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NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 新型コロナウイルス感染拡大が外食・娯楽・旅行関連消費に与える影響(2)~今後の飲食業の回復の見込みと回復に必要なこと~

新型コロナウイルス感染拡大が外食・娯楽・旅行関連消費に与える影響(2)
~今後の飲食業の回復の見込みと回復に必要なこと~

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2020/06/01

  • NRIが実施したアンケート結果によると、カフェやレストラン、ファーストフード、居酒屋等で、これまで月一回以上外食していた人のうち、緊急事態宣言の発令期間中は、一度も外食をしなかった人の割合(外食自粛率)は約63.5%であった。この影響により、飲食業全体の2020年4月度売上高は、前年同月比▲39.6%となった。
  • 緊急事態宣言の解除後に外食を再開すると回答した外食自粛者は約3割、移動制限の全面的な解除後でも約7割であった。生活者の外食再開意向に基づくと、緊急事態宣言の解除後から移動制限が全面的に解除されるまでの外食需要は、元の水準の5割程度にとどまる。経済活動が段階的に再開され、外食需要の回復も期待されるところだが、感染拡大前の水準まで回復するには長い時間を要すると想定される。
  • 外食を再開すると答えた自粛者に対し、利用してもよいと思う外食店の条件を聞いたところ、「消毒や換気の徹底」や「店員・利用者のマスクの着用・咳エチケット」などの基本的な衛生対策に加えて、「混雑回避の徹底」が上位に挙がった。また、必要な対策として具体的な対策を5つ以上選択した人は約5割であり、特に女性や高齢者で割合が高く、感染予防対策に万全を尽くしているかどうかが特に利用に影響を与えそうだ。
  • 外食店が利用客を確保するためには上記のような対策が必須となるが、各対策には追加的なコストがかかるだけではなく、対策によっては客席数や回転率を減少させる必要があり、経営が成り立たない店舗も多く出てくるであろう。このため、短期的には、感染防止対策を講じて営業する店舗に対しての助成や低利融資等の公的な支援などが求められる。一方、中長期的には、国による緊急経済対策も活用しながら、この新しい環境で健全な経営ができるように、店舗による収益モデルの見直しと、生活者に外食先として選んでもらえるような万全の衛生管理対策が必要となる。

飲食店の2020年4月度損失額は約6,400億円に及ぶ

新型コロナウイルス感染症の流行は、経済に大きな打撃をもたらしているが、最も深刻な被害を受けた業種の1つは飲食業であろう。一般社団法人日本フードサービス協会の調査結果では、飲食店の2020年3月度売上高は前年同月比▲17.6%であり、2020年4月度には前年同月比▲39.6%まで売上高が落ち込んだ(図表1)。損失額に換算すると約6,400億円と想定される。いずれの業態も売上高は落ち込んでいるが、その中でも、時短営業等の要請によって休業に踏み切る店舗が多かった「パブ/居酒屋」が▲91.4%と壊滅的な打撃を受けている。一方で、落ち込み幅が最も小さい業態は「ファーストフード」(▲15.6%)であり、以前から宅配・テイクアウト等に対応していたことから、持ち帰り需要が下支えしたと考えられる。
野村総合研究所(NRI)が4月及び5月に実施した新型コロナウイルス感染拡大による消費への影響を把握したアンケート※1の結果をみると、カフェやレストラン、ファーストフード、居酒屋等で、これまで月一回以上外食していた人のうち、緊急事態宣言の発令期間中に一度も外食をしなかった人(以下、外食自粛者)の割合は63.5%であった(図表2)。業態別にみると、料理店・レストランは、71.5%であったが、ファーストフードは77.5%、喫茶店・カフェは80.6%、そして居酒屋に至っては86.6%であった。ファーストフードは宅配・テイクアウトにより売上高の落ち込みは他の業態よりも少ないが、このアンケート結果をみると、店内での飲食は、喫茶店・カフェと同レベルの落ち込みがあったと推察できる。

生活者の外食再開意向に基づくと、緊急事態宣言の解除後から移動制限が全面的に解除されるまでの外食需要の回復は、元の水準の5割にとどまる

アンケート結果では、緊急事態宣言の解除後に外食を再開すると答えた割合は、外食自粛者のうち約3割であった(図表3)。移動制限が全面的に解除されても自粛者の7割程度しか行動を再開せず、残りの自粛者は、国内終息宣言後に再開、あるいは、国内終息宣言が出たとしても行動を再開しないと回答している。
生活者全体の新型コロナウイルスの感染拡大前における外食の各業態の利用頻度と今後の外食再開意向を基にした総利用回数を外食需要として推計すると、緊急事態宣言の解除後から移動制限が全面的に解除されるまでの外食需要は、元の水準の50.1%にとどまる※2。その後、国内終息宣言が発表されるまでの期間に、需要は78.0%まで回復すると見込まれる。しかし、これらはあくまで生活者の意向である。また、ここでは以前と同じ頻度で利用を再開する前提で推計をしているため、頻度が減少する場合には、回復率は上記よりも小さくなることも考えられる。実際には、飲食店側も営業再開にあたり、感染対策として実際に利用する客席数や回転率を抑えて営業する必要がある。このため、宅配やテイクアウトを含まない外食市場の回復率はより小さくなると考えられ、新型コロナウイルス感染拡大前の水準まで回復するには長い時間を要すると想定される(図表4)。

利用してもよいと思う外食店の条件は、衛生管理の徹底と混雑緩和対策

緊急事態宣言の解除後もしくは移動制限が全面的に解除された後に外食を再開する意向のある外食自粛者に、店内での飲食をしてもよいと思う店舗の条件(感染防止対策)を聞いたところ、「店員の衛生管理(マスクの着用、手指消毒、咳エチケット等)の徹底」(63.8%)、「消毒や換気の徹底」(61.5%)、「利用者の衛生管理の徹底」(46.5%)等の基本的な衛生対策に加えて、「利用人数制限や座席の間隔確保等の混雑回避の徹底」(45.3%)が上位に挙がった(図表5)。また、必要な対策として「ガイドラインの遵守」を選択した人は37.5%にのぼり、業界団体や自治体が示すガイドラインが生活者の安心材料となりうることがわかる。神奈川県ではガイドラインのチェックリストと共に対策を講じていることを店内に掲示するための資料提供を行っており、こういった衛生管理対策の見える化の取り組みが生活者の行動の再開に結び付くことが期待される。
生活者は、店舗側だけの対策を求めているわけではない。先に述べたとおり「利用者の衛生管理の徹底」は4割を超える水準にあり、「利用者の健康状態の確認」や「利用者記録管理の徹底」は他の施策よりも回答率は高くはないが、2割を超える水準にある。多少の不便さや手間があったとしても、生活者自身が感染防止に協力する姿勢があることがうかがえる。
選択した対策の数に着目すると、複数の対策を選択した回答者は89.4%であり、対策を5つ以上選択した回答者は、38.2%であった(図表6)。性年代別に対策を5つ以上選択した割合をみると、男性よりも女性が、また、年代が高い方が大きい傾向にあった。これらの層については、感染予防対策に万全を尽くしているかどうかが、特に利用に影響を与えそうだ。

飲食業の回復には、短期的な公的支援とともに、中長期を見据えた店舗自身による改革が必要

外食店が利用客を確保するためには上記のような感染防止対策が必須となるが、各対策には追加的なコストがかかることに加えて、十分な客席の間隔確保や利用人数制限等は実質的な客席数を減少させる要因となり、営業時間の短縮や清掃・消毒・換気の徹底は回転率を下げる要因となる。これにより店舗の収益性が低くなり、経営が成り立たない店舗も多く出てくるであろう。
このため、短期的には、店舗が感染防止対策を整備することに対する助成や、感染防止対策を講じて営業する店舗に対しての低利融資等の公的な支援が求められる。また、生活者による支援も考えられる。詳細は、別の緊急提言※3を参照されたいが、自身の行きつけの飲食店への支援意向がある生活者は多く、少ない手間で支援できる仕組みが増えれば、生活者による飲食店への支援が進む可能性がある。
ただ、国内での新型コロナウイルス感染症の終息には少なくとも数年はかかると言われており、上記の短期的な対応だけでは十分とはいえない。飲食業は、この新しい環境で健全な経営ができるよう収益モデルの見直しを行う必要がある。なぜなら、前述の通り、客席数、回転率は、新型コロナウイルス感染拡大前の水準まで戻すことができない可能性があるためである。特に、面積あたりの客席数が多い店舗や、高い回転率で収益性を確保していた店舗などは、収益モデルの見直しの必要性が高いであろう。この新たな環境において売上を高めるには、客単価を増加させるか、客の滞在時間を短くし回転率を維持、向上させる、あるいは、宅配やテイクアウトといった中食の需要を取り込むしかないであろう。この状況下で料理宅配サービスの利用者も増えてきているため、宅配の取り扱い開始による売上確保はひとつの策である。一方で、客単価を増加させる方法は容易ではないが、政府が検討しているGo To Eatキャンペーンを活用して付加価値を高めることで実現することは可能かもしれない。
Go To Eatキャンペーンは、新型コロナウイルス感染症の流⾏が一定収束した段階で、飲食店に予約・来店した消費者に対し、飲⾷店で使えるポイント等を付与するというものである。飲食店としては、徹底した感染防止対策により消費者に安心感を与えるとともに、消費者にポイント等が付与されることで実質的な支出が下がることを見越して、付加価値の高いメニューも用意するなど、客単価を高めるための工夫をすることは一案である。収益が改善されれば、その分、飲食店がより安全性を高める施策も講じやすくなり、安全性を高めながら飲食市場を回復させていくことができる。震災復興においては、次の災害発生に備えて、より強靭な地域づくりを行う「ビルド・バック・ベター(より良い復興)」という概念が提唱されているが、感染防止対策においてもこのような考え方が重要ではないだろうか。
これまで述べてきたように、飲食業は、短期的には必要に応じて公的支援、もしくは、民間や消費者の支援を受けながら営業を継続しつつ、政府が検討している事業をうまく活用しながら、新たな環境に適応できるように収益モデルの見直しを行う必要がある。このコロナ禍は、飲食業界にとって大きな危機ではあるが、これを乗り越えることで、より良い業界へと進化していくことが望まれる。

  • ※1 

    調査概要については、https://www.nri.com/jp/keyword/proposal/ 20200528_2 ご参照のこと

  • ※2 

    外食需要(総利用回数)の推計方法

    1. アンケートにおいて、外食4業態別(喫茶店・カフェ、料理店・レストラン、ファーストフード、居酒屋)に、アンケート対象者(N=8,832)の「感染拡大前の利用頻度」及び「利用を再開するタイミング(緊急事態宣言に関わらず利用、緊急事態宣言の解除後、移動制限の全面的な解除後、国内終息宣言後、今後の利用は考えていない)」を把握。
    2. 感染拡大前における総利用回数(Σ利用頻度×対象者数)、および、フェーズ毎の総利用回数(Σ利用頻度×フェーズ別に利用再開している対象者数)を業態別に算出。(なお、利用を再開すると回答したフェーズ以降は、元の利用頻度で外食すると仮定)
    3. 感染拡大前における総利用回数を100%として、業態別にフェーズ毎の利用回数の回復率(=当該フェーズにおける総利用回数/感染拡大前における総利用回数)を算出。
    4. 各フェーズにおいて、業態別の回復率を各業態の市場規模により加重平均することで、外食全体の回復率(外食需要)の推移を推計。
  • ※3 

    在宅勤務・リモートワーク時代の飲食店の在り方https://www.nri.com/jp/keyword/proposal/20200519/10

執筆者

梶原 光徳

マーケティングサイエンスコンサルティング部

島村 安俊

社会システムコンサルティング部

田中 和香子

社会システムコンサルティング部

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お問い合わせ先

【提言内容に関するお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 未来創発センター
E-mail:miraisouhatsu@nri.co.jp

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株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部
E-mail:kouhou@nri.co.jp