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短観は製造業の弱さを示すも景気は緩やかに持ち直しへ

2019/12/13

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製造業の景況感は予想以上の大幅下落

日本銀行が12月13日に公表した「日銀短観(12月調査)」で、大企業製造業の業況判断DI(最近)は「0」と前期比で5ポイントの予想以上の大幅下落となった。同DIはこれで4四半期連続での下落だ。事前予想の平均値は「+3」程度だった。さらに大企業製造業の業況判断DI(先行き)はやはり「0」の横ばいと、景況感の下げ止まりは示唆されるものの、改善は予想されていない。製造業の景況感は非常に厳しく、製造業に限れば、日本は景気後退に陥っている状況と言える。

業種別に見ると、業務用機器と自動車の景況悪化が際立つ。これは、主に海外需要の弱さを反映するだろう。

非製造業の予想以上の安定は継続

しかしながら、大企業非製造業の業況判断DI(最近)は「20」と前期比で1ポイントの小幅下落にとどまり、引き続き歴史的な高水準が維持されている。製造業と非製造業の景況感の乖離は、驚くほど大きい。

全規模全産業の2019年度設備投資計画(含む土地投資額)は、+3.3%と0.8%ポイントの小幅上方修正となった。小幅上方修正は設備投資修正の季節的パターンを反映した面があるが、その増加率は過去の平均(2000年度~2018年度)の水準を依然上回っている。

足もとの機械受注統計には弱さは見られるものの、7-9月期GDP統計(2次速報)でも確認されたように、設備投資の安定は依然として維持されている。

このように、外需の弱さを反映して製造業の景況感は厳しい状況が続いているものの、設備投資の堅調、個人消費の安定を反映して非製造業はなお安定を維持しており、経済全体で見れば本格的な景気後退の局面にはない。

製造業の景況感も緩やかに持ち直しへ

ただし、この先も製造業の景況悪化、生産活動の悪化が続けば、いずれ設備投資や個人消費にもその悪影響が顕著に及び、非製造業の調整局面に入ることで、経済全体が本格的な後退局面に陥る可能性も排除はできない。しかし、その可能性は比較的限られるのではないか。

それは、製造業の活動に大きな影響を与える海外需要に、既に安定化の兆しが見られるためだ。日本銀行が公表している実質財輸出は、7-9月期に前期比+1.8%と大幅に増加した。さらに足もとの主要な海外経済指標を見ると、11月の中国の製造業景況感は大幅に改善し、景気底打ちを兆している。また、日本と同様に製造業は調整局面にある米国でも、クリスマス商戦で楽観的な見通しが強まっている。11月雇用統計でも、雇用者増加数は予想を上回る増加となった。今年春先以降の長期金利の大幅低下は、年末から年明けの時期を中心に、自動車・住宅といった金利変動に敏感なセクターを中心に、米国の家計支出を刺激するだろう。

日本銀行は様子見姿勢を続ける

10月の消費関連指標、鉱工業生産、景気動向指数が大きく下振れしたことで、消費税率引き上げの影響は深刻ではないか、との見方も浮上している。しかし、今回の駆け込み購入は消費税率引き上げ直前の9月に集中的に生じており、四半期ベースで見ると駆け込み購入の動きは前回よりも相当分小さい。その結果、反動減も10月が中心となり、前回よりも短期となるだろう。

他方、来年に入ると、12月5日に政府が閣議決定した事業規模で26兆円の大型経済対策の効果も出てくる。財政健全化の観点からその是非は厳しく問われるべきであるが、総額9.4兆円程度の中央・地方政府が直接支出する部分、いわゆる「真水部分」が、実質GDPは1年間で0.8%押し上げる計算だ(内閣府の経済財政モデル・2018年度版による)。

消費税率引き上げなどの国内要因によって、日本経済が本格的な景気後退局面に陥る可能性が高くなく、他方で年明け後には、海外需要の安定化、経済対策の効果などを受けて、現在弱さが目立つ製造業も含めて、経済全体に緩やかな持ち直し傾向が見られるようになるのではないか。

ところで、為替レートが安定を維持し、今回の短観に示されたように、製造業の弱さが目立つなかでも国内経済全体はなお安定を維持し、さらに米連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)が12月の追加金融緩和の見送りを決めて、当面、金融政策を据え置く見通しである現状下で、日本銀行が追加金融緩和を実施する理由はない。

12月18、19日の次回金融政策決定会合では、日本銀行は、政策金利引下げなどの本格的な追加緩和措置の実施を見送る可能性が高い。

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