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NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(サマリー) ~変革を契機にしたDX実現にむけて~ プロフェッショナルサービスの家庭内普及を好機と捉え、新たなサービス開発も含めた市場のすそ野拡大に向けた取組みを ~新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(9)美容健康サービス~

プロフェッショナルサービスの家庭内普及を好機と捉え、新たなサービス開発も含めた市場のすそ野拡大に向けた取組みを
~新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(9)美容健康サービス~

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2020/05/27

要旨

  • 美容・健康分野は比較的安定している市場であるが、新型コロナウイルスの感染拡大はこれまでとは異なる大きな変化をもたらしている。
  • 外出自粛により、美容分野ではメイクアップを控えながら肌を休ませて、最低限のスキンケアだけ実施、健康分野では時間をかけてもいいので、なるべく出費を控えて自宅で取り組める健康活動を充実させるという行動変容が起きている。
  • 利用していた店舗が臨時休業や営業時間短縮している場合、買い控えや、オンラインへのシフトの意向を示した人が見られた。また、商品のテスター利用、対面カウンセリングやエステ、スポーツジムなど店舗で専門的な知識を持つ人により施術や指導が行われるプロフェッショナルサービスの必要性を感じなくなった人も増えている。つまり、店舗での美容・健康関連の商品購入やサービス利用へのニーズが低下している。
  • 国内でも、プロフェッショナルサービスのオンライン提供が始まっており、プロフェッショナルサービスが家庭内に普及し始めていると捉えることができる。美容・健康に関連する事業者は、店舗を思うように運営できない今こそ、プロフェッショナルサービスの家庭内普及を好機と捉え、EC強化だけでなく、オンラインコンシェルジュなど、新たなオンラインサービス開発も含めた市場のすそ野拡大に向けた取組みを行っていくべきではないか。

美容分野は全体的に利用意向が低下したが、健康分野では家トレを中心に利用意向が増加

近年、美容・健康分野の商品・サービスの市場規模は、堅調に推移してきた。特に美容分野ではSARSやリーマンショックの際も、消費支出額は10%程度の変動幅にとどまった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大は、消費者の外出時間の減少などを背景に、これまでとは異なる大きな変化をもたらしている。
そこで、野村総合研究所が2020年4月22日~24日に全国の満15~69歳の男女個人を対象に実施したインターネットアンケート調査の結果に基づき、美容・健康分野における新型コロナウイルス感染拡大の影響と、今後の対応策について考察した。
まずは、美容・健康に関する時間とお金の使い方の意識変化を他の分野と比較した。今般の外出自粛の影響により、全般的に使う時間を増加させたいと思う一方で、先行きが不透明な中で節約志向が強まっているが、アンケート結果からは分野により違いがある事がわかった。ここでは、美容・健康分野それぞれについて、商品・サービス別の利用意向の変化と共に、新型コロナコロナウイルス感染拡大の影響を詳細に述べる。
美容分野では、新型コロナコロナウイルス感染拡大を受けて、時間もお金も控えたい分野の一つとなっている(図1)。商品・サービス別に利用意向の変化をみると、店舗へ行くことが前提となるサロンについては、半数を超える人が、利用意向が下がったと回答している(図2)。一方、自宅で利用することが多い商品・サービスにおいても、全体的には利用意向は低下の傾向が見られたものの、サロンと比較するとその度合は限定的であった。化粧品については、スキンケア、メイクアップともに利用意向が下がった人が多いが、スキンケアはメイクアップと比較すると意向の低下は限定的である。これは、スキンケアはメイクアップと比較して、外出しなくとも必要なものであるという意識の現れであろう。また、年代別でみると、スキンケア化粧品の利用意向が増加している人は30代以上では少ないが、20代以下では多いという傾向が見られた(図3)。この年代差に着目すると、外出しなくとも必要なスキンケアについて、インターネットやSNSなどでの情報収集に慣れている消費者は、在宅時間の増加により情報収集の時間も増え、意向増につながっていると考えられる。一方、メイクアップ化粧品では20代女性を中心に、全年代で意向が低下している人が多い(図4)。この傾向から、年代を問わず、メイクアップをしないことで肌を休ませたいという意識が垣間見える。
健康分野である運動/トレーニングと食事では、時間を増やしつつも出費は抑えようとする傾向が見られた(図1)。商品・サービス別では、施設での運動トレーニングを控える一方、在宅時間の増加に伴い、自宅内での運動・トレーニング(家トレ)の利用意向が高まっている(図5)。性年代別では、男性女性問わず、すべての年代で家トレの意向が増加しているものの、特に若年層での利用意向の増加が顕著である。また、健康器具についても、20代・30代男性での利用意向増加が目立っている(図6)。
このように、新型コロナコロナウイルス感染拡大を受けて自宅にいる時間が増えたため、美容分野については、メイクアップを控えながら肌を休ませ、最低限のスキンケアで十分という意識が現れ、健康分野については、時間はかかってもいいので、なるべく安価に自宅で取り組める健康活動を充実させたいという意識が現れている。

新型コロナウイルス収束後は、店舗での美容・健康関連の商品購入やサービス利用へのニーズが低下する可能性も

新型コロナコロナウイルス感染拡大による外出自粛によって、美容・健康関連の商品を購入するチャネルにも変化が起きている。普段ドラッグストアやコンビニエンスストア等の店舗で購入している人に対して、利用していた店舗が臨時休業や営業時間短縮している場合、買うのを我慢するか尋ねたところ、約4割が当てはまる、もしくは、やや当てはまると回答した(図7)。一方、店舗で美容・健康関連の商品を購入している人のうち3割弱が、利用していた店舗が臨時休業や営業時間短縮している場合、オンラインを活用する意向を示している(図8)。このように、全体としては買い控えの意向が強く表れてはいるものの、購入チャネルのオンラインシフトが加速する可能性は高いと考えられる。
また、商品のテスター利用、対面カウンセリングやエステ、プロフェッショナルサービス(スポーツジムなど店舗で専門的な知識を持つ人により施術や指導が行われるサービス)のニーズを確認したところ、各利用者の2~4割程度の人が必要性を感じなくなったと回答した(図9)。このように、これまで美容・健康産業では、店舗で専門家が対面でサービス提供することにより高い付加価値を提供してきたが、その価値を消費者が感じなくなりつつある可能性がある。実際に、多くの店舗やエステサロン、フィットネスジムなどが休業している中、オンラインでインストラクターによるフィットネスプログラムを受講できるオンラインフィットネスサービスや、美容部員によるオンラインカウンセリングサービスも既に登場してきている。新型コロナウイルス収束後も、対面でのプロフェッショナルサービス提供に対する需要が完全には回復せず、オンラインでのサービス提供が引き続き求められる可能性も十分にある。

プロフェッショナルサービスの家庭内普及を好機と捉え、市場のすそ野拡大に向けた取組みを

このように新型コロナウイルスの感染拡大を受け、多くの人が多くの時間を家で過ごさざるを得なくなったため、美容・健康分野における消費意識にも多大な変化をもたらした。新型コロナウイルス感染拡大は徐々に収束してきているが、化粧品の利用意向の低下や、自宅での健康関連商品・サービスの利用意向の増加は、一部常態化する可能性もある。こうした流れの中で、店舗での美容・健康関連の商品の購入やプロフェッショナルサービス利用へのニーズの低下も継続する可能性があるため、これらをリスクと捉えて、事業者は今から新型コロナウイルス収束後に向けて、ECの強化や店舗でのプロフェッショナルサービスの代わりとなるオンラインサービス提供などに取り組むことが必要である。
既に新型コロナウイルスの感染がピークアウトし、収束に向かいつつある中国では、自社の販売員やKOL(Key Opinion Leader、ネットなどで影響力の高い有名人)を活用して商品をライブ動画で紹介し、ECで購入してもらうなどの取組みが加速している。易観国際によると、2019年は、美容・健康分野に限らないEC全体の売上高のうち、ライブ動画によるものは5%程度であったのに対し、2020年1月から2月の実績では12%程度となっており、ライブ動画でのEC販売が大きく成長している。
日本でも、かねてより、EC強化を課題として掲げる事業者も多かったが、日本では消費者の店舗へのロイヤリティが高いこともあり、EC強化にリソースを割くことが難しかった。新型コロナウイルスの感染拡大を機に、美容健康関連では一部の消費者は店舗からオンラインへとチャネルシフトする意向を見せているなど、消費者が店舗を利用できず、オンライン利用の機会が増えつつある今こそ、EC強化の絶好の機会と捉えることができるのではないだろうか。
また、店舗でのプロフェッショナルサービス提供に代わるオンラインサービスとしては、前述のオンラインでのプロフェッショナルサービス提供のほか、健康分野では、個人の健康データから、AIがおすすめのトレーニングを提案したり、健康に関する悩みをAIチャットボットに相談できるサービスなども注目を浴びている。新型コロナウイルス収束後は、外出自粛期間中と比較すると在宅時間が短くなり、手軽に利用できるサービスへのニーズが高まると予想されるが、これらのオンラインサービスは、そのような時短ニーズにも応えることができるのではないだろうか。店舗での商品購入や、プロフェッショナルサービス利用のニーズ低下に対応していくために、美容・健康に関連する事業者は、オンラインでのプロフェッショナルサービスの拡大を好機と捉え、個人の健康・美容に関するデータを活用したコンシェルジュサービスなど、新たなサービス開発も含めた市場のすそ野拡大に向けた取組みを行っていくことが重要だろう。

ご参考

「新型コロナウイルス感染拡大による生活の変化に関するアンケート」の実施概要

  • 【調査方法】

    インターネットアンケート調査

  • 【対象】

    全国の満15~69歳の男女個人(人口動態割付)

  • 【有効回答数】

    2,064人

  • 【実施時期】

    4月22日~24日

執筆者

村田 岳

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

郷 裕

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

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お問い合わせ先

【提言内容に関するお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 未来創発センター
E-mail:miraisouhatsu@nri.co.jp

【報道関係者からのお問い合わせ】
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E-mail:kouhou@nri.co.jp