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NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(サマリー) ~変革を契機にしたDX実現にむけて~ 業界一丸となった不動産仲介業務全体のデジタル化と、VRなどを活用したオンラインならではのサービス実現が必要~新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(11)不動産仲介サービス~

業界一丸となった不動産仲介業務全体のデジタル化と、VRなどを活用したオンラインならではのサービス実現が必要
~新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(11)不動産仲介サービス~

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2020/06/12

  • 新型コロナウイルスの感染拡大が不動産の住み替えに与える影響は軽微であり、不動産仲介市場全体として大きな変化はないと想定される。
  • 一方で、感染拡大の影響を受けた一部の層については、他の層よりも住み替え意向が高まっている。この層は、外出自粛や在宅ワークなどにより自宅で生活する時間が増えたことを背景に、住み替え先として「部屋数の多さ」や「通信環境の良さ」といった自宅で快適に仕事ができる物件を求める傾向にある。
  • また、外出自粛をきっかけに、不動産仲介関連オンラインサービスのニーズも高まっている。例えば、「VRによる内見のオンライン化」は、不動産メディア利用者の約半数が利用したいと回答した。VRを用いれば、実際の部屋の間取り・雰囲気を体感させることができるので、上記の「快適に仕事ができる物件」をオンラインでも顧客に訴求させることができる。
  • 今後、これまでリアルで提供してきたサービスをオンライン上でシームレスに提供していくことと同時に、顧客体験を設計できるかが、各事業者が今後消費者に選ばれるための分水嶺になるだろう。
  • 不動産仲介サービスは多くの不動産情報を扱う必要があり、1社だけがデジタル化を進めても消費者にとってのメリットは限定的となる。これまで不動産仲介産業ではIT投資が限定的だったが、新型コロナウイルス感染拡大を契機に、業界一丸となって、デジタルトランスフォーメーションを進めていくことを期待する。

新型コロナウイルスの感染拡大が不動産仲介市場に与えた影響は軽微だが、「仕事が休業」、「時差出勤」、「在宅ワーク」となった一部の層を中心に住み替え意向が高まる傾向も見られる

野村総合研究所は2020年4月22日~24日に全国の満15~69歳の男女個人を対象にインターネットアンケート調査を実施し、不動産仲介市場に関する新型コロナウイルス感染拡大の影響と、今後の対応策について考察した。
まず、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、現在居住している物件からの住み替え意向の変化について確認したところ、全体の85.3%の人が「特に変化はない」と回答した(図1)。不動産の住み替えには、費用や時間が多くかかるため、外部環境の変化を比較的受けにくいという特徴があり、全体としての影響は軽微であったと考えられる。
2008年のリーマンショックの際も、日経平均株価は約18,000円から7,000円台まで下落したものの、首都圏の不動産の売り出し価格は5%程度の下落にとどまり、2009年以降は回復基調を見せ、不動産の住み替えに与えた影響も限定的だった。しかし、今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、リーマンショック時のような経済的な打撃だけではなく、緊急事態宣言の発令に伴う外出自粛要請により生活者の意識や価値観を大きく変化させることに繋がったため、リーマンショック以上のインパクトを与えると考えられる。
そこで、感染拡大により生活に影響を受けた層の不動産の住み替え意向を分析した。その結果、「仕事が休業」、「時差出勤」、「在宅ワーク」になった層では、それぞれ15.4%、14.3%、14.0%の人が感染拡大を機に住み替え意向が高まっていることが明らかになった(図2)。
新型コロナウイルスの感染拡大は現在収まりつつあるが、今後また感染が拡大する可能性も指摘されている。中長期的にさらに多くの消費者の生活スタイルが変化していくことにより、不動産仲介市場が大きく影響を受ける可能性がある。そこで、住み替え意向が高まった消費者に注目し、不動産仲介市場の変化を掘り下げる。

感染拡大の影響を特に大きく受けた層は、より快適に仕事ができる物件を求める傾向に

新型コロナウイルス感染拡大の影響が日常生活に「非常に大きな影響を与えている」、「大きな影響を与えている」と答えた層と、それ以外の層について、住み替え先の物件に求める条件が異なるのかを分析した。
その結果、感染拡大の影響を特に大きく受けている層は、それ以外の層よりも住み替え先の物件に対して「部屋の数が多い物件」、「通信環境が充実している物件」を求める人が多いことが分かった(図3)。外出自粛の影響を受けて、在宅ワークや家族と過ごす時間が増えたことにより、自宅でより快適に仕事ができる環境を求めている結果と考えることができる。
新型コロナウイルスの感染拡大は収束しつつあるが、在宅ワークや時差出勤は引き続き推奨されており、自宅で仕事を行う時間が今後増えることを前提とする「自宅の快適性」を物件選びの条件にあげる人はますます増えると見込まれる。例えば、大和ハウス工業株式会社は、在宅勤務がニューノーマルになることを見据え、仕事が集中できるように快適防音室を備えた空間や、仕事と家事、子育てを効率よく両立させるためのセミクローズな空間を提案している。生活者の新たなライフスタイルに合わせてこのような企業の取り組みも今後増えていくだろう。

VRなどを活用したオンラインならではのサービス実現により、不動産仲介関連サービスのデジタル化が加速

外出自粛をきっかけに、不動産仲介サービスに対する消費者のニーズにも変化が見られる。不動産は日用品と異なり生活への影響が長期間にわたることから、これまでは、実際に物件を内見したり、仲介会社から直接話を聞いたりすることで納得感を高めることがこれまでの常識となっていた。
しかし、今回の調査で不動産メディアを利用する人に絞って分析を行った結果、物件の契約や内見をオンラインで行えるサービスを感染拡大収束後に利用したい人が一定数存在することが明らかになった。例えば、「VRによる内見のオンライン化」はすでに利用している人と合わせると、不動産メディア利用者の約半数が利用したいと回答した(図4)。VRを用いれば、実際の部屋の間取り・雰囲気を体感させることができるので、感染拡大の影響を特に大きく受けた層が求めている「快適に仕事ができる物件」を顧客に訴求させることができる。また、このようなオンラインサービスは感染拡大の影響を抑えるだけでなく、これまで対面でアナログ的に行っていた物件探しや内見予約、内見、契約手続きを効率的に進めることができるので、消費者の利便性は大きい。
現在不動産メディアを利用している人はITリテラシーが高い一部の消費者に限られているが、今後インターネットサービスの裾野が広がると共に、このようなオンラインサービス特有の利便性が多くの人に伝わっていくことで、またVR等の技術がより高度し、一般に普及していくことで、不動産仲介関連のオンラインサービスの利用者数が急速に拡大していくと考えられる。

業界一丸となったデジタルトランスフォーメーションが必要

こうしたオンラインサービスは、これまでもITリテラシーの高い一部の層から求められていたが、今回の新型コロナウイルス感染拡大は、不動産仲介においてもコミュニケーションの「非接触化」を促進するため、事業者としてはその導入が急がれる。具体的には、物件の検索、内見、契約手続き、また、それら全般に係る営業活動をオンラインで一元的に行えるサービスの提供が必要になる。そのためには、不動産仲介業界で共通で保有している不動産情報を豊富にする、押印から鍵の引き渡しまでを含めた契約事務手続きをすべてオンラインで行えるようにする等、業界としての対応策を検討する必要がある。各事業者としても、消費者にとって物件の理解がより進む、手続きが楽になる等のオンラインサービスならではの価値を高めていくための取り組みが求められる。
ただし、総務省「ICTによる経済成長加速に向けた課題と解決方法に関する調査研究報告書」によると、不動産業界は他業界と比較し、ICTの利活用状況が遅れていると指摘されている。大手事業者は独自のシステムを構築する余力があると考えられるが、中小の仲介事業者については感染拡大期間中の収入減少により、ITへの投資余力が、さらに低下していると予想される。
しかし、日常的に利用されているオンラインコミュニケーションツールを上手く活用することで同水準のサービス提供も可能になる。例えば、株式会社カヤックの子会社である「鎌倉R不動産」では、営業担当者が実際の物件に出向き、ZoomやLINE、Facetimeで物件のライブ動画配信を行うサービスを提供している。各地に精通している地場の中小事業者だからこそ、これらのツールを活用し、物件情報のみならず、物件周辺の生活環境に関する情報等も併せて発信していくことができる。消費者が住み替え先に求める条件として最も多いのは、「周りに生活に必要な施設が充実している物件」である(図3)。既存のインターネットサービスを活用し、地場の生の情報を伝えていくことにより、他社との差別化を実現することができるのではないか。

新型コロナウイルス感染拡大は、不動産仲介市場全体に対して与えた影響は軽微だったが、感染拡大の影響を特に大きく受けた一部の層に対しては、より快適に仕事ができる物件に住み替えたいというニーズを生みだした。
新たに求められるニーズに対し、非接触を前提とするコミュニケーションの中でこたえて行くためには、これまでリアルで提供してきたサービスを、オンライン上でもシームレスに提供していくことが必要になる。消費者の希望に沿った案内や、消費者が意思決定をするために必要な情報を適切に提供できるか(=顧客理解力)、加えて、オンラインならではの快適な顧客体験を設計できるか(=サービスデザイン力)が、今後消費者に選ばれるための分水嶺になるだろう。
不動産仲介サービスは、多くの不動産情報を扱う必要があり、一社だけがデジタル化を進めても消費者にとってのメリットは限定的となる。新型コロナウイルス感染拡大を契機に、業界一丸となって、デジタルトランスフォーメーションを進めていくことを期待する。

ご参考

「新型コロナウイルス感染拡大による生活の変化に関するアンケート」の実施概要

  • 【調査方法】

    インターネットアンケート調査

  • 【対象】

    全国の満15~69歳の男女個人(人口動態割付)

  • 【有効回答数】

    2064人

  • 【実施時期】

    4月22日~24日

執筆者

高倉 諒一

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

森田 哲明

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

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お問い合わせ先

【提言内容に関するお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 未来創発センター
E-mail:miraisouhatsu@nri.co.jp

【報道関係者からのお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部
E-mail:kouhou@nri.co.jp