フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 2022年の中央経済工作会議について

2022年の中央経済工作会議について

2022/12/26

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

2023 年の中国の経済運営方針を定める中央経済工作会議が12月15~16日に開かれた。

同会議は、中国経済回復の基盤は不安定で、「需要収縮、供給ショック、期待低下」の三重の圧力が依然として強く、また、外部環境が混乱しており、中国経済への影響が強まっているとの現状認識を示した。そして、この認識に基づき「安定重視、安定の中での前進」の基本方針を示した。

マクロ経済政策については、積極的な財政政策を強化してより効果的にし、必要な支出を維持し、財政の持続可能性と地方政府債務リスクの制御可能性を確保し、地方への中央移転支出を強化する、とした。また、穏健な金融政策を的確でしっかり行い、金融機関が小・零細企業、技術革新、グリーン発展等の分野への支援を強化するよう導く、とした。

そして、2023年の重点任務として、①国内需要拡大への取り組み、②現代化産業体系の構築の加速、③公有制経済の発展と非公有制経済の発展への揺るぎない支持・指導(「二つの揺るぎないこと」)の徹底、④外資の誘致・活用の強化、⑤重大な経済・金融リスクの効果的な防止・解消を挙げた。

内需拡大の方針では、消費分野における住宅改修、新エネルギー車、高齢者向けサービス消費への支援と、投資分野における政策的金融の利用・民間資本の参入の奨励を挙げた。

現代化産業体系構築では、核心的技術や部品における弱点を補強し、産業体系を自主的にコントロール可能にすることや、経済のデジタル化等を打ち出している。

今会議からは下記の点が読み取れる。

第一に、経済全体としては、外需にあまり期待できない中で、安定成長は内需拡大が中心となり、そのためには市場マインドを改善する策を打つ必要があるとの認識であろう。

第二に、マクロ政策は景気回復を支えるものとなり、2011年以来の「積極財政と穏健な金融政策」のポリシーミックスが23年も続く。景気回復のモメンタムが安定しない中、23年の財政赤字の対名目GDP比(22年2.8%、当初予算)を拡大させる可能性はある。一方、会議は「必要な財政支出」、「地方政府債務リスクの制御」等の表現を追加し、財政の持続可能性を重視する姿勢を見せていることから、地方専項債(一般会計とは別の政府性基金会計)の発行増には慎重になる可能性がある。ここ数年間、専項債の大規模発行によりインフラ投資を下支えした結果、債務返済リスクが高まっていることが背景にあり、実際、上記⑤には、不動産リスクと並んで地方政府債務リスクも挙げられている。

金融政策では的確で強力な運営が強調されている。2023年の金融政策の重点は全面緩和というよりも的確性、つまり構造的緩和(ターゲットを絞った緩和)と見られる。中小零細企業、科学技術、新エネルギー等の分野の支援が打ち出されよう。これは、技術面で対外依存しないサプライチェーンの構築を目指す産業体系の方針とも連関している。既存の構造的金融政策ツールの継続利用・拡大や、新ツール創設の可能性が考えられる。

第三に、内需拡大では財政政策、特に専項債を利用したインフラ投資のさらなる拡大が難しいとすると、個人消費への依存が大きくなる。消費者マインドの改善には、所得増加が必要である。雇用安定・増加策や、賃金収入以外の所得増加の対策も考えられる。足元ではゼロコロナ策が大幅に緩和されたが、消費マインド改善までの道のりは長く、消費喚起策(消費券等)といった取り組みも重要になっている。また、住宅に対する実需や潜在的な住宅改善需要があることから、住宅購入制限措置の更なる緩和や撤廃も考えられる。

第四に、経済・金融リスク防止では、不動産分野のリスク防止が重視されている。ここ数年の「住宅は住む所であり、投機商品ではない」との方針が堅持される中で、優良な大手不動産会社の資産・負債の状況の改善やリスク防止・解消に重点が移っている。

背景には、2020年に打ち出された不動産バブルを抑制するための融資規制措置「3本のレッドライン」が不動産開発業者を狙ったものであったため、多数の不動産会社が2021年後半から資金繰り難に陥ってしまったことがある。2022年には中国政府は再編や合弁・買収によるリスクの解消を推進したが、明確な効果は見えていない。一方、一部の不動産業者による住宅建設工事の停止を受けて、購入者が住宅ローンの返済を拒否したり、潜在的購入者が住宅購入を見合わせたりしている。物件引渡しの確保等は、足元の住宅需要のみならず社会安定にも関連していることから、政府としても看過できない状況にある。2023年は、不動産市場の需要・供給両面から支援策を打ち出し、不動産市場の安定化を図ると予想される。

執筆者情報

  • 神宮 健

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn