フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(サマリー) ~変革を契機にしたDX実現にむけて~ テレビ放送の役割変化:情報源としての位置づけ低下と家族メディアとしての回帰~新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(2)放送・メディア~

テレビ放送の役割変化:情報源としての位置づけ低下と家族メディアとしての回帰
~新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(2)放送・メディア~

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

2020/05/20

  • 新型コロナウイルス関連の情報取得のために、テレビ放送を重要視する人は多数いるものの、東日本大震災の際と比較するとその位置づけは低下している。その原因として、情報の提供元によるソーシャルメディア等の活用やインターネットメディアによる情報発信強化が考えられる。
  • 誤った情報に基づいて行動を起こす人が増えれば大きな社会問題が今後も引き起こされる。正確な情報を、確実に伝達する仕組みの構築が急務である。
  • 情報の提供元が生活者に直接情報を届ける時代において、テレビ(マスメディア)は、事実のみならず、提供する情報の広さ・深さ、考え方・見方などの付加価値を今まで以上にどう加えるかが重要である。また、在京キー局と地方局から構成されるニュースネットワークの意義が、新型コロナウイルスをきっかけに地方における情報の提供元からの直接提供が当たり前になることで、形骸化する可能性もあり、地方局は自らの役割を今一度問い直す時期にきている。
  • 一方で、新型コロナウイルス感染拡大後、家族で一緒に無料の放送(地上波・BS放送)を視聴する「家族視聴」が増加しており、いわゆる「テレビ回帰」が起きている。新型コロナウイルスの終息後もテレビ視聴の習慣化を維持・拡大させるためには、放送局は今を機会として捉えて、家族ニーズに応えるテレビとして、令和時代の新たな存在感を示していくべきである。
  • そのうえで、自治体や企業(広告主)など、さまざまなプレイヤと連携することで、生活者に対して直接的にサービスを届けるD2C(Direct to Consumer)型の企業像がひとつの方向性と考えられる。

テレビ放送の重要性は高位維持も、政府・自治体の存在感が高まる

新型コロナウイルス拡大により、情報源としてのメディアは生活者にとってますます重要になっている。野村総合研究所(NRI)では、メディアに対する意識も含むインターネットアンケート調査を、全国の満15~69歳の男女に対して実施した(詳細は「ご参考」を参照)。なお、ここでは関東に居住する回答者(関東在住の満20~59歳)のみを抽出し、2011年の東日本大震災の際に実施した調査結果との比較分析を行った(2011年3月19~20日、関東在住の満20~59歳を対象としたインターネットアンケート調査)。その結果、2011年と同様に、インターネットが台頭する現在においても、生活者はテレビ放送(NHKや民放)の情報を重要視していることに変わりはなかった(図1)。ただし、時系列の変化では、NHKやポータルサイト、新聞の情報は重要性が低下する一方で、政府・自治体の情報の重要性が高まっている。年代別でみれば、20代では民放・NHKの重要性は低まり、30~50代ではNHKの重要性は大幅に低下している(図2)。新型コロナウイルスと地震では、必要とされる情報特性が異なることも考えられるが、政府・自治体等の情報ソースによるソーシャルメディア等のコミュニケーションツールを活用した生活者に対する直接的な情報提供が始まるとともに、インターネットメディアによる情報発信の強化(本人の関心や居住地域等に対応させた情報の発信等)が行われていることから、各世代の情報取得に影響を与えていると考えられる。テレビ放送に特化して情報の重要性として選択されたかどうかをみてもメディアとしての位置づけの変化がわかる。NHKと民放を重視している情報源として選択しなかった人の割合は、約3割で、20代では約4割が選択をしていない(図3)。テレビ放送の、情報源としての位置づけは過渡期を迎えているといえるだろう。

正確な情報を、確実に伝達する仕組みの構築は急務

テレビ放送のメディアとしての位置づけが低下していくなか、新型コロナウイルスに関する情報に接することで、情報主体の信頼度についての変化をみると、信頼度が上がったメディアとしてはNHKや民放が上位に挙がる(図4)。これは、真偽不明な情報がソーシャルメディア等のインターネット上に発信されたことが記憶に新しいが、実際に社会的なインパクトが起きたことから、その影響を受けていると考えられる。今回のインターネットアンケート調査では、インターネット上の情報に基づいて行動をした人は特に若年層で多かったが、情報収集力が高く、その情報に基づき行動を起こすことができる若年層に対する情報伝達は、その結果が社会に大きな影響を与える(図5)。生活者に対して、正確な情報を、いかに確実に届けるかが大きな課題として浮かび上がってくる。提供される情報が正確なのか、その正確な情報がテレビ放送やインターネットなどに関わらず、伝達できているかの評価を行える仕組みの構築は急務である。情報の真偽を確認・検証する活動は報道機関を含むさまざまな機関で取り組むべきことであり、また、それらの情報が伝わっているか、その情報に基づき行動が起きているか、をインターネットに繋がっているテレビやスマートフォン等のパーソナルデバイスを活用して、積極的に把握していくべきではないだろうか。

家族メディアとしてのテレビ回帰

新型コロナウイルス感染拡大後、生活者の映像メディアの視聴の仕方の変化として顕著にみられたのは、「家族視聴」の増加である(図6)。外出自粛が広がり、家族で過ごす時間が増えたことによる影響と想定される。一方で、個々人の端末等で自分の好きな映像を一人で、あるいはネット等を通じて趣味の合う友人と視聴するという正反対の視聴形態(本稿では「個人・友人視聴」と記載)も一定程度存在した。映像の種別でみると、無料の放送(地上波・BS放送)だけでなく、無料の動画配信・共有サービスの視聴が増加した人の割合が高い。有料の動画配信サービスも、本調査における利用者が半数程度であったことを踏まえると高い水準といえる(図7)。
この全体傾向の中で、家族視聴の増加によって特に視聴時間が増加したメディアは、「無料の放送(地上波・BS放送)」である。家族視聴者の65%で、視聴時間が「大幅に増加した」「増加した」と回答しており、全体平均と比較しても著しく高い。また、有料放送・有料動画配信の増加が顕著であったのは、「個人・友人視聴」グループであり、対照的な結果となった(図8)。
家族視聴者では、新型コロナウイルスを契機に増加した各メディアの視聴時間について、新型コロナウイルス収束後も増えたままと回答した人の割合は高い。個人・友人視聴者では、動画配信サービスの利用時間が増えたままとした割合が高い(図9)。このことから、このようなメディア視聴の変化は、新型コロナウイルス収束後も続くことが見込まれる。
有料サービスを視聴しつづけたいとした理由としては、個人・友人視聴者では、「地上波やBS放送の番組がつまらない・あきたから」、「地上波やBS放送だけでは余暇時間を充足できないから」などといった「コロナ疲れ」にも端を発した地上波離れがある。一方で、家族視聴者では「家族が見ているから」という家族をトリガーとした理由が高い(図10)。

提言

テレビは事実を伝えるだけでなく、独自の付加価値の提供が必要

国内外のさまざまな情報を集約して、多くの生活者に対してその情報を伝えることがテレビ(マスメディア)の役割である。しかし、スマートフォン等のパーソナルデバイスが普及し、ソーシャルメディア等のアプリ・サービスが普及することで、情報の提供元が、従来のマスメディアを介さずに、即座に、メッセージを生活者に直接的に伝えることができるようになった。ソーシャルメディア等のアプリ・サービスは、多くのサービスや情報を多数の利用者に対して届けるというプラットフォームでもある。今回の新型コロナウイルスを機に、情報の提供元が(アンケート機能や通知機能、問い合わせ・登録機能等を有する)プラットフォームを手段として積極的に活用することで、生活者が情報を直接提供元から取得するようになった。今後、情報の提供元による発信が増えれば増えるほど、生活者はプラットフォーム経由でそれらの情報を取得することが習慣化するようになるだろう。新型コロナウイルスの終息を見据えて、マスメディアは、このような状況を踏まえた自らの位置づけを大きく変えていく必要があるのではないだろうか。事実のみならず、提供する情報の広さ・深さ、考え方・見方などのプラットフォーム経由では提供できないような付加価値を今まで以上にどう加えていくかが重要となっている。
また、現在、地方局が地域の情報を集め、それが集約されて全国レベルのニュース番組ができている。しかし、新型コロナウイルスをきっかけに、情報の提供元が地域に関係なく、直接発信することが当たり前のようになると、民放のニュースネットワーク(ニュース・情報の流通を行う放送局の系列関係)も形骸化し、地方局の存在意義が問われることになる。地方局も自らの役割を今一度問い直す時期にきているだろう。

令和時代のテレビ:家族に寄り添ったテレビの提供を

新型コロナウイルスにより、家族でテレビを視聴するというテレビ回帰が起きていることは、放送局にとってはテレビの存在感をアピールするまたとない機会である。新型コロナウイルスの終息後に、この状況が習慣化するかどうかは、放送局の現時点での取り組みにかかっているといえよう。外出自粛が行われている今こそ、「家族・知人・友人と繋がりたい(回顧、驚き等の話題の提供))」、「生活を楽しくしたい(子供と歌える、旅の想像ができるといった行動・想起のための材料の提供)」、「生活を便利・豊かにしたい(料理アレンジ、掃除等のTips)」といった家族ニーズに応えるテレビとして、新たな存在感を示していくべきではないだろうか。届け方も放送波での提供にとどまるのではなく、インターネットを含めたさまざまな経路で放送局のコンテンツに誘導するような取り組みを進めていくべきである。

放送局の将来像:今まで以上に生活者に密着した新たな存在に

新型コロナウイルスをきっかけに、プラットフォーム経由では提供できないような価値提供や家族に寄り添ったテレビの提供が進み、テレビに対する認識が変化すれば、放送局は生活者により密着した存在になり得る。生死や生活に関する情報源としてなくてはならない存在になるとともに、生活を豊かにする情報源として認識されることが重要である。 新型コロナウイルスを機に、放送局が今まで以上に信頼される存在としての位置づけを確立できれば、インターネット上のプラットフォームに対して自らの情報を提供することに躊躇していた生活者も、放送局に対しては情報の提供は安心できる可能性がある。テレビの視聴状況やモバイルデバイスの利用状況も取得することが容易になり、生活者ニーズも把握しやすくなる。その結果、生活者ニーズに対応した、さまざまなサービスを届けられるようになる。放送番組や広告の提供のみならず、自治体や企業(広告主)などのさまざまなプレイヤと連携することで、生活者に対して直接的にサービスを届けるD2C(Direct to Consumer)型の企業像もあるべき姿のひとつではないだろうか。このようなときだからこそ、放送局の将来像を今一度見直すべきである。

ご参考

「新型コロナウイルス感染拡大による生活の変化に関するアンケート」の実施概要

  • 【調査方法】

    インターネットアンケート調査

  • 【対象】

    全国の満15~69歳の男女個人(人口動態割付)

  • 【有効回答数】

    3,098人

  • 【実施時期】

    4月18日~19日

  • ※1:

    「インターネット」には、携帯電話・スマートフォンによるインターネット利用も含む

  • ※2:

    「インターネットのポータルサイト」は、Yahoo、Google等であり、新聞社や放送局のサイトは含まない

  • ※3:

    「インターネットのソーシャルメディア」は、Twitter、Facebook、Instagram、mixi等

  • ※4:

    「インターネットのブログの情報」は2020年調査で新たに追加

  • ※5:

    2011年調査との比較のために、茨城、栃木、群馬、千葉、埼玉、東京、神奈川に在住する20~59歳の男女個人を抽出

  • ※1:

    家族視聴とは、コロナ感染拡大前と比較した自宅での映像の見方の変化で、「家族と視聴するようになった」が最もあてはまると回答した人。

  • ※2:

    個人・友人視聴とは、同設問について、「家族それぞれの、部屋のテレビで視聴するようになった」「家族それぞれの、スマートフォンやタブレット端末で視聴するようになった」「友人・知人と視聴するようになった」「視聴前に、ソーシャルメディア等で番組についてシェアするようになった」「視聴後に、ソーシャルメディア等で番組についてシェアするようになった」「ソーシャルメディアやチャット・メッセンジャー等で友人・知人と繋がったまま・話しながら視聴するようになった」が最も当てはまると回答した人。

執筆者

山口 毅

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

中山 太一郎

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

お問い合わせ先

【提言内容に関するお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 未来創発センター
E-mail:miraisouhatsu@nri.co.jp

【報道関係者からのお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部
E-mail:kouhou@nri.co.jp