フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(サマリー) ~変革を契機にしたDX実現にむけて~ “いつでもどこでも“大容量通信ニーズ増大への対応と、手続き・問い合わせ対応チャネルの最適化が求められる携帯電話事業者 ~新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(1)通信~

“いつでもどこでも“大容量通信ニーズ増大への対応と、手続き・問い合わせ対応チャネルの最適化が求められる携帯電話事業者
~新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(1)通信~

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

2020/05/19

要旨

野村総合研究所(NRI)は4月18~19日、新型コロナウイルス感染拡大に伴う携帯電話・その他通信サービスの利用状況、及び携帯電話に関する手続きや問い合わせの実施状況への影響について、インターネットアンケート調査を実施した。

携帯電話の通信サービス利用の変化

  • 感染拡大に伴う生活様式の変化により、在宅時のデータ通信利用が増加している。自宅では主として固定回線を利用している約80%のユーザーは、スマホのデータをオフロード(Wi-Fi接続等を通じてスマホのデータ通信を固定回線に代行させること)しているため、携帯電話のデータ通信量の増加は限定的である。
  • 一方で、自宅でも主として携帯電話回線・Wi-Fiルータを利用する約20%のユーザーについては、携帯電話のデータ通信量が増加し、契約している料金プランとのミスマッチが生じている。
  • 新型コロナウイルス感染拡大終息後も、テレワークやオンライン学習などの「新しい生活様式」は一定程度の定着が見込まれ、外出の自粛からの解放後は、携帯電話回線での”いつでもどこでも”大容量通信ニーズが高まることが予想される。このニーズの変容により、利用状況と現在契約しているスマホ料金プランとの間でミスマッチが生じるユーザーが、今よりも増えていくと考えられる。
  • 携帯電話事業者にとっては、最適な料金プランのシミュレーション、及びシミュレーションをふまえたプラン変更提案等により、ユーザーのミスマッチ解消をはかっていくことが他社乗り換え防止という観点から重要となるだろう。また、外出自粛期間をきっかけに5Gへの興味・関心が高まっているユーザーに対して、“データ使い放題”という5G料金プランのメリットを訴求することが有効であろう。

携帯電話に関する手続きや問い合わせの変化

  • 感染拡大に伴う携帯ショップ等リアル店舗の営業時間短縮等の措置を受け、これまでリアル店舗を利用していたユーザーのうち40%前後が、自粛期間中はネットにシフトすると回答した。一方で、自粛終了後にはその半数がリアル店舗に回帰するとしている。年代別にみると、特に50代以上の層において、リアル店舗の利用を希望する比率が高くなっている。
  • 現在、携帯電話各社ではコールセンターでの「三密」を回避すべく、出社するオペレータ数を制限しているため、コールセンターに電話してもつながらなかったユーザーや、ネットの使い方がわからない/わかりづらいとするユーザーなどがリアル店舗に来店している。営業時間短縮とも相まって、普段以上に混雑しているリアル店舗も散見され、コールセンターのオペレータとショップスタッフの安心・安全確保の両立が大きな課題となっている。
  • これらの課題解決に向けて、携帯電話事業者は、セルフサービス端末の導入等、DXによるショップ運営の省力化・効率化、ショップ/ネット/コールセンターという対応チャネルにおける負荷のトータルでの最適化、ネットのUI向上、ネットでの重要事項説明のわかりやすさの向上、“在宅コールセンター”などコールセンターにおける「三密」回避等の施策を、平時から実施するとともに、ユーザーへの適時適切かつ徹底した周知等が求められる。

携帯電話の通信サービス利用の変化

インターネット利用に対する外出自粛の影響は、固定回線の利用有無で大きな差

新型コロナウイルス感染拡大を受け、多くの自治体が緊急事態宣言を発令し、外出の自粛を呼びかけている。通勤・通学の制限に伴いテレワークやオンライン学習への切り替えが進んでいる他、余暇時間の大部分を自宅で過ごす人が多いため、動画・音楽サイトやSNS等、インターネットコンテンツの利用時間が大きく増加している(図1)。
生活様式の変化に伴い、固定回線のトラフィックが大幅に拡大する一方、携帯電話回線への影響は薄かったようだ。フレッツ光等を提供するNTT東日本が2020年4月下旬の平日昼間帯の通信量は同年2月下旬比の最大65%程度増加した※1と発表しているのに対し、NTTドコモは携帯電話回線でのデータ通信量は微増に留まっている※2と発表している。NRIの今回の調査でも、在宅時に携帯電話回線やWi-Fiルータ等の非固定回線をメインで利用すると回答した人(以下非固定回線ユーザ)は16%に留まったのに対し、光ファイバー・ADSL等の固定回線をメインで利用する人(以下固定回線ユーザ)は全体の78%にのぼり(図2)、携帯電話回線に限定したデータ通信量で見ると、「増加した」と回答した人は、回答者全体の11%に留まった(図3)。多数を占める固定回線ユーザーがスマホ利用時も固定回線にオフロードするためと考えられる。
一方、非固定回線ユーザーの中で携帯電話回線によるデータ通信量が「増加した」と回答した人は17%と、回答者全体と比較して多い。また、新型コロナウイルス感染拡大後の、契約している携帯電話事業者への不満点を見ると、「通信データ容量の上限設定」及び「通信データ利用量が上限に達した時の速度制限」を選択した割合がそれぞれ16%、13%と、固定回線ユーザーの2倍以上になっていることが分かる(図4)。これらの不満はインターネットの利用時間増加に伴い、データ通信量が増えている中で、契約しているプランがマッチしなくなってきていることに起因すると考えられ、感染拡大を機に契約している携帯電話事業者内での料金プラン変更の意向が高まっている(図5)。

新型コロナウイルス感染拡大終息後は、ユーザーの生活様式の変容が携帯電話回線にも大きく影響する可能性

新型コロナウイルス感染拡大終息後も、動画配信サービスの利用時間が増加すると答えた人は回答者全体の30%弱にのぼる(図6)。また、2020年3月27日~31日にNRIが実施した別調査によると、今後、平常時においても在宅勤務を取り入れた働き方をしたいと回答した人は在宅勤務が可能な職種形態である人のうち51%、社内打合せにWeb・テレビ会議を取り入れたいと回答した人は63%と半数以上を占めた※3
このような「新しい生活様式」の一定程度の定着により、インターネットの活用時間や活用拠点の変化、それらに伴う通信サービスへのニーズの変化が見込まれる。終息後も在宅勤務制度・オンライン学習を積極的に活用する人は、固定回線・Wi-Fiルータ等の利用比重を一層高め、スマホ料金プランについてはより低容量・低価格のものへ切り替えを検討する等、利用比重を落としていく可能性が高い。他方、外出自粛の解除を機に、ある程度従前の外出頻度へ戻る人たちについては、携帯電話事業者にとってプラスのニーズ変容となる可能性が高い。例えば自宅・勤務先以外でのテレワーク制度を活用していく人や、Web会議が増えていく人については様々な拠点から快適にインターネットを利用できることにニーズを持つようになる。勤務形態だけではなく、嗜好の変化もインターネット利用へのニーズ変化に影響する。今回の外出自粛期間に動画配信サービス等の大容量コンテンツを新たに利用しはじめた人等は、今後感染拡大以前以上のデータ通信容量が必要と感じるようになると考えられる。

提言

上述したようなニーズの変化に伴い、現在契約しているスマホ料金プランとのミスマッチが生じる人が今後増加することが予想される。各携帯電話事業者は、他社乗り換え防止、自社への乗り換え促進の両観点から、最適な料金プランのシミュレーション、及びシミュレーションをふまえたプラン変更提案等により、ユーザーのミスマッチ解消を図ることが求められる。中でも、感染拡大期間である調査実施期間においては、非固定回線ユーザーの5Gへの興味・関心が固定回線ユーザーと比較し大きく高まっていることが分かった(図7)。非固定回線ユーザーは在宅時に固定回線を利用しないため、感染拡大期間からニーズ変容がいち早く起こっているが、終息後に従前よりも携帯電話回線の利用比重・時間が高まる層についても同様に興味・関心が高まる可能性が高い。これらの層については今回のニーズ変容を機会と捉え、高速大容量での通信が行える、使い放題プランが利用できる、といった5G料金プランのメリットを訴求していくことが有効であろう。

携帯電話に関する手続きや問い合わせの変化

携帯電話に関するサービス利用において、感染拡大中はネットシフトが起きるが、終息後はリアル店舗回帰の傾向

7都府県の緊急事態宣言発令後、携帯電話事業者は一部店舗の休業や営業時間短縮といったオペレーションで店舗を運営している。
アンケートによると、普段はユーザーの約65~85%が、携帯電話に関する手続きを行う場合にリアル店舗(端末メーカーのショップを除く)を利用している(図8)。しかし、営業自粛および感染リスク低減を背景に、従来はリアル店舗を利用していた層の約40%がネットやコールセンターを利用する意向を示している(図9)。他方、自粛時にネットへ移行するユーザーの約半数は、自粛後にリアル店舗に回帰する意向であり、新型コロナウイルス終息後のネットシフトは限定的といえる。
とりわけユーザー50才以上のユーザーはネットを利用せずリアル店舗のみ利用する意向が強い(図10)。ネットを利用しない理由としては、手続きごとに異なるものの、「料金プランやオプションに関する説明が分かりにくい」「個人情報管理などセキュリティに対する不安がある」といった回答が多くみられた(図11)。

ネットやコールセンターの使いにくさにより、ユーザーはリアル店舗へ回帰

自粛期間中、リアル店舗からコールセンターにシフトするユーザーが増加する一方で、コールセンターでの「三密」を回避すべく出社するオペレータ数を制限しているため、コールセンターへの電話が繋がりにくくなっている。また、ネット利用者からは「料金プランやオプションに関する説明が分かりにくい」「自分にあった料金プランやオプションが探しにくい」「キャンペーン/特典の内容が分かりにくい」といった不満が挙がっている(図12)。
これらに起因し、ユーザーがコールセンターやネットの利用を試みても、リアル店舗に戻ってきてしまうといった事象が発生しており、営業時間の短縮も相まって、通常よりも混雑が生じている店舗が散見される。現在のリアル店舗は対面式の接客が基本となっていることから、ユーザーおよびショップスタッフの安心・安全の確保が大きな課題となっている。
また、新規契約/MNPの手続きにおいては、総務省の電気通信事業法に係る消費者保護ルールに則り、説明しなければならない重要な事項が多数存在するが、ネットでの手続きの際、重要事項を「ほとんど読んだ」と回答しているユーザーは約16%に留まっている(図13)。このことから、ネットへのシフトは、料金プランやサービスに対する理解不足に起因するトラブルを誘発する可能性がある。

提言

これらの課題解決に向けて、携帯電話事業者は、ネットにおいて「すぐに知りたい情報を見つけることができるUI向上」「わかりやすい料金プランやオプションの設計」「説明事項をしっかり理解したうえで購入可能とするシステムづくり」などを行うことが求められる。
コールセンターにおいては、電話の繋がりやすさとコールセンターにおける「三密」回避を同時に実現するため、“在宅コールセンター”を整備することが有効と考えられる。なお、在宅コールセンターの整備にあたっては、個人情報保護対策を十分に確保する必要がある。
リアル店舗の混雑回避への対応として、「DXによる店舗運営の省力化・効率化」、および「リアル店舗、ネット、コールセンターという対応チャネルでの負荷のトータルでの最適化」が求められる。
「DX による店舗運営の省力化 ・効率化」は、フロント業務とバックヤード業務それぞれについて検討する必要がある。フロント業務の省力化・効率化については、既にセルフサービス端末や料金収納自動化端末等の導入により、ショップスタッフの接客業務を端末へ分散することが検討されている。対面型接客を希望するユーザーや対面型接客が必須であるサービスについては、業務の一部を顧客自身に行ってもらうことも有効である。例えば、従来はショップスタッフが顧客に対して口頭で説明していた重要説明事項を、原則、待ち時間に顧客自身がタブレット端末等を用いて確認し、不明点のみショップスタッフが説明する、といった取り組みが考えられる。
また、バックヤード業務の省力化・効率化については、RPAや在宅ワークの活用が挙げられる。在宅ワークの活用については、バックヤード業務をセキュリティレベルおよび対面業務の必要性の有無で分類し、まずはセキュリティレベルが低く、かつ、対面の必要性が低い業務への在宅ワークの適用を進める。並行して、セキュリティレベルは高いが対面の必要性が低い業務の在宅ワーク適用に向けたルール作りとシステム構築を進め、在宅ワークの対象業務を随時拡大していくことが考えられる。
「対応チャネルでの負荷のトータルでの最適化」については、例えば、ネットやコールセンターで問題を切り分けた後、解決できそうもない人は来店予約とともにリアル店舗へ行く、といった導線を作ることが有効と考えられる。
これらの取り組みを平時から実施することが、有事において有効に機能させるために不可欠である。同時に、ユーザーに対して、これらの情報を適時適切に提供する仕組み作りが求められる。

ご参考

「新型コロナウイルス感染拡大による生活の変化に関するアンケート」の実施概要

  • 【調査方法】

    インターネットアンケート調査

  • 【対象】

    全国の満15~69歳の男女個人(人口動態割付)

  • 【有効回答数】

    3,098人

  • 【実施時期】

    4月18日~19日

執筆者

吉田 早織

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

瀬戸口 美織

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

北 俊一

コンサルティング事業本部
パートナー

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

お問い合わせ先

【提言内容に関するお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 未来創発センター
E-mail:miraisouhatsu@nri.co.jp

【報道関係者からのお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部
E-mail:kouhou@nri.co.jp