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日欧が中国を念頭に経済安全保障を巡る連携強化:米国の対中戦略の不確実性も意識か

2024/05/02

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戦略物資で中国依存度を下げる

日本と欧州連合(EU)は、経済的、地政学的課題について戦略的な連携を協議する「日・EUハイレベル経済対話」を定期的に開催している。近日中にパリで開く閣僚級による「日・EUハイレベル経済対話」では、中国を念頭に特定国に戦略物資の調達を依存しないことなどを定める共同声明を発表する予定だ。

背景には、中国と日欧との間で貿易摩擦が激化していることに加え、日欧にとって、中国製品への依存度の高まりが、経済安全保障上の大きな脅威になっていることがある。

対象となる戦略物資は、半導体と電気自動車(EV)、太陽光パネルなどとなる。こうした製品やそれを製造する部品材料の調達で、中国への依存度が高まれば、中国が貿易の制限などで他国の政策に圧力をかける「経済的威圧」につながりかねないことを、日欧ともに強く警戒している。

EVについては、中国は米国と欧州の間で既に激しい貿易摩擦が生じている。中国ではEVが過剰生産の状況にあるとみられるが、政府が巨額の補助金でEVメーカーを支援し、その結果、中国製EVが欧州市場に過度な安価で輸出され、欧州のEVメーカーに不当に打撃を与えている、とEUは主張している。欧州では、経済安全保障の観点から、中国製EVを締め出す動きが広がってきている。

EUは2023年10月に、輸入された中国製EVに関して、相殺関税措置を発動する可能性も視野に入れた調査に着手した。EUは中国からの輸入自動車に対して標準の10%の輸入関税をかけている。そのもとで中国製EVの市場シェアは2023年に8%程度にまで上昇し、2025年には25%に達する可能性があるとされる。EUは、今年10月に、中国政府の補助金により中国製自動車がEU製より20%程度安く販売されているとして、関税を引き上げるかどうかの調査を開始した(コラム「米政府がEV製造サプライチェーンの中国依存低下を狙って新指針」、2023年12月8日)。

他方日本は、中国からの影響を受けずに半導体を調達することに、より強い関心があるだろう。台湾積体電路製造(TSMC)の工場を巨額の補助金を通じて日本に誘致したのはその一環だ。また日本は、米国が主導するインド太平洋地域における経済面での協力の枠組み、インド太平洋経済フレームワーク(IPEF:Indo-Pacific Economic Framework)に参加し、その中で、参加国間で半導体など重要物資のサプライチェーンの構築を進めている。

中国から報復措置を受けるリスクも

半導体分野では、日本は米国の対中戦略の影響を強く受けてきた。米国政府は2022年10月に、先端半導体やその製造に必要な装置、技術について、中国への輸出を事実上禁じる措置を講じた。さらに、その措置の有効性を高めるため、日本とオランダにも共同歩調を取ることを求めた。先端半導体の製造装置を製造するのは、米国、日本、オランダに限られるためである。実際、日本とオランダも、先端半導体の製造装置の中国向け輸出を規制した。

こうした措置への報復として、中国は2023年7月に、中国における埋蔵量が多くまた中国が世界の主要な生産供給国になっている、ガリウムおよびゲルマニウムの輸出規制を導入した。ガリウムは、第2世代および第3世代の半導体材料に用いられる物質だ。半導体分野で米国の対中輸出規制に同調した結果、日本の半導体業界はその返り血を浴びることになったのである。

また、米国の対中輸出規制は先端半導体分野に限るものであったが、規制逃れでより低いランクの半導体、あるいは半導体製造装置の輸出が中国向けに増加したことから、米国政府は規制の対象をよりランクの低い半導体、半導体製造装置へと拡大していった。そうした中、半導体製造装置輸出で中国向け輸出の依存度が高い、日本の半導体製造装置メーカーは打撃を受けることになった。

今回の日本とEUの合意についても、中国はそれに対して半導体やEVの製造に使われるレアメタル、レアアースなどの輸出を制限する報復措置を講じることで、日本企業、経済に打撃となる可能性もあるだろう。

対中戦略で米国とは異なるアプローチをとる日欧

ただし、日本と欧州は、対中戦略で米国ほどには強硬ではなく、中国を過度に刺激することを避けるよう配慮するのではないか。

EUは、安全保障上あるいは経済安全保障上の脅威となるような分野については、中国との貿易に規制を設けるが、それ以外の分野については貿易の継続を望む。欧州はこうした戦略を「デリスキング」と呼んでいる。そして中国との貿易関係を全面的に見直す姿勢を取る米国の戦略を「デカップリング」と批判してきた。現状では、米国政府も表面的には、欧州の意見を受け入れて、対中戦略の狙いを「デカップリング」ではなく「デリスキング」と説明している。

日本も欧州と同様に、安全保障上あるいは経済安全保障上の脅威となるような分野については、中国製品の依存度を下げる取り組みを進めるが、中国との経済的な関係は維持したい考えだ。

大統領選挙を控えて、米国内では対中強硬論が力を増している。バイデン政権はさらに対中規制を進める方向にある。こうした国内政治色の強い動きに同調していくことに、日欧は慎重だろう。

さらに、大統領選挙でトランプ前大統領が再選された場合には、対中貿易政策がどのように変化するかは、まさに予見できない状況だ。少なくとも、先進国で足並みを揃えて対中戦略を進める、という現状の協調路線は放棄される可能性が高い。

このように、米国大統領選挙後の大きな不確実性に備えて、このタイミングで親和性の高い日欧間で対中経済政策を確認し足並みを揃えておこう、という考えが、今回の合意の背景にあるのではないか。

(参考資料)
「日欧 経済安保で新原則 戦略物資調達 特定国 依存せず」、2024年4月28日、東京読売新聞
「日欧、経済安保で連携強化―半導体調達、脱中国依存」、2024年4月28日、共同通信ニュース

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