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中国の信託商品・社債等の最近のデフォルト危機について

2014/03/17

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今年1月以降、日本でも中国の信託商品・社債のデフォルト危機の報道が多くなっている。一連の動きから何が読み取れるであろうか。

主に日本で報道された例を振り返って見ると、1月に中誠信託の集合信託計画(プラン)の償還が困難になった。最終的な借り手は山西省の民間会社で資金用途は炭鉱関連である。工商銀行が代理販売したものの、信託会社を経由した事実上の迂回融資(つまりシャドーバンキング)であったと見られる。リスクが警戒されていた地方政府融資平台や不動産向けではなく、民間の炭鉱向けでリスクが顕在化したことになった。このケースでは、地元政府や銀行が戦略投資家を呼び込み、資金調達することで償還を行った。

2月には、吉林信託の集合信託プラン(やはり山西省の石炭関連)の償還が延期になっていると報道された。債務リストラに入っていると報じられているが、現時点で解決案は発表されていない。3月には、上海の太陽光パネル企業(上海超日太陽能科技)が期日までに社債の利払いができず、社債市場で初のデフォルトとなった模様である。

マクロ的な背景には経済成長の下方シフト(以前の9~10%成長から2012、13年とも7.7%成長)がある。マクロ経済減速の影響を受けやすい産業・過剰設備が指摘されていた産業(含む太陽光パネル)で、従来から抱えていたリスクが顕在化した。なお、日本では最近になり報道が現れたが、信託商品における支払い問題は従来もなかったわけではない。また、上海超日は上場しているが、銘柄名の前に上場廃止リスクが極めて高いことを示す「ST*」が付く会社であり、経営状況が悪いことは知られていたはずである。

信託商品については、銀行業監督管理委員会(銀監会)も、地方政府融資平台・不動産・過剰生産能力を持つ産業が借り手となっている商品やシャドーバンキング関連商品のリスクを警戒している。実際、政府の今年の経済成長率目標が7.5%前後と過去2年間と似たような成長が予想される中で信託商品が満期を迎えることを考慮すると、上記と同様の返済リスク顕在化の例が出てくる可能性がある。

これまでの、当局の対応を見ると、金融システム全体に影響が及びかねない状況、つまりシステマチックリスクは避ける方向と思われる。1月の中誠信託の例(元本30億元)のように規模が大きい商品が破綻すると、同様のスキームを使っている他のシャドーバンキングでもカネが回らなくなり、経済全体に悪影響が及ぶリスクがある。銀監会は昨年後半から各信託商品の資金繰り等をチェックし始めており、ある程度リスクを把握した上で状況をコントロールしようとしている節がある。

一部には、救済策はモラルハザードを助長するため、駄目な商品はデフォルトさせてショック療法を行った方が良いとの考えもある。また、ごく最近までデフォルトが一件もなかったためにアナリストからは異常と言われ続けてきた債券市場の正常化・成熟化の観点からも、ショック療法の考えは一理ある。

しかし、その一方で、銀行預金は全額保証されるという暗黙の了解、さらにそれが拡大されて銀行で販売される商品は全額保証されているという認識の下で、これまで社会全体が走ってきた経緯を考えると、荒療治は難しいと思われる。

最近の中国のテレビにおける信託商品に関する報道を見ると、「これまで注意を払わずに買っていたが、いろいろ調べているうちにリスクがよくわかったので、これからは注意する」といった一般投資家の感想等を流しており、社会全体に金融商品のリスクについての投資家教育を行っていることがわかる。

当面は、ハイリターンにはハイリスクがある、といったリスク意識を社会に植え付ける、いわば地ならしの状況にある(これは、預金金利自由化、預金保険制度の導入などにも通じるものである)。こう考えると、しばらくは、債務不履行が生じるにしても局所的なものにとどまるのではないかと思われる。

執筆者情報

  • 神宮健

    神宮 健

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    金融デジタルビジネスリサーチ部

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