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NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 ベイズ構造時系列モデルを用いた新型コロナウイルスが産業に与える影響の予測~上場企業の売上高に与える影響は約108兆円~

ベイズ構造時系列モデルを用いた新型コロナウイルスが産業に与える影響の予測
~上場企業の売上高に与える影響は約108兆円~

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2020/04/30

  • ベイズ構造時系列モデルは、複雑に影響が絡み合うトレンドや季節性、外生変数の影響等を構造化して表現できる柔軟性と可読性に優れた時系列モデルである。
  • 本提言では、野村證券が2020年2月と3月に算出した、新型コロナウイルスの影響の顕在化前後でのマクロ経済予測結果に基づき、新型コロナウイルスが上場企業の売上高に与える影響をモデル化した。
  • 上記結果として、上場企業の売上高に与える影響は約108兆円、最も影響が大きい業界は輸送機器業界、影響のピークは20年第一四半期と予測された。
  • 今後は、さらにマクロ経済予測の更新に伴い最新の予測に修正していくとともに、各業界についてのより詳細な分析を随時提言していく予定である。

ベイズ構造時系列モデルの特徴

構造時系列モデルは状態空間モデルの一種であり、時系列に存在する異なる成分(トレンドや季節性など)を切り分けて表現することが可能なモデルである。この発展形として、2017年、Steven L. Scottによってトレンドや季節性などの成分に加えて多様な外生変数を取り込むことが可能なベイズ構造時系列モデルが提唱された※1。一般的に、時系列データは地点数が少なく(例:月次データが5年分あっても60地点しか存在しない)多量の説明変数を取り込むことを不得手としているが、このベイズ構造時系列モデルでは、“Spike and Slab”型の事前分布※2を説明変数に与え各変数が予測に与える影響度合をベイズ的アプローチで更新していくことで、一部の重要な変数をより採択しやすく、そうでない変数はより採択されにくくしている。結果として、多量の外生変数を投入した際のモデルの安定性を向上させるとともに、どの変数がより重要性が高いのかを確率的に表現することが可能なモデルとなっている。

新型コロナウイルスが各産業に与える影響のモデル化

本提言では、上記モデルを用い、各業種の上場企業における21年度までの四半期別売上高をマクロ経済指標の予測指標を説明変数として予測した。モデル作成に用いたデータは下記の通りである。

モデルの考え方と結果について具体例を用いて紹介する。

1.目的変数の設定

まず、対象となる企業は、日本の証券取引所に上場しているすべての企業のうち、2019年度第三四半期に売上高が存在する企業とする。それら企業の07年度~19年度第三四半期までの四半期別売上高を業種別に集計したものを目的変数とする※5

2.説明変数の設定

説明変数は、トレンド、季節性要因などの系列そのものが持つ特性に加え、GDPをはじめとする18種類のマクロ経済指標を使用している。これらについては、野村證券が20年2月と3月に実施した経済予測で予測された指標に準拠している。

3.モデルの構造と解釈

先述の通り、ベイズ構造時系列モデルはa) モデル構造を分解して表現できる b) 各説明変数の重要性を評価できる ことを主な特徴としている。まず、a) の特徴について電気機器業界を例にとって説明する。図1の左側は、07年度以降の電気機器業界の売上動向である。それを、ベイズ構造時系列モデルを用いて3つの成分に分解している。まず一つ目はトレンドである。市場は横ばいで推移しているように見えるが、モデルによれば、マクロ経済の成長に比して市場が伸びていないことから、内在する市場トレンドは下降しているものと推定されている。2つ目の成分は季節性である。モデルは、第一四半期から第四四半期にかけて売上が増加し、第三四半期に売上がピークに達するという周期的な動きをとらえている。3つ目が説明変数の影響であり、本モデルにおいてはマクロ経済指標の影響を示している。08年度後半からのリーマンショックの影響が最も顕著に出ていることが見て取れるが、それ以降震災や消費増税などの影響は比較的軽微であり、全体としてここ数年間継続的に上昇基調と判断している。

以上が、a) モデル構造を分解して表現できる という特徴についての説明である。
続いて、b) 各説明変数の重要性を評価できる という点についても実例を挙げながら説明していく。図2が示すのが“Inclusion Probability”であり、この指標は、各経済指標の回帰係数が0でない(モデルの予測に対して影響を及ぼす)確率を示すものである※6。例えば、下図においては、「輸出」はほぼ100%の確率で説明変数として採択されている一方で、「民間企業設備投資」は10%未満の採択確率しかなく、影響度合は相対的に小さい。
また、グラフ上のバーの色分けは各指標と売上高の関係性を表しており、白ければ正の関係、黒ければ負の関係を表す。例えば、完全失業率を例にとると、失業率は下がれば下がるほど景気は浮揚し、売上高にもプラスとなると考えるのが自然であり、負の関係を想定するのが自然である。モデル上のバーも黒として表現され、負の関係があることが示唆されている。実務上は上記のような説明変数と目的変数の関係性を鑑み、ビジネス上の観点や解釈性の観点から適切な説明変数を採択していくことが重要である。

4.新型コロナウイルスの影響の推定

本提言では、新型コロナウイルスの影響が顕在化する前(20年2月時点)と後(20年3月時点)での経済指標の予測の差分をもって新型コロナウイルスの影響を推定することを狙いとしている。具体的には図3を参照されたい。まず、実績については、灰色のラインにて2019年度第三四半期まで記載されているとおりである。青いラインが20年2月時点でのマクロ経済指標の予測に基づく電気機器業界の売上高予測である。なお、20年2月時点では、新型コロナウイルスの影響は想定されているものの、中国での主要都市の封鎖によるインバウンド需要の低下や対中輸出の減少など、主に中国経済との関連による文脈で語られており、影響は相対的に軽微なもので終わるシナリオが考えられていた。他方、赤いラインが20年3月時点の予測である。こちらは、世界経済の停滞や自粛に伴う国内消費の減少などの影響などを考慮したシナリオとなっている。本稿では、この2つのラインで囲われた紫の差分を“新型コロナウイルスが上場企業に与える影響”として定義している。電気機器業界においては、新型コロナウイルスの影響が本格化している20年度第一四半期の影響が最も大きく、次第に影響が少なくなっていくものの21年度の第三四半期まで下振れの傾向は続いていくものと推定されている。当然、業界ごとに影響の規模や期間は異なる。次節では、業界別の推定結果を一覧し全体的な傾向について考察する。

予測結果

表 1に推定された新型コロナウイルスの影響を掲載する。2019年第四四半期から2021年第四四半期までの全上場企業に及ぼされる影響については、新型コロナウイルスによる損失は約108兆円と予測される※7。これは、売上高全体の約6%にあたり、最も影響が大きい20年第一四半期には約11%に達する見通しである。その後影響から回復するものの、2021年においても新型コロナウイルスがなかった場合の本来の売上高を取り戻すのは難しいと想定されている。
Duke大学のJohn Graham教授が20年以上定点的に実施している「CFO Survey」では、世界各国のCFOに今後1年間の売上見通しについて調査している。20年3月15日以降に実施した調査結果では、特に米州と欧州のCFOは最も可能性が高いケースで1~2%程度の売上減少を想定しており、最悪の場合15%程度の売上減少となると考えている※8。日本企業と欧米企業の元々の成長性の差を考えると、本モデルで推定した約6%という売上減少は十分現実的な水準であるといえるだろう。企業は、このような予測を踏まえたうえで、短期的なキャッシュフローだけでなく、長期化する売上高減少にも備える必要があることが示唆される。

表3に業種別の影響予測を掲載する。特に影響が大きいと予測される業種は輸送用機器に代表される機器メーカーである。景気連動性が高く、最も影響を受けやすいと見込まれる。そのほか鉄鋼などの輸出入の状況に左右されやすい業種でも大きな減少が予測されている。一方で内需が強い食料品などの小売や、医薬品業界への影響は相対的に小さい。景気の変動によらず一定の需要が安定的にあるためと考えられる。なお、ここでの影響は経済の見通しを基に予測したものであり、新型コロナウイルス対策特有の「人の移動の制限」による影響は考慮されていないことには注意されたい(例:空運業)。
予測に用いる変数は統計モデルによって選択が行われているが、主にモデル内部で使用されている変数を表4に掲載する。GDPとその増減、失業率、輸出入は多くの業種で使用されている。BtoCの多い業種では消費者物価指数なども使用して予測されている。BtoBの多い業種では物価を表すGDPデフレーターのほか、鉱工業生産, 民間企業設備投資などにより予測が構成されている。

予測結果に基づく提言

本提言では、経済の見通しに合わせて各業界がどのような影響を受けるのかを独自の予測モデルを構築して推定した。もちろん、新型コロナウイルス特有の要因、特に人の移動や活動が直接的に制限されることによって、より大きな影響を受ける業界や、逆に通信業界など必ずしもネガティブな影響だけではない業界もあるだろう。企業活動においては、適切な将来の予測が正しい戦略を築くための第一歩となる。公共政策においては、正しく影響を見積もることで、より困難な状況に陥る可能性の高い業界を優先的に支援することができるだろう。我々としては、本稿で推定した影響をまず議論の起点とし、そこから業界固有の動向によってどこまで上振れ/下振れを見込むのかを検討して頂きたいと考えている。
今後は、経済見通しの見直しに伴う業界別予測の更新を継続的に行うとともに、個別の業界についても具体的に掘り下げて今後の見通しについて提言していきたい。

  • ※1:

    Steven L. Scott and Hal R. Varian, Predicting the present with Bayesian structural time series, International Journal of Mathematical Modelling and Numerical Optimisation, Vol. 5, No. 1/2, 2014.

  • ※2:

    詳細については※1を参照。

  • ※3:

    「国民経済計算」(内閣府), 「鉱工業生産・出荷・在庫指数」(経済産業省), 「企業物価指数」(日本銀行調査統計局), 「2015年基準消費者物価指数」(総務省), 「2010年基準消費者物価指数」(総務省), 「労働力調査」(総務省) (取得; 2020年3月31日), ただし、2010年基準の指標については2015年基準に野村総合研究所が加工。

  • ※4:

    野村證券金融経済研究所 経済調査部.『2019~21年度の経済見通し―後ずれリスクに直面する景気回復―』,2020年3月19日, p. 36.
    野村證券.「日本:2019~21年度の経済見通し改定」『Global Markets Research』2020年3月27日, p. 3.

  • ※5:

    なお、07年度から19年度第三四半期まで一部売上高の記録が収集できなかった企業についてはモデル化の対象外とし、モデル構築後拡大推計を行い業種全体の売上高を推計している。

  • ※6:

    なお、最終的に投入された説明変数は分析者によって影響度合の合理性や因果関係等を加味して調整されているため、18種類すべての経済指標が投入されているわけではないことに留意されたい。

  • ※7:

    本予測は上場企業のデータを用いたものであり、非上場企業を含めると影響は更に大きくなる点に留意されたい。

  • ※8:

    正式なレポートはまだ出ていない(2020年4月24日現在)がhttps://www.fuqua.duke.edu/linkedin-liveにてビデオプレゼンテーション(2020年4月22日実施)を確認することができるため、詳細はそちらをご確認いただきたい。

執筆者

鈴木 雄大

DXコンサルティング部

池野 心平

DXコンサルティング部

眞鍋 尚大

DXコンサルティング部

橘 優太朗

DXコンサルティング部

中井 亮

DXコンサルティング部

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お問い合わせ先

【提言内容に関するお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 未来創発センター
E-mail:miraisouhatsu@nri.co.jp

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株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部
E-mail:kouhou@nri.co.jp