フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 テレワークを浸透させるための組織・人材マネジメント上の3つのポイント

テレワークを浸透させるための組織・人材マネジメント上の3つのポイント

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

2020/05/07

  • 新型コロナウイルスの感染拡大の長期化が予想される中、テレワークは、(例外事象に対処するための)期間限定の人事施策ではなく、恒常的な就労オプションとして位置づける必要がある。
  • 大きな問題なくテレワークへのシフトを進められた企業が一定数存在する一方で、緊急避難的な措置でテレワークに踏み切ったものの、生産性の低下に悩んでいる企業も少なくない。
  • テレワークを恒常的な就労オプションとして機能させるためには、(1)ジョブ・タスクを起点とした組織運営、(2)柔軟な業務分担、(3)テレワークを前提にした働き方の見直し、の3つが必須である。

テレワークは恒常的な就労オプションに

2020年4月8日に発令された緊急事態宣言に伴い各都府県知事から出された出勤自粛要請を受け、大企業の多くが一気に、テレワーク「可能」から「強く推奨」に大きく舵を切った。4月6日の黒崎の提言にもある通り、感染拡大抑制期においては、緊急避難目的で、多少の生産性低下を犠牲にしてでも、テレワークに切り替える必要があることから、まずは第一段階を乗り切った、というのが、現時点での各社の認識だろう。
ただし、これまで「原則、テレワーク」という就労オプションを採った大企業はほぼ無いことから、テレワークへのシフトから約1か月が経過した今でも、試行錯誤が続いていることは想像に難くない。多くの企業が腐心しているのは、特に、生産性の低下リスクへの対応ではないか。筆者が各社の人事担当者からよく聞く生産性低下の例としては、以下のようなものがある。

  • 普段は対面ですり合わせながら仕事を進めてきたが、テレワークによりコミュニケーション頻度が下がった結果、作業の重複や手戻りが頻発している
  • やるべき仕事が刻々と変わるにも関わらず、業務の優先順位付けが硬直的であるため、重要業務に十分なリソースを投入できていない
  • 従業員が本当に仕事をしているかが不安で、監視型のマネジメントになっている

本稿では、これらテレワーク環境下での生産性の低下リスクに対応するための方策として、3つの提言を行う。

ジョブ・タスクを起点とした組織運営

テレワークへのシフトが円滑に進んでいる業界の一つに、当社も所属するコンサルティング業界があげられる。また、外資系企業でも、比較的順調にテレワークへのシフトが進んでいるようである。これらの企業群に共通するのは、ジョブ・タスクが比較的明確になっているということである。所属組織内で、誰がどのようなジョブを担っていて、そのジョブを遂行するために、どのような責任を有しているのか。そして、そのジョブは、どのようなタスクに分解され、日々、実施されているのか。これが明確になっていないと、対面での頻繁な業務の進捗確認ができないテレワークの状況下では、チームでの協業は成立しづらい。生産性の低下が起きている職場では、急にテレワークに移行したが故に、メンバー間で、相互のジョブ・タスクが明確に十分に共有されておらず、結果として協業に手間取ってしまっているのではないか。
この問題を解決するためには、個々のメンバーのジョブ・タスクを明確にし、相互の役割と責任を理解できるようにするしかない。ジョブ・タスクの明確化というと、ジョブ・ディスクリプションを作り込むこと、と誤解されるかもしれない。しかし、今からそのような作業を行うことは非現実的であるし、実際、外資系企業も含め、厳密なジョブ・ディスクリプションを作成・管理しているわけではない。それよりも重要なことは、協業するメンバー同士が、お互いのジョブ・タスクを理解することである。
では、ジョブ・タスクの相互理解を深めるためには、どうすればいいのか。テレワークの状況下では、平時では当たり前のように実施できていた、マネージャーを頂点とした階層型の組織運営、つまり、(多くの日本企業が伝統的に強みとしてきた)上意下達が困難になる。では、今回のように予期せずしてテレワークに突入した際に、最初に取り組むべきことは何か。それは、個々のメンバーが起点となるネットワーク型の組織を作り上げることである。これを実現するためには、マネージャーおよびメンバー相互が、十分なコミュニケーションをとることが重要となる。マネージャーから、「あなたにはこういうことを期待している」、「それを実現するためには、〇〇に注力してもらいたい」と語りかけ、部下は、マネージャーや同僚に対し、「私は、こういうことをやり遂げたい」と伝える。こういった対話を通じ、各人がお互いのジョブ・タスクを腹落ちする状態にするのだ。極論すれば、テレワークの状況下において、マネージャーが果たすべき最も重要な役割は、メンバーのジョブ・タスクの明確化と相互理解の促進に尽きる。

柔軟な業務分担

ジョブ・タスクを明確にしたうえで、次に行うべきことは、柔軟な業務分担である。この際にも、マネージャーの果たすべき役割は大きい。業務分担は平時でもやっているし、急にマネジメントスタイルを変える必要はないのでは?と考えるマネージャーも多いかもしれない。
しかし、テレワーク前提での業務分担は、以下の理由から、通常勤務時とは異なる「コツ」が求められる。

  1. 非同期で仕事が進むため、業務の見通しと段取りが曖昧だと、業務が遅延する
  2. 非対面であるため、報連相が成立しづらい
  3. (特に今回のような緊急事態下では)業務の優先順位の変更や突発対応が頻発する可能性がある

では、マネージャーには、どのような業務分担が必要になるのだろうか。ポイントは3つある。
1点目は、業務の見通しと段取りをマネージャーが主導して立て、それをメンバーに示した上で、普段よりも短期での納期管理を行うことである。例えば、通常時であれば月次で管理していた売上データの集計・分析業務であれば、隔週で進捗確認を行い、場合によっては増員、減員や担当替えを行うなどのスピード感のある対応が重要になる。業種・業務特性に応じ、納期を柔軟に設定・変更することが必要になるだろう。
2点目は、マネージャー自らが主体となって、メンバーの報連相の機会を設定することである。平時であれば、マネージャーがメンバーの席に立ち寄ったり、声をかけたりということも可能であるし、メンバーもマネージャーの元に相談に訪れやすいが、テレワーク環境下になると、意図して機会を作らないとメンバーが孤立しやすい。かといって報連相の機会の設定を部下の自発性に委ねてしまうと、進捗の思わしくない仕事ほど、放置されるリスクが高まる。これを回避するためには、例えば、マネージャー側から、週次で電話会議を設定するなどして、状況確認を進めることが重要となる。納期管理と同様、業種・業務特性に応じ、適切な確認頻度を設定することが重要になる。
3点目は、各メンバーにアサインした業務の期待品質を明確にしたうえで、各人の業務進捗を定期的にチーム全体で共有することである。特に今回のような緊急事態下では、仕上がりは80点でもいいので、短納期で仕上げてほしい業務や、急遽アサインする必要がある業務など、平時とは異なる業務管理が求められる。期待品質を読み違えると、80点まで仕上がった業務を90点、100点にしようと過度に労力を割くリスクがある。また、チーム全体でどのような業務が実施されており、それぞれの進捗がどの程度かを相互に理解できないと、新規発生する業務への対応ができなくなる恐れがある。これを回避するためには、前節で言及した通り、ネットワーク型の組織に移行することがまず必要になる。そのうえで、ネットワークのハブになるマネージャーやコアメンバーが、例えば週1回などの頻度で情報共有を行うことにより、チーム全体の業務の実態を把握するとともに、業務分担を見直すことが重要となる。業務の分担や進捗確認には、BacklogやTrello等のオンラインでのタスク管理ツールの活用も有益になるだろう。

テレワークを前提にした働き方の見直し

ここまでで述べてきた通り、テレワークを恒常的かつ広範囲の人員を対象とした就労オプションとして機能させるためには、ジョブ・タスクを起点とした業務設計を行ったうえで、その業務分担を柔軟に行うことが必要になる。しかし、ジョブ・タスクおよび業務分担管理の仕組みだけでは、テレワークは機能しない。最終的にジョブ・タスクを遂行するのは個々のメンバーであることから、ジョブ・タスクの変革に加えて、働き方の見直しが必要になる。そのポイントは3点ある。
1点目は、過去から受け継がれ、無意識に繰り返しているルーティーンを思い切ってやめることである。必要性の不明確な会議は躊躇なく廃止する、勤務態度や情意などの硬直化しやすい評価をやめる、オフィス勤務を前提とした設備投資からテレワークを前提とIT投資へとシフトさせる等が考えられる。
2点目は、平時のような密なコミュニケーションが取れないこと前提として、社員同士の信頼関係を更に強固に築くことである。これがないままにテレワークに移行すると、相互の不信感が先立ち、結果として、過剰なタイトマネジメントにより、生産性も意欲も下がるという負のスパイラルに陥る可能性がある。これを回避するためには、マネージャーも同僚も、相互支援の姿勢を持つような動機付けを行うことが必要である。具体的には、メンバー同士が相談しあえるチャットシステムや、上司と相談できるオンライン相談室の開設などの方法があるだろう。
3点目は、モチベーション維持・向上を目的としたイベントの組み込みである。テレワークでは、すべてのジョブが非同期で進むことが多くなることから、メンバーが孤立するリスクが高まる。これを避けるためには、オンラインで、業務とは直接関係しない「息抜き」「気分転換」ができることが重要になる。例えば私が所属する組織では、オンラインでのランチ会、テレワークのTipsを話し合う機会、業務ツールの勉強会などのイベントがほぼ毎日開催されており、気が向いたメンバーが参加している。このうち、業務ツールの勉強会では、Zoom上で会議を開催し、MiroやRemoといった会議支援ツールを用いたオンライン上でのワークショップの開催方法や、ブレインストーミングのやり方を、社員相互で学びあっている。学んだ内容をすぐに業務で活用できないメンバーもいるが、テレワークの状況下では、目の前の業務に埋没しがちであることから、「視野が広がった」、「テレワークでも対面と変わらない効率でブレインストーミングができそうなので、仕事で必要になった際には試してみたい」など、それぞれが新たな発見をすることで、モチベーション向上につなげている。

おわりに ~従来型マネジメントの断捨離を~

テレワークを恒常的な就労オプションとするためには、本提言で言及したような取り組みをブラッシュアップし続けることが必要になる。全社でジョブ・タスク型の組織運営へと舵を切るには、多くの日本企業が採用してきた職能主義からの決別も視野に入れた議論が必要になるだろう。そして、柔軟な業務、業務管理を行うためには、上意下達を前提とする階層型組織から、自律・分散・協調を基盤としたネットワーク型組織への変革が求められる。さらに、従来型マネジメントの断捨離を通じて、テレワークを前提とした新たなマネジメントモデルの構築が必要となるのである。
多くの日本企業は、アフターコロナを見据え、日本型の組織・人材マネジメントにメスを入れるタイミングに来ているのではないだろうか。

執筆者

清瀬 一善

コーポレートイノベーションコンサルティング部

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

お問い合わせ先

【提言内容に関するお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 未来創発センター
E-mail:miraisouhatsu@nri.co.jp

【報道関係者からのお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部
E-mail:kouhou@nri.co.jp