコンセプトであり、NRIがサービスを提供する顧客企業や買収先の企業も、ESGの基準により計量的に評価される時代です。 こうしたグローバルなESGの潮流の中で、NRIは今後どのようにビジネスを成長させていくのかという視点が重要です。
すなわち、NRIがグローバル化を推進していく中で、NRIの製品やサービスにESGをどのように組み込んでいくかという、ESGソリューション・手法そのものが大きなビジネスチャンスになりうるということです。

本田:

それは、NRIの共同利用型サービスによるCO2削減のソリューションを、よりグローバルに展開していくということも含まれるのでしょうか。

プヴァン・セルヴァナサン氏:

そうした短期的な視点だけではなく、10年、20年先の将来を想定した場合、NRIの顧客となる産業セクターは現在と大きく変化している可能性があります。そしてその時に、全ての企業はESGソリューションを必要としているでしょう。 NRI自身が社内的に高いESG基準に適応することは大事ですが、そこに留まらず、NRIの将来の顧客に向けてESGソリューションに関するビジネスを育てていくことを期待します。

野呂:

NRIはグローバル関連事業の売上高を、2022年度に現在の3倍以上の1000億円に引き上げるという目標を掲げていますが、自然体で達成することは困難であると考えています。将来の顧客を想定しESGソリューションを生み出していくアプローチが重要であると理解しました。

ICT企業としてNRIにはどのような社会的責任が求められているのでしょうか?

本田:

NRIは日本政府が2016年に導入した個人認証制度である「マイナンバー制度」の開発に関わっています。先日ロンドンで実施したESG投資家とのダイアログにおいて、「当該サービスが及ぼす人権影響の有無について考察する必要がある」旨の指摘をいただきましたが、システム開発において「プライバシーと人権」の問題をどのように考慮すべきでしょうか。

プヴァン・セルヴァナサン氏:

NRIが操業している国の中には、中国、フィリピン、タイ、インドネシアなど新興国を中心に「プライバシーと人権」の問題が懸念される国が存在します。
また、米国では個人情報の多くが米国の大企業に所有されており、個人のプライバシーの権利保護が社会的な課題になっています。 一般的に政府が主導する個人認証制度では、個人情報を得る権限は政府にあるという発想が前提になるため、個人のプライバシーの権利と対立する状況が発生しやすいといえます。 最近の事例としては、インド政府が進めている全国民を対象とした生体認証ID制度「アダハー(Aadhaar)」に対して、プライバシーの権利を侵害しているとの国民からの異議申し立てを受け、最高裁においてプライバシーの権利を保障すべきとの判決が出されました。
一方、エストニアでは、旧ソ連時代の人権抑圧の反省から、個人情報は市民自ら所有し、全ての個人情報にアクセスし確認・修正することができます。市民が正しいという前提に立っており、参考になる事例といえます。

本田:

インドの事例は、特に悪い事例という意味で示されたのでしょうか?

プヴァン・セルヴァナサン氏:

悪い事例というよりも、「プライバシーと人権」の問題は、まだ新しい領域の問題であり、暗中模索が続いている状況であるということです。
日本の「マイナンバー制度」の導入に際してNRIがプライバシーの権利にも配慮しながら開発した技術は、「プライバシーと人権」の問題を抱える他の国のICT市場においてもソリューションとなりえるでしょう。

ヘイリー・セント・デニス氏:

留意すべき点として、日本政府が仮に、個人情報を不適切に利用しようとした場合でも、NRIはそれを是正するために、プライバシーの権利保護の考え方に沿った何らかの影響力を行使することが、NRIの責任として求められるということです。

派遣社員への対応に関し人権面で考慮すべき点は何でしょうか?

野呂:

NRIでは国内で多くの派遣社員が働いていますが、派遣社員への対応に関して、人権面で考慮すべきことはありますか。

ヘイリー・セント・デニス氏:

一般的に派遣社員は、人材派遣会社が介在するために、待遇などを決める際にも派遣社員が実際に働いている会社と直接交渉することが出来ず、弱い立場に置かれています。
例えば、英国では派遣社員の雇用が増加傾向にあり、その契約形態の一つに「ゼロ時間契約」というものがあります。常に一方的に解雇される可能性があり、雇用時間の保障もなければ、労働組合を組織して交渉する権利もありません。
正規社員と同じ教育・スキルがあり同一価値の労働をしているにもかかわらず、派遣社員という理由だけで賃金は格段に低く抑えられています。派遣社員にも正規社員と同様の権利を保障することが重要です。

本田:

それは同一価値労働同一賃金という原則がベースにあるということですか?

ヘイリー・セント・デニス氏:

もちろん同一価値労働同一賃金が基本ですが、現実問題としては、人材派遣会社が介在することにより、その原則が崩されることが重大です。事前に約束された待遇と実際の待遇が異なり問題となることが往々にしてあります。
派遣社員の雇用に際してNRIが行うべきことは、人材派遣会社と十分に話し合い、派遣社員を正当な権利をもって扱うことをNRIが期待している旨を確実に伝えること、そしてNRIが派遣社員と直接話す機会を作ることです。

本田:

NRIの従業員を対象にホットラインの制度を設けていますが、対象を派遣社員にも拡げるべきでしょうか。

ヘイリー・セント・デニス氏:

ホットラインの対象を派遣社員に拡げることを勧めます。不満の申し立てにより、どのような問題が生じているか知るための重要な情報源となり、状況が悪化する前に対処することができます。
もし不満の申し立てが少ないとしたら、ホットラインの制度が知られていないか、報復を恐れて使わないという可能性も考えられるので、従業員の権利として安心して利用出来る制度である旨を周知することが必要です。

海外における環境面の取り組みで、まず、すべきことは何でしょうか?

野呂:

環境面に関して、NRIは情報開示の拡充や環境目標の設定などを積極的に進めています。さらに国内においては、環境マネジメントシステムの導入、データセンターの省エネ化なども進めています。しかし、グローバル化の推進に伴い、今後は環境面の取り組みもグローバルベースで進めていく必要があると考えています。NRIが海外企業のM&Aなどを進める中、まず海外拠点に対して何をしていくべきでしょうか。

星野 智子氏:

欧州では化学物質に関する規制や予防原則の導入など環境規制が厳しく、また豪州では種の保存や生物多様性に関して厳しい規制があるため、市場参入やパートナーシップを組む際には十分配慮する必要があります。
NRIの事業は製造業ではないため、直接的に有害な化学物質を使用することはないと思いますが、例えばオフィスの壁材に使用される化学物質や、建材に違法伐採材が使われていないか等の健全性にも注意する必要があります。

本田:

なるほど、日本では廃棄物管理は行っていますが、海外拠点では、小規模なテナントオフィスも多く、壁材等の化学物質や資材の公正度までは把握できていないのが実態です。そうした点を含めて、国内で導入している環境マネジメントシステムを海外にも展開していくべきでしょうか。

星野 智子氏:

環境マネジメントシステムや環境技術など、日本企業が優れている点は海外にも積極的に展開していくとよいと思います。 途上国ではまだ深刻な環境汚染の問題を抱える地域が多く存在し、公害問題を克服した日本の経験を応用することができます。NRIがナビゲートしながら、パートナー企業と一緒になってサステナブルな社会をリードしていくことを期待します。
また、ステークホルダーとの対話は環境でも人権でも重要です。一つの日本企業が進出することにより、その地域に何らかの影響が生じます。地域の住民や自治体と十分な対話を継続することにより、環境や人権について一緒に考えていきましょうという雰囲気を作っていくことが大事です。
環境と人権は「Rightベース」という意味では同じなので別々に考えないほうがよいでしょう。「人間が暮らしやすい環境を守ることが人権を守ることでもある」という考え方で地域のステークホルダーと対話を進めていただきたいです。

持続可能な開発目標(SDGs)について、早めに取り組むべきでしょうか?

野呂:

2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」に沿った活動を宣言する企業が増えてきていますが、NRIとしても早めに取り組むべきでしょうか。

プヴァン・セルヴァナサン氏:

先進的な企業がSDGsを宣言し進めていく雰囲気が出来上がりつつある中で、後から引きずられるようにやるよりは、積極的に取り組むほうがよいのではないでしょうか。
SDGsに関しては皆さん真剣に考えています。実際にいまマレーシアで、民間企業のSDGsへの貢献度をトラッキングするシステムを国連開発計画(UNDP)と協働で開発中です。
SDGsは非常に範囲が広いので、NRIが既に行っていることで、SDGsにどのように貢献できるのかという視点で考えることを勧めます。SDGsを実施するために何か新しいことを始めようとすると迷宮に入り込む恐れがあります。

星野 智子氏:

機関投資もESGで企業を評価し、大手企業はESGに取り組むことが当たり前という時代になってきたので、SDGsは「当然取り組んでいます」という姿勢で進めるのがよいと思います。
その際にやはり、ステークホルダー・エンゲージメントが重要になります。SDGsではパートナーシップも一つの重要なテーマ(目標17)となっていて、SDGsの活動を拡げていくときに欠かせないキーワードです。私は「SDGs市民社会ネットワーク」でもSDGsを推進する活動に携わっていますが、SDGsに関して企業が出来ることはまだたくさんあるので、是非一緒に活動できることを期待しています。

横山:

今回のCSRダイアログは、海外で有名なESG投資家や人権専門家等の方々からESGや人権について貴重なご意見をいただき、大変、有意義な機会であったと感謝しております。ロンドンで行ったCSRダイアログでは、国内のテレビ局からの取材がありました。欧米ではもちろん、国内でもESG投資などへの関心が高まってきていると実感しました。今後、ESG投資家等から、より厳しい目で企業のESGの活動が見られる時代になっていくと思っています。今回、ご指摘いただいたご意見を真摯に受け止め、弊社の今後の取り組みにいかしていきたいと思います。私たちは未来のサステナブルな社会を作っていきます。

(2017年11月30日公開)

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