2020/05/27
要旨
- 野村総合研究所(NRI)は、新型コロナウイルス感染拡大を受け、消費者の生活に与える影響を把握することを目的として、2020年5月に日本人約4,000人を対象に緊急インターネット調査を実施した。3月の調査でも、デジタル活用がいくつかの分野で大きく進んでいることを示したが、4月の緊急事態宣言を受けて、デジタル活用がどの分野でどの程度変化したかを見るために、同様の調査を5月初旬に実施した。
- 緊急事態宣言の発令を受け、自宅で過ごす時間が長くなったことにより、インターネット利用時間は1月から5月にかけてすべての年齢層で1時間近く増えている。
- 外出自粛要請の中で、他者との対面コミュニケーションは大きく減少する半面、デジタルツールによるコミュニケーションが増加した。SlackなどのチャットツールやZoomなどのテレビ電話ツールは、若年層を中心に利用が伸びている。
- インターネットの利用用途として、ネットバンキングやネットショッピング、動画視聴などが3月から5月にかけて大きく拡大している。たとえば有料の動画配信サービスは、我々の調査によると3月から5月の2か月間で利用率が6%増えていて、これは過去2年間を超える浸透ペースである。
- 急速に社会のデジタル化が進んだが、デジタルサービスを利用できない人々にとっては、生活面で大きなハンディを抱えることを意味する。ネット環境、端末の普及、そしてそれを利用するためのトレーニングをセットにした「デジタル包摂」が急務である。
緊急事態宣言発令による自粛生活の中で、8割以上がインターネットをほぼ毎日利用
野村総合研究所(NRI)は、新型コロナウイルス感染拡大を受け、消費者の行動や心理状態に与える影響を把握することを目的として、2020年3月に日本人約3,000人を対象に緊急インターネット調査を実施し、オンラインショッピングやデジタルコミュニケーションなどいくつかの分野で日本人のデジタル活用が拡大したことを示した。そして、4月の緊急事態宣言を受けた生活者のデジタルサービス活用状況を把握するため、5月にも継続調査を実施した(対象者数約4,000人)。
過去の調査結果と比較すると、5月時点で日本人のインターネット利用は様々な面で拡大しているようだ。4月の緊急事態宣言発令を受け、多くの企業がテレワーク(在宅勤務)へと移行し、店舗等の営業自粛が進むなか、自宅で過ごす時間が長くなった。その結果、インターネットの利用頻度は顕著に高まっていて、パソコンによるインターネット利用を「ほぼ毎日」と答える人が8割以上にまで増えている(図1)。またスマホによるインターネット利用も、2019年末と2020年1月から比較すると、1時間に数回以上利用するという人が4割以上に増えている(図1)。
また、インターネット利用時間も大きく増えている。テレビの視聴時間もすべての年代において30分前後伸びているのだが、インターネット利用時間については、今年1月から5月にかけて、すべての年齢層で1時間近く増えている(図2)。特に、これまで比較的インターネット利用時間が少なかった50代以上の人たちにおいても、若者と同じくらい1時間近く利用時間が伸びていることから、中高年層においてもコロナ禍をきっかけにインターネット利用が進んだことが伺える。
他者とのコミュニケーションにデジタルツールの活用が進んだ
インターネットの利用時間増加の背景には、他者とのコミュニケーション手段の変化が挙げられる。外出自粛要請の中で、ゴールデンウィーク中も「ステイホーム」をキーワードとして、実家や地元への帰省を避けることが求められていたように、対面でのコミュニケーションが減ったという人が半数以上を占め、代わりにショートメッセージ、チャットツール、テレビ電話等の各種デジタルツールによるコミュニケーションは増加傾向にある(図3)。ただし対面でのコミュニケーション減少の方が圧倒的に大きく、デジタルでのコミュニケーションがそれを多少補ってはいるものの、コロナ禍によって日本人のコミュニケーションの量・質は全体としては低下したと考えるべきだろう。
デジタルコミュニケーションツール(ショートメッセージ、チャット、電子メール、テレビ電話)については、年齢層によって使用するツールに特徴がある。歴史が比較的長い電子メールについては、コロナ禍以降の利用が「以前より増えた」人の比率に年齢層の差はないが、そもそも中高年層ほど使う人の比率が高い。ショートメッセージやLINEなどの気軽に使えるコミュニケーションツールは、多くの年齢層で利用されているが、コロナ禍をきっかけに特に若年層での利用頻度が高まっている。またSlackなどのチャットツールやZoomなどのテレビ電話ツールは、元々若年層ほど使われていたものが、コロナ禍をきっかけに若年層の利用頻度がさらに進んだ形となった(図4)。
ネットバンキング、ネットショッピング、動画視聴などの利用が大きく拡大
インターネット利用拡大の用途はコミュニケーションだけではない。インターネットの利用用途についての回答結果を、昨年12月からの4時点で比較すると、多くの分野で利用者比率が高まっているが、特にネットバンキング、ネットショッピング、ネットによる動画視聴などが顕著に増加していることがわかる(図5)。
さらにいえば、アマゾン・プライム、スポティファイ、DAZN(ダゾーン)、キンドル・アンリミテッドなどの映像・音楽サブスクリプション配信サービスについては、コロナ禍以前(2019年末)と比較して、認知率・利用意向率・利用率がすべて大きく増加し、利用率については2倍以上に増加している(図6左)。
またコロナ禍においては、感染リスクへの考慮から、病院への予約、受付、診療、会計、薬・処方せんの発送などをインターネットやアプリ経由で行えるオンライン診療サービスの整備が進められつつあるが、オンライン診療サービスについての認知率は6割近くあり、実際1割弱の人が利用していることがわかった(図6右)。
数年分のデジタル化がこの2か月で進んだ
映画やテレビ番組などの有料動画配信サービスは、コロナ禍以前にはそこまで浸透しておらず、NRIの調査では、日本における利用者比率は2017年12月の11%から、コロナ禍直前の2020年1月における14%と、2年間で3%しか増えていなかった。それに対して、2020年3月から5月の2か月間で利用率は6%増えていて(16→22%)、過去2年間の2倍にあたる利用増がこの2か月間で実現されたことになる(図7)。マイクロソフトのCEO、サティア・ナデラは、フィナンシャルタイムズのインタビューに対して、同社のウェブ会議ツール「Microsoft Teams」の利用が世界中で急増したことなどを受け、「2年分のデジタル化が2か月で起こった」と発言しているが※1、日本の有料動画配信サービスについていえば、「2年間かけて成し得なかったデジタル化がこの2か月で達成した」と言えるだろう。有料動画サービスだけでなく、日本では様々な分野で数年分のデジタル化がこの2か月で進んだのである。
急激に拡大したインターネット利用について人々はどう感じているのだろうか。我々の調査からは、功罪両面が浮かび上がっているが、全般的に言えばプラスに感じる人が多いと言えそうだ(図8)。まず3月調査でも高かったが、5月に回答者比率が高まったものとして、「生活に利便性・快適さをもたらす」(78%)、「インターネットなしの生活は考えらえない」(42%)があげられる。これまでも活用していたが、コロナ禍で改めて利便性を実感した、あるいは新たにネットサービスを活用したところ、その利便性に気付いたという人も多いのだろう。ネットサーフィンを、お金のかからないヒマつぶしだと考える人も増えている(24%)。他方、「インターネットから得られる情報が多すぎて、疲れを感じることがある」(25%)や、「インターネット情報から離れて休息を取ることも必要だ」(31%)などが、マイナス面の中では回答者が多いけれども、総じてみればプラス面での評価の方が多いようである。
「デジタル包摂」が急務
しかし大いに留意すべき点がある。それはデジタル技術を使いたくてもネットワーク環境や端末がないことから利用できない、あるいは使い方がわからない、という層が一定数存在していることだ。本調査はインターネット経由のため、残念ながらそのような層(ネットを使えない人)の状況を把握できないのだが、図1に示したように、2020年5月時点でも、パソコンもしくはスマホでインターネットを全く利用しない、という層が6~10%程度は存在している。ネットを全く使わない人からすれば、病院がオンライン診療を始めた、給付金申請がオンラインでできるようになった、と言われても、どうすればよいかわからない。普段からスマホを使いこなしている人なら、外出自粛のさなかでも友人・知人とチャットやZoomなどで引き続き会話ができるが、そのような手段を持っていない人は、極端にコミュニケーション量が減り、テレビ以外に情報が入らないということも大いにあり得る。
デジタル活用と生活満足度はある程度の相関がありそうだ。本調査では、アンケート回答者の生活満足度を4段階で聞いているが、「満足している」と答えた人ほど様々なデジタルサービスの利用度が高い(図9)。この傾向は、低所得者層だけを抜き出しても同様である。つまり、ネットを全く利用しない人は、同じ所得階層でネットを活用する人と比べれば、コロナ禍によってこれまで以上に生活面での大きな支障が生じていることが予想できる。
経済的・社会的弱者のデジタル活用能力(ケイパビリティ)を高め、誰もが最低限のサービスを受けられるようにする「デジタル包摂」が急務だ。これはネットワーク環境や端末の供与だけでなく、それを活用できるようにするトレーニングとセットになっていなければ意味がない。
海外では、例えばロンドンの地方自治体が主導した「My Wifi」というプロジェクトが2017年に実施されている※2。これは55歳以上の社会的弱者にタブレットとWifiを無償で最大4週間貸与し、6時間のトレーニングも行うというプロジェクトだ。レポートを見ると、プロジェクトに参加した全員が、この取り組みを有意義と考えていること、46%がタブレット購入を検討し、77%がトレーニングは有益だったと回答している。日本でも長野県天竜村など、高齢化が進む地方自治体が民間企業の助けを得てタブレットの無償配布&トレーニングを導入している例はある。
コロナ禍が収束すれば、再び対面や紙でのやりとりが可能になるとはいえ、第2波、第3波が来て再び外出が難しくなる可能性がないとも限らない。また仮に来なかったとしても、これを機会にデジタル・ケイパビリティを高めることは、社会正義面でも重要だ。「デジタル包摂」が急務である。
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※1
“Satya Nadella: crisis requires co-ordinated digital response” Financial Times, 2020年4月30日
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※2
プロジェクトの詳細については、たとえば以下を参照のこと
(https://medium.com/@SmartLondon/mi-wifi-digital-inclusion-pilot-in-lewisham-dc4f2c4c53d5)
【ご参考】調査概要
■調査名 |
「新型コロナウイルス感染拡大による生活への影響調査」 |
■実施時期 |
2020年3月、2020年5月 |
■調査方法 |
インターネット調査 |
■調査対象 |
全国の満15~69歳の男女個人 |
■有効回答数 |
3,098人(3月)、3,945人(5月) |
■主な調査項目 |
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◇情報収集行動 |
・・・情報収集の仕方・変化 |
◇コミュニケーション |
・・・親子関係、夫婦関係、地域関係に対する意識 |
◇就労スタイル |
・・・就労状況、就労意識 |
◇消費価値観 |
・・・消費に対する意識、今後積極的にお金を使いたい分野 |
◇消費実態 |
・・・外食、宅配、オンラインサービス等の利用意向・変化 |
◇生活全般、生活設計 |
・・・景気・収入などの見通し、直面している不安や悩み |
執筆者
森 健
未来創発センター グローバル産業・経営研究室
林 裕之
マーケティングサイエンスコンサルティング部
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