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NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(サマリー) ~変革を契機にしたDX実現にむけて~ ライブ・イベントのオンライン化加速:約半数を占める金銭的支援意向者の期待に応えるオンラインサービスの早期拡大が有望~新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(4)ライブ・イベント~

ライブ・イベントのオンライン化加速:約半数を占める金銭的支援意向者の期待に応えるオンラインサービスの早期拡大が有望
~新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(4)ライブ・イベント~

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2020/05/21

  • スポーツや音楽・演劇・ミュージカルなどのライブ・イベント(以下、オフラインの参加型コンテンツ)に年1回以上参加している人の割合は約4割で、そのうち6割以上が新型コロナウイルス感染症拡大に伴う中止・延期等の影響を受けている。
  • オフラインでの接触を減少せざるを得ない中、各事業者はオンライン、インターネットを活用したサービスを開始・拡大させている。アンケートにおいてもリアルタイム配信(参加型含む)を始め利用者が増加傾向にある結果が表れているが、まだその存在を知らない人も多い。今後それらサービスを浸透させることで、外出自粛の環境下でも継続的に接点を持つことが可能となる。
  • また、試合・ライブ・イベント等の中止・延期により各種団体・事業者に大きな損失が発生している状況下において、年1回以上参加している層の半数以上が金銭的支援の意向を持っている。このことは、事業者等によって、今後事業継続へファンの力を積極的に取り込んでいく方策が、一定数のファンに支持されることを意味する。従って、各事業者は、このファン側の支持を踏まえ、自らが提供するコンテンツサービスの内容・形態に合わせて、ファンの力を活用していく施策についての工夫やさらなる検討・強化を行い、今以上にこれらの施策を実施していくことが期待される。

野村総合研究所は、2020年4月18日~4月19日、全国の生活者3,098人を対象にインターネットアンケート調査を実施し、スポーツや音楽・演劇・ミュージカルといったオフラインの参加型コンテンツに関する利用実態や、イベント自粛や外出自粛による影響等について分析した。
本レポートでは、コロナ禍による上記コンテンツファンの行動変容や参加意向を踏まえ、ファンの視点から見た現状やその課題、ポストコロナにおけるライブ・イベントや代替コンテンツの在り方について考察する。

オフラインの参加型コンテンツへ年1回以上参加する人の6割以上が中止・延期等の影響を受けた

スポーツや音楽・演劇・ミュージカルといったオフラインの参加型コンテンツに年1回以上参加している人(注1)の割合は36%だった(図 1)。また、スポーツ、音楽、演劇・ミュージカルいずれの分野でも、年1回以上参加する人の60%以上が中止・延期等により参加できない、もしくは、参加を取りやめたと回答した(図 2)。調査時点では各団体・事業者が開催スケジュールを変更し始めて1ヶ月と短い期間ではあったが、音楽ライブが多く予定されているシーズンであったことや、NPBセ・パ両リーグ・Jリーグといった集客力がある競技のリーグ戦開幕や開幕間もない時期と重なったことで大きな影響を受けている。また、いずれのコンテンツも再開の目処は4月末日時点で立っておらず、当面の間、ファンはこれら参加型コンテンツとの接触機会を失い、団体・事業者はビジネスの機会を失うことが想定される。

広がるオンラインコンテンツ・サービスの可能性(注2)

上記のようにオフラインの参加型コンテンツを開催できない環境下において、インターネットを活用したサービスを各事業者が開始・拡大させており、オフラインのイベントに参加できなかったファンの一部では、こうしたサービスの利用を開始したり、利用時間を増加させたりしている(図 4)。その一方で、サービスを認知していない層が半数を占めていることも実態として明らかになった(図 3)。このことからも、認知を拡大させることができれば、外出自粛の環境下においても各団体・事業者はファンと継続した接点を持つ機会が増えると考えられる。
これまでインターネットサービスを認知していなかった層にオンラインサービスにアクセスしてもらうためには、認知度向上に加え、初期段階の障壁を取り払う必要がある。具体的には、スマートフォンやタブレット等端末の購入に始まり、アプリのダウンロードやその利用に必要となる各種メールアドレスやSNSアカウントの登録などがある。また、有料サービスであれば、有料であること自体が心理的な障壁となり、クレジットカードの登録等の手続きも障壁となり得る。サービスそのものの認知度向上とあわせ、利用方法の周知徹底や、無料期間設置等による金銭的障壁の撤廃を行うことで、より多くのファンをオンラインコンテンツへ誘導することが可能になると考えられる。
一方で、事業者の立場からすると、コンテンツを単に無料提供したのでは事業継続性に難がある。これを解決するためには、動画配信サービスやゲーム等で普及しているフリーミアム(基本サービスは無料で、プレミアムサービスが有料という形態)モデルが参考になると考えられる。後述するユーザーの金銭的支援意向を踏まえ、利用障壁を下げることと事業継続のためのマネタイズを両立させるサービス設計が望ましい。
また、これらインターネットを活用したサービスの展開では、放送と同様、一方向での配信サービスだけではなく、インスタライブに代表されるネット参加型リアルタイム配信等、コンテンツ提供者と視聴者が双方向でコミュニケーションを取ることが可能なサービス等を様々な形態で提供していくことで、よりファンの満足度を向上させ、接点の増加に資すると考えられる。

半数以上を占める金銭的支援意向者と共に事業継続を目指すべき

新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、試合・ライブ・イベント等が中止・延期され、各種団体・事業者には大きな損失が発生している。スポーツだけで見ても、5月13日の関西大学宮本勝浩名誉教授の発表によると、2020年の初めから6月末ごろまでの期間において、プロ野球やJリーグなどの国内のプロスポーツ界において約1,272億円の経済損失が生じると試算されている(注3)。また、ぴあ総研は3月23日時点で、音楽コンサート・演劇・ミュージカル・スポーツ・その他のイベントの中止延期等により減少した入場料金の総額は5月末までには、3,300億円に上ると推計している(注4)。
本アンケートでは損失が発生している各団体・事業者に対し、ファン目線で、どのような支援意向があるのか、特に金銭的支援意向の有無とその方法について調査を行った。その結果、スポーツ、音楽、演劇・ミュージカルの3分野における年1回以上の参加者についてみると、スポーツと演劇・ミュージカルの分野では参加層の56~57%が、損失が発生している団体・事業者に対する金銭的支援の意向を持ち、音楽では参加層の71%が金銭的支援の意向を持っている(図 5)。音楽や演劇・ミュージカルではタレント・アーティスト・演者本人への支援意向が高く、スポーツでは選手に加え、主催者・興行主への支援意向も強い(図 6)。

金銭的支援の具体的な方法としては、いずれの分野でも「中止となった試合・ライブ・イベント関連のグッズ購入」が最も高い。次いで、スポーツや演劇・ミュージカルでは「チケットの権利放棄」が、音楽では「有料の映像コンテンツやサービスの購入」に続く(図 7)。また、音楽では16%と数値は高くはなかった「クラウド・ファンディング」だが、実際には、ライブ・ハウス支援向けのファンドがいくつも立ち上がり、5月中旬時点で、3~500万円を獲得しているプロジェクト(中には1,000万円以上のも)も複数存在しており、アンケート調査結果に現れてない潜在的な支援意向はもっと大きい可能性も考えられる。これらの結果を踏まえると、対価としての各種コンテンツ提供が前提ではあるが、この厳しい局面を乗り切り事業を継続させるため、ファンの力を積極的に活用する方法を検討する価値はあると考えられる。
また、文化庁・スポーツ庁は、中止等された文化芸術・スポーツイベントについて、購入済みチケットの払い戻しを受けない場合に、その金額分を寄付とみなし、税優遇を受けられる制度を創設した(注5)。今回の調査結果を鑑みるに、団体・事業者からファンへ当該制度の活用を呼びかけることで、試合・ライブ・イベント等の中止による損失を軽減できる可能性がある。

オフライン・オンラインの共存共栄に向けて

スポーツ・音楽・演劇・ミュージカルといったコンテンツは、オフラインだからこそ体験できる臨場感やコミュニケーション等の魅力により人気を博していた。ただ、上述したようにいずれも再開の目処は4月末日時点で立っておらず、仮に何も手を打たなければ団体・事業者には純粋に機会損失となり、また接点を継続できないが故にファンが離れていく可能性がある。
こうした状況において、スポーツでは選手や元選手がTwitterやInstagram、公式YouTubeチャンネル等を開設し、10万人単位の登録者を集めていることは特筆される。また、音楽でも、俳優の木村拓哉氏が開設したInstagramアカウントのフォロワーが、開設から1週間で150万以上も達した。また、乃木坂46がYouTubeで過去のツアー公演の配信を行いながら、メンバーが次々と公式Twitterアカウントで「実況中継」を行ったところ、配信の同時視聴者数が一時37万人を超えたという(注6)。このように、オンラインでの映像配信に加えて双方向コミュニケーションを組み合わせた形でのサービス提供が増加すれば、ユーザーもさらに増えていくのではないか。
また、各移動体通信事業者が進めている5Gサービスにおいても、大手のNTTドコモ、au、ソフトバンクはいずれも、8K映像やVR、AR等と組み合わせた新しいライブ配信サービスをうたっている。中長期的には、5Gが普及し、ユーザー、事業者ともに利用しやすい環境等になれば、このようなオンラインのコンテンツサービスの多様化や拡大を後押しする形にもなろう。
団体・事業者等のコンテンツホルダーは、上記のようなオンラインコンテンツを充実させつつも、いずれ来るオフラインの参加型コンテンツの再開に向けて、感染症対策という新たな課題に対応しつつ準備を進める必要がある。そして、ファンもまた、前述した金銭的支援を含め、様々な支援・応援を提供することでこの難局を乗り切ることが望まれる。

ご参考

「新型コロナウイルス感染拡大による生活の変化に関するアンケート」の実施概要

  • 【調査方法】

    インターネットアンケート調査

  • 【対象】

    全国の満15~69歳の男女個人(人口動態割付)

  • 【有効回答数】

    3,098人

  • 【実施時期】

    4月18日~19日

  • 注1:

    オフラインの参加型コンテンツの参加状況については、アンケートで、以下の13種類のコンテンツについての参加状況を調査し、どれか1つでも「年1回以上参加」と答えた回答者を参加者と定義した。また、スポーツの参加者は、全体の集計と同様に項目1~4、音楽は項目5~9、演劇・ミュージカルは項目10~12に該当した回答者とした。なお、項目9の声優については、項目の文言に、演劇、ミュージカルの記載も含まれているが、ここでは「音楽」の分野で集計している。

    アンケート調査での調査項目 該当する分野
    1.スポーツ(野球(NPB))の試合・イベント等 スポーツ
    2.スポーツ(サッカー(Jリーグ))の試合・イベント等
    3.スポーツ(バスケットボール(Bリーグ))の試合・イベント等
    4.上記以外のスポーツ(高校野球等の学生スポーツ含む)の試合・イベント等
    5.音楽(男性アイドル(ジャニーズ事務所の所属タレントのみ(Jr.を含む))のコンサート・ライブ・イベント等 音楽
    6.音楽(男性アイドル(ジャニーズ以外の男性アイドル、韓流アイドル、ビジュアル系バンド等))のコンサート・ライブ・イベント等
    7.音楽(女性アイドル(AKBグループ、坂道シリーズ等メジャーアイドル、地下アイドル、ご当地アイドル等))のコンサート・ライブ・イベント等
    8.音楽(上記以外の歌手・バンド・グループ等)のコンサート・ライブ・イベント等
    9.声優のコンサート・ライブ・演劇・ミュージカル・イベント等
    10.宝塚歌劇 演劇・ミュージカル
    11.歌舞伎などの伝統芸能
    12.宝塚歌劇や、歌舞伎などの伝統芸能以外の演劇・ミュージカル
    13.その他の試合・イベント等 その他
  • 注2:

    この段落以降は、参加しているコンテンツのうち、回答者が「最も興味・関心があるもの」と答えたコンテンツ、かつ、スポーツ、音楽、演劇・ミュージカルの3分野の分析結果について記述している。そのため、図2と図3、図5での3分野のN数は一致しない。

  • 注3:
  • 注4:

    内閣府「新型コロナウイルス感染症の実体経済への影響に関する集中ヒアリング」第5回会合資料
    https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/keizaieikyou/05/shiryo_02.pdf

  • 注5:
  • 注6:

    日刊スポーツ2020年5月7日「乃木坂メンバー“実況中継”聴者数37万人超え」
    https://www.nikkansports.com/entertainment/news/202005070000797.html

執筆者

滑 健作

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

小林 孝嗣

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

瀬戸口 美織

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

吉田 涼

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

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【提言内容に関するお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 未来創発センター
E-mail:miraisouhatsu@nri.co.jp

【報道関係者からのお問い合わせ】
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