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NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(サマリー) ~変革を契機にしたDX実現にむけて~ 消費行動の新常態「巣ごもり消費」・「気晴らし消費」・「非接触」を、小売企業の変革チャンスに~新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(5)小売・流通~

消費行動の新常態「巣ごもり消費」・「気晴らし消費」・「非接触」を、小売企業の変革チャンスに
~新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(5)小売・流通~

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2020/05/25

  • 新型コロナウイルス感染拡大は、小売業界にも多大な影響を与えており、各小売企業は、商品供給、消費者との距離の保ち方、従業員の安全確保、その上での収益確保と、果たさねばならない責務を数多く負っている。そうした中で、特に消費者の消費行動、心理の変化を理解し、対応していくことは不可欠である。
  • 野村総合研究所は、2020年4月22日~24日、全国の消費者約2,000人を対象に、緊急事態宣言下における消費行動や心理の変化に関して、緊急インターネット調査を実施した。その結果、新型コロナウイルス感染拡大後、店舗での買い物回数が減少し、インターネットショッピングや食事の宅配サービスの利用が増加したことが明らかになった。加えて、消費者は、新型コロナウイルス感染拡大収束後も、インターネットショッピングや食事の宅配サービスの利用意向を示しており、こうした「巣ごもり消費」のスタイルが定着する可能性が高いと考えられる。
  • 一方、店舗での生活必需品の購入が、「外出自粛に伴う不安の緩和につながっている」と感じる人は4割に達し、店舗での「気晴らし消費」を求める消費者心理を再確認する必要がある。
  • また、新型コロナウイルス感染拡大後、6割以上の人が、店舗での「支払い・レジ待ち」を面倒と感じるようになったことも明らかになった。その背景には、消費者の「非接触」の意識の高まりが推察され、非接触ニーズへの対応が急がれる。
  • 「巣ごもり消費」、「気晴らし消費」の傾向や、「非接触」の意識の高まりは一時的な変化ではなく、今後、常態化する可能性が高い。小売企業は、こうした変化に柔軟に対応できるよう店舗のあり方を見直し、消費者に働きかけていくことが重要である。

生活必需品を販売するスーパーやドラッグストア、ホームセンター等は、緊急事態宣言発令後も、生活必需品の購入機会確保のため、店舗の営業を続けており、急な需要増加に対応できる供給・物流体制の確立も急務になっている。店舗などの現場では、従業員の安全の確保も業務量や精神面でのケアも不可欠になっている。緊急対応や店舗に勤める従業員への手当てなどが増加する一方で、いかに収益を確保していくかの方策も講じていかねばならない状況にある。
小売企業が直面している課題は数多いが、この状況下での消費者の消費行動や心理の変化を理解し、一早く対応していくことこそが、小売企業の使命であると考える。ウィズコロナ、ポストコロナにおける小売業に求められるポイントについて、本レポートでは、消費者アンケ―トをもとに、消費スタイルや変化の視点から整理した。

インターネットショッピングや食事の宅配サービスの利用など、「巣ごもり消費」が増加している

野村総合研究所が、2020年4月22日~24日に、全国の消費者約2,000人を対象に実施した緊急インターネット調査によると、新型コロナウイルス感染拡大以降、店舗での買い物が「以前よりも減った」人(51.9%)が、「以前よりも増えた」人(8.7%)を大きく上回った(図1)。
一方、「ECサイト(Amazon, 楽天など)/通信販売」での買い物回数については、「以前より増えた」人(24.5%)が「以前より減った」人(4.7%)を上回った(図1)。
食品や日用品のカテゴリは、他のカテゴリと比べて相対的にEC化率は低い。立地・価格・鮮度などの面で、コンビニエンスストアやスーパーマーケット、ドラッグストア等の利便性が、インターネットショッピングのそれよりも高いことが主な原因であると考えられる。
今回の調査では、新型コロナウイルス感染拡大後に、食品や日用品の分野でもECの利用が増加していることが明らかになった。日用品(衛生用品、洗剤、家庭用品など)を最もよく購入するチャネルを、「ECサイト(Amazon, 楽天など)・通信販売」と回答した人は、2019年末時点では2.9%であったのに対し、今回の調査(2020年4月では)11.9%にまで上昇した(図2)。生鮮食品についても、最もよく購入するチャネルを、「ECサイト(Amazon, 楽天など)・通信販売」と回答した人は、2019年末時点では0.3%であったのに対し、今回の調査では1.7%と5倍以上も増加している(図2)。

「巣ごもり消費」は、このまま常態化する可能性が高い

上述のように、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、インターネットショッピングの利用が増加している。また93.5%の人が、新型コロナウイルスの感染拡大が収束した後でもインターネットショッピングを利用し続けたい、と考えている。加えて、46.2%の人がインターネットショッピングを「頻繁に利用し続けたい」と考えており、今回の買い物スタイルの変化を前向きに受け入れる人も多かった(図3)。
食事の宅配サービスについても、新型コロナウイルス感染拡大が収束したあとも「頻繁に利用し続けたい」人が21.4%、「頻度は減ると思うが利用し続けたい」人が51.7%と、計73.1%の人が今後も引き続きの利用意向を持つ(図3)。
インターネットショッピングや食事の宅配サービスについては、新型コロナウイルス感染拡大下の一時的な利用にとどまらず、今後の利用意向も高い。新型コロナウイルス感染拡大により広がった、「巣ごもり消費」という新たな買い物スタイルは、このまま定着し、一般的な買い物スタイルとして常態化していくと考えられる。

店舗での生活必需品の購入は、消費者の不安の軽減につながっている

不要不急の外出自粛が呼びかけられる中、店舗での生活必需品の購入は、消費者の不安の軽減につながっている。小売店舗が「気晴らし消費」の受け皿として認識されていることが、改めて明らかになった。
緊急事態宣言の適用地域は、4月16日には全国に拡大され、全国的に不要不急の外出自粛が呼びかけられている。こうした外出自粛に対し、6割近くの人が、不安を感じている(図4)。うち、7割の人が、店舗での生活必需品の購入やそれに伴う外出が、不安の軽減につながると考えている(図5)。これは、インターネットショッピングでの生活必需品の購入が不安の軽減につながると感じる人よりもかなり多く、店舗での買い物が、より消費者のストレス軽減につながっていると見て取れる。緊急事態宣言下であっても、住宅地付近の商店街で、人の密集が避けられなかったことには、こうした消費者心理があったと考えられる。
インターネットショッピングの利用など「巣ごもり消費」が増える一方で、店舗での買い物によりストレス軽減を図る「気晴らし消費」も、先行きが不透明な状況から勘案すると、今後常態化していく可能性が高いと推察される。デジタル化進展の中でも語られてきていたが、店舗での実体験を通じて、消費者を楽しませ、消費者に選ばれる店舗となることの重要性が、新型コロナウイルス感染拡大により改めて浮き彫りになった。

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、買い物の際の「接触」が忌避されている

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、店舗での「支払い・レジ待ち」をより面倒に感じるようになった人が64.1%も存在する(図6)。また、「店内を歩いて商品を探すこと」をより面倒に感じるようになった人も31.0%と一定数存在する。3つの密(密閉空間・密集場所・密接場面)の重なりが感染の原因になるとされ、生活における「接触」の抑制が求められる現在、店内での非接触が担保され、煩わしさが少ない店の在り方が求められているといえる。まずは、店舗におけるキャッシュレス決済手段の導入や利用促進を進めていくことが必要だろう。利便性は不可逆的であり、一度消費者に受容された便利なスタイルは、その後も根付いていくことが多い。支払いやレジ待ち、商品検索の利便性が高まり、一度消費者に受容されれば、このような煩わしさ(フリクション)が少ない店舗のスタイルが常態化していくと考えられる。

提言:ポストコロナにおける店舗デザインのキーワードは、「巣ごもり消費」・「気晴らし消費」・「非接触」

新型コロナウイルス感染拡大に伴う消費者の消費行動や心理の変化は、小売店舗にとって、逆境であるばかりではなく、改めて消費者より選ばれる店舗となる大きな”チャンス”でもある。「巣ごもり消費」・「気晴らし消費」・「非接触」の意識などのニーズの高まりに対応しつつ、消費者との間の心理的距離を縮められるような働きかけも重要になる。
上述のように、新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに、消費者の消費行動、心理が変化しつつある。消費者が店を選んで買い物に行く今だからこそ、小売企業側から消費者に対し、働きかけていく工夫も必要になってくると考える。今後は、これまで以上にテクノロジーやデジタルをうまく活用することが先決であろう。例えば、店内での非接触実現のため、キャッシュレス決済の導入、アプリやネットでの店舗の混雑状況の告知、購入商品の事前予約・取り置き、「ドライブスルー」での商品受け渡しなど、消費者に寄りそう施策はいくつも実現できそうである。例えば、フードサプライ社による、人の接触を最小限に抑えた形で野菜のセットを販売する「ドライブスルー八百屋」などの取り組みも例のひとつである。また、「気晴らし消費」がきっかけで来店した消費者にも、「来てよかった」と思ってもらい、店舗のファンになってもらうような仕掛け作りができるとよい。例えば、商品コンセプトやブランドストーリーを、SNSや動画メディア等を活用し、オンラインとリアルを融合した形で消費者に伝えることも一案だ。中国の先進的なセレクトショップでは、商品を棚に置くだけではなく、商品を使ったライフスタイル提案や商品ストーリーを、動画で伝える取り組みを行っている。動画は、ホームページやSNSからはもちろん、店舗で商品棚にあるQRコードを読み取ることによっても視聴が可能だ。店内では、商品を手に取りながら、動画でストーリーを楽しむことができ、消費者の店舗体験向上につながっている。

「巣ごもり消費」や「気晴らし消費」などの消費者の新たな消費行動が常態化していく中で、上述のように、テクノロジーやデジタルを活用することは不可欠であるが、デジタルでは代替できない、接客力、対話力を高め、リアルな店舗にて実践していくことも小売企業に求められる。消費者が店舗に求める価値は何かを常に追求し、磨き上げていく必要があるだろう。そのためにも、小売企業には、既存のビジネスの考え方や慣習にとらわれずに、「改めてどのような業種、業態に変わっていくべきか」、収益モデルも含め変革していくことが求められる。

ご参考

「新型コロナウイルス感染拡大による生活の変化に関するアンケート」の実施概要

  • 【調査方法】

    インターネットアンケート調査

  • 【対象】

    全国の満15~69歳の男女個人(人口動態割付)

  • 【有効回答数】

    2,064人

  • 【実施時期】

    4月22日~24日

執筆者

吉田 涼

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

矢野 亮

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

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お問い合わせ先

【提言内容に関するお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 未来創発センター
E-mail:miraisouhatsu@nri.co.jp

【報道関係者からのお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部
E-mail:kouhou@nri.co.jp