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短期国債依存が続く2023年度国債発行計画とGX経済移行債:日銀の政策調整が政府の資金調達コストを増加させる可能性

2022/12/26

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短期国債依存体質を是正する取り組み

政府は12月23日に、2023年度予算案とともに2023年度国債発行計画を発表した。グリーン・トランスフォーメーション(GX)投資の財源に充てるGX経済移行債(仮称)を発行することが、最大の特徴となった。

2023年度の国債発行総額は205.8兆円と、2022年度当初計画比で9.3兆円の減少となる。当初予算ベースでの発行額の減少は2年連続だ。税収増加を見込んで新規国債発行額が35.6兆円と、前年度当初予算から1.3兆円減少することや、財投債が13.0兆円減少することが背景にある。新規国債の発行では、公共事業などに充てる建設国債は0.3兆円増加の6.6兆円、赤字国債は1.6兆円減少の29.1兆円となる。

入札を通じて機関投資家向けに販売するカレンダーベース市中国債発行額は190.3兆円と、2022年度2次補正予算後と比べて12.8兆円減と大幅に減少する。これは、6か月物割引短期国債を2022年度当初予算比9.7兆円、2次補正予算比13.9兆円それぞれ減らすためだ。

利付債の発行額は5年債から40年債まで2022年度当初予算と同額に据え置き、市場環境の変化を避けた一方で、短期国債を大幅に減らしたのは、新型コロナ問題への対応で強まった短期国債による資金調達体質を是正するためだ。

新型コロナウイルス問題への対応から2020年度の政府支出は急増したが、政府は短期国債の発行を大幅に拡大させてその資金を調達した。その結果、2020年度の短期国債発行額は82.5兆円と、前年度の21.6兆円から急増したのである。

長期国債の発行を大幅に増やすと、長期国債利回りの上昇など市場環境を悪化させる恐れがあった。短期国債であれば価格変動リスクが小さいことから、投資家も購入しやすかったのである。

日本銀行の政策調整で短期国債の調達コストが大きく高まるリスク

しかし、発行する政府の側からすれば、短期国債に強く依存する資金調達は、短期の借り入れを頻繁に繰り返すことになり、不安定な資金調達の構図である。特に重要なのは、短期の利回りが上昇すれば、政府の資金調達コストが増加し、財政を一層悪化させてしまうことだ。日本銀行がイールドカーブ・コントロール(YCC)の枠組みを修正し、金利上昇リスクが高まる中で、今回、短期国債の発行を減らす政府の取り組みが後押しされた面もあったのではないか。

ただし、新型コロナウイルス問題前の2019年度の短期国債発行額が21.6兆円であったのに対して、2023年度計画での短期国債発行額は50.7兆円(1年物42.0兆円、6か月物8.7兆円)と依然2倍以上の水準にある。2019年度の水準にまで戻すには、まだ2~3年の時間を要するだろう。その間に日本銀行が金融政策の正常化を本格的に実施する可能性があり、実際そうなれば、短期金利の上昇が政府の資金調達コストを高め、財政環境に大きな打撃となるリスクがある。

単純計算では、日本銀行が金融政策の正常化で仮に短期金利が0.5%上昇する場合、50.7兆円の短期国債が発行されるもとでは、1年間の利払い費が2,500億円程度増加する計算となる。

短期国債依存体質からの脱却はまだ道半ばであり、今後も速やかに進めていく必要があるだろう。

GX経済移行債の発行

2023年度は、政府のGX投資に充てられるGX経済移行債が初めて発行される。発行額は0.5兆円である。ただし、2022年度第2次補正予算で先行的に措置した1.1兆円分に係る借換債と合計すれば1.6兆円となる。政府は国際認証をとることで、GX経済移行債を「トランジションボンド(移行債)」の位置づけにしたい考だ。

GX経済移行債の年限などはまだ決まっていない。具体的な発行方法は、GX実行会議での議論や市場参加者の意見を踏まえて関係省庁で協力して検討する。GX経済移行債は2050年までに償還される予定であることから、30年よりも年限が短い10年債あるいは20年債での発行が予想されている。

政府は2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」に必要な150兆円超の官民の合計の投資のうち、国がGX経済移行債で20兆円規模を調達する計画だ。

GX関連の歳出入を明確にするため、GX経済移行債は将来見込まれる特定の歳入を償還財源として、特別会計から発行する「つなぎ国債」とする。2032年度まで毎年度発行する予定である。

GX投資支出が財源確保にかなり先行する構図に

つなぎ国債の発行については、増税の実施を法律レベルで担保することが前提となっている。GX経済移行債については、カーボンプライシングを本格導入することで、その償還が賄われる。

政府は、企業が排出削減できたCO2を売買する排出量取引を2026年度に本格的に始めたうえで、2033年度からは電力会社が出す排出量を有償で国から買い取らせる制度に移行する。さらに、2028年度からは、炭素税に似た賦課金の形で電力・ガス会社や石油元売り、商社などの化石燃料の輸入企業に負担を求める。

ただし、GX関連支出とその一時的な財源となるGX経済移行債の発行は2023年度から本格的に始まる一方で、カーボンプライシング導入による恒久財源の確保は、2028年度からの実施となり、かなりの時間差が生じる。さらに、「つなぎ国債」の完全償還は2050年度とかなり先のこととなる。

企業活動や経済への悪影響に配慮して、財源確保よりも支出増加をかなり先行させる枠組みとなったが、当面は政府債務を増加させ、やや安定性を欠く枠組みとなった点は否めない。

(参考資料)
「予算案調整大詰め GX債1.6兆円・社会保障費4100億円増」、2022年12月21日、日本経済新聞電子版
「150兆円投資 見えぬ具体策――GX移行債で調達 20兆円規模、来年度から発行」、2022年12月23日、日本経済新聞

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