2020/05/28
要旨
- 野村総合研究所(NRI)は、新型コロナウイルス感染拡大による外食、娯楽、旅行等に関連する消費への影響等を把握するため、2020年4月下旬と5月下旬の2回にわたり、全国約1万人の生活者※を対象にインターネット調査を実施した。
- 新型コロナウイルス感染拡大、及びそれに伴う政府・自治体からの外出自粛要請や緊急事態宣言発令により、外食、娯楽、旅行のための外出機会が大幅に減少しており、緊急事態宣言発令期間中、生活者の6割はこれらの外出を一度も行っておらず、緊急事態宣言解除後も生活者の4割はこれらの外出を控える意向であることがわかった。
- 新型コロナウイルス感染拡大による外食、娯楽、旅行等に関する消費への影響は特に大きく、「感染リスクが高い」という生活者の意識が長期化すれば、各地域の様々な関連産業に対してさらに甚大な被害を及ぼすと考えられる。
- 政府や自治体は、感染防止を徹底し、国民の健康・安全の確保、雇用の維持、事業の継続を最優先に取り組む必要があるが、社会・経済活動の回復との両立に向けて、都道府県または市区町村など地域の実態に合わせて日常生活や経済活動の行動指針を提示する必要がある。また、感染症の流行や検査・医療体制、特効薬やワクチンの開発など時々の状況や最新の知見に応じて、迅速にアップデートしていくことが重要である。
3月の家計調査報告では外食・娯楽・旅行関連の消費支出が大幅に減少
総務省が5月8日に公表した2020年3月分の家計調査報告(2人以上の世帯)によると、1世帯当たりの消費支出は29万2,214円で、物価変動の影響を除いた実質ベースで前年同月比マイナス6.0%と大きく減少した。家計消費支出の内訳を見ると、肉・野菜などの食料品、トイレットペーパーなどの家事用消耗品、マスクなどの保健用消耗品といった生活必需品や、通信、光熱・水道に関する消費支出が増加した一方、外食や教養娯楽サービス、旅行・交通・宿泊関連の消費支出が大幅に減少している。
4月以降は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府や自治体からの外出自粛要請や緊急事態宣言発令により、生活者の外出機会はさらに減少しており、特に外食、娯楽、旅行等に関連する消費への影響は甚大と考えられる。
緊急事態宣言発令期間中、生活者の6割は外食・娯楽・旅行のための外出を一度も 行っていない
野村総合研究所(NRI)は、新型コロナウイルス感染拡大による外食、娯楽、旅行等に関連する消費への影響等を把握するため、2020年4月17~19日と5月22日~24日の2回にわたり、全国約1万人の生活者を対象にインターネット調査を実施した。
新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた2月以降、外食、娯楽、旅行のための外出は大幅に減少しており、7都府県に緊急事態宣言が発令された4月7日以降はその傾向がさらに顕著となっている。2月以降、緊急事態宣言発令前までは、外食、娯楽、旅行のための外出を行わなかった生活者は29.3%であったが、緊急事態宣言発令以降、5月14日に39県を対象に緊急事態宣言が解除されるまで、生活者の63.6%がこれらの外出を一度も行っていないことがわかった(図表1)。
緊急事態宣言解除後も生活者の4割は外食・娯楽・旅行のための外出を控える
4月7日の緊急事態宣言発令以降、5月14日に緊急事態宣言が一部解除されるまでの間、外食、娯楽、旅行のための外出を一度も行っていない生活者(全体の63.6%)を対象に、緊急事態宣言が解除された後の行動についても質問している。
5月22日~24日に実施した調査では、緊急事態宣言が解除されたら外食、娯楽、旅行のための外出を再開すると回答した人は33.4%で、残りの66.6%は緊急事態宣言が解除されてもこれらの外出は控えると回答した(図表2)。つまり、生活者全体の約4割(42.4%(=63.6%×66.6%))は、緊急事態宣言解除後も、外食、娯楽、旅行のための外出を行わない意向を示している。その理由として、「新規感染者数は減少傾向にあるものの、まだ感染リスクは高いと考えているため(75.9%)」、「同居する家族に感染によるリスクが高い人がおり、感染させたくないため(29.2%)」と、感染リスクを懸念する回答が多く見られた(図表3)。
政府や自治体は地域の実態に合わせた日常生活や経済活動の行動指針を策定し、 時々の状況や最新の知見に基づき迅速にアップデートすることが重要
今回の調査では、新型コロナウイルス感染拡大、及びそれに伴う政府・自治体からの外出自粛要請や緊急事態宣言発令により、外食、娯楽、旅行のための外出機会が大幅に減少していること、また緊急事態宣言解除後も4割の生活者はこれらの外出を控える意向であることがわかった。新型コロナウイルス感染拡大による外食、娯楽、旅行等に関する消費への影響は特に大きく、「感染リスクが高い」という生活者の意識が長期化すれば、各地域の様々な関連産業に対してさらに甚大な被害を及ぼすと考えられる。
政府や自治体は、感染防止を徹底し、国民の健康・安全の確保、雇用の維持、事業の継続を最優先に取り組む必要があるが、社会・経済活動の回復との両立に向けて、都道府県または市区町村など地域の実態に合わせて日常生活や経済活動の行動指針を提示することが必要である。また、感染症の流行や検査・医療体制、特効薬やワクチンの開発など時々の状況や最新の知見に応じて、迅速にアップデートしていくことが重要である。
なお、今回の調査結果を踏まえ、外食産業の詳細分析、及び緊急事態宣言発令期間中の生活者の意識変化について、別報にて報告する。
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※
本稿では、新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年2月より前に外食、娯楽、旅行のための外出を行っていた生活者を分析の母数としている。以下に、外食、娯楽、旅行の具体例を示す。
- 外食:
喫茶店・カフェ、料理店・レストラン、ファーストフード、居酒屋等(宅配・テイクアウト除く)
- 娯楽:
遊園地など屋外テーマパーク、キャンプ場など屋外レジャー施設、映画館・水族館など屋内レジャー施設、ジムなど屋内スポーツ施設、ゴルフ場など屋外スポーツ施設、スタジアムなどでのスポーツ観戦、舞台・ショー・コンサート観賞、展示会・企画展・飲食イベント等
- 旅行:
国内旅行(日帰り、宿泊)
- 外食:
ご参考
「新型コロナウイルス感染拡大に伴う生活・消費行動に関するアンケート」の実施概要
- 〇第1回
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【対 象】
全国男女15歳~79歳 計10,379人
(集計値は2019年人口推計に基づきウェイトバック処理済み) -
【調査方法】
インターネットアンケート調査
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【実施時期】
2020年4月17日~19日
- 〇第2回
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【対 象】
全国男女15歳~79歳 計8,832人
(第1回調査対象者に対する追跡調査)
(集計値は2019年人口推計に基づきウェイトバック処理済み) -
【調査方法】
インターネットアンケート調査
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【実施時期】
2020年5月22日~24日
執筆者
水石 仁
社会システムコンサルティング部
梶原 光徳
マーケティングサイエンスコンサルティング部
原野 朱加
マーケティングサイエンスコンサルティング部
三﨑 冨査雄
コンサルティング事業本部
パートナー
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【提言内容に関するお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 未来創発センター
E-mail:miraisouhatsu@nri.co.jp
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株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部
E-mail:kouhou@nri.co.jp