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NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 医食住の新しい生活様式と働き方・学び方を支えるボトムアップ型のデジタル&リアルの経済社会システム構築を~新型コロナウイルス三位一体ショックから再興への処方箋(2)~

医食住の新しい生活様式と働き方・学び方を支えるボトムアップ型のデジタル&リアルの経済社会システム構築を
~新型コロナウイルス三位一体ショックから再興への処方箋(2)~

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2020/07/02

  • 今回のショックは、 2020年5月1日の処方箋(1)で提言したように、従来の危機と異なり、三つの段階や区分ごとに生じるリスクが同時に一体となって多発する三位一体のショックとなっているのが最大の特徴である。国際的に中国等の台頭など地政学的変容をもたらすだけでなく、各国や各地方自治体、各企業や各学校、各家庭や各個人など一体同時にリスクをもたらす。他方、未曽有のショックに対する各々の対応やその好事例は、異なり、過去の常識からでは評価・活用が困難なため、デジタル技術を活用してデータ収集、分析し、官民・内外連携してリスク・マネジメントに活用しつつ、国や地域の持続可能な再興への方策を検討する際の手本として活用すべきである。
  • 現状から今回の危機のリスクの根本原因等を捉え、弱みを強みに変えて再興する処方箋(2)として、政府が広く国民に呼びかけている「新しい生活様式」を具体的に衣食住ならぬ医食住と働き方、学び方で、今回の危機で試行錯誤を始めている好事例を考察し、こうした事例が目指す、三位一体ショックからデジタル&リアル変革で実現したいレジリエンスのある(強靭でしなやかな)ニューノーマル(生活様式)を描いてみたい。
  • その上で、医食住の新しい生活様式と働き方・学び方を支えるボトムアップ型のデジタル&リアルの経済社会システム構築を、従来の国や自治体からトップダウンのマクロ経済政策だけでなく、生活者や企業家などからボトムアップのミクロ経済社会政策で、①設備投資・自給率向上、②需要創造・消費刺激、③新産業・輸出振興の三位一体で実施する方策を提言する。デジタル武装した医食住の新しい生活様式と働き方・学び方は、国民全体のデジタルケイパビリティ向上、SDGsなど目指す健幸型社会創造、①~③を通じた、新たな経済循環モデルの実現からなる新三位一体成長モデルとなって日本の「V字回復」の可能性を生む。

三位一体ショックからボトムアップ型でデジタル&リアル変革で実現するレジリエンスのある(強靭でしなやかな)ニューノーマルとは

今回のショックは、2020年5月1日の処方箋(1)で提言したように、従来の危機と異なり、三つの段階や区分ごとに生じるリスクが同時に一体となって多発する三位一体のショックとなっているのが最大の特徴である。例えば、時間的に短期・中期・長期で生じるリスクが同時に起こり、ヒト・モノ・カネの区分間で行われる取引や最終的に三面等価となる生産、分配(所得)、支出のフローが同時に一体となって止まり、空間的に日本・先進国・途上国で同時にリスクが発生し、世界共通目標であるSDGs(持続可能な開発目標)の経済・社会・環境(生物圏)にも同時に一体となってショックを与えている。これらは、国際的にパワーバランスの変動などの地政学的変容をもたらすだけでなく、各国や各地方自治体、各企業や各学校、各家庭や各個人など一体同時にリスクをもたらす。他方、未曽有のショックに対する各々の対応やその好事例は、異なり、過去の常識からでは評価・活用が困難なため、デジタル技術を活用してデータ収集、分析し、官民・内外連携してリスク・マネジメントに活用しつつ、国や地域の持続可能な再興への方策を検討する際の手本として活用すべきである。

今回の新型コロナウイルス感染症の拡大によりもたらされたものは、三位一体の委縮=ショックである。つまりコロナ以前の最大値が100だとしたら、それが80や50になった。例えば、緊急事態解除宣言により、飲食店、図書館、劇場などの人が接近する場所では、フィジカルディスタンスとして1席分を開ける、1~2mの距離を空ける対策を講じて営業再開としたが、当然その空間分の売上・利益は減少する。同様に移動が伴う業界は悉くその最大値を下げることとなった。三位一体ショックからボトムアップ型でデジタル&リアル変革で実現するレジリエンスのある(強靭でしなやかな)ニューノーマルとは何か。

三位一体のショックは、量として経済社会活動の最大書を引き下げ、質として国内格差拡大と二極化を引き起こすマイナスの側面がある。同時に、生活様式を含め、質を変化させ、そうした変化の中には、これまで変革を求めながら、なかなか変化したなった経済社会の慣習も変化しつつあり、変化に挑戦する企業・個人(生活者)が自律的に協力することで生まれる「ボトムアップ型」社会システムが構築されつつあるというプラスの側面がある。「新型コロナウイルス三位一体ショック再興戦略研究会」として、こうした「ニューノーマル」な挑戦を支援・促進することで、三位一体ショックを逆手にとって、衣食住ならぬ医食住の生活から、働き方・学び方まで各人の変化をボトムアップでデジタル化だけでなくリアルな経済社会の変化にできれば経済の「V字回復」も視野に入ってくるのではないかと考えた。

「設備投資・自給率向上」、「需要創造・消費刺激」、「新産業・輸出振興」の三位一体で実現するニューノーマルな未来

このような三位一体ショックからボトムアップ型でデジタル&リアル変革で実現するレジリエンスのある(強靭でしなやかな)ニューノーマルを「新型コロナウイルス三位一体ショック再興戦略研究会」として議論し、これを目標や未来ビジョンとして、バックキャスティングで未実現の時と実現した時とで、新型コロナウイルス三位一体危機影響シミュレーションを行った。以下説明するコロナ危機のいずれのシミュレーションにおいても、①国内投資・自給率向上、②国内消費刺激、③それらによる新産業・輸出振興経済等回復の三本柱であり、それぞれのそれら三本柱でいかに経済社会活動を回復させ、さらに経済社会全体を成長させるかについて試算を行った。

特に経済効果の高く、また一定の国内自給率を増加させる余地のあるセクター・テーマでの戦略が重要になる。

  • 本研究会の論点における「教育・学び」においては、オンライン・リモート教育体制を整備するための基盤投資や、リカレント教育消費の促進、個人別の教育・学びログのトラック・レコード化等が検討できると考えられ、GIGAステューデントからGIGAスクールへ、デジタル&リアルな学びの社会経済システムの再構築(提言(4)後日掲載予定)が重要となる。
  • また、「医食住」テーマにおける、医療現場でのIT化や個人情報基盤整備によるGIGAペイシェントの確立、またそれを通じた生活者の医療および健康消費の増加が期待される。また、メディカルニューディールである先端医療研究拠点と連動するデジタル&リアルな健幸社会経済システムの再構築(提言(3)後日掲載予定)が重要となる。特に、国内投資を通じて新たに生まれた市場を揺籃器として、輸出拡大に繋がることが将来に向けたV字回復に繋がると考える。

アフターコロナの経済回復シナリオは、以下の3段階のエンジンが重要となる。
①1段目エンジン:設備投資・自給率UP
これは国内自給率拡大のための設備投資である。消費者の新たな生活様式を支える産業形成のため、サプライチェーンを支える国内生産体制強化や、新たな企業・社会に対するデジタルインフラ強化を図り、国内産業の新成長を促進することが重要であり、2段目、3段目のエンジン点火においても重要なテーマとなる。
②2段目エンジン:需要創造・消費拡大
これは、ニューノーマル環境に即した代替需要創造である。密回避、遠隔コミュニケーション、Withコロナ下によける重症化予防策等の新たな潜在需要を官民連携により掘り起こし、消費対象の減少(外食・旅行等)に替わる新たな消費者価値を創造することが求められよう。
③3段目エンジン:新産業輸出拡大
これは、ニューノーマル市場産業化モデルの輸出である。市場形成を実現した新たな消費者価値は、海外、特に新興国に対する社会システム・産業システムの輸出機会を増大させることになる。これは日本企業の新たな競争力の源泉として成長を加速させるためのエンジンとなる。

医食住の新しい生活様式と働き方・学び方

生活の基本として永らく衣食住と言われてきたが、現代では医食住とした方が合うのかもしれない。

(1)新たな医

日本の医療制度は非常に複雑で、現実的にこれを一から再構築するのは非常に難しいといえるだろう。ただ複雑だから諦めているのではなく、日本の医療をより良くしたくとも、必要なものが実は全く足りていないのである。いくつか例を挙げよう。医療現場でのIT化は進んでいるが、個々の医療機関が独自に構築しているため規格の違いや、情報保護の観点などでデータ連携が難しい。病院が変わるとなぜか同じ検査をするという経験は多くの人がしているだろう。また、新型コロナウイルス感染症では、手書きの紙をFAXでやり取りせざるを得ない現場の報道もあった。分析に必要な医療データ活用もこれではままならない。また、新型コロナウイルス感染症で有効とされるアビガンは、原材料の殆どが海外頼りである。日本で開発されたにもかかわらず製造が自国で完結できないのである。これだけでなく、バイオ医薬品に至っては、製造どころか開発自体が周回遅れとなりつつあり、こちらも国を挙げたテコ入れが必要である。
日本が未知の感染症リスクや、長期的な医療体制を確立するためには、新たなデジタル主体としての患者であるGIGAペイシェント(患者)ともいうべきデータ共有の整備やシステムの更新が行われ、集中治療供給体制の強化や、厚生労働省・研究・臨床・医薬産業の連携連動が急務であり、これらをまとめるグランドデザインの構築とそれへ向けた行動をしなければならない。
今回は医療現場の不断の努力と懸命な働きにより医療崩壊はある程度回避されたが、一方で、人員不足や、医療機関の財政悪化は今後表出してくるだろう。
海外ではアフターコロナを見据えて、国や企業が医療データの収集に尽力し、医薬品の開発やより良い医療制度への転換へ向けて早くから動いていた。それを行う事業への民間の資金供給も素早く行われていた。
医療は外交や通商のカードにもなる。医療制度のイノベーションが遅れれば、日本人の生命が外国に左右される状況が遠からず到来することだろう。
幸いなのは、改善の余地が多々あるとわかっていることと、イノベーションに耐えうる余力が多少なりとも残っていることで、見通しとしては前向きに捉えたいところである。

新しい生活様式を支える経済社会システム構築の主体は、その体験がデジタル変革(DX)のカギとなる従業員、顧客、そして生活者である。そして経営陣・管理職にとっても自分事の体験や生活者としての体験こそが自社・自国再興に向けた宝箱、そしてそれを開けるカギだ。「医」では医療の顧客であるペイシェント(患者)、従業員であるドクターやナースなど医療従事者の体験情報こそが主人公となる。医療現場でのIT化や個人情報基盤整備によるデジタル主体GIGAペイシェントの確立、またそれらを通じた生活者の医療および健幸に関する②需要創造・消費刺激が期待される。また、メディカルニューディールである先端医療研究拠点と連動する臨床医療拠点とデジタル化した主体的な患者を基本としてデジタル世界だけでなくリアルな健幸社会経済システムの再構築も重要で、特に、国内投資を通じて①設備投資・自給率向上、新たに生まれた市場を揺籃器として、③新産業・輸出振興に繋がることが将来に向けた「V字回復」に繋がり得る。

(NRI緊急提言「先端医療研究拠点と連動するデジタル&リアルな健幸社会経済システムの再構築を~新型コロナウイルス三位一体ショックから再興への処方箋(3)」後日掲載予定 参照)

(2)新たな食

科学技術の発展により、ほとんどの食べ物が世界の流通に乗り供給できるようになったと同時に多くの課題を生み出している。例えば、自給率は日本にとって致命的な問題である。新型コロナウイルス感染症では一部物流が滞り、店頭から消える作物が出ると同時に、出荷できずに、また需要減でフードロスになるという問題も生まれた。未知の感染症だけでなく、凶作や流通の遮断による食糧危機も想定しておくべきだろう。加えて、食の安全性については、長年議論されているトピックである。 これらを広範囲に解決し得る提言は、農薬と添加物に世界最高水準の安全基準をかけ、生産や流通にさらなるIT・テクノロジーの導入をすれば良いのである。
この安全基準を設けると何が起こるか。消費期限が短くなるため、地産地消が進むと同時に、海外からの輸入が減り国内の農畜産産業が発展する。新しい流通手法の開発で新たな産業の創出も期待できる。農産品には付加価値が付き輸出産業も伸びる。何よりも安全安心の食がもたらされることが利点と言えるかもしれない。
ITやテクノロジーのさらなる導入はこれを後押しする・支えるためのものである。現在もITやテクノロジーを積極的に進めたイノベーション農家は、生産性が向上し利益率が良くなり、さらに無農薬・減農薬もでき、加えて流通の効率化やトレーサビリティにも寄与する。世界最高水準の安全基準とIT・テクノロジーは、強く安全なレジリエンス農業を実現することに不可欠な要素と言える。また、生産から流通、食卓やレストランを含めた食の分野にこの2つの施策をするだけで、関連ビジネスを含め多大なる経済効果も見込まれる。
これらの詳細は今後の提言でまとめることとするが、現在も世界では、害虫の発生や農薬、通商など様々なところで日本の食を脅かす可能性のある事象は起きている。食の自立は喫緊の課題といえよう。

(3)新たな住

最後に住について。
これは住居にとどまらず、国土利用までを含めた生活環境についての提言である。新型コロナウイルス感染症の対応のため、3密を避けた行動が推奨され、生活環境は激変した。日々の買い物から通勤通学、レジャーまで生活環境で変化しなかったところは無いだろう。私たちの生活は未知の感染症には弱かったと言わざるを得ない。仮に新型コロナウイルス感染症が終息しても、元の生活スタイルに戻ることには不安を覚える。その不安を抱えたまま日々を過ごすか、新しい生活様式を念頭にした安全安心の日々を過ごすかと言われれば後者を選ぶだろう。ではどうしたら良いか。

①新しい働き方
今回の未曽有の三位一体ショックに対応される中での実体験として、生まれた時からITに囲まれたデジタルネイティブと呼ばれる若い世代を中心に、年齢層の高い経営陣・管理職が想定していた以上に従業員や顧客のデジタルケイパビリティが高いことに気づかれ、ステイホームで家族と一緒にいると、子どものいるご家庭では、お子さんがゲームだけでなく生活や学習・思考などにいかにデジタルを活用しているか感心された方も多いのではないか。会社で、それら従業員体験、顧客体験(CX)をスマホの寵児であるGAFAはじめデジタルプラットフォーマーがいかに掌握・活用しているかにも実感し、自社の身近な従業員や顧客の体験からデジタル変革(DX)のカギとして耳を傾け、従業員あるいは顧客のテレワークなどデジタルを活用した新しい働き方を模索したり、eラーニングなどデジタルを活用した新しい学び方が職場や学校・家庭で試行錯誤が行われたり、家庭や地域、SNSなど通じたコミュニティでデジタルを活用した新しい衣食住ならぬ医食住を始めた、もしくは始めた体験を聞かれたり、各人様々な体験されている。しかも、こうした新しい生活者としての体験は、自身や家庭、自社だけでなく、日本全国、先進国、途上国が三位一体・同時に発生しており、こうした好体験に基づく社会全体のデジタルケイパビリティ向上の流れは、決して止まることはなく、コロナ危機前から続いている世界のデジタル変革(DX)の流れの中で、こうした従業員・顧客の生活者としての体験を経営の中心とし、外出自粛やロックダウンで出張や旅行など控えられた消費余力やデジタル体験にはもっと支払ってもいいと考える消費者余剰をいかにつかむかが今回の危機対応・再興のカギとなることに気づかれた経営陣・管理職、従業員・顧客、そして生活者も多いのではないか。

三位一体ショックからボトムアップ型でデジタル&リアル変革で実現するレジリエンスのある(強靭でしなやかな)ニューノーマルの主体は、従業員、顧客、そして生活者であり、彼らの体験がデジタル変革(DX)のカギとなる。そして経営陣・管理職にとってもこれまで述べた自分事の体験や生活者としての体験こそが自社・自国再興に向けた宝箱、そしてそれを開けるカギだ。これが、国民全体のデジタルケイパビリティ向上、SDGsなど目指す健幸型社会創造、新たな経済循環モデルの実現を導き、日本の「V字回復」の可能性を生む。日本や地域を再興する新三位一体成長モデル創造のカギは、これらの好体験やそれに基づく試行錯誤の好事例を、国・自治体も企業も国民も、邪魔せず支援することである。今回の危機は世界共通目標であるSDGs(持続可能な開発目標)の経済・社会・環境(生物圏)にも同時に一体となってショックを与えているが、コロナ前からSDGsに向けた取組みを進めていた企業はコロナでのダメージが小さく、対応や回復・再興も早いとの報告もあり、SDGsに持続可能な経済社会システム構築を目標とする新三位一体成長モデル創造にも共通言語となる。

(デジタルケイパビリティ向上で生活・経済社会に新たな価値をもたらす新三位一体成長モデル創造を~新型コロナウイルス三位一体ショックから再興への処方箋(5)後日掲載予定 参照)

②新しい学び方
これまで、教育システムは「物理的に集合して学ぶ」ことを基本としてとらえ、オンライン教育は補完的もしくは以前からある通信教育のような例外的なものとして意識されていた。そして大半の学校は4月入学と3月卒業が当たり前のこととして構築されている。
新型コロナウイルス感染症により、緊急事態宣言から一斉に休校となり、解除宣言が出た後も未だ元の学習状態とは程遠い状態である。対応として、自主的な学びやオンライン学習、zoom授業などこの新型コロナウイルス感染症が過ぎ去るまでの一過的なものとして、それぞれができることをやってみたと言えるだろう。
では、アフターコロナの「教育」はどのようにしたらよいのか。実は新しいものを生み出さなくとも、これまでの経験や海外の事例を応用すれば、容易に対応できる。
まずは、入学時期について。何度となく議論に上がった9月入学がまた脚光を浴びた。結果として見送りになったが、海外のスタンダードと照らし合わせるなど、以前よりは受け入れやすい意識になっているのではないか。しかし、これでは新型コロナウイルス感染症のような未知の感染症が仮に夏に発生すれば、9月入学も今回と同様に機能しなくなるだろう。アフターコロナで提示するのは通年入学だ。いつでも入学できるようにすれば学びの機会は容易に確保できる。次の問題は授業をどうするか、これは各教科・各単元を単位分けして、年数回のサイクルで同じ講義をしたらよい。修学旅行や運動会などの行事はコンテンツとしてとらえ、時機を見て実施すれば良いのではないか。授業内容については、教科書と同様に動画授業を選定しオンライン配信すれば、それを学校・図書館・家庭などどこでも視聴でき、平等な機会が確保できよう。
教員不足の解消や負担軽減についても、子供たちをマネジメントする担任と各教科担任にわけ、役割を明確化させれば、必然的に解消に向かうだろう。
卒業時期はどうか、実際のところ入学時期ほどセンシティブになる必要がない。なぜならば、これまで通り3月卒業で何ら問題はないし、海外に合わせて8月に卒業としても良いからだ。例えば、留学したい者は3月に卒業したあとの約半年を、アルバイトや旅行に充てても良し、海外では数か月単位で入学卒業できる語学をはじめ様々な学習プログラムを持つ学校が存在し、これを活かしても良し、9月入学までの期間を過ごす方法は、新型コロナウイルス感染症にかかわらず多様な選択肢がある。8月に卒業し9月に入学するというシームレスさは必要がない、だから卒業時期は重要ではないのである。通年入学は大人にとっても有益だ。就職して学びが必要と感じれば、また大学や大学院で勉強をする。そしてまた就職をする。定年後も学ぶ意欲があればいつでも学習できる。通年入学を認め、大学のような教育システムを導入すれば、非常に柔軟性のある学習環境を日本のみならず世界にも提供することができるだろう。つまり、リカレント教育の土壌が、通年入学を実施することでより強固になる。
次に重要な点として登校時間がある。現在は概ね朝の8:00~9:00が登校時間となっているが、様々な点で問題がある。都会では小中学生が満員電車で通学し、地方では通勤で交通が混雑しているところを通学する。そして最近の研究では、大学生くらいまでは概ね10:00以降に学習を開始した方が、習熟度が高くなるというデータがでており、既にイギリスの一部の公立校で実施され成果を上げている。日本でも登校時間を10:00以降にすることで登校時の安全性と習熟度を高めることができるのである。新型コロナウイルス感染症のもとでは、登校時の3密を回避でき得る。それだけではない。子供の始業時間が変わることにより、朝の時間に余裕ができ、保護者の働き方も変わってくる。学校関係者の動きも変わってくる。これによる経済効果や、効率性の向上など派生するものは多い、これが入学時期・登校時間を起点とした政策のレバレッジとなる。
これに既に着手しているGIGAスクール事業が早急に進めば、インフラ面でも補完されることになり、より学びの柔軟性が保てたレジリエントな教育システムとなるだろう。

新しい生活様式を支える経済社会システム構築の主体は、その体験がデジタル変革(DX)のカギとなる従業員、顧客、そして生活者である。「学び方」ではGIGAステューデントからGIGAスクールなど「社会インフラ(教育)強化への挑戦」が出発点となり、スクール(学校・大学)の顧客であるステューデント(生徒・学生)、従業員である教職員・先生など教育関係者の体験情報こそが主人公となる。オンライン・リモート教育体制を整備するための基盤投資や、リカレント教育消費の促進、個人別の教育・学びログのトラック・レコード化等が検討できると考えられ、これらのデータ駆動型サービス創造として、GIGAスクールとして、国民全体のデジタルケイパビリティ向上、SDGsなど目指す健幸型社会創造、①設備投資・自給率向上、②需要創造・消費刺激、③新産業・輸出振興を通じた、新たな経済循環モデルの実現からなる新三位一体成長モデルとなって日本の「V字回復」の可能性を生む。

(NRI緊急提言「デジタル&リアルな学びの社会経済システムの再構築を~新型コロナウイルス三位一体ショックから再興への処方箋(4)」後日掲載予定 参照)

提言:医食住の新しい生活様式と働き方・学び方を支えるボトムアップ型のデジタル&リアルの経済社会システム構築を

今回のショックは、2020年5月1日の処方箋(1)で提言したように、従来の危機と異なり、三つの段階や区分ごとに生じるリスクが同時に一体となって多発する三位一体のショックとなっているのが最大の特徴だが、今回の未曽有の三位一体ショックに対応される中での実体験として、生まれた時からITに囲まれたデジタルネイティブと呼ばれる若い世代を中心に、年齢層の高い経営陣・管理職が想定していた以上に従業員や顧客のデジタルケイパビリティが高いことに気づき、それら従業員体験、顧客体験(CX)をスマホの寵児であるGAFAはじめデジタルプラットフォーマーがいかに掌握・活用しているか実感したとの声が多く聞かれる。自社の身近な従業員や顧客の体験からデジタル変革(DX)のカギとして耳を傾け、テレワークなどデジタルを活用した新しい働き方、eラーニングなど新しい学び方、新しい衣食住ならぬ医食住が、今回の危機対応・再興のカギとなることに気づかれた経営陣・管理職、従業員・顧客、そして生活者も多いのではないか。

ここで、医食住の新しい生活様式と働き方・学び方を支えるボトムアップ型のデジタル&リアルの経済社会システム構築を提案したい。

政府が広く国民に呼びかけている「新しい生活様式」を具体的に衣食住ならぬ医食住と働き方、学び方で、今回の危機で試行錯誤を始めている好事例を考察し、こうした事例が目指す、三位一体ショックからデジタル&リアル変革で実現したいレジリエンスのある(強靭でしなやかな)ニューノーマル(生活様式)を描いてみた。そうしたニューノーマルを支える経済社会システム構築を、従来の国や自治体からトップダウンのマクロ経済政策だけでなく、生活者や企業家などからボトムアップのミクロ経済社会政策で、①設備投資・自給率向上、②需要創造・消費刺激、③新産業・輸出振興の三位一体で実施する方策を提言する。デジタル武装した医食住の新しい生活様式と働き方・学び方は、国民全体のデジタルケイパビリティ向上、SDGsなど目指す健幸型社会創造、①~③を通じた、新たな経済循環モデルの実現からなる新三位一体成長モデルとなって日本の「V字回復」の可能性を生む。

新型コロナウイルス三位一体ショック再興戦略研究会

執筆者が英国ロンドンで王立国際問題研究所(チャタムハウス)客員研究員やG7、G20担当をした際にご縁のあった日本・先進国・途上国で活躍する有志がNRIにリモートで集い、「新型コロナウイルス三位一体ショック再興戦略研究会」で再興への処方箋を議論する中で、
慶應義塾大学大学院講師、JCI Senator、SDGs Innovation HUB理事 米倉ユウキ氏
漆間総合法律事務所副所長、イノベーション政策強化推進のための有識者会議「バイオ戦略」 有識者 吉澤尚氏
㈱チャレンジ&グロー代表取締役、中小企業診断士 小紫恵美子氏
にご寄稿ご協力いただき、執筆者とりまとめで、本提言が生まれた。
またシミュレーションでは、C2D代表の畔上靖氏、㈱みらい創造機構取締役の斎藤康平氏に多大なご協力をいただいた。
ここに謝辞を述べるとともに、引き続き、議論を続け各界への提言につなげていきたい。

執筆者

御友 重希

未来創発センター 制度戦略研究室

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お問い合わせ先

【提言内容に関するお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 未来創発センター
E-mail:miraisouhatsu@nri.co.jp

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