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NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 新型コロナウイルス感染拡大が日本人の消費行動に及ぼす影響(2)~こだわりを追求し新たなことに挑戦する生活スタイルに光明あり~

新型コロナウイルス感染拡大が日本人の消費行動に及ぼす影響(2)
~こだわりを追求し新たなことに挑戦する生活スタイルに光明あり~

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2020/05/26

  • 野村総合研究所(NRI)は、新型コロナウイルス感染拡大を受け、日本人の消費行動に与える影響を把握することを目的として、2020年3月に引き続き、5月にも日本人約3,000人を対象に緊急インターネット調査を実施した。
  • 4月の緊急事態宣言発令および外出自粛要請を受け、健康面・雇用面の先行きの見えない不安感は3月よりも高まった。今後の景況感について、8割近くの人々が悪化/下落すると考えている傾向は5月調査でも同じだった。
  • 5人に1人がインターネットによる生活必需品の購入を増やしている。食事の宅配サービスについては、全体的にみると利用は拡大していないようだが、その中では出前館やウーバー・イーツなどの食事宅配代行サービスの利用は大きな増加がみられる。
  • 先行きの見えない不安感や外出自粛が続く中で、日本人の生活満足度は5月になって大きく低下した。しかし、コロナ禍においても依然として生活満足度が高い人の特徴を見ると、自宅で過ごす時間が長くなったことを機会として、あえて手間をかける消費行動を楽しんでいるかのようである。
  • 企業からすれば、このような消費者に対しては個別にカスタマイズした商品・サービスを提供するのではなく、各人が主体的にカスタマイズできるようなツールを提供する、つまり顧客をイノベーターにするようなアプローチが求められることになろう。

3月調査に続き5月調査でも8割の人が今後の景気悪化を予想

野村総合研究所(NRI)は、新型コロナウイルス感染拡大を受け、消費者の行動や心理状態に与える影響を把握することを目的として、2020年3月中旬の調査に引き続き、5月上旬に日本人約3,000人を対象に緊急インターネット調査を実施した(注:3月の調査結果については、https://www.nri.com/jp/keyword/proposal/20200331をご参照のこと)。4月には全国を対象に緊急事態宣言が発出されたことから、緊急事態宣言前後の変化をとらえることができた。
まず日本人が抱える不安や悩み(10大項目)についてみると、伝染病に対する不安が飛躍的に伸びている他、自分や配偶者、子供、親など家族の健康に関する不安感が継続して高い状態が続いている。また、経済の悪化や店舗の休業等を背景に、雇用・失業に対して不安と答えた人の比率が高く、先行きの見えない不安感が高まっている(図1。NRIでは、コロナ禍が日本を襲う前の2020年1月にも同様の質問を行っているため、1月の結果も参考までに示している)。
また、今後の景気について「悪くなる」と考える人は、2019年の年末時点では47%だったのに対し、2020年3月では82%に大きく増え、5月においても継続している。株価、家庭の収入見通しについても、3月からの傾向は変わらず続いている(図2)。

外出を伴う買い物はさらに大きく減少し、オンラインショッピングが大幅に増加

新型コロナウイルス感染拡大後、旅行やレジャー等の不要不急の外出については自粛が求められているため、関連消費は大幅に落ち込んでいるとみられるが、NRIの調査によれば、食料品・日用雑貨等の生活必需品について「支出額を増やした」人の比率は、3月時点の22%から、5月時点の33%にまで上昇し、「支出額を減らした」人の比率(7%)を大きく上回っている(図3)。
他方、非生活必需品については、支出額を増やした人と減らした人の比率が3月時点でほぼ同じだったのに対して、5月調査では「支出額を減らした」人の比率が21%へと上昇した。日本全体で見れば、購入する商品・サービスの内訳が、生活必需品へと大きくシフトしていることがわかる。
それでは、生活必需品はどこで購入されているのだろうか。食品スーパーなどは、緊急事態宣言後も営業を続けているところが多いのだが、結論から言えば、お店での購入が大幅に減少し、オンラインショッピングが増加している。この傾向は3月時点からさらに強まっているようだ(図4)。5月時点では、お店での買い物が「以前よりも減った(51%)」が「以前よりも増えた(5%)」を大きく上回っていて、緊急事態宣言を受けて、消費者の外出頻度がかなり減少している様子が見て取れる。
反対に、生活必需品のインターネットでの購入については、「以前よりも増えた」と答えた人の比率(21%)が3月時点(10%)から倍になっていること、またオンラインショッピングを「利用していない」人の比率が、3月の12%から5月には9%へと下がっていることなどから、外出を控える代わりにインターネットによる購入機会が着実に増えていることが確認できた。

食事の宅配利用全体は増えていないものの、宅配代行サービスの利用は増加

今後1カ月で消費を控えたいものに関しては、3月と5月で同様の傾向がみられた。「外食」「衣類・ファッション」「旅行費用」「人のつきあい・交際費」といった外出を伴う消費については、支出を控えたいとする人の比率が5月においてさらに高まっている(図5)。
外食頻度については、我々の予想通り3月と比べても明らかに落ちていて、「以前より利用しなくなった」人が占める割合は、5月時点で62%にまで増えている(図6)。他方、食事の宅配サービス利用について、我々は当初増加傾向を予想していたが、3月時点では利用全体にほとんど変化が見られなかった。そして5月の調査結果を見ると、「以前よりも利用する(10%)」と答えた人に対して「以前より利用しなくなった(16%)」人の比率が大きくなり、全体としてはむしろ減少している可能性が高いことが判明した。出前はどちらかといえば安くはなく、景気の先行き不安を背景にすると、そこまで利用が進まないのかもしれない。
ただし、食事の宅配サービスの利用が増えた(新たに利用するようになった)人についてもう少し詳しく見ると、サービスの利用の仕方として、出前館やウーバー・イーツ等の宅配代行サービス(レストランの代わりに配達する)を利用する傾向が見られる(図7)。
この背景にはどのような要因があるのだろうか。地方自治体のなかには、宅配代行サービスの利用者に500円相当のポイントを還元したり、配送手数料を無料化するといった、地元の外食産業支援策を導入したところもある。これらの施策も理由の1つだとは思われるが、我々は、利用増加の背景に、宅配サービスを安心して利用してもらおうとする事業者の取り組み「非接触デリバリー」も寄与していると考えている。例えば、利用者が注文時にキャッシュレス決済を選択し、備考欄に「商品はドアノブに掛けてほしい」などの希望を記載することで、配達員がインターホンで到着を伝えた後に、非接触で食事を受け取ることが可能だ。また、キャッシュレス決済も、現金の受け渡しが発生しないという意味で、新型コロナに不安感が強い人も安心して利用できる。つまりキャッシュレス決済が、利便性だけでなく、非接触(相手と硬貨、紙幣を取り交わさなくて済む)というメリットも提供してくれることが、改めて明らかになったといえるだろう。

安定していた日本人の生活満足度はコロナ禍をきっかけに全般的に低下

NRIは人々の日常生活における満足度を、「満足している」「まあ満足している」「あまり満足していない」「満足していない」の4段階で、継続して聴取している。その結果を2020年1月、3月、そして今回の5月調査で比較すると、1月と3月ではほとんど傾向が変わらず、満足している人(満足している+まあ満足している)が6割、満足していない人(あまり満足していない+満足していない)が4割という比率であった。しかし緊急事態宣言後の5月には、生活満足度に大きな変化が起きて、この比率が5対5になったのである(図8)。健康や収入、雇用面での懸念等、先行きの見えない不安感に加え、長らく自粛生活が続くことで、生活満足度が後退してくるのはやむを得ないことであろう。
もう少し中身を詳しく見てみよう。前述したように、回答者全体では満足している人と満足していない人の比率はおよそ5対5となったのだが、属性別にみると違う特徴が浮かび上がる。例えば世帯収入別にみると、200万円未満の層では不満足者の比率が6割以上になり、逆に世帯収入1,000万円以上では、満足者の比率が6割以上となる。しかし世帯収入が200万円から1,000万円の間の層ではそこまで有意な差は出なかった。
また性別、年齢別にみると、男女ともに10代、60代は6割以上が満足者に該当し、かたや男性の30代、50代は6割以上が不満足者に該当している。家族構成で見ると、夫婦のみの世帯は6割以上が満足者に該当し、ひとり親と未婚の子供世帯は6割以上が不満足と回答している。
実はこれらの違い(例:男女10代、60代の生活満足度が高く、男性30代は低い)はコロナ禍以前から見られた日本人の特徴であって、その意味ではコロナ禍が特定の層だけに強い影響を及ぼしたのではなく、あらゆる層にまたがって生活満足度を全般的に押し下げているということが言えるだろう。

満足者の比率が6割以上の層 不満足者の比率が6割以上の層
  • 世帯年収1,000万円以上
  • 男性10代、60代
  • 女性10代、60代
  • 夫婦のみ世帯
  • 世帯収入200万円未満
  • 男性30代、50代
  • ひとり親と未婚の子供世帯

自身のこだわりを追求し新たなことに挑戦する生活スタイルに光明あり

しかし完全に悲観的になる必要はない。我々はある消費スタイルの中に、生活満足度を高く保っている層を発見した。前述した属性は個人の意思で変えることは困難あるいは不可能だけれども、消費(生活)スタイルであれば、意識することでそれに近づくことは可能だ。
NRIは、消費意識に関する設問の回答傾向から、消費者を4つの消費スタイルに定義・分類している。その中で、自分のこだわりが強く、自分が気に入ったモノ・コトには高くても対価を払う「プレミアム消費型」と呼ばれる消費スタイルに分類される生活者は、6割近くが生活に満足していることがわかった(図9)。さらに、今後1か月間に支出を控えたいものについての回答結果を生活満足者/不満足者で見ると、「旅行費用」については29%/23%、「人とのつきあい・交際費」については21%/19%と、不要不急の項目については、いずれも生活満足者の方が消費を控える意識が高いことがデータから見て取れた(裏返せば、生活不満足者は、これらの支出を削らざるを得ないこと自体に不満を感じているのかもしれない)。つまり、生活満足者の方が外出自粛の意識が顕著に高いのだが、それにも関わらず現在の生活に満足しているということで、自粛という制限された生活の中でも楽しみを見出し、自身のこだわりを追求することで充実した生活感を感じていることがうかがわれる。
もう少し掘り下げてみよう。ここからは筆者らの憶測の領域に入る。我々がプレミアム消費型と呼んでいる層は、こだわりが高じると、自分自身でモノ・コトを生み出し自家消費する傾向も強いと考えている。こだわりに対して時間を投入することをいとわず、DIY型と言っても良い。ボーっとしているくらいなら何か新しいことをやってみようと考える。自宅で過ごす時間が長くなることで、パンを焼いてみたり、市場で買ってきた魚を自分でさばいてみたり、自分で散髪してみるなど、普段ならやらないことに挑戦する。また、マスク品薄のための対応として、市販のマスクカバーを購入するのではなく、あえて自分好みのデザインで手作りする人もいる。便利さや効率を求める時代において、こうした一見すると不便にも思える行動には、〈1〉主体的に行動できる〈2〉考えて工夫できる〈3〉気づきや発見を得やすい〈4〉身体面などの能力低下を防げる等のメリットがあり、「不便の益」(benefit of inconvenience)とも呼ばれる。見方を変えると、自身のケイパビリティ(潜在能力)を知らず知らずのうちに高める行為ともいえる。
つまり、コロナ禍から不安やストレスを溜めるのではなく、休業や外出自粛によって生じた時間を使い、一見すると不便にも思える行動に楽しみや意義を見出せた人の生活満足度が維持されている、ということだ。企業からすれば、このような生活者に対しては個別にカスタマイズした商品・サービスを提供するのではなく、各人が主体的にカスタマイズできるようなツール(資源)を提供する、つまり顧客をイノベーターにするようなアプローチが求められることになろう。
「健康生成論」を提唱したアーロン・アントノフスキーは、ユダヤ人強制収容所で過酷な体験をした人の中に、心身ともに健康な人が一定数いることに着目し、そのような状況下でも健康を保つための要素を3つ述べている※1。それは外部のストレス発生源(苦難、災害等)に対する「把握可能性」「処理可能性」「有意味性」である。今回のコロナ禍にあてはめてみると、未知のウイルスが相手ということで状況の把握可能性が高い人はほとんどいないのかもしれないが、時間や原材料(食事やマスク等の原材料)など、自分が自由に使える資源が豊富に存在していると考えることは可能だし(=処理可能性が高い)、困っている人のためにマスクを自作するなど、エネルギーを投入するのに値し、歓迎すべきチャレンジだと考えることも可能だ(=有意味性が高い)。
そして矛盾に聞こえるかもしれないが、オンラインショッピングなど生活に利便性をもたらしてくれているデジタル技術が、実は「不便の益」を生み出す手助けもしてくれているのだ。典型例としては、ユーチューブやオンラインでのカルチャースクールを通じて何らかのクラフト技術を学ぶ、ということで、コロナ禍で外出が難しい状況下にあっても、デジタル技術と、ある特定の生活スタイルが、心身ともに健康を保つ方法についての光明を与えてくれていると言えるだろう。

  • ※1

    『健康の謎を解く-ストレス対処と健康保持のメカニズム』、アーロン・アントノフスキー、有信堂高文社、2001年

【ご参考】調査概要

■調査名

「新型コロナウイルス感染拡大による生活への影響調査」

■実施時期

2020年3月、2020年5月

■調査方法

インターネット調査

■調査対象

全国の満15~69歳の男女個人

■有効回答数

3,098人(3月)、3,945人(5月)

■主な調査項目

 

◇情報収集行動

・・・情報収集の仕方・変化

◇コミュニケーション

・・・親子関係、夫婦関係、地域関係に対する意識

◇就労スタイル

・・・就労状況、就労意識

◇消費価値観

・・・消費に対する意識、今後積極的にお金を使いたい分野

◇消費実態

・・・外食、宅配、オンラインサービス等の利用意向・変化

◇生活全般、生活設計

・・・景気・収入などの見通し、直面している不安や悩み

執筆者

森 健

未来創発センター グローバル産業・経営研究室

林 裕之

マーケティングサイエンスコンサルティング部

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お問い合わせ先

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株式会社野村総合研究所 未来創発センター
E-mail:miraisouhatsu@nri.co.jp

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E-mail:kouhou@nri.co.jp