2020/03/31
要旨
- 野村総合研究所(NRI)は、新型コロナウイルス感染拡大を受け、消費者の生活に与える影響を把握することを目的として、2020年3月に日本人約3,000人を対象に緊急インターネット調査を実施した。
- 今年の景気や株価については8割近くの人々が悪化/下落すると考え、家庭の収入見通しについては、5割近くの人々が下落するだろうと予想している。これらの数値は昨年末時点の調査から大幅に拡大している。
- 新型コロナウイルス感染拡大後、生活必需品についてお店に買い物に行く頻度は減少するも、買いだめ行為やインターネットでの購入が増えていることから、生活必需品に限れば、短期的に支出は増えている可能性が高い。
- 政府はキャッシュレス決済情報を業態別、都道府県別などの単位で定期的に集計・公表すべきである。キャッシュレス決済情報を活用すれば、消費がどの分野、どの地域でどのくらい落ち込んでいるのかをほぼリアルタイムで把握できることから、アンケート調査から把握できる行動変化情報などとあわせて、政策立案者や企業経営者らにとっての有益な情報源となる。
8割の人が今後の景気悪化を予想
野村総合研究所(NRI)は、新型コロナウイルス感染拡大を受け、消費者の行動や心理状態に与える影響を把握することを目的として、2020年3月に日本人約3,000人を対象に緊急インターネット調査を実施した。我々が同1月に実施した日常生活に関するインターネット調査と比較すると、今回の緊急調査では、自分や配偶者、子供、親など家族の健康に関する不安や、伝染病に対する生活者の不安感が確実に高まっている。また、収入や資産価値の低下、税金、社会保険料の増加、社会保障制度の破たんについても不安と答えた人の比率が高く、先行きの見えない不安感が高まっている(図1)。
また、今後の景気について「悪くなる」と考える人は、2019年の年末時点では47%だったのに対し、今回の調査(2020年3月)では82%に大きく増えている。また株価についても、下がると考える人は2019年年末では36%であったのが、2020年3月では77%に増加している。家庭の収入も今後下がると考えている人が50%を超えているが、景気や株価ほどの落ち込みはないともいえる。(図2)。
外出を伴う買い物行動が減り、まとめ買いやインターネットショッピングが増加
新型コロナウイルス感染拡大後、旅行等の不要不急の外出については自粛が求められているため関連消費の低迷につながっているが、食料品・日用雑貨等の生活必需品については新型コロナウイルス感染拡大後に支出額が増えているようである。(図3)。
生活必需品をお店で買うことについては、「以前よりも減った」(22%)が「以前よりも増えた」(5%)を大きく上回っており、外出頻度の減少および1回の買い物におけるまとめ買い傾向がうかがえる。また、生活必需品のインターネットでの購入については、「以前よりも増えた」(10%)が「以前よりも減った」(5%)より多く、外出を控える代わりにインターネットによる購入機会もわずかではあるが増えたことが確認できた(図4)。なお別の設問の回答を見ると、本調査実施時点(2020年3月20日前後)で、「外出を控えるようになった」という人は全体の48.1%とほぼ半数程度の水準であった(図5)。
2つの生活防衛傾向:生活必需品の備蓄と支出全体の差し控え
今後1カ月で積極的にお金を使いたいもの、消費を控えたいものについてもある程度予想通りの結果がでた。生活必需品の支出が増えた人に限ってみると、今後積極的にお金を使いたいものとして「食料品」(73%)「飲料品」(45%)「医薬品、薬」(24%)が高く、生活必需品や医薬品を備蓄することで生活を防衛しようという意向が見て取れる。反対に、生活必需品の支出を減らした人に限ってみると、今後さらに消費を控えたいものとして「外食」(37%)「外出用の衣類・ファッション」(32%)「旅行費用」(28%)「人とのつきあい・交際費」(26%)が高く、生活必需品だけでなく非生活必需品についても支出を減らそうというもう1つの生活防衛意向が見て取れる(図6)。
外食頻度については、新型コロナウイルス感染拡大後に「以前より利用しなくなった」人が35%を占めていて、外食への需要が低下していることは想定通りだったが、食事の宅配サービスについては、少なくとも本調査時点では顕著な増加は見られなかった。いまのところ食事の宅配サービス利用にはそこまで結びついておらず、食料品のまとめ買いによる自炊傾向が高まっていることが推察される(図7)。
新型コロナウイルス感染拡大後の企業の姿勢に生活者の目が向いている
新型コロナウイルス感染拡大後の生活者の意識の変化を尋ねてみたところ、「マスクやトイレットペーパーを通常よりも高額の値段で販売したり、転売を放置するインターネットのサイトに反発を感じる」を肯定する人(「そう思う」と「ややそう思う」の合計)が84%をしめている(図8)。また、「学校が休みとなった子ども向けに低価格のお弁当を販売するなど、消費者に寄り添い、支えてくれる姿勢の企業やブランドを支持する動きが強まる」を肯定する人が59%をしめるなど、新型コロナウイルス感染拡大後の企業の姿勢に生活者の関心が向けられ、注目されている傾向がうかがえる。
また、「会社に行かなくても仕事がある程度、進められる認識が広まり、日本における働き方が今後、大きく変わる」を肯定する人も49%とほぼ半数をしめており、今後、テレワークなども含めた新しい働き方が広がると感じている人がいることがわかる。
正確で即時性のある消費動向把握のためにキャッシュレス決済情報を活用せよ
我々のアンケート調査からは、新型コロナウイルス感染拡大前後における分野別の消費支出の増減傾向、買い物の行動変化、また消費者心理の変化などについては垣間見ることができるが、実際に消費がどの分野、どの地域でどれくらい落ち込んでいるのか(あるいは増えているのか)については把握できない。政府が実施している家計調査は約2か月後れで発表されるので、これも即時性には欠ける。
また本調査では、新型コロナウイルス感染拡大に関して、フェイクニュース(と思われるもの)を見聞きしたかについても尋ねているのだが、実に半数以上の人が、フェイクニュースと思われるものを見聞きしたと回答している。トイレットペーパーがなくなる、熱でウイルスが死滅するなどの情報に加えて、経済の実態についても、憶測や大げさな表現がネット上で散見される。特定業種(例:百貨店)に関する売上などの断片的な情報が、唯一信頼されるものとして公表されている状態である。
我々に必要なのは、より包括的かつ即時性のある消費情報である。そこで注目したいのがキャッシュレス決済情報である。2020年2月時点でキャッシュレス・ポイント還元事業の加盟店登録数はおよそ100万店舗あり、それらの店舗におけるキャッシュレス決済額の情報に基づきポイント還元分が補助されている。この仕組みを活用すると、日本の消費情報に関する概観が即時的に把握できる。さらにいえば、日本人のキャッシュレス利用が進めば進むほど、より正確な消費の全体像が把握できる。キャッシュレス決済の更なる推進と、その情報を業態別、都道府県別などに集計して定期的に公表することで、国民に正しい情報を伝えるだけでなく、政策立案者や企業経営者の迅速な意思決定に役立つ重要な情報源とすべきである。
【ご参考】調査概要
■調査名 |
「新型コロナウイルス感染拡大による生活への影響調査」 |
■実施時期 |
2020年3月 |
■調査方法 |
インターネット調査 |
■調査対象 |
全国の満15~69歳の男女個人 |
■有効回答数 |
3,098人 |
■主な調査項目 |
|
◇情報収集行動 |
・・・情報収集の仕方・変化 |
◇コミュニケーション |
・・・親子関係、夫婦関係、地域関係に対する意識 |
◇就労スタイル |
・・・就労状況、就労意識 |
◇消費価値観 |
・・・消費に対する意識、今後積極的にお金を使いたい分野 |
◇消費実態 |
・・・外食、宅配、オンラインサービス等の利用意向・変化 |
◇生活全般、生活設計 |
・・・景気・収入などの見通し、直面している不安や悩み |
執筆者
森 健
未来創発センター グローバル産業・経営研究室
林 裕之
マーケティングサイエンスコンサルティング部
日戸 浩之
コンサルティング事業本部
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