2020/06/11
要旨
- 野村総合研究所(NRI)は、新型コロナウイルス感染拡大を受け、日本人の消費行動に与える影響を把握することを目的として、2020年3月に引き続き、5月にも日本人約3,000人を対象に緊急インターネット調査を実施した。(調査の概要については、後段の「【ご参考】調査概要」を参照)
- 先行きの見えない不安感や外出自粛が続く中で、日本人の生活満足度は5月になって大きく低下をした。しかし、このような状況下でも生活満足度の高い人は、ネットサービスやアプリを活用することで、利便性を高め余暇を楽しむデジタルライフを謳歌している人である。
- 生活満足度の高い人は、テレワーク前提の働き方も意識しており、より主体的かつデジタルを積極活用する「Digital Pliability(デジタル柔軟性)」の高い人である。「Digital Pliability」の高い人は、個人情報活用にも肯定的であり、国や企業における情報の利活用促進に大きなメリットをもたらす。国民全体のデジタル化推進のため、まだインターネット環境が整備できていない世帯への支援や、デジタル教育の支援がより一層求められるものになるだろう。
日本人の生活満足度はコロナ禍をきっかけに全般的に低下
野村総合研究所(NRI)は、新型コロナウイルス感染拡大を受け、消費者の行動や心理状態に与える影響を把握することを目的として、2020年3月中旬の調査に引き続き、5月上旬に日本人約3,000人を対象に緊急インターネット調査を実施した(注:3月の調査結果については、https://www.nri.com/jp/keyword/proposal/20200331をご参照のこと)。4月には全国を対象に緊急事態宣言が発出されたことから、緊急事態宣言前後の変化をとらえることができた。
長らく続く自粛生活の中で日本人の生活満足度には後退傾向が見られている。NRIでは人々の日常生活における満足度を、「満足している」「まあ満足している」「あまり満足していない」「満足していない」の4段階で継続した調査をしているが、2020年1月、3月、そして今回の5月調査で比較すると、1月から3月にかけては満足度の傾向に変化は見られないものの、3月から5月にかけて生活満足者は減少(「満足している」(-2%)、「まあ満足している」(-11%))し、不満足者は増加(「あまり満足していない」(+5%)、「満足していない」(+9%))していた(図1)。
新型コロナウイルス感染拡大を受け、3月上旬から学校は休校となり、外出や人と会うことを自粛する傾向があった。それがさらに4月の緊急事態宣言の発令および全国拡大を受け、店舗等では休業を余儀なくされ、ゴールデンウィークは「ステイホーム」をキーワードに過去に無い生活自粛モードを余儀なくされた。健康や収入、雇用面での懸念等、先行きの見えない不安感に加え、長らく自粛生活が続くことで、生活満足度が後退してくるのはやむを得ないことであろう。これら消費者の不安感や消費行動に及ぼす影響については、別の提言「新型コロナウイルス感染拡大が日本人の消費行動に及ぼす影響(2)」(https://www.nri.com/jp/keyword/proposal/20200526_2)を参照してもらいたい。
先述の提言でも触れたように、生活満足度は減少している傾向にあるものの、それでもなお半数程度の人は今の生活に満足している寄りの回答をしている。この自粛生活の中でも、生活満足度の高い人とはどのような人であるのか、本稿ではもう少し深掘りをした結果を紹介したい。
生活満足者・不満足者では、ネットの利用の仕方に違いがみられる
自粛生活が続き、自宅で過ごす時間が長くなったことで、インターネット利用時間が大きく伸びたことは、さらに別の提言「数年分のデジタル化がこの2か月で起こった:「デジタル包摂」が急務」(https://www.nri.com/jp/keyword/proposal/20200527)にも紹介しているが、5月調査においてテレビ視聴時間およびインターネット利用時間を生活満足度別に分析したところ、満足度の高い側と低い側の両端においてインターネット利用時間が長いことが明らかになった(図2)。
一見、インターネットの利用有無は生活満足度とは関係が無いようにも見える。しかし、ネットの利用の仕方については、満足者側と不満足者側で差が出ていた。インターネットで動画視聴をするのは、生活満足者・不満足者どちらも高いのだが、生活満足度の高い人はインターネットショッピングやネットバンキングなど、外出を控えるからこそ便利に利用できるサービスを利用したり、他者とのコミュニケーションのために、インターネットを利用する傾向にある。一方、不満足者側では、NRIの調査項目の中では「ソーシャルゲーム(無料)」のみが、唯一生活満足者側より高い項目であった。この結果から察するに、不満足者側は何か目的があってインターネットを利用するよりも、何となくネットサーフィンをすることに終始してしまっているのでないだろうか。
生活満足度が低い人は、不安感が強いものの、行動に結びついていない
日本人の抱える不安や悩みついては、先述の提言でも触れた通り、伝染病に対する不安、家族の健康に関する不安の他に、雇用・失業に関する不安が高い状態であるのだが、その傾向が生活に不満足な人ほど高い傾向が得られている。一方で、その不安感が行動につながっているのかといえば、そうでもない。
今後消費を控えたい項目としては、生活満足者の方が旅行や外出関連消費を控える傾向が高く、逆に生活必需品ともいえる食料品・飲料品等については不満足者の方が高い傾向にある(図3)。生活に不満足な人は、あれこれ心配はするものの、だからと言って新型コロナを警戒する気持ちや自粛制限のあるステイホーム生活を充実させる気持ちが生活満足者より低いのかもしれない。
生活満足度の高い人は、自粛生活の中でもデジタルライフを謳歌
生活満足者は最新のネットサービスやアプリを利用して、生活満足度を高めているのではないか。例えば、アマゾン定期おトク便に代表されるような「消耗品の定期配送サービス」の利用実態および利用意向は生活満足者ほど高い傾向があった。また、メルカリ等の「フリマアプリ」の利用実態・利用意向も生活満足者には高い。生活必需品やそれ以外の買い物の必要があっても、ネットサービスが利用できる環境は外出自粛生活の中において生活者の買い物行動を支える一助になっている(図4)。
また、アマゾン・プライム、スポティファイ、DAZN(ダゾーン)、キンドル・アンリミテッドなどの「映像・音楽サブスクリプション配信サービス」や、アマゾン・アレクサ、グーグル・アシスタント、ライン・グローバ等の「スマートスピーカー」についても生活満足者の利用実態・利用意向は高く、外出自粛生活の中で余暇を楽しむことや他のサービスと連携することによる生活の利便性向上を積極的に取り入れている(図5)。
制限された自粛生活の中でも生活満足度の高い人は、賢くネットサービスやアプリを活用することで、利便性を高め余暇を楽しむデジタルライフを謳歌している人だと言えるだろう。
ニューノーマルな価値観「Digital Pliability(デジタル柔軟性)」
新型コロナをきっかけに、生活満足者は意識面でも今後の生活においてこれまでとは異なる考えを持ち始めている。例えば仕事においては、緊急事態宣言後にテレワーク推進が急速に高まったわけだが、「会社に行かなくても仕事がある程度進められる認識が広まり、日本における働き方が今後大きく変わる」と考えている人は、生活満足者に多い(図6)。従来の仕事は、決まった時間・場所で働くことが雇用の前提となっており、そのような制約の中で学校卒業後に定年まで同じように働くことに適合するのは、組織面の柔軟性を持った労働者であると言えるが、これからは柔軟性の考え方が変わりそうだ。数年前からワークライフバランスの価値観の高まりや「働き方改革」の要請が求められていたが、コロナ禍をきっかけにテレワークが浸透することは、働く上での時間的空間的拘束から解放されることを意味する。働く場所も時間も柔軟になるだけに、個々人がこれまで以上に主体性を持って仕事に取り組む姿勢が必要となり、会社組織とのコミュニケーション等でデジタルツールの積極活用も必要になることから、これからはデジタル面の柔軟性「Digital Pliability」を持つことが重要になるだろう。
また、「大規模災害時やパンデミック(伝染病の流行)などの非常時であれば、国が人々の私的な移動や業務活動に制限を加えることはやむを得ない」と考えるのは、特に生活満足者側に「そう思う」と強く意識している人が多い(図7)。利便性等のメリットがあれば、個人情報を活用してもよい意識は生活満足者に多いことからも、インターネットを賢く利用し、その恩恵を受けているからこそ、コロナ禍の非常時や、メリットを享受できるのであれば、自身の情報を利用されることも厭わない。まさに「Digital Pliability(デジタル柔軟性)」が高い人である。こうしたデジタル面での柔軟性を高めることで、自身の生活が充実化されるだけではなく、国や企業においても情報の利活用促進面で大きなメリットをもたらすことになる。国民全体のデジタル化推進のため、まだインターネット環境が整備できていない世帯への支援や、デジタル教育の支援がより一層求められるものになるだろう。
【ご参考】調査概要
■調査名 |
「新型コロナウイルス感染拡大による生活への影響調査」 |
■実施時期 |
2020年3月、2020年5月 |
■調査方法 |
インターネット調査 |
■調査対象 |
全国の満15~69歳の男女個人 |
■有効回答数 |
3,098人(3月)、3,945人(5月) |
■主な調査項目 |
|
◇情報収集行動 |
・・・情報収集の仕方・変化 |
◇コミュニケーション |
・・・親子関係、夫婦関係、地域関係に対する意識 |
◇就労スタイル |
・・・就労状況、就労意識 |
◇消費価値観 |
・・・消費に対する意識、今後積極的にお金を使いたい分野 |
◇消費実態 |
・・・外食、宅配、オンラインサービス等の利用意向・変化 |
◇生活全般、生活設計 |
・・・景気・収入などの見通し、直面している不安や悩み |
執筆者
林 裕之
マーケティングサイエンスコンサルティング部
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株式会社野村総合研究所 未来創発センター
E-mail:miraisouhatsu@nri.co.jp
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