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NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(サマリー) ~変革を契機にしたDX実現にむけて~ 転職市場の変化:柔軟な雇用形態への制度的対応や組織の意思決定スピードが採用競争力を左右する時代へ~新型コロナウイルス感染拡大によるICTメディア・サービス産業の変革と対応策(8)人材サービス~

転職市場の変化:柔軟な雇用形態への制度的対応や組織の意思決定スピードが採用競争力を左右する時代へ
~新型コロナウイルス感染拡大によるICTメディア・サービス産業の変革と対応策(8)人材サービス~

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2020/05/25

  • 野村総合研究所は、2020年4月22日~24日に、男女計2,064人を対象としたインターネットアンケート調査を実施した。
  • 新型コロナウイルス感染症拡大以前に転職を検討していた人のうち、約4分の1は感染拡大後に検討を積極化するも、約半数の人は感染拡大後に検討を保留・延期、または中止することから、活況であった転職市場は、短期的には冷え込むことが予想される。
  • 感染拡大により、特に人との接触を伴うサービス領域などへの影響が深刻化。他方で、コロナ災禍の下でも事業継続の確かな企業や、在宅勤務・時短勤務など柔軟な働き方が認められる企業、専門的なスキル・技能を要する職種への人気は継続。今後、採用を進めたい企業においては、働き方の柔軟性やスピーディな対応・決断を下せる組織能力の獲得が課題になると考えられる。

新型コロナウイルス感染症拡大以前に転職を検討していた人のうち、約4分の1は感染拡大後に検討を積極化。他方で、約半数の人は感染拡大後に検討を保留・延期、または中止することから、活況であった転職市場は、短期的には冷え込むことが予想される

野村総合研究所が、2020年4月22日~24日に、男女計2,064人を対象に実施したアンケート調査の結果によると、新型コロナウイルス感染症拡大前から転職を検討していた人が全体の19.5%で、そのうち感染拡大後に検討を積極化した人の割合は24.2%、拡大後に保留・延期、または中止した人の割合は49.5%であったことがわかった。ただし、感染拡大後に新たに転職について検討し始めた人は全体の2.4%であった(図1)。
検討状況が変化した要因としては、感染拡大後に転職検討を積極化、または新たに転職検討を開始した人では、「感染拡大の影響で、現職の事業環境が悪化したため」と回答した人の割合が36.1%と最も高かった(図2)。他方で、感染拡大後に転職検討を保留・延期、または中止した人では、「外部からの情報などで、感染拡大の影響で転職が難しくなると聞いたため」と回答した人の割合が28.1%と最も高く、次いで「感染防止のために遠方への移動などが制限されたため」が26.1%、「転職を希望していた企業での採用活動が休止・消極化したため」が23.6%であった(図3)。
上述のように、感染症拡大を機に、転職を保留・延期、または中止した人の割合が目立ったことや、4月28日に厚生労働省が発表した3月の有効求人倍率(季節調整値)が1.39倍となり、3カ月連続で下落、3年半ぶりに1.4倍を割るなど求人数の減少が顕在化しつつあることからも、短期的には転職市場は冷え込むことが予想される。さらに、2008年のリーマン・ショックの際には、労働需要がリーマン・ショック前の水準に回復するまで約5年程度かかったことから、今回のコロナショックによる影響も今後数年に渡って継続する恐れもあるだろう。

コロナ災禍の下でも事業継続の確かな企業や、在宅勤務・時短勤務など柔軟な働き方が認められる企業、専門的なスキル・技能を要する職種への人気は継続。採用を進めたい企業においては、働き方の柔軟性やスピーディな対応・決断を下せる組織能力の獲得が課題に

転職検討者の希望業界・職種について、感染拡大前後での変化をみると、業界では、サービス系が▲5.1%ポイント(23.1%→18.0%)と最も下落幅が大きく、次いでメーカー系が▲4.3%ポイント(12.9%→8.6%)となった。他方で、「希望は特にない」と回答した人の割合は感染症拡大前後で+4.6%ポイント(23.3%→27.9%)と最も上昇幅が大きかった(図4)。職種については、事務・管理が▲3.6%ポイント(28.2%→24.6%)、サービス・販売・外食が▲3.4%ポイント(16.9%→13.5%)と下落していた。他方で、「希望は特にない」と回答した人の割合は拡大前後で+4.4%ポイント(19.1%→23.5%)と、希望業界同様に最も上昇幅が大きかった(図5)。
業界・職種ともに、サービス領域をはじめとした人と人との接触を伴う仕事への影響が顕著であり、こうした業界・職種への抵抗感・危機感が大きく表れているものと考えられる。また、「希望が特にない」と回答した人の割合が上昇していることから、より早急な転職決定を望む傾向が強まっているだけでなく、現業の業績悪化等に伴い転職せざるを得ない労働者が増えた可能性も伺える結果となった。
他方で、コロナの影響下であっても、転職後の希望職種として「専門職(コンサルタント・金融・不動産)」(6.7%→6.7%)や「ITエンジニア」(6.9%→6.9%)、「機械・電機・化学エンジニア」(6.7%→6.7%)などの職種では感染拡大前後の差がなく、こうした専門的なスキル・技能を要する職種の人気は引き続き下がりにくいと想定される(図5)。リーマン・ショックの際にも、多くの企業で、若手第2新卒をはじめとしたポテンシャル採用から、より専門性・生産性の高い人材を獲得しようという動きが強まったこともあり、今回も同様の傾向が強まる可能性はあるだろう。
また、採用される人々の就業先企業を選ぶ際の重視点も大きく変化しており、「在宅勤務・時短勤務など柔軟な働き方が認められること」と回答した人の割合は感染拡大の前後で+10.2%ポイント(11.3%→21.5%)、「不測事態への対応・決断力に優れていること」は+7.8%ポイント(7.3%→15.1%)と大きく上昇していた(図6)。今回のコロナショックによって、企業の柔軟性や対応力、決断力が期せずして炙り出されたことで、転職者にとっての新たな企業判断基準が形成され始めたと考えられる。
今回のコロナ感染症の拡大によって、転職市場全体として需要の落ち込みがみられた一方で、こうした状況下でも人気の業界・職種、企業の特徴・要件が浮き彫りになる結果となった。採用を進める企業にとっても、今後、働き方の柔軟性やスピーディな対応・決断を下せる組織能力を持った企業へと変革していくことがより求められていくことだろう。くわえて、社員の労務管理やマネジメント手法、雇用形態なども、在宅勤務・時短勤務などの多様な働き方に対応していく必要性が生じ始めており、特に雇用形態においては、より直接的に成果と連動している成果報酬型、ひいてはジョブ型(職務(ジョブ)や勤務地、労働時間等が明確に定められた雇用形態)にシフトしていく可能性も想定される。こうした動きはこれまでベンチャー企業や一部外資系企業では進んでいたが、改めて今回のコロナ禍を契機とした市場の変化に対応しきれない企業は、人材獲得競争においてますます苦戦を強いられることになるだろう。

ご参考

「新型コロナウイルス感染拡大による生活の変化に関するアンケート」の実施概要

  • 【調査方法】

    インターネットアンケート調査

  • 【対象】

    全国の満15~69歳の男女個人(人口動態割付)

  • 【有効回答数】

    2064人

  • 【実施時期】

    4月22日~24日

執筆者

宮崎 地洋

DXコンサルティング部

森田 哲明

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

 

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お問い合わせ先

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株式会社野村総合研究所 未来創発センター
E-mail:miraisouhatsu@nri.co.jp

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