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NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 新型コロナウイルス感染拡大下の日本人の情報収集行動 ~デジタル空間での「インフォデミック」抑止にも注力を~

新型コロナウイルス感染拡大下の日本人の情報収集行動
~デジタル空間での「インフォデミック」抑止にも注力を~

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2020/04/09

  • 野村総合研究所(NRI)は、新型コロナウイルス感染拡大を受け、生活者のコミュニケーション方法や情報収集に与える影響を把握することを目的として、2020年3月に日本人約3,000人を対象に緊急インターネット調査を実施した。
  • 新型コロナウイルス感染拡大後、離れて住んでいる家族との対面交流が減る一方、LINE・Skype等のデジタルコミュニケーションが増えている。特にこの傾向は女性に顕著で、若年層だけでなく中高年層でもデジタルツールの利用頻度は増加している。
  • 7割以上の人が、新型コロナウイルスに関するフェイクニュース(と思われる)情報を見聞きしたと回答し、その多くはインターネット上である。回答者の7~8割がテレビ・新聞での情報を信頼しているのに対して、SNSでの情報を信頼している人は2割しかいなかった。
  • 世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルスに関する誤情報やフェイクニュース(偽情報)が大量に拡散する状態を「インフォデミック」と呼び、新型コロナウイルスの拡散(パンデミック)と同様に強い警鐘を鳴らしている。緊急事態宣言下でますますデジタルツール経由の情報収集が増えることが予想されるなか、国民の生命を危険にさらし、社会活動を壊しかねないインフォデミック対策にも真剣に注力する必要がある。

中高年層でもデジタルコミュニケーションが増加

新型コロナウイルス感染拡大以後、国や自治体からは外出自粛の要請が出され、4月7日には安倍首相が7都府県を対象に緊急事態宣言を発出するに至っている。野村総合研究所(NRI)は、新型コロナウイルス感染拡大を受け、生活者のコミュニケーション方法や情報収集手段に与える影響を把握することを目的として、2020年3月に日本人約3,000人を対象に緊急インターネット調査を実施した。
それによると、家族・親族とのコミュニケーション方法に変化が出てきている。我々が想定していたように、新型コロナウイルス感染拡大後に、離れて暮らす家族・親族との対面コミュニーション頻度が減る一方で、デジタルコミュニケーションの頻度は増えていることが明らかになった(図1)。また、LINE・Skype等のデジタルコミュニケーションについて、性別・年代別に変化を見ると、男性は若年層ほど頻度が増加しているのに対して、女性は特に30代の利用頻度が増加しているが、50代、60代など中高年層でも利用頻度がそれなりに増加していることがわかる(図2)。おそらくこの中には、今回をきっかけに初めて利用するようになった、という人も一定数いるはずである。

年代別に異なる情報収集媒体

新型コロナウイルスは2019年11月に発生が確認され、同年12月31日に最初に世界保健機関(WHO)に報告された。日本においては、1月下旬の日本人初の感染者出現、そして2月のダイヤモンド・プリンセス号における集団感染等で大きな話題となり、時々刻々と変わる状況に多くの人が新型コロナウイルス感染に関する様々な情報に触れていたはずである。
我々の調査によれば、新型コロナウイルス感染拡大に関する最新情報をいち早く知る手段は、年代によって特色が異なっていた。具体的には、10代・20代の若年層はTwitterを好み、30代、40代はGoogleやYahoo!などのポータルサイトを、そして50代、60代はテレビ(NHKおよび民放)を利用している(図3)。ただしポータルサイトやニュース系アプリ・サイトの利用はすべての年齢で同じ程度利用されていた。
また、情報収集にTwitter等のSNSを利用する若年層であっても、新型コロナウイルス感染拡大に関して「まとまった情報を正確に知りたい場合」は、SNSを使用しない人が多いことが示された(図4)。SNSは情報の即時性は高いものの、きちんと裏付け・精査された情報であるか判別がつかないことが多いためである。

7割以上の人が新型コロナウイルスに関連したフェイクニュースを見聞きしている

本調査において、新型コロナウイルスに関する情報収集手段としての各媒体について信頼度を聞いたところ、SNSの情報を信頼している人は2割程度しかいなかった(図5)。この背景には、これらのメディアで流されるフェイクニュース、あるいは誤情報の問題がある。クレア・ウォードルによれば注1 、フェイクニュースとは偽情報(disinformation)のことであり、人々を欺くため、あるいは注目を集めることだけを目的に作られた情報を指す。それに対して、不注意で共有された誤った情報は誤情報(misinformation)である。誤情報は、発信元が間違いに気づけば直ちに訂正されるが、偽情報はむしろ拡散が主目的である。
我々は同調査のなかで、アンケート回答者に対して、新型コロナウイルスに関する「フェイクニュース(と思われるもの)」を見聞きしたか質問した。つまり、この情報は間違っているのではないか、しかもその背後に悪意や愉快犯的な要素、あるいは注目を浴びることが主目的だと感じたことがあるかを聞いたことになる。その回答結果によると、新型コロナウイルスに関する「フェイクニュース(と思われるもの)」を見聞きした人は7割以上にのぼり、複数回見聞きした人は半数程度存在する(図6)。

フェイクニュースにより生活必需品の買い占め騒動まで発展

フェイクニュースを見聞きした情報媒体としては、テレビ(民放)、インターネット検索サイト、Twitterが多く挙げられた(図7)。テレビ(民放)は、フェイクニュースの発信元というよりは、フェイクニュースに関する注意喚起や、専門家による検証コーナーなどが調査結果に反映されたものと思われる。またGoogleやYahoo!などのポータルサイトも、自身がフェイクニュースを作ったというよりは、意図せず第3者の作ったフェイクニュースを掲載していた、あるいはフェイクニュース先を検索結果として表示していたことが考えられる。
それに対して、TwitterなどのSNSは、それ自体がフェイクニュースの発生源となっている可能性が高い。発生源は人間だけでなく自動プログラムも含まれる。Twitter上に存在する、人間に成りすましたボット(自動化されたタスクを行うプログラム)のアカウントを検出しているBot Sentinelというサイトによれば、4月7日の24時間に、#covid19でツイートしたボットアカウントは715あると報告されている 注2
もちろんSNS上には、人間が投稿し、かつ人を欺く意図がないものも存在するだろう。「〇〇がウイルスに効くのではないか」という仮説が、拡散の過程でいつの間にか「〇〇がウイルスに効く」という断定調のニュースに変容する場合もある。この場合は、フェイクニュースというよりは訂正されずにいる誤情報、と呼ぶほうが正しいのだろうが、いずれにしても誤った(あるいは最初から偽の)情報が人為的/ボット経由でまずSNS上で拡散し、ある一定数に達すると、インターネットニュースやテレビ(民放)などでも取り上げられるようになる。
新型コロナウイルスに関しては、「マスクとトイレットペーパーの原料は同じ」「新型肺炎の影響でトイレットペーパーが今後なくなる」といったフェイクニュースが拡散したことによって、実際にトイレットペーパーを買いだめする人が殺到し、トイレットペーパーだけでなく類似商品まで品薄を招いたことは記憶に新しい。また、納豆がコロナウイルスに効果があると聞くと納豆が品薄になるなど、実生活に影響を及ぼす事態にまで発展している。「熱でウイルスが死ぬ」「お湯を飲めば予防できる」という情報も、それを頼りにしてウイルスに臨んでしまっては人命にかかわる可能性もある。
ここには集団心理も働いているだろう。先ほどSNS発の情報に対する信頼度が低いことを示したように、これらの情報を心から信じる人はむしろ少数派で、多くの人が疑ってかかったはずである。むしろ有名な「ケインズの美人コンテスト」的なメカニズムが起こったと考えるべきである。ケインズの美人コンテストとは、「100枚の写真の中から最も美人だと思う人に投票してもらい、最も投票が多かった人に投票した人達に賞品を与える新聞投票」注3 で、この場合各人は、自分自身が美人と思う人へ投票するよりも、ほかの多くの人が投票すると思われる人を予測して投票する。つまり自分の考えよりも他人がどう行動するかを予測して自分もそれに合わせるということだ。今回のケースに当てはめるならば、「自分自身はトイレットペーパーがなくなるとは思わない。しかし世間の少なくない人がそれを信じるとしたら、お店からトイレットペーパーがなくなる可能性があるから、自分もその前に購入しよう」ということになる。つまりフェイクニュースの恐ろしい点は、自分自身はそれを疑っていたとしても、他人の行動を予想する過程で自分もそれにのってしまう可能性があるということだろう。

新型コロナウイルスの感染抑止とともに「インフォデミック」を抑止せよ

新型コロナウイルス感染拡大は、SNSやメッセージングアプリを通じたコミュニケーション頻度をある程度高めていて、特に女性に関しては中高年層にもその傾向がみられる。我々の別の提言「新型コロナウイルス感染拡大が日本人の消費行動に及ぼす影響」(https://www.nri.com/jp/keyword/proposal/20200331)で示したように、新型コロナウイルス感染拡大後、日本人の多くは自身・家族の健康だけでなく、雇用や収入、社会保障制度の破たんなど先行きの見えない不安感が高まっている状況であり、食料品や飲料品、医薬品等の生活必需品の支出意欲が高い状態にある。このような不安感が高まっている状況では、一つの些細なフェイクニュース/誤情報によって、生活必需品の買い占め騒動が極めて発生しやすい状況にあると言える。
人命にかかわるケースもある。米国では、トランプ大統領がマラリア治療に使われるクロロキンがウイルス対策に有効であると話したところ、アリゾナ州に住む高齢者が(クロロキンを含む)水槽用の洗剤を飲み死亡するという事件が発生している。
世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルスに関する誤情報、偽情報の世界的な拡散を「インフォデミック」とよび、新型コロナウイルスの感染大流行(パンデミック)と同様に、人々の生活や命に甚大な影響を及ぼすとして強い警鐘を鳴らしている。米国では新型コロナウイルス関連のフェイクニュース封じ込めのために、フェイスブック、グーグル、リンクトイン、ツイッター、マイクロソフトなどの大手テクノロジー企業が共同声明を発表した。グーグルは、加工された偽画像を検知する技術を開発するなど対応を進めている。
日本は米国など諸外国と比べればそこまでフェイクニュースに曝されておらず、社会も分極化されていないのだから注4 、「インフォデミック」の心配はしなくてよいという考えもあるかもしれない。しかし我々の調査からも見えるように、新型コロナウイルス感染拡大によって、日本人のコミュニケーション&情報収集手段としてのデジタルツールの重要性は高まっている。そして4月7日の緊急事態宣言で外出がさらに難しくなることから、この傾向はさらに強まるとみている。またNTTドコモモバイル社会研究所によれば、日本の高齢者のスマホ保有比率は高く、2020年1月時点で70代の高齢者も(携帯電話保有者のうち)7割がスマートフォンを持っているということで注5 、高齢者も含めた日本人のデジタルコミュニケーションは一層進んでいくとみている。国民の命と社会を守るという意味において、日本も新型コロナウイルス感染拡大(パンデミック)だけに意識を集中するのではなく、誤情報・偽情報の拡大(インフォデミック)抑止にも十分注意を向ける必要がある。

【ご参考】調査概要

■調査名

「新型コロナウイルス感染拡大による生活への影響調査」

■実施時期

2020年3月

■調査方法

インターネット調査

■調査対象

全国の満15~69歳の男女個人

■有効回答数

3,098人

■主な調査項目

 

◇情報収集行動

・・・情報収集の仕方・変化

◇コミュニケーション

・・・親子関係、夫婦関係、地域関係に対する意識

◇就労スタイル

・・・就労状況、就労意識

◇消費価値観

・・・消費に対する意識、今後積極的にお金を使いたい分野

◇消費実態

・・・外食、宅配、オンラインサービス等の利用意向・変化

◇生活全般、生活設計

・・・景気・収入などの見通し、直面している不安や悩み

注1)Claire Wardle “Fake News. It’s complicated.” FIRST DRAFT, Feb. 16, 2017, https://medium.com/1st-draft/fake-news-its-complicated-d0f773766c79
注2)詳しくは https://botsentinel.com/を参照のこと
注3)ケインズは、著書『雇用・利子および貨幣の一般理論』第12章第5節にて、金融市場における投資家の行動をこの美人投票の例で説明した。
注4)「フェイクニュースに震撼する民主主義:日米韓の国際比較研究」清原聖子編著、大学教育出版、2019、および「ネットは社会を分断しない」田中辰雄、浜屋敏、角川新書、2019
注5)「スマホ比率88.9%に:40代以下は9割以上がスマホを保有」スマホ比率・端末所有レポート、株式会社NTTドコモモバイル社会研究所、2020年3月17日

執筆者

森 健

未来創発センター グローバル産業・経営研究室

林 裕之

マーケティングサイエンスコンサルティング部

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お問い合わせ先

【提言内容に関するお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 未来創発センター
E-mail:miraisouhatsu@nri.co.jp

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E-mail:kouhou@nri.co.jp