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中国の理財商品の種類と投資家のリスク許容度について

2023/09/04

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中国の理財商品のデフォルトが報じられている。ここでは、中国の理財商品について今一度整理しておく。

中国の理財商品(資産管理商品)は、2018年以降、機能別規制の下にある。銀証保の縦割り行政の中で、シャドーバンキングにおいて、いわゆる規制アービトラージが横行したことから、「金融機関の資産管理業務の規範化に関する指導意見」(2018年4月、人民銀行、銀保監会、証監会、外為管理局。以下、指導意見)は商品を組成・販売する金融機関の業態にかかわらず同じ機能の商品・サービスには同じ規制をかけることにした。

機能分類の一つは募集方式で、公募商品か私募商品かである。なお、私募は適格投資家向けで募集人数が200人まで、また宣伝不可である。

【公募商品】
公募の理財商品としては、主に銀行の理財商品と基金管理会社(投信の運用会社)の証券投資基金(証券投資信託)がある。(なお、銀行の理財商品はほとんどが公募商品である)。両者とも一般投資家向けである。証券投資基金は以前から投資先商品(株、債券等)の市場価格で評価されており、投資家もそれに慣れている。一方、銀行の理財商品は、実際は元本割れのリスクがあったにもかかわらず長らく「銀行神話」の下で暗黙の元本保証がなされていた。2018年以降は暗黙の元本保証が禁止され、現在はほとんどの商品が基準価額商品となっている。ただし、実際は投資家が慣れているとは言い難い。昨年、発行価格割れが生じると、少なからぬ投資家が動揺したことが伝えられており、なお、投資家教育の途上である(週刊エコノミスト「銀行理財商品に市場の洗礼 投資家教育の強化も必要」2023.1.17参照)。金融当局としてはこの分野でのデフォルトは避けたいところと言える。

【私募商品】
一方、私募の理財商品には、大きくわけて①信託会社、証券会社(と子会社)、基金管理会社(と子会社)等の出している私募の商品と②私募投資基金があり、これまでもデフォルトが発生してきた。

①は金融機関の私募業務で、上述の「指導意見」が適用される。適格投資家の条件は以下の通り。(1)2年以上の投資経歴があり、かつ以下のいずれかを満たす。家計の金融純資産が300万元を下回らず、家計の金融資産が500万元を下回らない。または直近3年の本人平均年収が40万元を下回らない。(2) 直近年末の純資産が1000万元以上の法人。(3)金融管理部門が適格投資家とみなすもの(なお、信託会社については指導意見に則した関連弁法が実施されていないため、異なった条件が使われている可能性はあるが、統一される方向にある)。つまり、ある程度、資産・所得を持っている投資家が投資している(注)。

②の私募投資基金は、主に、私募股権(エクィティ)基金(PEファンド)、私募創業基金(VCファンド)、私募証券投資基金から成る。私募投資基金については専門の法律・規定を作ることになっており原則「指導意見」の適用外である。PEファンドとVCファンドはIT等の先端産業育成のため80年代から育成されたものである。一方、私募証券投資基金は2000年代に法律上の灰色地帯で発生し、その後、徐々に法律が整備され主に自主規制の下で発展してきたもので(主に自主規制機関による)、玉石混交である(拙稿「淘汰の時代を迎える中国の私募投資基金業界」(金融ITフォーカス、2023年7月号)参照)。そして、私募投資基金の適格投資家の条件は、(1)純資産1,000万元以上の会社、(2)金融資産が300万元以上あるいは直近3年の平均収入が50万元以上の個人、等である。

玉石混交ゆえ、時として詐欺事件が生じるのもこの私募投資基金である。過去数年間、日本でも、中国の投資家の取り付け騒ぎの映像が流れることがたびたびあったが、多くは私募投資基金の支払不能のケースである。中国の経済メディアも市民に対して注意喚起を続けてきた経緯がある。このため、足元ではある程度リスク許容度のある投資家が投資していると思われる。

ところで、最近、恒大の理財商品のデフォルトのニュースがあった。この理財商品は、資金調達者が地方の金融取引所に登録して直接、非公開発行する「定融商品」という私募商品と見られる(ここまでで説明してきた分類には入り難い商品である)。通常の取引所(銀行間市場など)と比べると透明度は低い。恒大傘下の恒大財富を通して投資家に販売されており、今回の支払不能の公告も恒大財富が発表している。(調達資金は、恒大集団の事業に投入されていた。なお、同商品は2年前に支払不能になり、その後は返済をリスケするなどして今日に至っている)。

このように理財商品といっても様々あり性格が異なっている点には注意を払う必要がある。

(注)信託、証券、基金会社(以下信託会社等)の私募業務はシャドーバンキングの下で大きく拡大した。2010年代、規制により銀行が直接、不動産会社や地方政府の融資平台に貸し出すことが難しくなると、銀行が信託会社等の私募商品を通じて不動産会社等は迂回融資を続けたのである。そして、このスキームを設計するのは銀行、利鞘の大部分を得るのも銀行であり、信託会社等は手数料(チャネル業務と言われる)を得ただけである。ここで利用された信託会社等の私募商品は、銀行の理財商品を唯一の顧客とするいわゆる「一対一商品」が多く、指導意見がチャネル業務を抑制する中で激減している。近年、信託の私募商品等でデフォルトが発生しているのは(当コラム「中国の信託会社の最近の状況について」2023年8月30日参照)、チャネル業務関連というよりも、信託会社等が適格投資家に私募商品を販売しているケースであろう。

執筆者情報

  • 神宮 健

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニアチーフ研究員

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