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NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 6割がテレワークに支障を感じる一方で効用も実感されている~ビジネスカルチャーから見る日本企業のテレワーク導入の難しさ~

6割がテレワークに支障を感じる一方で効用も実感されている
~ビジネスカルチャーから見る日本企業のテレワーク導入の難しさ~

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2020/06/02

  • 新型コロナウイルス感染拡大および緊急事態宣言の発令を受け、日本企業のテレワーク利用は急速に進んでいる。野村総合研究所(NRI)が3月と5月に実施した調査結果を比較すると、大企業だけでなく、「10~30人未満」の中小企業においてもテレワーク利用が2割以上増加するなど、日本企業全体でテレワーク利用が大きく進んでいる。
  • しかし、テレワークを平常時でも継続利用したいという回答者の比率は、3月の66%から5月の46%へと減少している。今回テレワークを初めて利用した人ほど、テレワークへの支障感が強い傾向にあったが、その最たる理由は普段のコミュニケーションのしにくさにある。
  • ただし、支障があるからといってテレワーク自体を完全にやめたいわけではなさそうだ。回答者の6割がテレワークに支障を感じているが、同時に、テレワークを平常時にも継続利用したいと回答している人は多い。この背景には、仕事の効率低下を補えるほどの効用(例:通勤しなくてよい)を実感している可能性がある。
  • 日本のビジネスカルチャーは「ロール型」と呼ばれることがある。各人がチームの一員として状況に応じて様々な役割を担うことから、密なコミュニケーションが欠かせない。プロセスを重視する傾向も強く、頻繁な報連相(報告、連絡、相談)を求めるなど、ロール型のビジネスカルチャーはコミュニケーション面でテレワークとの相性が良くない。
  • テレワークの導入・推進が感染予防の観点から引き続き重要である中、典型的なロール型の日本企業ほど、ビジネスカルチャーが大きな障壁として立ちはだかるだろう。テレワーク推進のためには各人・各社のビジネスカルチャー理解が必須である。

テレワーク利用は中小企業においても大きく拡大

安倍首相の要請により3月2日から全国で休校が始まったことを受け、急遽子供たちが自宅で過ごすことが決まり、それを機にテレワークの導入や拡充、利用をはじめる日本企業や従業員がみられるようになった。野村総合研究所(NRI)が3月に実施したアンケート調査によると、3月中旬時点でテレワークを利用した人は全体で16%ほどであるが、大企業ほどテレワークを活用していた。
そして4月の緊急事態宣言の発令および全国拡大に伴い、さらに多くの企業でテレワークが進むことになった。NRIが5月に実施したアンケート調査によれば、テレワーク実施者は3月から23%増加し、4割近くの人がテレワークを実施していると回答した。従業員規模別にみると、大企業(従業員数1,000人以上)では6割弱が実施するようになり、従業員数が10人~30人未満の中小企業においても、3月から2割以上増加している(図1)。

平常時でもテレワークを取り入れたい人の比率は3月調査から低下して5割弱に

3月から5月にかけてテレワーク実施者は大きく増えたものの、平常時に戻った後もテレワークを取り入れた働き方をしたいと希望する人の割合は、3月には66%だったが、5月には46%へと減少している(図2)。また「テレワークを取り入れた働き方はしたくない」とテレワーク業務を否定する声も8%から13%に増加している。
この背景には、以前からテレワークを利用してきた人と、緊急事態宣言を受けて新たにテレワークを利用するようになった人の違いがあるとみている。どういうことか。テレワーク導入による業務の支障有無について、回答者全体では6割弱(59%)が「かなり支障を感じた」「やや支障を感じた」と答えているのだが(図3)、この数値は、以前からテレワークを利用できた人と、今回新たにテレワークを利用した人でかなり違っている。具体的には、新たにテレワークを利用できるようになった人の64%が「かなり支障を感じた」「やや支障を感じた」と答えているのに対して、元々テレワークを利用できた人の同回答比率は44%と20%も違いがあったのである(図3)。テレワーク新規利用者の方が業務上の支障を感じていて、その結果、平常時のテレワーク継続利用意向は3月よりも低下したのである。

仕事の効率性低下と効用のジレンマ

3月時点ではまだ緊急事態宣言も出されておらず、テレワーク制度を導入済みだった企業を中心にテレワークが実施されたのだとすれば、テレワーク利用経験者も多く、図2に示したように、平常時のテレワーク利用に対して66%が肯定的だったのも納得できる。それに対して5月時点では、政府の緊急事態宣言を受けて、半ば無理やりテレワーク制度を導入した企業もそれなりにあったはずである。また以前からテレワークを導入済みの企業だとしても、VPN環境が不十分で大人数のテレワークに対応できていなかった、というケースもあるだろう。環境面や業務面など様々な支障が噴出しても不思議ではない。
しかしそれでも、依然として46%が平常時でもテレワークを取り入れたいと回答していることは注目すべきである。実は、矛盾に聞こえるかもしれないが、テレワークに支障を感じているにも関わらず、平常時にも継続利用したいと回答している人は4割近くいる(図4)。この背後には仕事の効率性と効用のジレンマのようなものがあるのだろう。テレワークで仕事の効率性が下がったとしても、通勤ラッシュを免れる効用(精神的満足度)などのプラス面を同時に感じていて、両者を秤にかけていることが読み取れる。その意味では、今回得られた効用はそのまま維持しつつ、テレワークの効率性/生産性を何とか高めるべく工夫、努力しようと考えている人は少なくないはずだ。

テレワーク推進の支障の背後にあるビジネスカルチャー

テレワークの支障についてより具体的に見るため、NRIのインサイトシグナル事業が実施しているインターネット調査を通じて、追加の質問を行った。その調査によると、テレワークに「かなり支障を感じた」「やや支障を感じた」と回答した人にとっての最大の課題は、IT環境ではなくコミュニケーション面での難しさであった(図5)。
コミュニケーション問題は、時間がたてば慣れて解消していく面もあるだろう。優れた機能を持ったデジタルツールの導入で解決することもあるだろう。しかしコミュニケーションのやり方は、ビジネスカルチャーに密接に関係していることから、この問題は根が深い可能性がある。なおここではビジネスカルチャーを「企業や組織の構成員で共有されているビジネス上の規範や価値観」と定義する。
オランダ人研究者、マインド・ヒューザーが構築したビジネスカルチャー・モデルを紹介しよう。ヒューザーは、組織カルチャーモデルで有名なホフステッドの研究成果などを参考に、より実務的なわかりやすさを追求してモデルを開発した。筆者の1人である森はヒューザー自身から本モデルを学び、研修講師の資格のもとで、多国籍企業向けにビジネスカルチャー研修を実施したことがある。本モデルはテレワーク導入の難しさや相性を議論するうえで大いに参考になると考えている。ヒューザーは、「アクション」「プロセス」「タスク」「ロール(役割)」の4つの評価軸で、ビジネスカルチャーを可視化するモデルを構築した※1(下図参照)。

「アクション」は権威の有りようで、この数値が高い国ほど、行動し結果を出す(先導者的振る舞いをする)リーダー像が好まれ、数値が低い国ほど、出自(階級、出身校)や役職自体が権威の源となる。「プロセス」は規則や手続きに対する価値観で、この数値が高い国ほど複雑な規則、手続きを好み、反対にこの数値が低い国ほど単純な規則、手続きを好む。「タスク」については、この数値が高い国ほど、各人の業務が明確なタスクとして規定されていることを意味する。個人(I=私)の意識が強い。「ロール(役割)」については、この数値が高い国ほど、各人がチームの一員として状況に応じて様々な役割を担う。業務内容は明確ではない。コミュニティ(We=我々)意識が強いともいえる。注意していただきたいのは、数値の高低は文化の良し悪しを意味するものでは全くなく、あくまで特徴を述べているに過ぎないことである。

日本の「ロール(役割)」型ビジネスカルチャーはテレワークとの相性が悪い

ヒューザーは、世界各国での大規模アンケート調査から、国別にビジネスカルチャーを可視化している。それによると、日本はロール(役割)とプロセスの数値が高く、アクションとタスクの数値は低いため、右下の象限に位置している。特にロール(役割)の影響が強いことから、日本のビジネスカルチャーは「ロール型」と呼ばれている。
ロール型のカルチャーはテレワークと相性が悪い。ロール(役割)の数値が高いということは、各人の業務内容があいまいで、状況依存で違う役割を担うことから、密なコミュニケーション、あるいは阿吽の呼吸が要求される。そしてプロセスの数値が高いということは、複雑な規則、手続きが好まれるということで、頻繁な報連相(報告、連絡、相談)が求められるだけでなく、紙に書かれていない多くのルール(暗黙知)を身につけることが要求される。観察や感覚が重視される。つまり裏返すと、そのような暗黙知を身につけていない社歴の浅い社員や、頻繁な報連相が必須な組織で働く人にとって、テレワークでは仕事の効率性がかなり落ちるだろうということだ。
テレワークと相性が良いのは左側、特に左上の象限である。北欧やオランダはこの象限に位置していて、特にタスクの影響が強いことから「タスク型」ビジネスカルチャーと呼ばれている。各人の業務内容が明確で社内の規則はシンプルである。アクションの数値が高く、プロセスの数値が低いということは、規則や社内調整に時間をかけるよりも、自分自身でどんどん仕事を進めてしまうスタイルである。実際オランダを見ると、フリーランスが多いこともあって、新型コロナウイルスの感染拡大以前から在宅勤務率は欧州内で最も高い※2
新型コロナウイルスによって、オランダでもテレワークがさらに進んだが、オランダ政府のレポートによると、テレワークを取り入れている人の比率は44%に増えている※3。この数値は日本とそこまで違わないかもしれないが、大きく違う点はテレワークに対する支障の少なさである。同レポートによると、6割以上の人がテレワーク(在宅勤務)を容易に開始できたと答え、さらに7割近い人が、以前と同じ生産性を維持できている、と答えているのだ。他方、前述したように我々の調査からは日本人の6割近くがテレワークに支障があると回答していることから、日本とオランダには大きな隔たりがあると言えそうだ。

テレワーク推進の第一歩はビジネスカルチャー理解から

ビジネスカルチャー自体に良し悪しはない。しかしそれぞれの型の強み/弱みは存在する。例えば、本稿でこれまで述べているように、「ロール型」はテレワークとの相性があまり良くないけれども、チーム意識が高いことから、緊急事態が起こったときの対応力が高いという強みがある。
実際、新型コロナウイルスの感染抑止にあたっては、ロール(役割)の数値が高く「Weカルチャー」を持つアジア諸国のほうが抑止に成功し、タスクの数値が高く「Iカルチャー」を持つ欧米は苦戦しているように見える。つまり「ロール型」にもチーム意識や深い暗黙知など特有の強みがあり、テレワーク導入のためにタスク型に変身すればよい、という単純な話ではないということだ。そもそもビジネスカルチャーを変えることは容易でない。
ロール型のビジネスカルチャーを持つ企業は(歴史が長い日本企業の多くはこれに該当する)、ロール型の良さを維持しつつ、タスク型企業から学ぶことが必要だ。筆者の1人である森は、北欧の機械メーカーが買収した日本企業で、ビジネスカルチャー研修を行ったことがある。本国のビジネスカルチャーは典型的なタスク型で、タスク型のマネージャーが日本に送り込まれている中、買収された日本企業は典型的なロール型であり、真逆のビジネスカルチャーの融合、相互理解が大きな課題であった。
研修では、北欧から派遣されたマネージャー、日本人マネージャー、そしてグループ会社の中国人、インド人マネージャーなども交えて、世界には多様なビジネスカルチャーがあることを理解してもらった。特にタスク型の社員とロール型の社員との間には大きな隔たりがあったのだが、互いのカルチャーの特徴や強み/弱みを理解することで、研修前には相手のカルチャーを理解不能だと感じていたものが、多少は面白いと感じるようになったようである。たとえば、ロール型の人からすると、タスク型のマネージャーは頻繁な報連相(コミュニケーション)を求めず、チームワーク意識が低いと映っていたのが、その行為の背景にある価値観や理由を理解できたことで反発心は収まり、さらにタスク型の働き方を取り込みたいと考える人もいた。
テレワーク推進は、働き方改革の一環ともみられているが、仕組みを変えるだけでは不十分で、強固なビジネスカルチャーが仕組みを骨抜きにするケースもあるだろう。むしろこの機会に、空気のような存在でもある自社のビジネスカルチャーに注目し、その強み/弱みを理解するとともに、自社とは異なる型のビジネスカルチャーからも学ぶ、という姿勢が重要である。

【ご参考】調査概要

■調査名

「新型コロナウイルス感染拡大による生活への影響調査」

■実施時期

2020年3月、2020年5月

■調査方法

インターネット調査

■調査対象

全国の満15~69歳の男女個人

■有効回答数

3,098人(3月)、3,945人(5月)

■主な調査項目

 

◇情報収集行動

・・・情報収集の仕方・変化

◇コミュニケーション

・・・親子関係、夫婦関係、地域関係に対する意識

◇就労スタイル

・・・就労状況、就労意識

◇消費価値観

・・・消費に対する意識、今後積極的にお金を使いたい分野

◇消費実態

・・・外食、宅配、オンラインサービス等の利用意向・変化

◇生活全般、生活設計

・・・景気・収入などの見通し、直面している不安や悩み

  • ※1 

    モデル・オブ・フリーダムと呼ばれている。詳細は”The Cultural Advantage: A new model for succeeding with Global Teams” Mijnd Huijser, Ayn Pressを参照のこと。

  • ※2 

    Eurostatの以下の記事を参照のこと(https://ec.europa.eu/eurostat/web/products-eurostat-news/-/DDN-20200424-1)、2020年5月27日アクセス

  • ※3 

    “Mobiliteit en de coronacrisis” Kennisinstituut voor Mobiliteitsbeleid, 2020年4月

執筆者

森 健

未来創発センター グローバル産業・経営研究室

林 裕之

マーケティングサイエンスコンサルティング部

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【提言内容に関するお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 未来創発センター
E-mail:miraisouhatsu@nri.co.jp

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