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NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 官民・内外連携したリスク・マネジメントで持続可能な経済社会システムの再構築を ~新型コロナウイルス三位一体ショックから再興への処方箋(1)~

官民・内外連携したリスク・マネジメントで持続可能な経済社会システムの再構築を
~新型コロナウイルス三位一体ショックから再興への処方箋(1)~

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2020/05/01

  • 今回のショックは、従来の危機と異なり、三つの段階や区分ごとに生じるリスクが同時に一体となって多発する三位一体のショックとなっているのが最大の特徴である。
  • 例えば、時間的に短期・中期・長期で生じるリスクが同時に起こり、ヒト・モノ・カネの区分間で行われる取引や最終的に三面等価となる生産、分配(所得)、支出のフローが同時に一体となって止まり、空間的に日本・先進国・途上国で同時にリスクが発生し、世界共通目標であるSDGs(持続可能な開発目標)の経済・社会・環境(生物圏)にも同時に一体となってショックを与えている。
  • したがって、これらのリスクへの対応や再興への処方箋も従来の危機時とは異なるが、人類が官民や生活・活動する国・地方自治体や組織の違いこそあれ、デジタル技術でつながったリスク・マネジメントに挑戦状をたたきつけられている事実に変わりはない。
  • 今回の危機のリスクの根本原因等を捉え、弱みを強みに変えて再興する処方箋として、公共・医療・教育等や企業・金融・雇用等の持続可能性を探りながら、官民・内外連携したリスク・マネジメントによる持続可能な経済社会システムの再構築を提言する。

リーマン・ショックと異なる三位一体ショック

ペストやスペイン風邪など世界史上人類が何度も経験した生物・人間の体内のミクロの世界に端を発した未踏のウイルスの感染症リスクが、産業革命以降の人間の身体能力を超えた速さの移動技術によって、人間社会の公共政策や医療、企業経営や金融関係者、投資家、生活者に、想定外の伝播ショックをもたらし続けている。新型コロナウイルス感染拡大による今回のショックは、マクロ経済の世界で人間の精神の判断能力を超えた速さのデジタル技術によって実体経済から乖離して拡大し続ける金融市場に端を発したリーマン・ショックや世界金融危機など従来の危機とは、リスク伝播のメカニズムや経済社会に与えるショックの内容は当然異なり、以下に示す三つの段階や区分ごとに生じるリスクが同時に一体となって多発する三位一体のショックとなっているのが最大の特徴となっている。
例えば、今回のコロナ危機は、金融発の世界金融危機の時に短期・中期・長期で起きたリスクが全て同時に一体となって押し寄せているだけでなく、ヒト・モノ・カネの区分間で行われる取引や最終的に三面等価となる生産、分配(所得)、支出のフローが同時に一体となって止まり、空間的に日本・先進国・途上国に同時にリスクが発生し、世界共通目標であるSDGs(持続可能な開発目標)の「経済(下図中央のECONOMY)」「社会(SOCIETY)」「環境(生物圏、BIOSPHERE)」にも同時に一体となってショックを与えており、これらのリスクへの対応や再興への処方箋も、従来の危機の時とは異なるものとなっている。

(1)短期・中期・長期一体ショック

リーマン・ショックに端を発した世界金融危機に比べ、今回の新型コロナウイルス危機はどこがどう異なるか。短期的なショックの内容は、世界金融危機は金融危機だったということに尽きるが、今回のコロナ危機は、金融発の世界金融危機の時に短期・中期・長期で起きた危機が全て同時に一体となって押し寄せている点で、経済社会にもたらすインパクトは格段に深刻だ。
金融危機の時は金融機関同士の相互不信、カウンターパーティーリスクが大きく、契約相手の債務不履行を警戒して取引も実行できなくなり、短期的に金融市場が消滅した。その後、中期的に需要不足がマーケット全体に起き、デジタル技術でつながった世界全体に広がって経済が大きく後退し、長期的に日本がバブル崩壊後からのいわゆる「失われた20-30年」で経験してきたように各種の構造改革と成長・再興戦略が各国で行われてきた。
今回は金融危機では中期的に起こった需要停滞だけでなく、金融危機では長期的に起こったサプライサイドの供給停滞のショックにも同時に見舞われている。東日本大震災でも供給停滞ショックはあったが、世界規模で需要もなくなり、供給もなくなったのは初めてで、短期・中期・長期一体ショックという点でリーマン・ショックを超えるものである。

さらに、ショックの発端である新型コロナウイルスが感染症の常として突然変異を繰り返し、100年前のスペイン風邪の時と同様、さらに大きな第二波と第三波が押し寄せることを予想する数理モデルも出されている。コロナ拡散が第二波など2021年以降も問題として継続するようであれば長期にわたって大規模な経済の底割れ、世界のバランスシートが痛み、金融システム不安への発展も警戒するという複合リスクが発生する可能性がある。

国際通貨基金(IMF)など国際金融機関のレポートの中にはV字回復を予想しているものもあるが、実体経済のV字回復はなかなか難しい。短期的な補償と中長期的な経済社会の再構築に期待するのが、企業経営や金融関係者、投資家、生活者の実感ではないか。

(2)ヒト・モノ・カネ一体で続くフロー停止とストック棄損

ヒト・モノ・カネの区分間で行われる取引やフローが同時に一体となって止まっている。
これは、今回の感染症リスクが、ヒトの移動とヒト・モノとの接触により伝播するため、ICTなど接触を伴わない取引以外が止まり、結果、その取引に伴うカネのフローが同時に止まる事象が、ヒト・モノ・カネ一体となって生じているものである。また、金融危機の際には、カネのフローだけが止まったので、原因となった取引規制や流動性確保などが有効な処方箋となった。しかし今回の危機では、むしろヒト・モノとの接触自体がリスク伝播の原因で、それを止めなければヒトの命をリスクに晒すことから、必然的にヒト・モノやサービスの取引に伴うフローも同時に一体となって止まった。このため、ICTやデジタル技術の駆使以外に処方箋がなく、急には対応できず、また全ての取引を代替する訳にはいかず、通常、中長期的な対応策や再興戦略として議論される、経済社会システムの変革が短期的にも求められることとなっている。
リーマン・ショック以降、各国政府や中央銀行がレバレッジ(他人資本を使うことで自己資本に対する利益率を高めること)の規制や流動性の確保をスキームにした金融強化策をつくってきた。今回も非常に有効だった中央銀行による流動性供給やドル協調供給といった安全網構築で伝統的金融システムの心臓部をコロナ危機から隔離し、金融システムの安定を確保して金融危機を封じ込めることにひとまず成功している。ただ今回の危機が厄介なのは、金融のカネだけでなく世界のヒト・モノ・カネが一体として同時に止まる経済危機になっていることである。エネルギー、外食、大型小売店、交通、不動産など、史上最大規模の悪影響が出ている。

リーマン・ショック時は時間をかけて金融システムというマクロ経済の心臓部を癒やしていくと経済が曲がりなりにも健康体に戻った。今回の危機は、心臓はなんとか動いているが、危機前から血の巡りの悪くなりがちだった末梢毛細血管、つまり地域の経済を支える最前線の中小・零細企業、個人事業主、フリーランスなどから、連鎖的に、少しずつ壊死が広がっていくのではないかという危険性がある。アフター・コロナの経済の土台を守るため、各国政府は、ヒト・モノ・カネ一体で続くフロー停止への対応として所得保障や休業補償、フローの利益や所得が産みづけることを前提にしたストック価値に基づく家賃などに対応する救済措置を行い、フロー停止によるストック棄損にも対応しはじめている。

これらの対応で、特に地域の金融機関の役割は重要である。振り返れば、明治の産業革命で日本を一等国にしたのは地域の金融機関であった。日本の失われた20-30年を経た日本再興の鍵として、日本の産官学民の各所、とりわけ地域の若きSMEs(Small and Medium-sized Enterprise:スタートアップ含む中小企業)有志達が、新しい金融に期待するところは極めて大きい。今回の危機に際して、短期的には信用保証協会を通じ、中小・零細企業等に劣後ローンなど資本性資金を入れることも考えられる。その際、中長期的にSDGsにも貢献する事業・経営計画に基づく投融資を促進したり、地域の金融機関と企業がともにデジタル化を促進したりして、新たな成長産業の目利き力を高めることも重要である。中長期的には、SDGsのツボ(Pain Point:痛点)などを捉え、経済社会システムに最もインパクトある付加価値を産む共創テーマやチームでInnovationすべく、事例の宝庫である地域から世界へ、ビジネス・ファイナンスの成長エコシステムの再興が不可欠である。NRIは執筆者を中心に地域や世界の若きSMEs経営者の集まりである公益社団法人日本青年会議所(JCI Japan)や国際青年会議所(JCI)と協力して、11月の横浜でのJCI世界会議で「SDGsでつながるハッカソンでビジネス×ファイナンスを創る~地域や世界の仲間とSDGsやTechでInnovationのHUBになる~」をテーマに、世界の先進SMEsと連携・共創する国際ハッカソンを、完全リモートを基本に可能な状況になっていればオフラインで実施する。新結合Innovationビジネスとこれらを持続可能にするファイナンス支援制度や市場・エコシステムやHUBの構築が期待され、こうした取組みをSDGsが目指す2030年まで10年は続けようと、各国の国や自治体、企業や金融機関、国際機関等と中長期的なパートナーシップの輪が広がっている。

国や自治体が連日伝えているように、第一波の感染拡大を防ぐのも、政府など公共や医療だけでは無理で、広く生活者はじめ産官学民が連携した対応が不可欠である。同様に、その経済や生活の最前線に及ぶリスクへの対応も、政府の公共政策だけでなく、企業経営や地域金融機関、投資家、生活者が主体的に、自助だけでなく共助でつながって、教育・雇用等の保持から、より積極的に医療やデジタルなどの技術の研究開発やそれらの技術など駆使した起業に至るまで、官民・内外連携して、新たな持続可能な産業構造や平時から今回のような危機時に備えるBCP(Business continuity planning:事業継続計画)を含めたリスク・マネジメントを支える経済社会システムの再構築が求められてくるのである。

(3)生産・分配(所得)・支出同時ショックと世界金融危機リスク

マクロ経済学上、生産面から見ても分配(所得)面から見ても支出面から見ても国内総生産(GDP)は同じ値になることを三面等価というが、今回の危機では、短期・中期・長期の需要と供給両面から、ヒト・モノ・カネに関する収支両面に至るまで、一体同時に停止するショックが起きているため、国民経済において、生産・分配(所得)・支出も同時にショックを受ける未曾有の状態にある。三面等価となる生産、分配(所得)、支出のどこかのフローが止まったのが原因で別のフローが止まるといった危機ではなく、多数の取引の主体間のフローが同時に一体となって止まっているのである。したがって、これらのフローが徐々に回復していく中で、中長期的に金融危機の原因となるリスク要因を残さないようにする方策を検討するにあたって、日本のバブル崩壊や各国のリーマン・ショックにおけるリスクの内容や伝播等への対応は先ず最大限参考にする必要がある。それだけではなく、国家レベルでは大国や先進国だけでなく途上国も、自治体では大都会だけでなく中小都市や郊外の地域も、企業では大企業だけでなく中小・零細企業や個人事業主、フリーランスやスタートアップも、個人でも貧富や老若男女の差なく、万人のリスク・マネジメントが必要となる。これは人間の精神の通常の判断能力だけで到底対応し切れるものではなく、企業経営においては顧客や従業員の情報を最大限生かして生産性と持続可能性を上げ、国や自治体においては国民や関係者の情報を最大限生かした政策立案と運営を可能にするSDGsやデジタル技術など活用したInnovationが不可欠であろう。これは、主体的な生活者、起業家、経営者、投資家などが官民・内外連携して初めて実現するものである。

その上で、世界金融危機のリスクを考えると、伝統的な金融機関に対するセーフティーネットとしてはリーマン・ショック後のレバレッジ規制と流動性確保、中央銀行を経由した各国間の協調によるドル供給が非常に効果的だったと考えられる。リーマン・ショックの時と今回で異なるのはシャドーバンキング(伝統的金融業務を営む銀行以外の、証券会社やヘッジファンド、運用会社、その他の金融会社が行う金融仲介業務)が大きくなってきたことだ。ETFやREIT(不動産投資信託)とかプライベート・エクイティ(未公開株式)という、ひと昔前まではあまりメジャーではなかった金融仲介業態にマネーが大量に供給されるようになった。こうした肥大化したシャドーバンキング、伝統的金融機関以外の信用システムに対して中央銀行の規制が進んでいるわけではない。仮に景気が二番底、三番底となり、世界全体のバランスシートが毀損していく場合には、そういったセクターにも大きなインパクトが出てきて、資本の毀損が世界全体で起きていくと、再度、金融システムに対する悪影響が出てくる可能性がある。

日本の財政が破綻に向け発散する危険性については、今回の補正予算でさらに25兆円分の国債を追加発行することになるが、直接的ではないものの25兆円分全て最終的に中央銀行である日本銀行が引き受けることが見込まれるため、すぐに発散する可能性は低い。しかしGDP比の国債発行残高(187%)が非常に大きくなり、その半分近く(47%)を日銀が持つ中で、日銀が過剰にバランスシートを大きくしていく展開が続き、株式も大量に買っていくなかで、いずれ金利が上昇したり、万が一株価が大きく下落したりすると日銀のバランスシートが毀損し、日銀の債務超過が問題視される局面が出てくるリスクが考えられる。そのあと法定通貨である円の信認が問われるような事態となれば、インフレを伴いながら円の減価が進む危機が訪れるリスクも想定した対応が求められている。

(4)日本・先進国・途上国同時ショックと地政学的変容

今回のショックは、日本国内に止まらず先進国だけでなく途上国にも同時に及んでいる。英国の国際金融都市ロンドンでは3月23日に外出禁止令が発動され、大きな店舗が閉まり、人の移動もなくなり、個人消費も冷え込んでいる。他国と異なるのは、ボリス・ジョンソン英首相まで感染して一時、集中治療室(ICU)で治療を受ける事態になった。マット・ハンコック保健相やチャールズ皇太子まで感染し、英国は国家中枢までコロナの脅威が迫った。イタリアが外出禁止令から徐々に脱出しようとしている一方で、英国では少し長めの外出禁止令やソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)が続く可能性がある。また、欧州連合(EU)からの離脱について今年末までの移行期間をさらに延長する考えはないと発表したが、政治指導者もコロナの脅威にさらされており、まとめ役になるトップが不在な中、離脱期間の延期をするしかないのではないかとの見方が出ている。

ロックダウン(都市封鎖)やソーシャル・ディスタンシング(社会的距離、最近ではフィジカル・ディスタンシングと表現)といった感染症対策が長引けば長引くほど経済に与える影響は大きくなる。今後先進国では都市封鎖の解除が、段階的に進められる。都市封鎖が解除されない限り、もちろん今年後半の景気回復はない。中国の例を見ると2月半ば位から徐々に企業も操業を再開してきていて、やっと経済の底入れと改善傾向が見えてきている。中国のような激しい都市封鎖をすることによってV字とまでは言えなくても回復の芽が出てくるのに対して、都市封鎖、社会的距離のコントロールを誤ると、長く景気回復の足かせになる。都市封鎖を解除する、社会的距離を緩める、さらに人の動きを最小限にした経済社会システムを構築するタイミングが今回のリスク・マネジメントの鍵となる。

今回、米国は史上最大規模の経済対策を行い、このインパクトは非常に強い。効果としても中小企業に大量の資金供給をし、米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)もハイ・イールド債(利回りが高く信用格付が低い債券)の買い入れも含めて信用強化枠を作って景気の底入れをしようとしている。ただ米国では5万6000人(4月27日現在)を超える死者も出て感染者数も世界最大である。イタリアやスペインと並んで米国は新型コロナウイルスの影響を一番受けた。米国がここからV字回復というのはどうしても難しく、資産浮揚効果も含めて打てる手は全て打って、景気の底割れを防ごうとしているとの見方が出ている。ただ、敵はウイルスなので、自由経済や民主主義を重視する国では中国と同じレベルまで自由を制限する都市封鎖はできない。そうなると、米国経済が救われるかどうかはやはりウイルスに対するワクチンが開発されるか、もしく大規模な抗体検査によって外出禁止を緩和するという、どちらかが大きなファクターになってくる。新薬ができるかもしれないという期待感から米ギリアド・サイエンシズの株価が上昇したようにウイルスをコントロールできることがはっきりすればセンチメントは大きく改善する。韓国の総選挙でも見られたように、米国大統領選の鍵はワクチンが左右するといっても過言ではない状況である。

リーマン・ショックと世界金融危機の後、米国一極集中が終わりを告げ、中国が4兆元(当時のレートで約56兆円)の経済対策をして一気に日本を追い抜いて世界第二の経済大国になるなど地政学的変容をもたらした。今回も欧米がコロナ危機で大きなダメージを受けた後、中国やインドなどG20の新興国がさらに地政学的にも力を増してくるのではないかとの見方もが示されており、政策立案や企業経営上、念頭に置く必要がある。

最後に、途上国や新興国の死亡者数推移と各国の対応策を見てみたい。国境封鎖や他国のような大幅な行動制限を伴う緊急事態宣言、外出禁止などを行っていない点で、韓国は特異な例だ。ブラジルは、ボルソナロ大統領の感染防止よりも経済優先の発言が目立っているものの、検査強化や入国制限、共同体感染状態宣言に伴う隔離強化や商業施設の営業制限等も行っている。ベトナムは、死亡者ゼロとなり、4月23日から社会隔離処置の緩和を実施している。南アフリカは、5月1日から1~5の感染状況レベルを5から4へ引き下げ、制限の段階的解除に入っている。概して先進国よりも途上国の方が、早めに国境規制や緊急事態宣言など活動の制約を実施し、各国とも水際での感染防止に努めている。

一方、日本の4月7日7都府県、4月16日全国の緊急事態宣言は、ここに挙げた国々のうち、韓国を除くいずれの国よりも遅い宣言となっている。世界的な入国制限・国境封鎖は言うまでもなく、日本国内の感染抑え込みだけでは不十分で、さらに日本の感染抑え込みが遅れれば、他国や世界経済にも打撃をもたらす。ブラジルやスウェーデンのように、ある程度の感染被害策大を受け入れ、経済を重視する方策も興味深いが、他国が感染を抑え込んだ段階において、ブラジル・スウェーデンとの入出国管理について各国がどのように対応するのかも注視したい。日本としては、いち早く国内の感染リスクを抑え込み、国境封鎖・外出禁止など水際対策で耐え忍んでいるアフリカ・アジア諸国への支援や国際的な衆衛生枠組みの再構築に貢献してこそ、今回の未曾有のコロナ危機後の世界、国際社会で「名誉ある地位を占める」第一歩となるのではないか。

(5)世界共通目標SDGsの経済・社会・環境(生物圏)一体ショックと再興への処方箋

2015年9月の国連サミットで193加盟国が合意した「Transforming Our World: 2030 Agenda for Sustainable Development(世界を転換/変革する:持続可能な開発のための2030年アジェンダ)」に掲載された世界共通目標「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」は、企業経営の指針として急速に注目を集めてきている。新型コロナウイルスとの戦いは、SDGsの本質というより基本である人間の命、健康・福祉(SDGs目標3)維持そのものであり、人類共通の最優先目標として、公衆衛生や創薬など各国・産官学民各セクターが連帯して、パートナーシップ(SDGs目標17)を結んで取り組むことが求められると言っても過言ではない。

今回の危機は、2030年までの中・長期的目標な世界共通目標・言語であるSDGsの観点から見ると、その三本柱である「経済」「社会」「環境(生物圏)」の全ての面において同時に一体となって発生したショックと捉えることが可能だ。したがって、再興への処方箋を考える上で、SDGsの官民・内外のパートナーシップや「世界を転換/変革する」、「誰一人取り残さない」マルチ・ステークホルダーを包摂する視点等は、基本となるものである。

提言:官民・内外連携したリスク・マネジメントで持続可能な経済社会システムの再構築を

今回の新型コロナウイルス危機は、リーマン・ショックに端を発した世界金融危機など従来の危機とは異なり、短期・中期・長期、ミクロ経済のヒト・モノ・カネ、マクロ経済の生産・分配(所得)・支出、日本・先進国・途上国、世界共通目標SDGsの経済・社会・環境(生物圏)など三位一体ショックとなっている。したがって、これらのリスクへの対応や再興への処方箋も従来の危機時とは異なるが、人類が官民や生活・活動する国・地方自治体や組織の違いこそあれデジタル技術でつながったリスク・マネジメントに挑戦状をたたきつけられている事実に変わりはない。国や地域、職場や家庭ごとに異なる今回の危機のリスクや弱さの共通項や根本原因等を捉え、弱みを強みに変えて再興する処方箋として、公共・医療・教育等や企業・金融・雇用等の持続可能性を探りながら、官民・内外連携したリスク・マネジメントで持続可能な経済社会システムの再構築を提言する。

今回の日本・先進国・途上国同時ショックは、地政学的変容だけでなく、各国や各地方自治体、各企業や各学校、各家庭や各個人など一体同時にリスクが発生し、デジタル技術の活用などによる情報の収集、分析、リスク・マネジメントへの活用方法が各々異なる中、国や地域の再興への方策を検討する際に、手本や他山の石となる多くの事例をもたらしている。例えば、米国では、政治と科学との協働や新型コロナウイルス対策チームの活躍、医療制度からくる医療現場における命の選別の問題への対応、連邦政府の方針と各州との対応の違いや危機管理庁(FEMA)の活躍、自宅待機解除への対応の方向性やガイドライン、米国内におけるグローバル化、自由貿易への不信感や一層の内向き志向の高まりや中国への不信感の高まりなど、公共政策や企業経営への生きた事例やデータ分析の宝庫である。

新型コロナウイルスショックの短中長期的リスクと再興戦略研究会

執筆者が英国ロンドンで王立国際問題研究所(チャタムハウス)客員研究員やG7、G20担当をした際にご縁のあった日本・先進国・途上国で活躍する有志がNRIにリモートで集い、「新型コロナウイルスショックの短中長期的リスクと再興戦略研究会」で再興への処方箋を議論する中で、執筆者とりまとめで、本提言が生まれた。

キャプラ・インベストメント・マネジメント共同創業者 浅井將雄氏
元リーマン・ブラザーズ証券の日本法人の代表清算人 冨川久代氏
ディブトン・グループCFO 松田淳氏
日本植物燃料CEO 合田真氏
法政大学教授 小黒一正氏
漆間総合法律事務所副所長 吉澤尚氏
㈱チャレンジ&グロー代表取締役、中小企業診断士 小紫恵美子氏
慶應義塾大学大学院講師、JCI Senator 米倉ユウキ氏
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役 澁澤健氏
ワールド・ゴールド・カウンシル顧問 森田隆大氏
DANベンチャーキャピタルCEO 出縄良人氏
にご議論ご協力いただいた。
ここに謝辞を述べるとともに、引き続き、議論を続け各界への提言につなげていきたい。

執筆者

御友 重希

未来創発センター 制度戦略研究室

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株式会社野村総合研究所 未来創発センター
E-mail:miraisouhatsu@nri.co.jp

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