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NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(サマリー) ~変革を契機にしたDX実現にむけて~

新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(サマリー)
~変革を契機にしたDX実現にむけて~

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2020/05/19

  • 野村総合研究所は、新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容を明らかにするために2020年4月にインターネットアンケート調査を実施し、その結果をもとに、ICTメディア・サービス産業(通信・メディア、小売・消費財、サービス産業等)に関連する13の産業に対して、新型コロナウイルス感染拡大の影響を分析した。
  • 新型コロナウイルス感染拡大を受け、多くの人が多くの時間を家で過ごさざるを得なくなったため消費者の行動変容が起き、ICTメディア・サービス産業も大きな影響を受けている。産業毎に影響は異なるが、総じて「1.リアルから、デジタルサービスに」「2.個人消費から、家族消費に」「3.事業者から消費者に一方的にサービス提供する関係から、共創の関係に」という3つの特徴が挙げられる。
  • 消費者の行動変容は、そのまま常態化(ニューノーマル)すると考えられ、上記のICTメディア・サービス産業の変化が今後も継続していく。そして、デジタル技術による変革、具体的には「(1)5G等やキャッシュレス等のICTインフラの急速な普及」「(2)ネットを通じたスキル・ナレッジなど「ソフト」商材の提供増加と、リモートを前提とした働き方・雇用形態へのシフト」「(3)D2C(Direct to Consumer)の増加」が急速に進む。
  • 現在は厳しい経済情勢の中ではあるが、各企業にとって改革のチャンスにもなり得る。チャンスにしていくためのポイントは利用が急速に進んだデジタルサービスから得られる顧客情報の活用である。変革を前向きに受け入れ、デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現していくことが期待される。

新型コロナウイルスの感染拡大による消費者の行動変容がもたらすICTメディア・サービス産業への影響

新型コロナウイルス感染拡大を受け、多くの人が多くの時間を家で過ごさざるを得なくなったため、消費者の行動変容が起き、ICTメディア・サービス産業も大きな影響を受けている。産業毎に影響は異なるが、総じて以下の特徴が挙げられる。

  • 1.  

    リアルから、デジタルサービスに

    • 多くの人が外出できなくなったため、外出する代わりに家からデジタルサービスを利用している。
    • 代表例が「巣ごもり消費」という新たな買い物スタイルである。店舗の代わりにECサイトで買い物している。また、食事も店舗で食べるのではなく、宅配サービスを利用するようになっている。
    • さらに、家での映像、ゲーム、マンガ・本等のコンテンツ利用のデジタル化(ゲームのダウンロード販売や、電子書籍の利用)も急速に加速した。オンラインのイベント等、家でエンターテインメントを楽しむというスタイルも定着した。
  • 2.  

    個人消費から、家族消費に

    • 多くの人が家で家族と時間を過ごすようになり、消費も個人単位から家族単位になってきている。
    • 代表例が、テレビの「家族視聴」である。家族で一緒に映像メディアを視聴するという人が増加し、放送の視聴時間も増えている。家族視聴が増えた人は、それ以外の人よりも、ニュースや情報/ワイドショー以外にも、バラエティやドラマの視聴が増えていることが特徴的である。
    • また、男性の家事や育児への参加意識も高まっている。それに伴い、家事・育児関連サービスの利用についても男性が積極的に関与することにより、顧客も「妻個人」から「夫婦」へと変化している。
  • 3.  

    事業者から消費者に一方的にサービス提供する関係から、共創の関係に

    • 多くの事業者が外出自粛により影響を受けているが、事業継続に向けた消費者からの支援の動きが広がっている。これは、事業を消費者と事業者で共に創っていく動きとみなせる。
    • 代表例が、スポーツや音楽・演劇・ミュージカル等のライブ・イベントである。約半数のファンが金銭的支援意向を持っており、事業継続に向けてファンの力を活用するオンラインサービスが始まっている。
    • また、飲食店・美容室など行きつけの店に対する支援の意向も強い。お店を訪問せずとも支援ができるオンラインサービスも求められている。

ICTメディア・サービス産業の変革は、企業のデジタルトランスフォーメーションの契機になる

新型コロナウイルスの感染拡大による影響を受けて、消費者の行動様式は大きく変容し、元に戻らず、そのまま常態化(ニューノーマル)すると考えられる。それに伴い、上記のICTメディア・サービス産業の変化が今後も継続していくと共に、デジタル技術による以下の変革が、感染拡大に後押しされることで急速に訪れる。

  • 1.  

    5G等やキャッシュレス等のICTインフラの急速な普及

    • 今回の感染拡大に伴う生活様式の変化により、テレワークやオンライン学習などの「新しい生活様式」が加速した。この「新しい生活様式」は、新型コロナウイルス感染拡大終息後も一定程度の定着が見込まれ、それを実現するためのICTインフラの普及が加速する。
    • 代表例が通信サービスである。外出の自粛からの解放後は、携帯電話回線での”いつでもどこでも”大容量通信ニーズが高まることが予想される。それに伴い、データ使い放題プランが主流の5Gの普及が見込まれる。それにより、自宅・勤務先以外でのテレワークの実施や、移動中の動画配信サービスの視聴やオンライン学習の利用が加速することになろう。
    • また、キャッシュレスでの支払いについても、衛生面とネットショッピングの増加を要因に、今後さらに一般化することになろう。キャッシュレスでの支払いは利便性も高く、ポイント還元などの経済的なメリットも多いため、今後さらにキャッシュレスの利用は拡大していくものと考えられる。対応する店舗も中小規模の店舗にまで広がっていくことが見込まれる。それに伴い、購買データを活用したマーケティングや、新しい決済サービスの普及がさらに進んでいくことになろう。
  • 2.  

    ネットを通じたスキル・ナレッジなど「ソフト」商材の提供増加と、リモートを前提とした働き方・雇用形態へのシフト

    • これまでECやシェアリングエコノミーサービスで流通していた商材は、実際にモノ・スペースなど「ハード」な商材が中心だったが、新型コロナウイルスの感染拡大により、家事・育児・介護などのケア、ビジネススキル・養育・ナレッジなどの「ソフト」なものにまで広がっている。家庭教師サービス、育児相談サービス、英語のオンライン学習支援サービスはその典型例であろう。また、美容・健康分野では、店舗で提供していたインストラクターによるフィットネスサービスや美容部員によるカウンセリングサービス等のプロフェッショナルサービスのオンラインでの提供がさらに増える。
    • この動きは、働き方や雇用形態にも影響していく。リモートで自身のスキルを活かして収入が得られるようになると、在宅・時短勤務等の働き方が当たり前になっていく。大企業でも今回リモートワークを実施したことも後押しし、多様な働き方への対応が求められる。それに伴い、雇用形態も直接的に成果と連動している成果報酬型、ひいてはジョブ型(職務(ジョブ)や勤務地、労働時間等が明確に定められた雇用形態)へシフトしていくと期待される。また、居住地・不動産に関するニーズも働き方・雇用形態に合わせて変化していくと考えられる。
  • 3.  

    D2C(Direct to Consumer)の増加

    • 実際の店舗で購入することと比較し、インターネット上では物理的制約がないため、購入先の選択肢が広がっている。その中で、メーカーやブランドから直接商品を購入する(D2C:Direct to Consumer)が増加している。販売に苦しんでいる農家から、野菜や花を直接買うという行為などが代表例である。
    • これは、実際の商品だけではなくコンテンツや、前述のスキル・ナレッジ等も対象となる。例えばメディア産業では、ジャーナリスト等が放送等を通さずに、直接生活者に直接情報を届ける動きも出てきている。
    • メーカーやブランド自身がサービスを提供すると、小売や流通を通す必要がないため、廉価で商品を提供しやすいというメリットに加えて、消費者のニーズを直接把握することができ、顧客に合わせて新しい商品を開発するなど、既存の小売や流通が出せない価値を出すことも可能になる。例えば、アパレル産業ではデジタル技術を活用したスーツ等の受注生産型パーソナライズサービスが既に登場している。
    • 一度このようなD2Cサービスで満足した消費者は、今後も利用を継続していくと考えらえる。一方、この変化は小売や流通を中抜きすることにつながり、小売や流通は改めて存在価値が問われることとなる。各企業の店舗・サービスならではの体験提供や、ネットとの連携などの顧客が求める価値実現に向けたビジネス変革が必要になっていく。

これらの変革は各企業にとってリスクにもチャンスにもなり得るが、チャンスにしていくためのポイントは顧客情報の活用ではないか。新型コロナウイルスの感染拡大により多くの産業でデジタル化が進んだが、デジタルサービスでは顧客とネットを通じて直接接点を持つことができるため、顧客の情報を迅速かつ体系的に得ることができる。顧客のニーズを的確に把握し、いち早くマーケティングやサービス開発に活用していくことが必要である。
現在は厳しい経済情勢の中ではあるが、新型コロナウイルス感染拡大は徐々に収束してきている。業務が変わらざるを得なくなったことを逆手に取って、変革を前向きに受け入れ、サービスから得られるデータとデジタル技術を活用し、製品やサービス、ビジネスの改革、つまり、デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現していくことを期待する。

個別産業の変革、ポストコロナ時代に向けた提言

新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容を明らかにするために2020年4月に全国の満15~69歳の男女に対してインターネットアンケート調査を実施した(詳細は「ご参考」を参照)。その結果をもとに、ICTメディア・サービスに関連する以下の産業に対して、新型コロナウイルス感染拡大の影響を分析した。また、それぞれの産業における対応策を提言した。

  1. 通信  “いつでもどこでも“大容量通信ニーズ増大への対応と、手続き・問い合わせ対応チャネルの最適化が求められる携帯電話事業者
  2. 放送・メディア テレビ放送の役割変化:情報源としての位置づけ低下と家族メディアとしての回帰
  3. コンテンツ  ゲーム、VR、マンガ・本・書籍に対する人々の行動と意識の変化:アフターコロナのコンテンツ市場再成長の機会を逃してはいけない
  4. ライブ・イベント ライブ・イベントのオンライン化加速:約半数を占める金銭的支援意向者の期待に応えるオンラインサービスの早期拡大が有望
  5. 小売・流通 消費行動の新常態「巣ごもり消費」・「気晴らし消費」・「非接触」を、小売企業の変革チャンスに
  6. シェアリングエコノミーサービス スキルシェアの台頭:セーフティネットとしてのシェアリングエコノミー
  7. 家事・育児サービス  子育て家庭におけるサービスニーズの変化:男性の家事・育児参加拡大に伴い、男性単独や夫婦でも利用しやすいサービスが求められる
  8. 人材サービス 柔軟な雇用形態への制度的対応や組織の意思決定スピードが採用競争力を左右する時代へ
  9. 美容健康サービス プロフェッショナルサービスの家庭内普及を好機と捉え、新たなサービス開発も含めた市場のすそ野拡大に向けた取組みを
  10. 飲食 在宅勤務・リモートワーク時代の飲食店の在り方:家での飲食機会増加を受け、店舗に依存する従来のビジネスから、デジタルを活用した効率的なビジネスへの転換が必要
  11. 不動産仲介サービス 業界一丸となった不動産仲介業務全体のデジタル化と、VRなどを活用したオンラインならではのサービス実現が必要
  12. アパレル アパレル消費激減と各社の明暗:高リスクな大量製販モデルから脱却し、低リスクな製販高回転モデルへと転換することが生き残りを左右
  13. キャッシュレス キャッシュレスでの支払いが増加:感染拡大防止、経済回復に向けてそれぞれがすべきこと

ご参考

「新型コロナウイルス感染拡大による生活の変化に関するアンケート」の実施概要

  • 【調査方法】

    インターネットアンケート調査(2回に分けて実施)

  • 【対象】

    全国の満15~69歳の男女個人(人口動態割付)

  • 【有効回答数】

    前半:3,098人、後半:2,064人

  • 【実施時期】

    前半:2020年4月18日~19日 後半4月22日~24日

執筆者

三宅 洋一郎

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

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お問い合わせ先

【提言内容に関するお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 未来創発センター
E-mail:miraisouhatsu@nri.co.jp

【報道関係者からのお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部
E-mail:kouhou@nri.co.jp