フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(サマリー) ~変革を契機にしたDX実現にむけて~ 子育て家庭におけるサービスニーズの変化:男性の家事・育児参加拡大に伴い、男性単独や夫婦でも利用しやすいサービスが求められる~新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(7)家事・育児サービス~

子育て家庭におけるサービスニーズの変化:男性の家事・育児参加拡大に伴い、男性単独や夫婦でも利用しやすいサービスが求められる
~新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(7)家事・育児サービス~

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

2020/05/22

  • 新型コロナウイルスの影響で、小学生以下の子供を持つ子育て男性の家事・育児に対する参画意識は高まっており、家事・育児時間も増えている。しかし、それでもなお家事・育児の負担は女性に偏る傾向にある。
  • 消費意識については、特に女性でコスト削減への意識が高まる一方、男性ではその傾向が見られず、上記の家事負担の不平等と相まって、夫婦における心理的な距離ができる一因となっている可能性がある。
  • 家事・育児関連サービスについては、オンライン上でほぼ完結するサービスの利用・利用意向が高まっているが、訪問型家事支援など人と人が密に接するサービスは伸び悩みがみられる。ただし、子育て男女間で比較すると、子育て女性がコスト意識などから新たなサービスの活用に慎重であることに対し、子育て男性は訪問型家 事支援をはじめとするサービス全般への利用意向が女性よりも高く、ここでも意識の差がみられる。
  • 新型コロナウイルスの影響下(ウィズコロナ)においては、家事・育児サービス事業者は、オンラインサービスの拡充やソーシャルディスタンスに配慮したサービスの提供により、新型コロナウイルスの影響による家事・育児負担増で逼迫する家庭の支援が求められる。
  • 新型コロナウイルスの影響が弱まっても(アフターコロナ)、かつては女性が意思決定を下してきた家事・育児サービス利用について、男性も積極的に関与する可能性がある。男性目線で活用しやすいサービスや、意識差のある夫婦が納得して一緒に利用できるような工夫、例えば利用前のオンライン面談やITツールを活用した家事・育児実態の可視化などのニーズが高まるのではないか。

新型コロナウイルスの影響で家事・育児の時間は男性・女性ともに増えたが、負担は女性に偏りがち

新型コロナウイルスの感染拡大により、在宅勤務や、保育園・学校の閉鎖などにより、日々の生活が大きく変化した家庭も多いだろう。野村総合研究所(NRI)では、家事・育児の負担が最も大きいと考えられる、小学生以下の子供が同居する家庭に属する男性・女性をそれぞれ「子育て男性」「子育て女性」と定義した。そのうえで、①家事・育児における負担、②家族や消費に対する意識、③家事・育児の負担を軽減するサービスへのニーズという3つの視点で、新型コロナウイルス感染拡大が子育て男性・女性にどの様な影響を与えたのか、アンケート調査を実施した。
まず①家事・育児における負担について、子育て男性・女性の約7割が家事・育児にかける時間が増加した(27%は1日2時間以上の増加)と回答しており、保育園の休園や学校の休校によって、負担増となっていることが伺える(図表 1:新型コロナウイルス感染拡大前と比較して、1日あたりに家事・育児に費やす時間の変化)。増えた家事・育児の時間の捻出方法について、男女共に一番多い回答は「自分の余暇時間を削った」であり、女性は78%、男性も47%となっている。また、男性の44%が「テレワークなどの業務環境の変化により、仕事の負荷が低減された」と回答しており、テレワークなどで長くなった在宅時間を家事・育児に充てていることが確認される。他方、男性の31%は「パートナーが時間を増やした」(女性は10%)と回答しており、女性に負担が偏りがちと考えられる。さらに、女性の10%が「パートナー以外の親戚・知人・友人などのサポートを受けた」と回答しており(男性は3%)、パートナーから得られなかった支援を親戚などにお願いしてカバーしている可能性がある(図表 2:増えた家事・育児時間の捻出方法)。

男性の家事・育児への参画意向は高まっているが、女性とは重視するポイントの違いも確認される

次に、②家族や消費に対する意識の変化について、「育児において、母親と父親では平等に参加すべきである」や、「家事は夫婦で協力して行うべきである」といった考え方は子育て男性・女性共に高くなっており、新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに、家事・育児の平等な負担への意識が高まっているといえる(図表 3:新型コロナウイルスの感染拡大前と比較した、家庭に対する意識の変化)。ただ、消費意識については、「とにかく安くて経済的なものを買う」、「できるだけ長く使えるものを買う」という意識が女性は7割弱が高まったと回答しているのに対し、男性は約4割に留まっており、意識に差があることが確認された(図表 4:新型コロナウイルスの感染拡大前と比較した、消費に対する意識の変化)。また、「感染拡大にこだわる」について69%の女性は意識が高まったと回答しているのに対して、男性は55%で、新型コロナウイルスそのものに対する意識にも差が確認された(図表 6:新型コロナウイルスの感染拡大前と比較した、意識の変化)。
先述の家事・育児負担の現状と併せて分析すると、女性はコスト意識が高く、できるだけ自身で家事・育児を負担している一方で、男性はコスト意識が女性よりも低く、(経済的コストがほぼゼロである)自身での負担は増やしているものの女性に比べると限定的、という状況が確認される。このような意識の差は、夫婦における心理的な距離ができる一因となっている可能性がある。子育て男性の3割強、女性の5割弱が、「夫婦がうまくやっていくためには、お互いの自由時間の使い方に干渉すべきではない」や「夫婦がうまくやっていくためには、一定の距離が必要である」といった考え方が強くなったと回答している。ただし、子育て男性・女性以外の回答者でも同様の傾向が見られるため、家事・育児負担以外にも理由があると考えられる。(図表 5:新型コロナウイルスの感染拡大前と比較した、夫婦に対する意識の変化)。

子育て男性は幅広いサービス活用による効率化に積極的な一方、子育て女性はコスト意識が高く活用意向は限定的であり、ここにも意識の差がみられる

最後に、③家事・育児の負担を軽減するサービスについて、新型コロナウイルス感染拡大の影響下で利用意向が高まったものをランキング形式で示す(図表 7:家事・育児関連サービスに対する利用意向)。家事・育児関連サービスについては、子供に見せる用途での有料の動画配信サービス、オンライン学習支援サービス、宅配・宅食サービスなど、インターネットでほぼ完結するサービスの利用・利用意向が高まっている。特に、オンライン学習支援サービスは新型コロナウイルス感染拡大以前での知名度や利用状況等を踏まえると、利用意向が特に高まったサービスと言える。新型コロナウイルス感染拡大による学習機会の損失への問題意識が高まっているとみられる。一方で、子供の一時預かり、訪問型家事支援サービスなどは、家事負担の低減効果が高いと想定されるにも関わらず、利用意向がほとんど増えておらず(各10%未満の増加)、人と人が密に接する可能性のあるサービスは、新型コロナ感染拡大の影響下での利用ハードルが高いと考えられる。
ただし、子育て男性・女性間で比較すると、男性はほとんどのサービスにおいて利用意向が高まっている割合が高い(図表 8:家事・育児関連サービスに対する利用意向の男女差)。特に高いのは有料の電子書籍サービスのほか、子育てシェアサービス、訪問型家事支援サービスのように人との接触の懸念があるものの根本的な家事負担の低減が見込めるサービスにおいて、女性と比べて利用意向が高くなっている。一方、子育て女性が、男性に比べて顕著に利用意向が高いのは、食材等の宅配サービスのみである。
コスト意識の高い子育て女性は新サービスの活用・支払いに慎重である一方で、新型コロナ感染拡大を機に家事・育児に参画し始めたであろう子育て男性は、コスト意識や感染拡大への懸念が女性ほど高まっていないことも相まって新サービスの利用意向が相対的に高くなっているためと考えられる。このように、サービスの利用意向からも、子育て男女間の意識の差を確認することができる。

ウィズコロナにおいては、オンラインサービスの拡充やソーシャルディスタンスへの配慮を通じて、家事・育児で逼迫する家庭の支援が必要である

これまで述べたように、新型コロナウイルスの影響によって、子育て男性・女性の家事・育児負担は増えている。それにも関わらず、人と人が密に接するサービスは利用意向が高まっておらず、利用したくても利用できない様子が伺える。そのため、家事・育児支援サービス事業者においては、ユーザーにおける感染への懸念を低減する工夫が必要となる。例えば、ベビーシッターの派遣サービスを手掛けるキッズラインでは、2020年4月より、家庭教師サービスや育児相談をオンラインで提供している。また、家事代行サービスのベアーズでは、2020年5月より、家事代行サービスについてのオンラインカウンセリング、訪問時に顧客と距離を確保しての掃除、作業終了時の除菌などを含む「家事代行ソーシャルディスタンスサービス」を開始した。このようなサービスのオンライン化やソーシャルディスタンスへの配慮は、家事・育児で逼迫する家庭にとってサービス利用のハードルを下げ、負担低減に寄与するだろう。

アフターコロナでは、家事・育児関連サービスの意思決定に男性が関わることで、男性目線で活用しやすいサービスや、意識差のある夫婦が一緒に利用できるようなサービスが求められる

新型コロナウイルスの影響が弱まる「アフターコロナ」においても、在宅勤務・テレワークといった働き方がニューノーマルの一つになれば、男性の家事・育児への参画意識は下がることなく維持されると考えられる。したがって、これまでは主に女性が担ってきたサービス利用の意思決定に、男性が関与することになり、家事・育児支援サービスを提供している事業者は、この変化を捉えてサービスを提供する必要がある。すでに述べたように、男性は、女性に比べると負担が軽くなるならばコストが多少かかっても気にせず、新たなサービスの活用にも積極的であるため、事業者としては、家事負担の軽減に効果が大きい家事代行サービス、オンラインを通じた新サービスを売り込む機会が拡大すると考えられる。例えば、男性が担当しやすい家事(掃除・水回りなど)の支援を全面に出したプロモーションや、家事スキル不足を補うためのレッスンなど、男性目線で活用しやすいサービスのニーズも高まるだろう。
一方で、意思決定者が複数となることで、合意形成という新たな障壁が生まれる可能性もある。仮に家事を負担しようと思った男性(もしくは女性)が、外部に家事支援を頼もうと思っても、コストやサービス内容に夫婦で合意できなければ(これまでに述べたような意識の差を埋めなければ)サービスは利用されない。この意識の差をサービス事業者が単独で埋めることは容易ではないが、例えば、分担の前段階となる家事育児の「可視化・共有」などが一つの手段として考えられる。家事分担アプリなどのツールや、先述のオンラインカウンセリングなどを通じて、夫婦で抱えている家事・育児業務はどれだけあり、どの程度の負担になっているのかが可視化・共有されれば、それらのうち夫婦で分担した方がよいもの、コストを踏まえても外部に任せたほうがよいものを、認識を合わせながら仕分けていくことが可能になるのではないか。
男性の家事・育児参画は、女性の社会進出のだけではなく家庭生活の満足度の向上にも繋がると考えられている(男女共同参画会議「男性の暮らし方・意識の変革に向けた課題と方策」(平成29年3月)など)。新型コロナウイルスの感染拡大を契機とした男性の家事・育児参画意識の高まりを意識だけに終わらせず、実際の参画につなげることは、事業者自身の事業拡大のみならず、子育て家庭の暮らし方を変え、生活への満足感を向上させる一助となるのではないか。

ご参考

「新型コロナウイルス感染拡大による生活の変化に関するアンケート」の実施概要

  • 【調査方法】

    インターネットアンケート調査

  • 【対象】

    全国の満15~69歳の男女個人(人口動態割付)

  • 【有効回答数】

    2064人

  • 【実施時期】

    4月22日~24日

  • 注1):

    別設問で、「新型コロナウイルス感染拡大の影響で、家事・育児の負担が増加した」と回答したひとのみ回答

  • 注2):

    複数回答可能

  • 注):

    上記は①「利用が増えた(コロナ感染拡大前から利用していたが、利用回数が増えた)」、②「利用を開始した(コロナ感染拡大前は利用していなかったが、利用した)」、③利用意向が高まったが利用していない(コロナ感染拡大前よりも利用したいと思うようになった)の合計値

執筆者

中山 太一郎

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

名武 大智

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

お問い合わせ先

【提言内容に関するお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 未来創発センター
E-mail:miraisouhatsu@nri.co.jp

【報道関係者からのお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部
E-mail:kouhou@nri.co.jp