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NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 マイナンバーカードを活用した現金給付に期待

マイナンバーカードを活用した現金給付に期待

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2020/04/15

  • 新型コロナウイルスの拡大に伴う経済対策の柱として、政府は世帯向けの現金給付を決定したが、現在の仕組みでは、給付までに時間がかかることが予想される。
  • 今回は間に合わないが、今後を見据えた場合、マイナンバーカードを活用した円滑な給付を可能にする経済対策インフラの整備が不可欠だ。その際、「デジタルではない手段での給付」を望む人へも円滑な給付が可能になるよう、「包摂の精神」を堅持した制度設計が求められる。

リーマンショック時の「定額給付金制度」の教訓

新型コロナウイルスの拡大に伴う経済対策の柱として、政府は世帯向けの現金給付を決定した。本稿執筆時点(4月9日)では、基準を満たした上で希望する世帯に30万円を給付するという方針が政府から示されている。
リーマンショック後に実施された定額給付金制度では、市区町村から個人に申請書が送付され、振込先情報を記入して返送する必要があったため、個人が申請をしてから給付を受けるまでに、1ヶ月程度もの時間を擁した。また、そもそも「現金給付を実施する」と決定されてから各自治体が準備を整え、事務を開始するまでも、4ヶ月から7ヶ月ほどの時間を擁した※1。おそらく、紙ベースの手続きを前提としていたために、制度設計から事務の準備、そして実際の給付に至るまで、あらゆるプロセスで時間がかかったと推察される。

今回の現金給付も時間がかかる可能性は高い

現時点で、今回創設される給付金制度の具体的な仕組みは明らかになっていないが、同じような「弱点」が露呈する可能性は高いのではないだろうか。4月7日に閣議決定された経済対策の文書からは、概ね次のような給付の流れになると推察できる※2。(1)給付を希望する世帯主が市区町村の窓口で申請する、(2)市区町村の窓口の職員が基準を満たしているかを確認する、(3)基準を満たしていることを確認した上で銀行振込に必要な情報を申請者に書いてもらう、(4)指定金融機関から(3)で把握した申請者の銀行口座に振り込みをする。ここで、(3)と(4)、つまり個人の銀行口座情報を確認してから振り込むというプロセスは定額給付金制度と同じだ。
さらに、今回の現金給付策は支給対象が限定されている。この基準について、閣議決定文書の該当箇所を敢えてそのまま引用すると、「新型コロナウイルス感染症発生前に比べて減少し、かつ年間ベースに引き直すと個人住民税均等割非課税水準となる低所得世帯」「新型コロナウイルス感染症発生前に比べて大幅に減少(半減以上)し、かつ年間ベースに引き直すと個人住民税均等割非課税水準の2倍以下となる世帯等」と記載されている。
この先もう少しわかりやすい表現で示されると期待するが、それでも自分自身が給付基準を充足しているかどうかが分からない人は多いだろう。
つまり、リーマンショック時と給付プロセスの大枠が変わっていないだけでなく、今回は「基準を満たすか否か」の確認が必要になるため、結局「時間がかかる」という問題は避けて通れないのではないか。尤も、現実的には今の仕組みの中で最大限工夫するしかなく、「時間がかかる」という弱点だけを殊更問題視しても建設的ではない。重要なことは将来を見据え、どう改善していくかであろう。

マイナンバーカードを活用した現金給付に期待

この観点から今後期待されるのが、マイナンバーカードの活用だ。19年6月に閣議決定された政府の「骨太の方針2019」では、「国や地方公共団体が実施する子育て支援金など各種の現金給付をポイントで行うことも視野に入れ」との記述がある※3。これは素直に読めば、国や市区町村からの現金給付のインフラとしての活用が想定されていると解釈できる。具体的な仕組みは不明だが、おそらく、公的部門から個人に対してポイントを付与する、個人はそのポイントを銀行等で換金する(預金に換える)、銀行等は事後的に政府から入金を受ける、といった流れになるのではないか。
冒頭の定額給付金制度や、今回の現金給付策で時間がかかる理由は、(1)国も市区町村も個人の口座情報を把握していない(このため確認するプロセスが生じる)にも関わらず、(2)「最初から」個人にお金を振り込もうとする仕組みだからだ。ポイントによる現金給付であれば、(1)の問題はクリアできるし、最初に配るのはポイント(データ)なので迅速に処理できるようになるだろう。そこで配られることになるポイントは、政府が振り出す小切手を電子化したものに近い。かなりのスピードアップが期待できる。
また、「骨太の方針」の同じパラグラフには、「真に必要な国民に対して、きめ細かい対応を可能にする」という記述もある。「真に必要」「きめ細かい対応」などの文言から推測する限り、個人の所得や納税情報を加味した適切な給付先の特定においても、マイナンバーカードの活用が展望されているのではないか。紐づけられる所得や納税の情報は基本的に前年のものであるためリアルタイムさにはやや欠けるものの、今の仕組みと比べれば相当程度の効率化が可能だろう※4。同一資格者による二重受給の問題など、今回の仕組みで課題として挙げられている点の克服も併せて期待できる。

経済対策インフラとしては「包摂の精神」も重要

尤も、マイナンバーカードによる現金給付の仕組みが進んだ場合でも、いくつかの課題はあるだろう。第一に、マイナンバーカードがどこまで普及するかという点だ。直近(2020年3月1日)の交付枚数は約1,900万枚であり、人口比では15%程度に留まっている※5。政府の想定では、2022年度には「ほとんどの住民」にマイナンバーカードが保有される状況を目指すとされているが、実効性を伴った普及策をどこまで展開できるかどうかが鍵となろう※6
第二に、仮にマイナンバーカードが全ての国民に普及したとしても、尚残る課題がある。それは、インターネットへのアクセスを持たないなど、何らかの事情で「デジタルではない方法」で現金給付を希望する人への対応だ。「令和元年版 情報通信白書」(総務省)によれば、2018年の個人のインターネットの利用率は79.8%に留まっており、約2割の個人はインターネットを利用していない。さらに属性別では、高齢層であるほど、また低所得世帯であるほど、利用率が低下する傾向があるとされている。インターネットへのアクセスを持たない方々に対しても素早い給付ができるよう、「包摂の精神」を堅持した制度設計が必要だ。その際は、政府側だけでなく、金融機関側の手続きなどにも工夫が求められるかもしれない。官民が協働して知恵を出し合い、制度設計の議論が進むことを期待したい。
本稿で取り上げたマイナンバーカードを活用した現金給付は、目下の経済対策には当然のことながら期待できない。また、前述の通り考慮すべき課題もある。それでも、今後のことを見据えた場合、政府から個人への現金給付の流れを高度化し、経済対策のインフラを整備しておくことは、「次の危機」に備えるという意味でも必要不可欠であろう。

  • ※1  

    制度導入の決定は2008年10月末だったが、全ての市区町村で給付事務が開始されたのは09年の5月だった。詳細は、総務省「定額給付金の給付開始時期等の状況(平成21年5月25日時点)」を参照。

  • ※2  

    「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」(令和2年4月7日)を参照。

  • ※3  

    「経済財政運営と改革の基本方針 2019」(令和元年6月21日)を参照。

  • ※4  

    本稿では「現金給付への活用」に焦点を絞っているが、政府方針においては、自治体ポイントへの活用も検討されている。これも含め、マイナンバーカードの幅広い可能性を論じた論文として、梅屋真一郎(2020)「マイナンバーカードを経済対策インフラに」(金融ITフォーカス4月号、野村総合研究所)を参照。

  • ※5  

    今回の対策が記載された文書(※2参照)でも、マイナンバーカードを活用したオンライン申請の仕組みを「検討する」という表現は含まれている。しかしながら、マイナンバーカード自体の普及が人口比15%にとどまっているため、ユニバーサルな仕組みとして今回期待するのは難しいだろう。

  • ※6  

    2021年3月から、マイナンバーカードの健康保険証利用が開始する。これを念頭に、現在保険者(協会けんぽや健康保険組合)によるカード取得促進策が進められており、まずはこれらの施策がどこまで効果を発揮するかがポイントだろう。

注)本稿は4月9日時点の情報を基に執筆しています

執筆者

竹端 克利

金融イノベーション研究部
上級研究員

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