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NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(サマリー) ~変革を契機にしたDX実現にむけて~ 在宅勤務・リモートワーク時代の飲食店の在り方:家での飲食機会増加を受け、店舗に依存する従来のビジネスから、デジタルを活用した効率的なビジネスへの転換が必要~新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(10)飲食~

在宅勤務・リモートワーク時代の飲食店の在り方:家での飲食機会増加を受け、店舗に依存する従来のビジネスから、デジタルを活用した効率的なビジネスへの転換が必要
~新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(10)飲食~

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2020/05/27

  • 新型コロナウイルス感染拡大により、外出自粛や在宅勤務・リモートワークを実施する人が増え、自宅で食事する人が増加した。自宅で食を楽しむという価値観が若者を中心に顕在化している。また、宅配を利用するようになった人が多数存在している。これらの傾向は在宅勤務・リモートワークが一般化する今後も継続・定着するものと考えられる。
  • 一方、多くの飲食店も影響を受けているが、行きつけの飲食店が困っている場合に、店舗に訪問せずとも金銭的に支援したい消費者が多数存在する。
  • 飲食店における中食化(宅配、テイクアウト)も急速に進展した。その背景には、Uber Eatsや出前館などの集客力を持った宅配注文・配送代行サービス、ShopifyやBASEなどのECサイト作成支援サービスなどのデジタルサービスの台頭が挙げられる。
  • 在宅勤務・リモートワークの一般化、将来的な外出自粛リスクを踏まえると、固定費のかかる店舗に強く依存した従来のビジネスから脱却し、デジタルを活用して宅配・テイクアウトを兼ね備えたビジネスに転換することこそが重要である。
  • 短期的には、飲食店の資金繰りを支援するため、消費者がオンライン上で飲食店を支援できるサービスを、口コミ・検索・予約サイトをはじめとする飲食店向けサービス事業者が中心となって構築することが有用である。中長期的には、自宅飲食の機会増加を契機と捉え、宅配やテイクアウトのような中食を兼ね備えた効率的なビジネスモデルを実践するために、飲食店を支援する無料もしくは低価格なデジタルサービスを活用し、各飲食店が業務を再設計することが求められる。

新型コロナウイルス感染拡大による消費者の食事に対する意識・行動の変化

新型コロナウイルスの感染拡大により、消費者の食事に対する意識・行動は大きな影響を受けている。野村総合研究所が2020年4月に実施した調査によると、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、自宅での食事が増えたと回答した人は45.7%だった(図1)。休校や在宅勤務・リモートワーク、そして外出自粛要請等の影響により、自宅で食事する人の割合が大きく増加していることが分かる。
また、新型コロナウイルス感染拡大を契機として、食事は家族で一緒にとるべきであるという思いが強くなった人は34.7%であった。年代別の内訳をみてみると、若年層ほど家族で一緒に食事をとることへのニーズが高いことが示された。特に10代では53.5%の人が強くなったと回答した(図2)。
新型コロナウイルスをきっかけとして、食事の宅配サービスの利用が増えた人の割合は7.3%、変わらないと回答した人は28.9%だった(図3)。一度でも食事の宅配を経験すればその利便性から次回以降の利用へのハードルが低くなることが想定されるが、実際に食事の宅配サービスを利用している人の73.2%は、新型コロナウイルスの感染拡大が収束した後も食事の宅配サービスを利用し続けたいという意向を示している(図4)。今後新型コロナウイルスの感染拡大が終息した際にも、食事の宅配に対する需要は一定程度残り続けるだろう。
食における時間への投資意識(食事に時間を使いたいかどうか)を尋ねたところ、約2割の人が「増やしたくなった」と回答した。また年代別では若い人ほど投資を増やす意向を示した(図5)。在宅勤務や外出自粛の生活の中において、つい外食に比べて短時間に済ませてしまいがちな自宅での食事時間を、外食できない代わりに家でもっと楽しみたい、という意識が特に若い人に現れていると捉えられる。
2020年3月に野村総合研究所が行った別の調査(注1)によると、緊急時だけでなく平常時でも在宅勤務やリモートワークを取り入れたいと回答した人は全体の約50%に上っている(図6)。そういった観点でみれば、在宅勤務・リモートワークによる自宅での食事機会が増えて、家族と一緒に、宅配を利用して、もっと楽しんで食事をしたい、というニーズは今後も続いていくことになるだろう。

新型コロナウイルス感染拡大によって飲食店に生じる業態転換の兆し

飲食店にも大きな影響が表れている。ポスタス株式会社が同社のPOSレジを導入している飲食店を対象に行った調査によると、3月の売上は昨年対比67.7%(32.3%減)、4月の売上は36.5%(63.5%減)と非常に大きな影響を受けていることが分かる(注2)。
このような逆風下において、中食市場(宅配、テイクアウト)に参入する飲食店が増加している。その背景には、Uber Eatsや出前館などの集客力を持った宅配注文・配送代行サービス、ShopifyやBASEなどのECサイト作成支援サービス(注3)などのデジタルサービスの台頭が挙げられる。たとえば、Uber Eatsではコロナ禍における飲食店への支援策として初期手数料の支払い免除やアプリ内プロモーションの費用負担を実施している。これにより、飲食店がUber Eatsを導入するにあたっての障壁を下げ、宅配への参入を容易にすることで飲食店の事業存続を支援すると共に、自社サービスの加盟店を増やすことでプレゼンス向上も図っている。
このデジタルを活用した外食の中食化は一過性のサービス拡張で終わるものではない。もし仮に新型コロナウイルス感染拡大の第二波や、それ以外の事象における外出自粛が今後発生すれば、飲食業界は今回と同様の壊滅的な事業環境に晒されることになる。そのリスクを踏まえた場合、デジタルを活用し、宅配・テイクアウトといった店舗以外の販売チャネルを兼ね備えたビジネスこそが、飲食店における恒常的なビジネスモデルとなる可能性を秘めている。
実際に、複数店舗を運営している飲食事業者において、一つの店舗だけを宅配・テイクアウト用の工場として残し(それ以外の店舗を閉店して)、宅配・テイクアウト用サイトを中心に販売することで、賃料やホールスタッフなどの人件費を抑えて利益を確保した、というケースが存在している。このように、従来の店舗ありきのビジネスから脱却して、デジタルを活用しビジネスを効率的に再構成することで、収益性を確保する形に変革していくことが求められるだろう。

飲食事業者および飲食店向けサービス事業者に迫られる対応(提言)

今後の消費者の意識・行動変容の方向性や、飲食事業者に生じているビジネスモデル変革の兆しを踏まえた場合に、飲食業界には短期、中長期の時間軸での対応策が考えられる。

短期の対応策

短期的には、今回の感染拡大によって大きな影響を受けている飲食店を支援する仕組みを確立することが挙げられる。その鍵の一つとなるのが、消費者による支援である。飲食店のビジネスモデルは基本的に飲食を提供して対価として料金を受け取るというものだが、そのため今回の外出自粛のように飲食店での飲食が困難な事態が発生した場合、急激に経営が苦しくなってしまう。そのため、このような状態に陥った場合でも消費者が飲食店に対して金銭的な支援を行うことができる仕組みを検討しておく必要があるだろう。
今回の調査結果からは、自宅での食事が増える中で、消費者は飲食店に対して何らかの支援をしたい、というニーズを持っていることがわかった。自身の行きつけの飲食店における新型コロナウイルスの影響を尋ねたところ、53.7%の人が何らかの影響を受けていると回答した。中でも「営業時間を短縮している」(34.5%)、「休業・廃業している」(22.5%)、「お客さんが大幅に減っている」(25.9%)を選択した人の割合が高かった(図7)。また、行きつけの飲食店が影響を受けている際に訪問せずともその飲食店の支援ができるサービスを利用したいと回答した人は全体の75%に達した(図8)。外出自粛等の影響により店舗でお金を使うことが難しい中で、消費者の多くが何らかの方法で行きつけのお店を支援したいと考えていることが伺える。
また、行きつけの飲食店が影響を受けている際にオンライン上でお店の支援を行う場合に支援の窓口がどこに設置されていれば支援がしやすいかを尋ねたところ、全体では「個別店舗のホームページ」と回答した人が56.6%、「飲食の口コミ・検索・予約サイト」と回答した人が32.9%だった。消費者は自身の支援を直接お店に届けられることや、支援したいお店の探しやすさを重視していると考えられる(図9)。
もちろん、資本力が限られている個人経営の飲食店がこのような仕組みを構築することは容易ではない。そのため、口コミ・検索・予約サイトをはじめとする飲食店向けサービス事業者の取組みが重要となる。たとえば、口コミ・検索・予約サイトの各店舗ページに店舗への寄付を行うことができる機能を追加することが考えられる。実際、Uber Eatsは宅配の注文時に1注文あたり100円を飲食店に寄付できる機能を4月に実装している。このように、飲食店向けサービス事業者が飲食事業者にとってメリットのある仕組みを構築することで、自社サービスの加盟店の増加と、より多くの飲食店の支援を両立することができるようになるだろう。

中長期の対応策

中長期的には、飲食店の近隣に居住しているなじみの客が、在宅勤務・リモートワークを行うようになることで、これまで移動中やオフィス近辺で行われていた食事が自宅周辺で消費されるようになるために、居住区域に近い場所に居を構える店舗にとってはこれまでよりも顧客接点を増やすことが可能になりうる。従って、在宅勤務・リモートワークをしている狭商圏のなじみ客にリーチするために、宅配・テイクアウトを兼ね備えたビジネスに舵を切ることが必要となる。
大手事業者は、既存の自社の宅配サイトへの集客強化、宅配に適したメニューの新規開発を推進する形で顧客の囲い込み・リピート獲得を狙うのがよいだろう。一方、中小飲食事業者・個人事業者の場合は単独で宅配やテイクアウトをするのではなく、近隣の店舗が複数集まり、共同で運営するモデルが考えられる。たとえば、カレー屋、そば屋、イタリア料理屋など複数の店舗が存在している場合に、集客・受注する入り口のサイトは共通化しつつ、配達の部分で従業員シェアリングを行うようなモデル、である。このモデルを実現するためには、配達リソースを管理する機能と、宅配用の集客・受注管理機能が組み合わさったものが必要になる。ただし、それを実現するためのサービスは、前述のような飲食店向けサービス事業者がすでに提供しており、今後さらなる機能増強が行われると考えられる。
重要なことは、宅配やテイクアウトのような中食を兼ね備えたビジネスモデルを実践するために、無料もしくは低価格なデジタルサービスを使ったうえでの業務を設計できるリテラシーがあるかどうか、である。このようなリテラシーを持った経営層・マネジメント層がいる場合は、中小飲食事業者・個人事業者でも生き残り、勝ち残ることができるだろう。

ここまで見てきた通り、今後の在宅勤務・リモートワークの一般化を踏まえると、飲食業界は今まさに変革の契機を迎えている。新型コロナウイルスを発端として生じる消費者の意識・行動変容を的確に捉えたうえで、ビジネスの在り方を再構築する必要がある。今まさに登場してきているデジタルサービスを用いて、これまで培ってきた強みを更に伸ばす絶好の機会ともいえる。飲食業界にとって厳しい時期ではあるが、この危機を乗り越えて進化することで、日本の飲食業界が更に発展することが期待される。

  • 注1 

    野村総合研究所「新型コロナウイルス感染症拡大に伴う人々の行動と意識の変化から見る「学び方改革」、「働き方・暮らし方改革」の可能性~進んだ在宅勤務やオンライン会議。抵抗感の緩和や仕事と家庭の両立への効果実感につながる~」
    https://www.nri.com/jp/keyword/proposal/20200420

  • 注2 

    ポスタス株式会社「新型コロナウイルスによる飲食店への影響 POSデータ調査結果を発表」
    https://www.postas.co.jp/data/1/index.html

  • 注3 

    ShopifyやBASEは一般的にはECサイト作成支援サービスとして知られているが、この機能を応用することにより、店舗独自の中食注文サイトを作成することができる。また、Shopifyは店頭受取や地域配送を支援するオプション機能も提供している。

ご参考

「新型コロナウイルス感染拡大による生活の変化に関するアンケート」の実施概要

  • 【調査方法】

    インターネットアンケート調査

  • 【対象】

    全国の満15~69歳の男女個人(人口動態割付)

  • 【有効回答数】

    2064人

  • 【実施時期】

    4月22日~24日

執筆者

須山 祐介

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

森田 哲明

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

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お問い合わせ先

【提言内容に関するお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 未来創発センター
E-mail:miraisouhatsu@nri.co.jp

【報道関係者からのお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部
E-mail:kouhou@nri.co.jp