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ECB Forum on Central Bankingの中銀総裁パネル

2023/06/29

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はじめに

ECBによる今年のForum on Central Bankingにおける中銀総裁パネルでは、日米英欧の各中央銀行が直面する課題や今後の政策運営について、様々な視点による議論が行われた。本コラムでは、このうち主な論点に関する各総裁の発言ポイントをみておく。

足元の政策運営

ラガルド総裁は7月も利上げを継続する考えを確認した一方、9月については新たな見通し等を踏まえて判断する考えを示唆した。一方、ベイリー総裁は、労働市場や物価上昇圧力の強さを踏まえて今回は50bpの利上げを決定したが、今後はevidenceに即して決定する方針を示した。

パウエル議長も、今回は利上げを見送ったが、労働市場の強さや金融引締めの経過時間の短さを理由に、年内2回の利上げが必要との考えを確認した一方、次回の利上げは未決定と説明した。これに対し植田総裁は、基調的インフレや賃金上昇が不十分として、利上げに慎重な考えを説明した。

物価上昇圧力については、ラガルド総裁が内的要因の物価上昇圧力が根強いとしたほか、ベイリー総裁はエネルギー価格の波及ラグの長さや企業による人員確保を固有の要因として指摘した。

また、植田総裁はインフレ率が2024年度に再加速する見通しに不確実性が残ると指摘したほか、パウエル議長はコアサービス価格の抑制には労働需給の一段の緩和が必要と説明した。

金融引締めによる景気後退のリスクについては、ラガルド総裁はユーロ圏がtechnical recessionに陥ったが実質的には停滞であり、本年はプラス成長を見込んでいるとした。ベイリー総裁も、マイルドなrecessionは不可避だが、エネルギー価格の下落による購買力の回復が景気を支えるとした。

この間、パウエル議長は過度な引締めと不十分な引締めとのリスクバランスは相当改善したとの見方を示した一方、植田総裁は最近の株価上昇には、投資家による経済見通しの好転が寄与しているとの見方を示した。

インフレ目標と政策効果のラグ

ラガルド総裁は、コロナ後の経済構造の変化を認めつつ、2%目標の達成を目指すことが重要との考えを確認したほか、ベイリー総裁も物価安定の意義自体には変化がないと指摘した。

植田総裁は、長期にわたるゼロインフレ・ゼロインフレ期待の状況を脱しつつあるが、インフレ目標の達成には不十分と説明した一方、 パウエル議長はリモート労働の定着やオフィス需要の減少等の影響に着目する必要があるとの考えを示した。

金融政策のラグについては、ベイリー総裁が住宅貸付において5年固定物が支配的になったことが波及の長期化につながっているとの見方を示したほか、ラガルド総裁も、金融環境のタイト化は迅速に実現したが、域内の一部国で長期固定の住宅貸付が増加したことの影響を示唆した。

これに対し植田総裁は、25年にわたって金融緩和を続けたがインフレ目標は達成していないとのウイットに富んだコメントを行った一方、パウエル議長は、金融環境のタイト化が迅速に生じた背景として、中央銀行によるコミュニケーションの変化を指摘した。

ただし、ラガルド総裁やパウエル議長は、中央銀行の利上げ方針と市場の予想が異なるのは自然であり、中央銀行は市場の見方に過度に注目すべきでないとの考えを示した。

地政学的動向の影響

ラガルド総裁は、ロシアの政治情勢がサプライチェーンや貿易等の不透明性を高める可能性を認めつつも、エネルギー在庫が好転したなど経済の頑健性は好転したと評価した。一方、ベイリー総裁は食品価格の抑制に時間を要するリスクを指摘した。

植田総裁は、米中摩擦が短期的には対内直接投資の増加に結び付くとしても、経済活動の効率性に対する長期的な影響に懸念を示した。パウエル議長も、中国は重要な市場かつ供給地であるとして、景気減速が世界経済に与える影響に懸念を示した。

金融安定の評価や財政運営の意味合い

ラガルド総裁は、SSMの下にある銀行は頑健であり、バーゼルIIIの適用を進めることが重要との考えを確認した。ベイリー総裁も、英国の銀行が頑健であるとの評価を確認した一方、金利上昇に伴うストレスや急激なbank runへの対応は課題であるとした。

パウエル議長も、破綻した銀行には固有の問題があり、銀行システム全体は頑健であるとの見方を確認した。また、経済活動のためには規模やビジネスモデルの多様性は重要との考えを付言した。植田総裁も、一部の金融機関に有価証券の評価損の問題はあるが、銀行システム全体は頑健であると説明した。

財政運営との関係では、植田総裁は財政政策は議会と政府の責任において行われるとの原則を確認したほか、ラガルド総裁も同様の点を指摘した上で、ECB理事会の声明文は、域内国政府に対してコロナ対策やエネルギー価格対策としての支援措置を縮小するよう求めている点を説明した。

ベイリー総裁は、昨年の英国債市場の不安定化の理由が財政運営でなく、投資家のリスク管理にあったとの理解を示したほか、政府が財政支出を主として構造改革に向けている点を評価した。 パウエル議長も、財政政策の経済に対するインパクトは足元で縮小しているとしたほか、家計の超過貯蓄も、財政支援だけでなく、コロナ期の消費の困難さに起因する面も大きいと評価した。

中央銀行のバランスシート

植田総裁は、国債買入れを政策手段として活用しているが、 YCCの下でその規模は内生変数になっていると説明した。ベイリー総裁は、保有国債の年限構成が長期であるため、QTで市場売却も併用せざるを得ないが、足元で円滑に進捗していると評価したほか、保有資産の均衡水準には距離があると説明した。

ラガルド総裁は、政策金利の変更が金融引締めの主要な手段であるとの考えを確認した上で、TLTRO IIIの返済も資産規模の縮小に寄与していると説明した。一方、APPに伴う保有資産の圧縮は初期段階にあるとし、今後6~9か月経過した時点で適切な資産規模を検討するとした。パウエル議長も、QTが円滑に進捗していると評価した一方、超過準備はまだ高い水準にあるとの見方を示した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニアチーフリサーチャー

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