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NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(サマリー) ~変革を契機にしたDX実現にむけて~ アパレル消費激減と各社の明暗:高リスクな大量製販モデルから脱却し、低リスクな製販高回転モデルへと転換することが生き残りを左右 ~新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(12)アパレル~

アパレル消費激減と各社の明暗:高リスクな大量製販モデルから脱却し、低リスクな製販高回転モデルへと転換することが生き残りを左右
~新型コロナウイルス感染拡大による消費者の行動変容がICTメディア・サービス産業に及ぼすインパクトと対応策(12)アパレル~

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2020/05/25

要旨

  • コロナ禍に伴うアパレル企業への影響をみると、3月の前年同月比は3~5割減、4月には8割減超の企業も出現した。
  • 業績悪化の要因としては、緊急事態宣言での店舗休業に加え、家計の防衛意識から嗜好品に位置づく衣料品への支出意欲が低下したことの影響が大きい。なお嗜好品と生活必需品を幅広く扱う一部のアパレル企業は業績が堅調推移した。
  • アパレル企業の多くは大量生産・大量販売モデルにより成長してきた。だが今回のコロナ禍によって、嗜好品に依存する形での大量生産・大量販売モデルのリスクがついに顕在化した。
  • 市場の見通しが厳しい中、大量生産・大量出店から脱却し、低リスクな販売(受注)から生産への高回転モデルへと転換することが生き残りを左右する。近年普及してきたデジタル技術の活用が成否のカギを握る。

アパレル企業の売上は3月以降に急速に悪化し、店舗休業が多くなった4月には前年同月比が8割減超の企業も

コロナ禍に伴うアパレル企業への影響を2020年2月頃から見ていくと、2月時点では、百貨店を主販路とする三陽商会やレナウン、紳士服を主とする青山商事で前年同月比2割減、その他のユニクロ、ユナイテットアローズ、アダストリア、AOKI等は前年同月並となった。インバウンドが減少した影響はあったものの、国内の感染拡大も東京などの一部に限定されており、コロナ禍の影響は部分的であった。(図1)
ところが、3月以降に業績が急激に悪化することとなった。3月は多くの企業で前年同月比を大きく下回り、3~5割減との結果となった。セレクト、カジュアルアパレル(例:ユナイテッドアローズ、アダストリア)では前年同月比3割減となった。紳士服量販アパレル(例:青山商事、コナカ、AOKI)や百貨店、総合アパレル(例:TSI、三陽商会、レナウン)は、さらに打撃が大きく、前年同月比4割減を超える企業も確認された。3月時点では年配層から外出自粛が進んだことが背景にある。
その後、4月7日には7都府県で緊急事態宣言が発令された。これにより百貨店、駅ビル、SCといった商業施設の多くが休業となり、アパレル企業においては店舗の休業や営業時間短縮を余儀なくされた。売上は前年同月比を5~8割超下回る企業が大半となった。前述のセレクト、カジュアルアパレルも、ルミネなどの駅ビルやららぽーとなどのショッピングセンター(SC)の拡大とともに成長を遂げた経緯があり、多くの店舗を休業とせざるを得ない状況となった。

家計の防衛意識により、嗜好品に位置づく衣料品への支出意欲が低下

前述のような影響が生じる背景として、衣料品がいわゆる基礎的支出の対象(生活必需品)ではなく、選択的支出(嗜好品)の対象ととらえられていることが挙げられる。一般に選択的支出(嗜好品)は、外出自粛や収入面での不安がもたらす家計の防衛意識などから、支出抑制の対象となりやすい。例えば、2011年の震災時にも、選択的支出の抑制が確認されている。NRIが2020年4月に独自に実施したアンケートによると、コロナ禍による衣料品支出への影響について、「カテゴリに関わらず支出を減らす」との意向が確認されている。特に支出を減らす項目として影響が大きいのがスーツ、フォーマル、革靴といったいわゆるオフィスウェアである。(図2)
なお、選択的支出(嗜好品)依存度の低い、ワークマンと西松屋は1~4月の前年同月比が堅調推移している(図1)。ワークマンはユニフォーム、作業着などのBtoB型のビジネスが堅調で、また西松屋は粉ミルクやベビーフード、紙おむつ、ウェットナップ、玩具などの非衣料品が成長を牽引した。
これまでアパレル業界では小売業が製造分野まで踏み込んで自社で商品開発から生産販売を行う製造小売のビジネスモデルを軸に据えてきた。嗜好品である衣料品を大量生産し、出店攻勢をかけ、クリアランスセールを駆使して大量に販売するということで成長を遂げた企業が多く、これがある種の成功体験となっている。ただしこの嗜好品を主軸に据えた大量生産・大量販売モデルの継続には多数の店舗、大量の商品在庫を抱える必要があり、ビジネスモデルはハイリスク・ハイリターン型となっていた。もとより国内アパレル市場は成熟・縮小基調にあったが、コロナ禍により、従来型のモデルの負の側面が一気に顕在化した。
今後の国内アパレル市場は、従来の人口減の影響に加えて、コロナ禍による世界不況や家計の防衛意識が引き続き高いことを勘案すると、従来の想定以上に厳しさが増すとみられる。生き残りのためには、従来型の嗜好品に依存した大量生産・大量販売モデルから脱却する必要がある。具体的には生産、販売の両面で大きな改革が必要と考えるが、いずれもデジタル活用が鍵となる。

(1)生産:在庫リスクを低減した最適生産への転換

大量生産に対して、在庫リスクを低減した最適生産を突き詰めた形態として「受注生産型」が挙げられる。参考となるのが先行するスーツ、シャツなどを対象としたパーソナルオーダーサービスである。デジタル技術の進展に伴い採寸データを工場に直接連携するなどして中間工程の無駄を削減し、かつてのオーダーメイドよりも低コスト・短納期を実現した。こういった受注生産型の事業はシューズなどにも広がっており、対象拡大の可能性を模索することも有効となる。
受注生産型への完全移行は現実的に難しいが、最適生産に向けた前段階での対応として「多品種少量・迅速生産対応」が挙げられる。デジタル技術の進展により稼働状況やデータ連携のハードルが下がった結果、国内の縫製工場を束ねて不稼働設備を有効活用できる生産プラットフォームも登場してきている。例えば提携により自社工場と他社工場を相互にシェアリングすることで不稼働設備を有効活用して、多品種少量・迅速生産対応を実現することも在庫リスクを低減し、最適生産に向けて有効である。

(2)販売:デジタル技術によりオンライン売上のさらなる拡大を

コロナ禍により、大量出店した店舗売上への依存のリスクがあらためて浮き彫りとなったことから、今後はこれまで以上にオンライン売上が重要視されるものとみられる。業界では、顧客の目線に立つと、実物があり、試着ができ、販売員に相談できる、といった店舗でしかできないことが依然として存在していると言われてきたが、デジタル技術の発展・普及でこれらのボトルネックの解消も進むと見込まれる。
例えばコロナ禍をきっかけに、ビデオチャットツールの利用者は急速に増えている。こうした流れは「オンライン接客サービス」の一般化を後押しするとみられる。さらに、技術的には顧客と体格などが近い販売員による「代理試着」なども組み合わせが可能である。またデジタルデバイスやスマホでの無人採寸が普及すれば、前述のパーソナルオーダーの利用も増えると考えられる。こういった技術の中には大規模なシステム投資を必要とせず、或いは無料で提供されているものも多い。デジタル技術の導入は販売員の活躍の場をオフラインからオンラインに拡張し、オンライン売上の拡大に有効となる。

コロナによって、従来モデルのリスクが浮き彫りとなる一方で、顧客のデジタル経験(ツール利用、ショッピング利用)は伸びている。また、従前より生産プロセスも多品種少量迅速生産を支えるデジタルツールやアイデアが次々と生まれている。
生産・販売の両面でのデジタル化が今後の方向であることは従前から言われたことであるが、コロナをきっかけにその対応が今後の生き残りを左右するような緊急性の高い課題となってきた。戦略に合わせて業務や制度を迅速に変更できる意思決定のスピードを持った企業こそが生き残り勝ち残れる企業となるだろう。

ご参考

「新型コロナウイルス感染拡大による生活の変化に関するアンケート」の実施概要

  • 【調査方法】

    インターネットアンケート調査

  • 【対象】

    全国の満15~69歳の男女個人(人口動態割付)

  • 【有効回答数】

    2,064人

  • 【実施時期】

    4月22日~24日

執筆者

土橋 和成

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

池田 眞実

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

森田 哲明

ICTメディア・サービス産業コンサルティング部

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株式会社野村総合研究所 未来創発センター
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