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ロシア国債のデフォルト認定で何が起こるか

2022/04/21

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ロシア国債は「潜在的な債務不履行」に当たるとの判断

主要格付機関がロシア証券の格付け業務を停止したため、ロシア政府のドル建て国債のデフォルト(債務不履行)を正式に認定することができなくなった。そうした中、ロシアのドル建て国債のデフォルト時に元本を保証する保険商品であるCDS(クレディット・デオルト・スワップ)側からのデフォルト認定が注目を集めてきた。

CDSを扱うデリバティブの業界団体である、国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA)のクレジット・デリバティブ決定委員会は4月20日に、ロシアが4日に期限を迎えたドル建て国債の償還・利子の支払いを自国通貨ルーブルで実施したことが「潜在的な債務不履行」に当たるとの判断を示した。

デフォルト認定に近い判断ではあるが、正式なデフォルト認定は留保されたのである。それは、4日に期限を迎えたドル建て国債の償還・利子の支払いには30日間の猶予期間が設定されており、その間にロシアがドルでの支払いを履行する可能性がまだ残されているためだ。しかし実際には、その可能性は低いだろう。クレジット・デリバティブ決定委員会は、5月上旬にも、正式なデフォルト認定を行うと見られる。

ロシアはドル建て債務返済よりもルーブルの安定を重視

4月4日のドル建て国債の償還・利子の支払い時に、米財務省が米銀を通じたドルの支払いを突如認めなかったことで、ロシアのドル建て債務返済の履行は妨げられた。これは、追加制裁の一環であり、ロシアをデフォルトに追い込むことを狙った措置である。そのため、当日にロシアは、ドルではなくルーブルでの支払いを余儀なくされたのである。

ところがその後もドル建て国債の利払いの期限が到来しても、ロシアはルーブルで払い続けた。不意打ちとなった4月4日とは異なり、その後、ロシアは別のチャネルを使って、ドルで支払うことはできたと思われる。それをしなかったのは、もはやロシアがドルで債務の返済を行う意思がないためだろう。この点を考慮すれば、現時点においてクレジット・デリバティブ決定委員会は正式なデフォルト認定を行っても良かったように思う。

ロシアはドルでの債務返済を続け、国債のデフォルトを回避することで国際的な信用を維持するよりも、ルーブルを支えることでロシア経済の混乱を抑え、国民が政権への批判を高めないようにすることを優先しているように見える。

ドル建て国債のデフォルトを回避することを優先するのであれば、ロシア政府は輸出で稼いだドルを温存し、それを債務の利払いにあてるはずだ。ところが実際には、輸出企業が得た外貨の8割をルーブルに換える措置を続けている。それは、ルーブルを買い支えるためである。

正式なデフォルト認定の影響、意義はもはや大きくない

いずれにせよ、正式なデフォルト認定がなされることの意義は、もはや大きくない。通常、デフォルトが認定されれば、債券発行者の信頼は落ち、債券発行による新規の資金調達の道が閉ざされることになる。

ところが今回の場合、海外投資家の間で既にロシア政府の信頼性は地に落ちている。それは、外貨建て国債の償還・利払いを当初からルーブルで行うと宣言したことや、海外投資家が保有するロシアの証券の売却を阻んだためである。そして、海外でのロシア国債の新規発行の道も既に閉ざされている。そのため、正式なデフォルト認定がされるか否かは、もはや重要な意味をもたないだろう。

また、通常は正式にデフォルトが認定されることや支払い猶予(モラトリアム)の宣言をきっかけに、債権者と債務者の交渉が始まり、そこで債権者が債務返済条件の変更で真摯な態度をとり、信頼回復のきっかけを掴めば、その後の債券発行の再開へとつながる。

ところが、ロシアは今後もルーブルでの債務支払いを続け、デフォルトを否定し続けるだろう。その結果、債権者と債務者の交渉は始まらず、ロシアが債権者の信頼を回復する機会はやってこない。

こうした点から、正式にデフォルトが認定されるかどうかは、もはやあまり重要ではない。外貨建て、ルーブル建てのロシア国債市場、ルーブル相場、そしてCDSの価格には悪影響が及ぶ可能性はあるが、既にデフォルトは織り込み済みであり、大きな影響はないだろう。それらの規模が比較的小さいことも、世界の金融市場への影響を限定的にするだろう。

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