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NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(サマリー) ~変革を契機にしたDX実現にむけて~ ゲーム、VR、マンガ・本・書籍に対する人々の行動と意識の変化:アフターコロナのコンテンツ市場再成長の機会を逃してはいけない~新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(3)コンテンツ~

ゲーム、VR、マンガ・本・書籍に対する人々の行動と意識の変化:アフターコロナのコンテンツ市場再成長の機会を逃してはいけない
~新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(3)コンテンツ~

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2020/05/22

  • 自宅で過ごす時間が増えたことで、消費者による自宅でのコンテンツ利用が拡大している
  • 購入してから、そのまま放っていた「積み(罪)コンテンツ」が消費されるようになり、コンテンツの需要と供給のバランスも変化している
  • 消費者のデジタル化も短期間で大きく進んだことで、より多くのデジタルデータがコンテンツプロバイダーのもとに集まり、今後データマーケティングの重要性がより高まっていく

新型コロナウイルス感染拡大により、自宅でのコンテンツ利用に変化が生じた

野村総合研究所は2020年4月に新型コロナウイルス感染拡大による生活の変化に関するアンケート(全体有効回答数3,098人)を実施し、「ゲーム」、「VRコンテンツ」、「マンガ・本・書籍」の3つのコンテンツカテゴリーに関して利用動向を聴取した。その結果によると、ゲームでは全体の22.7%、VRコンテンツでは全体の3.6%、マンガ・本・書籍では全体の21.8%が、新型コロナウイルス感染拡大前に比べ、各コンテンツの消費が増えていると回答した(図1)。性年代別にみれば、3つのコンテンツ全てにおいて10代および20代を筆頭に、男女とも、若い世代ほど今回を契機にコンテンツの消費を増やしていることがわかった(図2)。ただし、子どものいる世帯層は子どものいない世帯層に比べてコンテンツ消費の増加幅が少なくなっており、学校等学習施設の閉鎖により、子どもが自宅に居る時間も増えたことで、放送メディアなどとは異なり、個人で楽しむ要素の強いゲーム、VR、書籍等については消費する時間を捻出できなかった世帯層も多かったとみられる(図3)。

それぞれのコンテンツごとに細かくみると、ゲームでは、消費が増加した利用者のうち約80%がスマートフォンや携帯電話端末で遊べるアプリゲームによるものと回答しており、家庭用ゲーム機の消費増加は、消費が増加した利用者のうち20%程度に留まった。VRコンテンツでは、消費が増加した利用者の約20%において、ゲームやアトラクションでのVRがVRコンテンツとして最も体験・利用機会が多かった。また、VRの映像作品やライブ映像といったゲーム以外の種類でも、消費が増加した利用者の約10%から20%の間で体験・利用が増加したとする回答があった。マンガ・本・書籍では、消費が増加した利用者のうち約半数が単行本や文庫本のマンガの消費を増やし、次いで小説が約40%、ビジネス書が約20%となった(図4)。いずれのコンテンツにおいても、野村総合研究所が毎年実施している「情報通信に関するアンケート調査」の結果や各業界団体公表内容などと比較しても、通常時から利用の多いコンテンツが消費増加の対象となっており、コロナ禍における特異な分布があったわけではないとみられる。

通勤時間の消失により、「積みコンテンツ」を消費する時間ができた消費者

ゲームおよびマンガ・本・書籍において今回消費が増加した利用者は、それぞれ約80%が普段から利用していた従来からの利用者層で、残りの約20%は今回の騒動を機に消費するようになった利用者層である(図5)。

今回消費が増加した従来からのファン層に対して、ゲームとマンガ・本・書籍の両カテゴリーにおいて通常時より消費が増加したコンテンツを細かく聞いたところ、どちらにおいても過去購入していたものを消費しているケースが最も多かった。ゲームであれば手を付けたがクリアに至っていないもの、マンガ・本・書籍であれば購入したが読み始めていなかったものなど、いわゆる「積みコンテンツ」の消費が今回の騒動により最も消費されたことは、通常時の生活において、日本国内の両カテゴリーのコンテンツ利用者の余暇時間(コンテンツ消費に充てられる時間)がコンテンツの供給スピードに追い付いておらず、次第と利用から離れてしまっていたことを示している(図6)。

VRコンテンツは市場として若いこと、元々自宅で利用可能な環境にいる消費者が非常に少ないこともあり、従来からのファン層は消費が増加した利用者のうち50%と、他カテゴリーとは取り込んだ利用者層の内訳が異なる。従来からのファン層の消費詳細をみても、世間の評価が高いコンテンツなどを新たに購入・利用するケースが最も多いと回答されており、市場の成熟度が他カテゴリーに比べ低いことが、消費傾向に、他カテゴリーとは異なる影響を与えていることがわかる(図6)。

新型コロナウイルス感染拡大により、短期間のうちにデジタル化が加速した

今回実施したアンケートにて、コンテンツカテゴリー(ゲーム、VR、マンガ・本・書籍)ごとにコンテンツ消費形態としてデジタル化(ゲームのダウンロード販売や、電子書籍の利用)が進んだか聴取したところ、新型コロナウイルス感染拡大によってデジタル化が進んだと答えた方が、ゲームでは29%、VRでは34%、マンガ・本・書籍では25%と、いずれのコンテンツにおいても全体の20%から30%程度に上った。デジタル化が全く進まず、ディスクや紙媒体での利用を続けていると答えた方が、ゲームでは42%、VRでは48%、マンガ・本・書籍では54%となった。ほぼ半数が依然アナログ派であることがわかったものの、短期間であるにも関わらず、ウイルス感染拡大による自粛等の影響により、デジタル化が大きく進んだことは、コンテンツ業界にとって大きな変化であるといえる。(図7)。

デジタル化はコンテンツ業界にとって、長年抱えていた業界全体の課題であり、今後のコンテンツマーケティングを行ううえで極めて重要な要素である。デジタル化が進むことで、コンテンツプロバイダーは、より正確かつ多くのユーザーデータの取得が可能になり、今後のコンテンツ展開戦略の精度を高めることができる。特に、マンガ・本・書籍は、紙媒体がベースとなる中、デジタル化がウイルス感染拡大による一時的な変化に留まってしまう可能性があるため、ウイルス感染収束後も利用者がデジタルユーザーとして残り続けるよう、収束前からアプローチを強め、引き留めておく必要がある。コンテンツの流通小売事業者にとってはデジタル化の波にはデメリットとなる面も認められるが、プロダクトアウトだった業界にデータ活用できる土台が作れることは、業界全体の再成長を促し、市場規模の拡大(=流通量の増加)につながることから、今後も避けられないデジタル化を忌むのではなく、その流れを活用する方向で準備するべきだと考える。

総括:ウイルス拡大収束後は、各コンテンツにとって、ファンが定着、または連れ戻す大きなチャンスが訪れる

新型コロナウイルス感染拡大により、消費者は自宅で過ごす時間が増え、これまで消費が追い付いていなかったり、消費をあきらめていたりしたもの、興味はあるが、触れる機会や時間を作れていなかった「積みコンテンツ」を対象に、コンテンツの利用が増加している傾向がわかった。緊急事態宣言が終結しても、多くの消費者は自粛寄りの生活を続ける可能性があり、コンテンツ業界として、新たに増えた、または戻ってきた利用者を引き留められるよう、平常時以上にコンテンツの供給に力をいれていくべきタイミングが訪れている。

ゲームやマンガ・本・書籍においては、利用者の多くが過去購入・利用した積みコンテンツを掘り返して利用していることから、新型コロナウイルス感染拡大が直接的に両市場の売り上げ規模を伸ばすことには、現時点では繋がっていない可能性が高い。しかし、既存利用者層のコンテンツ消費量が増加したことで過去の熱が戻ってきており、緊急事態宣言期間中や外出自粛期間中にコンテンツに触れなおす出戻り利用者層は、ウイルス拡大が収束した後も、再度コンテンツの利用者として、ファン層に留まる可能性がある。積みコンテンツは、消費できていないことの後ろめたさから、消費者にとっては「罪コンテンツ」ともなっている。それら積み(罪)コンテンツを消費しきり、罪悪感から解放された後、清々しい気持ちで新たなコンテンツ消費を行うサイクルが形成できれば、市場規模拡大も視野に入ってくるだろう。

VRにおいては、これまで触れる機会を持てなかった消費者が体験や利用の機会を多く得られたことが、アンケート結果での新規利用者比率の多さからも見て取れ、ウイルス拡大収束後に新規利用者層をどれだけ定着させられるかが、市場拡大のキーポイントになる。

アナログ媒体を選択する人の意思は変えづらい中、新型コロナウイルス感染拡大はデジタル化の加速に一役買う結果につながった。コンテンツ業界も、これを今後の再成長へとつなげるべく、デジタルデータによる新たな販売戦略、新たなマーケティング構築を迅速に進め、消費者の欲しいコンテンツがより正しく提供される状態にしていかなければならない。

コンテンツ業界においては、ウイルス感染収束後を見据え、新たなファン層の安定化と維持・拡大を行うために今から準備を進めておくことが、次のファン世代へコンテンツ産業のたすきを繋ぎ、業界の再成長を進める大きな一歩となるのではないだろうか。

ご参考

「新型コロナウイルス感染拡大による生活の変化に関するアンケート」の実施概要

  • 【調査方法】

    インターネットアンケート調査

  • 【対象】

    全国の満15~69歳の男女個人(人口動態割付)

  • 【有効回答数】

    3,098人

  • 【実施時期】

    4月18日~19日

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執筆者

山岸 京介

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

前原 孝章

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

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