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スキルシェアの台頭:セーフティネットとしてのシェアリングエコノミー
~新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(6)シェアリングエコノミーサービス~

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2020/05/22

要旨

  • シェアリングエコノミーの市場は、モノ(メルカリなどのフリーマーケット型のサービスを含む)・スペースなど「ハード」なシェアリングサービスが牽引してきた。新型コロナウイルス感染拡大の影響下では、他人との物理的な共有が発生する一部ハードシェアの利用が一時的に減少しているものの、市場の中核を占めるフリーマーケット型のシェアリングサービスへの影響は少ない。
  • シェアリングサービスは、単に「共有」するだけではなく、変動する需要と供給を適切なタイミングと価格でマッチングさせる仕組みである。新型コロナウイルス感染拡大の影響により、家事・育児・介護などのケアシェア、ビジネススキルシェア・教育・ナレッジシェアなど、「ソフト」なシェアリングサービスでの利用が増えている。いずれも、コロナウイルス感染拡大下において休業している預かり施設の代替や、密を回避した非対面でのサービス提供を促進している。また、お金のシェアなど、シェアリングエコノミー非利用者が関心を示している分野もある。
  • ハードシェアの主な利用理由は「節約」や「時間の有効活用」である。ソフトシェアでは、これらに加え更に「スキルアップ・自己研鑽」や「社会貢献・社会参加」が利用理由として挙げられる。新型コロナウイルス感染拡大によって仕事・生活環境が変化し、人々の自己研鑽・社会参加ニーズが向上したことは、未だ黎明期にあるソフトシェアの市場拡大の後押しになる。
  • 予測不能な需要の変化は、「モノ」だけではなく「スキル・サービス」にも生じうる。シェアリングサービスは、非連続なニーズの変化に対し、資産や資源を適切に配分し、多様な人材への収入源を担保するセーフティネットとなる。その時々の環境に応じ、「必要な時に、必要なだけ」提供する仕組みを強みとするシェアリングエコノミー業界は、社会課題を解決する手段として、今後も有望な成長領域であり続けるだろう。

新型コロナウイルス感染拡大により、他人との物理的な共有を伴うモノ・スペースのシェアが減少。フリーマーケット型サービスは引き続き市場の中核を占める

シェアリングエコノミーとは、主にオンラインの仲介サービス・プラットフォームを利用して、他人同士がモノやスペース、移動手段やスキルを売買したり貸し借りしたりする仕組みのことである。「シェアリング」からまずイメージされるのは、不要な服や雑貨などをフリーマーケット形式で売買したり、使っていない部屋や車を貸し出したりする物理的な「共有」だろう。実際、シェアエコサービス利用経験者のうち最も多いのは物理的な「共有」―それも、不要なモノを売り買いするフリーマーケット型プラットフォームのユーザーである(28.9%)。その他のサービスでは、車や自転車などをシェアする移動シェア(13.7%)、民泊やオフィス、倉庫などのスペースシェア(11.2%)と続く。(図1)
新型コロナウイルスの感染拡大により、人との接触や外出が回避されるようになった。モノのシェアリングの中核であるフリーマーケットサービスでは73.0%が「コロナ感染拡大以降も利用意向は変わらない」としている。実際にメルカリなどのフリマサービスでは、「巣ごもり消費」や暇つぶしでの「息抜き出品」が多く見られ、取引件数が増加しているという。一方、民泊やオフィスなどのスペースシェアでは46.8%、車や自転車など移動のシェアでは既存のユーザーのうち30.9%、家庭用品などモノのシェアでは35.5%が「コロナ感染拡大を機に利用を減らした」としており、他人とモノを物理的に共有する一部のサービスに関しては利用のハードルが一時的に高くなっている。(図2)

家事・育児・介護などのケアシェア、スキルやナレッジシェアなどの「ソフト」なシェア領域では、新型コロナウイルス感染拡大により半数近くのユーザーの利用が増加した

シェアリングエコノミーは、単に他者と何かを「共有する」だけのサービスではない。需要と供給を過不足無くマッチングさせ、従来は企業を通じてしか得られなかった、または市場に出たこともなかった商品やサービスを、個人が主体的に融通できる仕組みである。モノやスペースには実態があり、品質や状態の評価が容易で、価格交渉や取引が想像しやすいことが、利用者の増加につながっていると思われる。
先に述べたモノやスペースなどの物理的な共有を「ハードシェア」と定義した時、実態の無い何かを共有する「ソフトシェア」が対局にある。ソフトシェアで提供されるサービスは、資格保有者による専門知識やビジネススキルから、家事・育児・介護代行、ちょっとした空き時間を使ったお手伝いといった生活スキルなど幅広い。
新型コロナウイルス感染拡大により、家事・育児・介護などのケアシェア(48.6%)、ビジネススキルシェア(46.5%)、教育・ナレッジシェア(47.7%)のいずれも、既存のユーザーの半数近くが「利用が増えた」としている。(図2)ケアシェアは、保育施設や介護施設等の代替手段として、通常は対面でのサービス提供が行われる。密な接触が求められるにも関わらず利用が増えている背景として、預かり施設の一時閉鎖などにより、働きながら育児・介護を行う必要に駆られている層に訴求していると考えられる。ケアを継続するため、営業停止した事業者で働くケア人材が、オンラインを通じてアドバイスを配信したり、給食に代わるお弁当を配達したりするなど、遠隔で部分的にサービス提供を行う事例もみられる。ビジネススキルシェアは、専門的な知識や知見を持つ専門家が、空き時間に専門業務を行ったり、相談に乗ったりするものである。教育・ナレッジシェアは、これまで市場に出てこなかった個人の特技や特定の領域における知識を、同じく空き時間に提供するものだ。いずれも、コロナ感染拡大前からリモートやオンラインで活発に使われていたが、在宅での空き時間が増えた事により、一層の利用拡大が進んでいる。

ソフトシェアでは「お金」「ケア」、ハードシェアでも「移動」「スペース」への興味・関心が高まっている

新型コロナウイルス感染拡大により、これまでシェアリングエコノミーを利用したことのない人の興味・関心が高まっている。いずれの分野も一定数の非利用者が興味・関心を示しているが、特にお金のシェア(14.5%)が高い。お金のシェアではクラウドファンディングなどの仕組みを通じ、金融機関などに大掛かりな融資を頼まなくても、個人が払えるだけ・払いたいだけ支払ったお金を集めることで、小中規模なプロジェクトを動かすことができる。「応援したい」「助けたい」気持ちがあれば少額から支援できる上、自身が支援した結果がプロジェクトの成果としてわかりやすく目に見えることが魅力である。ユーザーの利用増加傾向がみられる家事・育児・介護代行を併せたケアシェア(12.2%)への注目度も高い。
また、一時的に利用が低下している移動のシェア(11.0%)、スペースのシェア(10.5%)に対しても比較的高い興味・関心が寄せられている。移動のシェアでは、他者と物理的にモノ(車、自転車等)を共有するリスクがあるものの、電車やバスなど混み合う可能性のある公共交通機関を回避できるメリットがある。スペースシェアでは、民泊など旅行・観光に伴うシェアが控えられる一方、在宅勤務が奨励される中、自宅とオフィスの中間地点に静謐な環境を求める労働者によるシェアオフィスの需要が高まっていると思われる。(図3)

ソフトシェアの利用理由は「スキルアップ」と「社会参加・社会貢献」

ハードシェアを利用する理由では「節約・お小遣い稼ぎのため(65.8%)」が圧倒的に多く、「時間の有効活用(33.6%)」「暇つぶし(21.3%)」が続く。一方、ソフトシェアの利用・関心理由では、「節約・お小遣い稼ぎのため(25.5%)」「時間の有効活用(28.8%)」に並び、「スキルアップや自己研鑽のため(28.5%)」と「社会参加・社会貢献のため(20.0%)」とする層が一定数存在し、ハードシェアを上回っている。逆に、「暇つぶし(16.1%)」を理由にあげる人はハードシェアと比べて少ない。(図4)

(1)スキルアップ・自己研鑽

新型コロナウイルスの登場以前から、高齢化による労働期間の長期化が指摘され、AI・ロボットの導入が叫ばれていた。新型コロナウイルス感染拡大により、少しずつ進んでいた働き方改革が加速を強いられた。労働環境の変化、世界的な失業者の増加を目の当たりにし、従来型雇用への不安から個人のスキルセットや時間の使い方を見直した人は少なくないだろう。自己研鑽を推奨するこの機運が、スキルシェアサービスへの追い風となっている。オンライン上で完結するスキルシェアや教育・ナレッジシェアは、不測な市場の変化に対する保険として新しいスキルを蓄積したり、習得したスキルを副業として他者に提供したりする手段の1つである。短期的には、コロナウイルス感染拡大により変動した雇用環境において、自身のスキルや余暇をすぐにお金に変えられる。また、中長期的には、人生100年時代において、必ずしも組織や企業に従属すること無く、自身を単体として価値のある商材として市場に出す準備ができる。

(2)社会参加・社会貢献

今、メディアやSNSでは、営業停止を与儀なくされた事業者や、現場の疲弊を訴える医療従事者の声が溢れている。仕事と子供の世話・教育に同時に対応している子育て世帯からも、疲労やストレスなどの悩みが聞かれる。これらに対し、クラウドファンディング事業者は、イベント中止・自粛を発表したアーティストやイベント事業者、来店客数が著しく減少した飲食店舗・宿泊施設など、経営に大幅な支障をきたした事業者の資金調達や販路開拓を積極的に支援している。医療機関に対し、マスクや消毒液など衛生用品を寄付する動きもある。また、スキルシェア事業者により、学校や保育園の休校・休園により教育を受けられない子供に対し、在宅で参加できるオンライン授業や保育指導が提供されている。在宅状況にあっても、何らかの形で社会貢献・社会参加を実感したい人にとって、シェアリングサービスはオンラインで簡単に他人を支援できる格好のツールである。
スキルシェアは、オンラインでは補えない人手不足にも一役買っている。農業をはじめとする第一次産業では、コロナの影響により現場作業を担う外国人材が渡航できず、足元の労働力が不足している。これに対し、「お手伝い」してくれる人材をマッチングする動きがある。余剰人材が増えた観光業界などから、一時的な雇用提供のために人材が融通されているのに加え、経済活動の停滞により時間に余裕ができた人々が、対面のハードルを越えて支援に駆けつけるケースもある。
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、自己研鑽や社会貢献の意欲が高まった。これらの意識の変化をシェアリングというビジネスモデルに取り込むことで、ソフトシェアリングという新しい市場が拡大しようとしている。シェアリングサービスを提供する事業者は、このような変化を考慮に入れたサービス提供や認知向上に向けた施策を行っていく必要がある。

シェアリングエコノミーに対し交流の価値を求めるよりも、高いコストパフォーマンスを求める人が多数派に

一般的にシェアリングエコノミーでは、他人との交流の場作りが大きな価値としてアピールされている。オンラインプラットフォームを利用して、より広く、より多くの人と交わる機会を醸成しようというのだ。シェアリングサービスが立ち上がりはじめた頃は、人との交流や「シェアリング」という思想そのものに価値を求める人が多数派だった。一方、調査によれば、既存のシェアリングサービスに「交流機会(3.6%)」の改善はもう求められていない。総じて「提供価格の低下(37.1%)」「品質の向上(26.8%)」「トラブル対応の徹底(22.2%)」が求められている。個人間のやり取りでは、企業が提供する商品・サービスよりも安いが、だからこそ一定の品質やサービス水準が保証されている必要がある。「安かろう悪かろう」は認められないのだ。シェアリング市場は、単に他人との「交流」を求める層だけではなく、できるだけ低コストでスキルアップ・社会参加し、収入に繋げるというコストパフォーマンスの高い対価を求める層へと利用が拡大している。
なお、新型コロナウイルス感染拡大の影響下にあって、「消毒・清掃(24.6%)」を求める声は多いが、必ずしも「非対面の徹底(5.1%)」が重視されるわけではない。(図5)

新型コロナウイルス感染拡大は、シェアリングエコノミー業界における好機となりえる

新型コロナウイルス感染拡大により、市場は生活・仕事面で急激な環境変化を強いられている。営業停止を与儀なくされた職種・業界では、今日・明日の仕事を求める人が増えている。また、営業停止にならないまでも、通常業務が停滞し、時間を持て余している人は一定数存在するだろう。経済の停滞感や閉塞感を前に、所与のスキルセットに限界を感じ、市場で本当に求められるスキルの開拓やスキルチェンジに取り組む人、関心を持つ人が増加していると思われる。一方、育児・介護などのケアサービスに依拠することで日常生活を維持していた人は、新型コロナウイルス感染拡大以前には想定できなかった負担に直面し、ケアサービスに代わるケア人材を求めている。農業など第一次産業では、外国人材に代わる「お手伝い」人材の確保が急務である。
ソフトなスキルは、ハードなモノやスペースと異なり、誰もが提供できる可能性を秘めている。可視化されていないものや、これまで市場価値が与えられてこなかったものも多く、伸び代があるといえる。高度なビジネススキルだけではなく、「名も無きスキル」「名も無き時間」にも値段が付き、お金に代えられるようになる。現在、最も利用率が高いフリーマーケット型のシェアリングサービスでは、大手事業者が主導する中古市場では値がつけられないような商品も、時に市場流通価格を上回る金額で取引されている。もちろん、生活必需品の転売など、不当に高額な取引は是正されなければならないが、市場を面で見ず点で捉え、人によって異なる「価値ある商品」をスポットで提供し、金銭に代えていく仕組みは、未だ黎明期にあるスキルシェア業界にとても重要な示唆になるだろう。今後はソフトなシェアリングサービスにおいても、様々なスキル・サービスに対して需要を基準とした流動的なプライシングが行われていくことが期待される。
新型コロナウイルス感染拡大により、マスクをはじめとする「モノ」のみならず、「スキル・サービス」にも平常時は予測できなかった需要と供給の変化が生じている。シェアリングサービスは、このような非連続なニーズの変化に対し、資産や資源を適切に配分し、多様な人材への収入源を担保するためのセーフティネットとなりうる。今後は、従来主流であったハードな分野のみならず、ソフトな「スキル・サービス」を含めた幅広い分野でのシェアが活性化していく。まだ立ち上がり始めた分野において、非利用者を積極的に取り込むためには、シェアリングにおける「成功」を定義し、その事例を増やして周知していく必要がある。特にソフトなシェア領域において、「スキルアップ」「他者への貢献」をベースにしたサクセスストーリーを作るのは、決して難しくはない。その時々の環境に応じ、「必要な時に、必要なだけ」提供する仕組みを強みとするシェアリングエコノミー業界は、社会的要請に裏付けられた有望な成長領域であり続けるだろう。

ご参考

「新型コロナウイルス感染拡大による生活の変化に関するアンケート」の実施概要

  • 【調査方法】

    インターネットアンケート調査

  • 【対象】

    全国の満15~69歳の男女個人(人口動態割付)

  • 【有効回答数】

    2,064人

  • 【実施時期】

    4月22日~24日

執筆者

中尾 実貴

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

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