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新型コロナウイルス感染症の影響を受けた企業のサプライチェーン上の対応状況と課題

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2020/06/12

  • 突発事象への柔軟なサプライチェーンの対応の重要性はこれまでも指摘されてきた。しかし、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大においても、サプライチェーンの混乱は発生してしまった。そこで、企業のサプライチェーン担当者にインターネットアンケートを実施し、サプライチェーン上の対応実態を把握した。
  • サプライチェーン上では、調達量、生産量の調整に加え、調達先変更、在庫量の調整、トラック数や作業人員数の調整が多くの企業で発生した。
  • 対策の実施主体は、調達から販売までサプライチェーンを一元管理する主体が対応した割合が50%程度あった一方、工場や営業部門といった現場が対応した割合も40%弱存在した。
  • 今回の経験を踏まえた、今後のサプライチェーンマネジメント上の課題については、約半数の企業が、サプライチェーンの対策組織強化、業務改革、ITインフラの強化(デジタル化推進)を挙げている。
  • 今回のような突発事象に対して、迅速かつ適切な対策を打つためには、サプライチェーンを管理する上での基本的な「司令塔になるような体制の整備」は重要である。ただし、組織の整備だけでなく、どこに何がどのくらいあり、どのように動いているのかをリアルタイムで可視化すること、また、業務の標準化・効率化を進めることを喫緊の課題とする意見も多かった。
  • 業務の標準化、効率化を実現する上での障害は、現場が旧来の慣れ親しんだやり方に固執するあまり、改革が形骸化してしまうことである。改革の必要性を理解してもらい、現場に広く浸透させるには、IT化やデジタル化と連動させ、属人的なプロセスが入り込む余地をなくすこと、改革を推進する組織を設置すること、その管理運用方法を整備することが重要である。危機感の強い今こそ、本気で取る組むべきと考える。

1.再び混乱したサプライチェーン

新型コロナウイルス感染症の影響で、企業のサプライチェーンは混乱している。需要が大きく減少したり、マスクのように需要が急増したりしたことや、地域によっては工場が閉鎖されたことにより、生産・調達体制の見直し、在庫の見直し、物流の見直し等が必要になった企業は多い。
こうした急激な変化に対応するには、サプライチェーンの組み替えなどを柔軟に実施できることが必要である。状況を適切に把握し、調達先を変更したり、生産量を調整したりといった対応が求められる。このサプライチェーンの柔軟対応の重要性は、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大によって初めて指摘されたわけではない。特に組織面において、サプライチェーンを一元的に管理する組織の重要性はこれまでも指摘されてきた。近年では東日本大震災の際も指摘され、災害、疫病、地政学リスクが起きるたびに、企業は次に発生する突発事象に向けて対応策を進めてきた。
それでも、今回もサプライチェーンの混乱が起きてしまった。サプライチェーンの対応力を高めるためにも、改めて、日本企業のサプライチェーンマネジメント(SCM)の現状を把握し課題を整理しておくことが必要である。そこで本稿では、新型コロナウイルス感染症拡大時における企業の対応実態について、SCMを担う組織の整備状況との関係性を中心に、近年注目を集めるデジタル技術の活用度合いといった観点からも把握した。

2.サプライチェーンにおける新型コロナウイルス対応の実態

企業のサプライチェーンの対応実態については、インターネットアンケート調査によって把握した。アンケートは製造業、卸小売業のサプライチェーン担当者を対象に5月18日から20日に実施し、309件の回答を得た。結果は以下の通りとなった。

2-1.サプライチェーン上で実施した対策

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、生産から販売までの幅広い工程で対策が行われていた(図1)。特に、調達量、生産量の調整を行ったケースが多い。特に製造業においては、調達量や製造量の引き下げをした割合が多く、実施率は50%前後となった。卸・小売業では、調達量の引き下げや調達品在庫量の引き下げを行ったケースが多く、実施率は40%前後となった。また、卸・小売業では他にも、調達品の変更や製品在庫量の調整を行ったケースも多く、多岐に渡る対策が必要になっていたと想定される。また、製造業、卸・小売業ともに20%強のケースで出荷トラック数や作業人員の引き下げを行っており、調達量や製造量の抑制の結果として、物流体制にも広く対策が必要になったと考えられる。
企業規模別にみると、調達先の変更、調達品や製品の在庫調整、トラック数や作業人員数の調整といった点で大企業の方が対策を実施した割合が高かった。規模の大きい企業ほど、扱う量や商材の種別が多く、調整の必要な事項が多かったことが想定される。

2-2.対策を実施した組織

次に、今回のサプライチェーン上の対策を実施した主体を見ると、サプライチェーンを調達から生産、販売まで一元的に管理する組織(以下、SCM部門)が対応したケースが、製造業、卸・小売業ともに50%強を占めた。一方、営業部門や工場といった現場組織が対応した割合も35%前後であった(図2)。また、大企業ではSCM部門がある割合が70%を超えているのに対し、中小企業では43%にとどまっており、中小企業においてはSCMの専門部署の整備が進んでいない(図3)。
一部、SCM部門があったにも関わらず現場組織が対応したケースもあった。このような事態が発生した理由としては、現場判断を優先したことや、SCM部門の調整能力不足が挙げられている。

2-3.今後の課題

今回の混乱を踏まえたサプライチェーンマネジメント上の課題について、組織体制の改革、業務プロセスの改革、ITインフラの強化(デジタル化推進)がいずれも40%程度以上の回答者が課題として挙げている(図4)。特に業務プロセスの改革の重要性を挙げた回答が60%を超えている。この傾向は企業の規模や業種による偏りはなく、広く組織強化、業務改革、デジタル化推進が必要との課題認識がなされていると考えられる。
課題の詳細をみると(図5)、まず組織体制の改革については、業務横断的にSCMを統括する組織機能の整備を挙げた割合が最も多かった。また、SCM部門への権限付与、現場組織間での情報共有する場・体制の整備を挙げた割合もそれぞれ20%以上あり、サプライチェーンを管理する上での基本的な体制整備が必要な企業がまだ多いことが明らかになった。さらに業種別にみると、製造業では、SCM部門の整備の必要性を挙げた企業が39%と多く、卸・小売業では現場組織間での情報共有の場の整備を挙げた企業が33%と最も多かった。卸・小売業の場合、複数の倉庫や販売拠点とのやり取りが多く発生すると考えられるため、これら拠点との調整の重要性が認識されていると考えられる。
次に業務プロセス改革については、製造業では、部品の共通化や調達先の多様化を挙げる声も20%前後を占めており、調達面でのリスクマネジメントの重要性は広く認識されている。ただそれ以上に、業務フローの標準化や効率化を挙げる割合が製造業、卸小売業ともに多く、特に卸小売業では50%となっている。業務が属人的かつアナログで非効率な状況は非常時の対応余力を低くしてしまうといった危機感がその背景にあると考えられる。
また、ITインフラ強化(デジタル化推進)については、AI等を用いた需要予測の精度向上や、電子タグ等のIoTを活用したサプライチェーンの可視化を挙げる企業が多かった。製造業では、需要予測の精度向上が最も選択された(41%)。コロナ禍のような突発事象発生時においても、生産計画に直結する需要予測の高度化への強い課題認識が背景にあると考えられる。一方、卸小売業では、サプライチェーンの可視化の方が45%と最も多かった。緊急対応を行うためにも、何をどこに送るか、どう在庫するかといった正確な情報をリアルタイムで把握したいとのニーズが強いと考えられる。

3.今こそSCM管理組織の強化、業務の標準化、サプライチェーンの可視化に本気に取り組むべき

今回の調査を踏まえると、新型コロナウイルス感染拡大による市場の混乱を受けた調達・生産量の調整や在庫調整などの対応について、何らかの対策を取っていた企業は多いものの、組織・業務プロセス・ITのそれぞれ面で課題を抱えている。
そのなかでも、組織の面では、サプライチェーンを管理する上での「司令塔になるような体制の整備」を課題と考える企業が多かった。サプライチェーンは生産から販売まで多くの組織が関与して成り立っており、それを管理する組織を設計する際は、全体の組織構成上の位置づけ、与えられる権限、担当する人材など、留意する点は多いことがその背景にあると考えられる。これらの点は従来から指摘されていることであるが、今回の調査で、中小企業を中心に整備が十分でないことが明らかとなった。コロナによる第2波に向け、迅速な取組みが求められる。
加えて、コロナ禍での対応のような突発事象でもSCMを機能させるためには、管理組織が、瞬時に状況を把握し、適切に対応できるようになっていることが必要であり、そのためには、(IT面での課題としても挙げられた)電子タグ等のIoTを活用した「サプライチェーンの可視化」が喫緊の課題である。
また、業務プロセス上の課題に挙げられた「業務フローの標準化や効率化」も突発事象への速やかな対応に欠かせない。属人的な業務やアナログでの業務に依存してサプライチェーンを管理していると、対応の遅れにつながりかねないからである。ただし、これまで慣れ親しんだ業務プロセスを見直し、それを組織大で浸透させることは容易でない。IT化やデジタ化を駆使し、①属人的なプロセスが入り込む余地をなくすこと、②業務の効率化、標準化を守らせるための業務企画部門を設置すること、③KPG、KPIの設定など管理運用方法を整備することが重要である。
サプライチェーンに甚大な影響を与える事象は今回の新型コロナウイルス感染症で終わりではない。災害や疫病は今後も繰り返されると考えられ、サプライチェーンの柔軟な対応の巧拙は、企業の存続にも関わりかねない。サプライチェーンのマネジメントに苦労した感覚の残っている今こそ、サプライチェーンの司令塔の整備、状況を速やかに把握できるだけの可視化、業務の標準化・効率化の徹底について、本気で取り組むべきと考える。

ご参考

「新型コロナウイルス感染拡大によるサプライチェーンへの影響調査」の実施概要

  • 【調査方法】

    インターネットアンケート調査

  • 【対象】

    以下の条件をすべて満たす全国の満20~69歳の男女個人

    • 国内に本社のある、メーカー・小売・卸のいずれかを主な業務とする企業に勤務
    • 役職がSCM・物流・購買・貿易企画・管理のいずれか
  • 【有効回答数】

    309人

  • 【実施時期】

    2020年5月18日~2020年5月20日

執筆者

小林 一幸

グローバルインフラコンサルティング部

小畑 皓平

グローバルインフラコンサルティング部


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