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NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 ポストコロナ時代の企業経営 第1回:コミュニケーションスタイルと業務の再設計

ポストコロナ時代の企業経営 第1回:コミュニケーションスタイルと業務の再設計

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2020/06/10

全国に発令されていた緊急事態宣言が5月25日に解除され、日本でもコロナ問題の出口戦略に対する関心が急速に高まっている。しかし、過去の大規模な感染症の例を見ても、「終息」までには長期間を要したことから、企業経営者としては現時点での最悪シナリオを想定し、リストラ計画を含めて立案しておくべきという議論も出ている。
コロナ問題が終息した後の世界(以下、ポストコロナ)では、非可逆的な変化を前提とすべきであろう。上記のように、コロナ問題の最終的な解決にはかなりの時間を要すること、および倒産・廃業による供給制約も出てくるため、失われた需要は容易には戻らない。また、その間に市場のニーズが大きく変わってしまうことも想定した方がよいだろう。このようなポストコロナを想定したマネジメントの大きなテーマは、「企業活動の再デザイン」といえる。本稿以降、ポストコロナ時代の企業経営の再デザインについて、いくつかの考察を行う。
第1回となる今回は、テレワークが急に導入され、その効果や課題が議論されている現状を踏まえ、企業におけるコミュニケーションスタイルに焦点を当てる。

ポストコロナ時代に突きつけられた新たな現実

日本企業の従来の業務スタイルは、オフィスコストと通勤コスト、更には交通費や出張費等の移動コストを会社が負担し、社内外で密なコミュニケーションを取ることを前提に組み立てられてきたといえる。新型コロナウイルスの感染リスクがなければ、こうした業務スタイルにメリットが多かったのも事実である。
しかし、コロナ問題を機に我々に突きつけられた新しくかつ厳しい現実とは、このようなスタイルでの業務遂行がもはや不可能であるということだ。感染防止対策の上で身体的距離の確保が必須となっているため、コミュニケーションの観点から業務スタイルの再設計を図らねばならない。それに対する現時点での1つの回答が、在宅勤務・テレワークの拡大である。
労働政策研究・研修機構によると、「管理的職業従事者」「専門的・技術的職業従事者」「事務従事者」で日本の労働者人口全体の39%を占めている。さらに、営業業務の一部をオンライン業務に切り替えられると思われる「販売従事者」が13%を占める。つまり、理論的には日本の労働者人口の半分がテレワークの対象となりうるのだ。
テレワークの生産性についてはこれまでも様々な学術研究があったが、まだ決定的な考え方が示されていない状況であった。しかし今回のコロナ問題をきっかけに、「ステイホーム」の方針の下、多くの企業が好むと好まざるとにかかわらずテレワーク型業務スタイルに移行したため、結果論ではあるが、体験的にその善し悪しが分かりつつある。NRIでも、3月末に在宅勤務等についてアンケート調査を実施したので、ご参照いただきたい 。

コミュニケーション手段の目的の適合性

テレワークの生産性について考えるために、もう少し業務の分解能をあげて論じてみよう。

ホワイトカラーの業務は、情報収集や文書作成など社員が単独で進められる業務(単独業務)と、会議・打ち合わせ・交渉・営業など社内外の他者とのコミュニケーションが必要な業務(コミュニケーション型業務)に大別できる。
仕事をすることを前提に設計されているオフィスにいるのとは異なり、在宅勤務でテレワークを実施する場合は業務環境の相違(例えば、身近に家族がいたり、近所の物音が気になったり、要するに「気が散りやすい」ことや、デスク・椅子・通信などの環境など)から、単独業務の生産性低下が問題になることがあるだろう。しかし、より重要なのはコミュニケーション型業務の生産性議論である。
これまでの日本企業においては、現地・現物主義を重視するあまり、必要以上にリアルでのコミュニケーションを前提としてきたと考えられる。業務時間全体に占める会議の割合に関して複数の調査結果が発表されているが、平均すると20%前後である。準備に要する時間も無視できず、社外の取引先等の面談も含めると、日本企業の働き方においては相当程度、面談型のコミュニケーションに時間がとられていると予想される。
情報の伝達について、「メラビアンの法則」と呼ばれる知見がある。米国の心理学者・アルバート・メラビアンの実験結果によると、人と人とが直接顔を合わせた際のコミュニケーションには「言語情報」「聴覚情報」「視覚情報」の3つの要素があり、それぞれが矛盾した内容のメッセージを発信した場合に他者が優勢だと受け入れる割合としては、身振りや振る舞いなどの視覚情報が55%、口調や話の早さなどの聴覚情報が38%、文字や言葉などの言語情報が7%という傾向にあり、非言語情報の方が重要であることが分かったのだ。
これを一般的なコミュニケーションスタイルに敷衍し、面談で伝わる内容を100%として考えると、メールのような言語情報では7%、電話での聴覚情報では38%、オンライン型会議(ビデオ会議やWeb会議)での視覚情報は55%ということになり、オンライン型会議はメールや電話と比較するとより影響力が強い手段といえる。

ビジネスに必要なコミュニケーションの目的には3タイプあると考えられる。「情報共有」「フィードバック」「アクションの促進」であり、この順にコミュニケーションの難易度が上がる。大型の投資や取引を決めるといった「アクションの促進」を図る時には、メールや電話だけでは心許なく、姿を見せてのパフォーマンスが欠かせない。一方、コミュニケーションの難易度が低い「情報共有」が目的の場合には、メールを活用する妥当性は高いといえる。

コミュニケーションスタイルの経済性

コミュニケーションスタイルの経済性をどう見るべきであろうか。

メラビアンの法則を参考にすると、言語情報に相当するメールでのコミュニケーションは伝わりにくい、共有しにくい手段であり、欧米のようなメールベースの業務に切り替えることは現実性が低い。技術の進展により、音声情報・視覚情報の品質が高まった現在では、オンライン型コミュニケーションは面談型には及ばないものの、メールや聴覚情報に依存する電話と比べると遙かに有効な手段と考えられる。
企業経営と従業員の両面からみても、オンライン型コミュニケーションは経済的にも活用余地がある。
まず企業経営からみると、面談型コミュニケーションができる環境を整備するために、オフィスコストや交通費・出張費を投資していることになる。オフィスワーカー1人当たり床面積の平均は約4坪(日本ビルヂング協会連合会調べ)であり、都心の平均坪単価を3万円/月とすると、従業員1人当たりのオフィスコストは12万円/月かかることになる。さらに通勤手当として、企業は1人当たり約12,500円/月(労働政策研究・研修機構の調査で常用雇用者平均)も負担している。年間換算すると従業員1人にかけるコストは約160万円相当になり、従業員1人当たり平均売上5,000万円の企業にとってはその3%に相当し、決して無視できない経費負担をしていることになる。
次に従業員の立場からすると、勤務に相当しない通勤に対して片道50分弱(複数機関の調べ)を要している。業務時間全体に占める面談会議の割合が20%という勤務実態を前提にすると、面談型コミュニケーションのために、同等程度の通勤時間を費やすことを意味している。
社内外を問わず直接面談は(移動等に伴う時間ロスも含めて)コストがかかるが、確実に相手に情報が伝わり影響力も大きい。一方、オンライン会議で伝わる情報量や影響力は直接面談には及ばないものの、オンライン型コミュニケ-ションでも単独業務の生産性が維持でれば、企業と従業員の双方にとってメリットがあると考えられる。
さらに、新型コロナウイルスの感染率が高まってきたりすると、直接面談には感染リスクプレミアムがつくようになる。このことは、オンライン型コミュニケーションの経済性を高めることになる。

オンライン型コミュニケーションを前提とした業務再設計に向けて

ポストコロナ時代においては、健康第一という観点から直接面談型コミュニケーションを前提とできなくなる。またNRIの調査でも、在宅勤務やテレワークの導入で社員はワークライフバランスのメリットを感じ始めていることが明らかになっており、コロナ問題を機にオンライン型コミュニケーションを前提とした業務の再設計を行うには絶好のチャンスといえる。
今回の新型コロナウイルスの流行も第2波、3波の到来を覚悟せねばならず、早急に業務の再設計をする必然性は高くなる。まずは、直接面談型のコミュニケーションを最小化することが必要である。直接面談型スタイルが必須でない会議は止めるべきであり、原則、メールかオンラインスタイルに変更すべきである。
逆に、直接面談型コミュニケーションが必要な会議を設定することのハードルが相当高くなるため、ワンチャンスを逃さないよう周到な事前準備が不可欠となる。これも業務再設計の一環である。
人事マネジメントシステムも変えざるを得ない。今までは、社員の働き方を直接確認できるオフィス環境で、勤怠管理や業績評価をしてきた。オンライン型コミュニケーションを前提とするテレワークに本格的に取り組むためには、勤怠管理や業績評価など人事マネジメントシステムの改革も視野に入れておく必要があるだろう。
デジタル技術が深化し、かつ低廉化する中で、オンライン型コミュニケーションの経済合理性はますます高くなる。海外ではオンライン型コミュニーションが普及しており、グローバル化にも不可欠なスタイルといえる。また、オンライン型コミュニケーションが組み込まれた業務では、オフィスの必要性も見直しすることになる。必ずしも皆が同じ場所で仕事をする必要もなくなり、自宅やサテライトオフィスで仕事をすることの妥当性が高まる。
新型コロナウイルスの流行が「収束」している期間中に、経営者は新しいスタイルに適した業務やマネジメントシステムの再設計をしなくてはならない。

(第2回に続く)

執筆者

村田 佳生

顧問


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