2020/07/02
要旨
- 今回のショックは、2020年5月1日の処方箋(1)で提言したように、従来の危機と異なり、三つの段階や区分ごとに生じるリスクが同時に一体となって多発する三位一体のショックとなっていて、各国や各地方自治体、各企業や各学校、各家庭や各個人など一体同時にリスクをもたらす。他方、未曽有のショックに対する各々の対応やその好事例は異なり、過去の常識からでは評価・活用が困難なため、デジタル技術を活用してデータ収集、分析し、官民・内外連携してリスク・マネジメントに活用しつつ、国や地域の持続可能な再興への方策を検討する際の手本として活用すべきである。
- 今回の危機のリスクの根本原因等を捉え、弱みを強みに変えて再興する処方箋(3)として、三位一体ショックから脱却するため「データ(健康医療情報)」を活用し、「医療革新」を起こすため、健幸社会経済システムの再構築を提言する。それは、国際的な先端医療研究開発・産業集積基盤整備のため官民・国内外連携を行いつつ、三位一体ショック対応の好事例やデータを「医療」再興方策の手本として、具体的にどう官民・内外連携活用できるか検討することにより、デジタル患者主体つまり、GIGAペイシェントを主体としたメディアカルニューディールを実現することである。
GIGAペイシェントからメディカルニューディールへ~三位一体ショック対応好事例データ活用
今回のショックは、2020年5月1日の処方箋(1)で提言したように、従来の危機と異なり、三つの段階や区分ごとに生じるリスクが同時に一体となって多発する三位一体のショックとなっているのが最大の特徴である。米国と中国の対立も難しい局面を迎え日本もその荒波の中、どう生き残るべきか。そのような中で、インフラ産業として不況時に影響を受けにくい強い産業でもある海外の製薬メーカや医療機器メーカは、データを活用した新たなヘルスケアビジネスに参入し、総合ヘルスケア産業に変貌しようとしつつある※1。日本も国内の医療情報の連携の基盤を国際標準に準拠しながら、国内の医療サービスを高度化していくべきである。その上で、それら基盤を生かし、予防、治療、予後の快適な生活をバランスよく支えられる医療を実現すると同時に、ライフサイエンス分野の連携研究・開発・産業実装基盤整備を目指し日本の医療インフラの改革と国際的に連携した市場を形成すべきと考える。
日本はこれから人口減少が加速し、高齢者比率が上昇することで医療費負担も増大する。そのような中、国の研究費だけで新たな基礎研究を支え、高品質な医療基盤を維持するのもいずれ難しくなる。諸外国との人材の連携も必要である。この点、Brexit後Commonwealth諸国など関係国とFTA締結交渉を進める英国を含むオーストラリア、カナダ、シンガポール、インド、オランダ、ドイツ、フランスなどの医療、ライフサイエンスの強い国と研究基盤と産業実装の共通のインフラを構築していくことで、国内外の人材交流、医療関連産業の集積と、投資の誘致など戦略的な医療、ライフサイエンス分野の基盤整備を行うメディカルニューディール政策をとして、後述するように、国際的な研究基盤の連携の窓口となる先端医療研究・産業集積拠点を整備し、健幸社会経済システムの再構築を提言するべきである。
GIGAペイシェント(デジタル患者主体)
~デジタル&リアルな健幸社会経済システム創造
今回の未曽有の三位一体ショックに対応される中での実体験として、生まれた時からITに囲まれたデジタルネイティブと呼ばれる若い世代を中心に、年齢層の高い経営陣・管理職が想定していた以上に従業員や顧客のデジタルケイパビリティが高いことに気づき、それら従業員体験、顧客体験(CX)をスマホの寵児であるGAFAはじめデジタルプラットフォーマーがいかに掌握・活用しているか実感したとの声が多く聞かれる。自社の身近な従業員や顧客の体験からデジタル変革(DX)のカギとして耳を傾け、テレワークなどデジタルを活用した新しい働き方、eラーニングなど新しい学び方、新しい衣食住ならぬ医食住が、今回の危機対応・再興のカギとなることに気づかれた経営陣・管理職、従業員・顧客、そして生活者も多いのではないか。
新しい生活様式を支えるデジタル&リアルな健幸社会経済システム構築の主体は、その体験がデジタル変革(DX)のカギとなる従業員、顧客、そして生活者である。そして経営陣・管理職にとってもこれまで述べた自分事の体験や生活者としての体験こそが自社・自国再興に向けた宝箱、そしてそれを開けるカギだ。「医」では医療の顧客であるペイシェント(患者)、従業員であるドクターやナースなど医療従事者の体験情報こそが主人公となる。電子カルテの医療や電子お薬手帳の施薬、健康アプリなど「未病」段階の心身の健康管理の現場でのIT化や個人情報基盤整備による新たなデジタル主体としての患者であるGIGAペイシェントの確立、またそれらを通じた生活者の医療および健幸に関する需要創造・消費刺激が期待される。また、メディカルニューディールである先端医療研究拠点と連動するデジタル&リアルな健幸社会経済システムの再構築も重要で、特に、国内投資を通じて設備投資・自給率向上、新たに生まれた市場を揺籃器として、新産業・輸出振興に繋がることが将来に向けた「V字回復」に繋がり得る。
厚生労働省も、薬の処方箋を電子化し、医療機関と薬局がオンラインでやり取りできるようにするシステムについて、当初3年後の令和5年度に運用を始める計画だったところ、再来年の夏からの運用を目指すことになったと報じられている(2020年6月24日)。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて医療分野のデジタル化を加速させ、患者や医療機関が医療費や薬に関する情報をオンラインで確認できるシステムについて、手術や透析などの履歴も対象にする方針で、こうした情報は今後、マイナンバーカードを使って、スマートフォンなどで見られるようになる見通しが報じられ、いよいよ厚生労働省も、今後2年間で、医療分野のデジタル化を集中的に進めることになりそうだ。
また、政府全体でも、マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキング・グループについて持ち回り閣議の概要について官房長官会見2020年6月24日、同日開催された、デジタル・ガバメント閣僚会議のもとに設置された「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキング・グループ」の第1回の会合が開催をされ、IT関係の若手を中心とした専門家が有識者として参加し、今後デジタル化、オンライン化を一挙に進めるために、マイナンバー制度などの抜本的な改善策が議論される予定である。そこでは、マイナンバーカードの普及を加速するための対策、自治体の業務システムの早急な統一・標準化、民間企業がマイナンバーのシステムを活用しやすくするための対策、マイナンバーカードの発行主体であるいわゆる地方共同法人のJLIS(ジェーリス)(地方公共団体情報システム機構)の抜本的な強化、などについて早急に論点を整理した上で、年内に工程表を策定するとともに、できるものから実施していきたいとしている。
(1)「医療」インフラのグランドデザインの現状分析
医療現場の努力によりこれまで、数々の困難を克服してきた。しかし、これは多くの医療従事者の長時間労働などの犠牲のもと成り立っている。医療従事者への感謝だけではなく、医療従事者、患者そしてそこにかかわる様々な企業にとってもより、ICTの導入によってより効率的かつ進化した医療を実現することができないかを模索できないだろうか。 医療の現場でも一定程度のデジタル化は進みつつあるものの、依然として一医療機関内にとどまるシステムを前提とした医療情報システム設計が多く、医療政策上も、地域包括ケアを推進する観点から、病院完結型医療から地域完結型医療となり、他院から自院、自院から他院への情報受け渡しが必要となり、さらに医療ビックデータとして蓄積データの検索、分析、活用のニーズが高まりつつある。
新型コロナウイルス感染症(Covid19)の拡大から垣間見えた医療現場の課題と支援策を考えてみると、これを機に課題を洗い出しデジタル含むインフラを整備に投資をして、誰を何故どの期間支援すべきか特定しつつ、新しい生活を踏まえた社会経済システムを再興していく方策が必要である。
現実の医療現場は今回のCovid-19の対応で、患者を受け入れた病院は、通常医療よりもより手厚い人員体制が必要であり、更なる長時間労働による医療従事者の疲弊、赤字幅が広がり財政の悪化などに陥っている。感染拡大の第2波に対応できる体力を大きくそがれており、楽観的な見通しは許されない。
医療現場の再生からその進化を促すべく、そのために、①患者の治療に向けた行動の観点からのペイシェント・ジャーニー※2を踏まえた分析と、②バックヤードである医療現場の病院の稼働状況、必要な支援の把握、病院ネットワーク化による役割分担が必要であり、これらを状況の変化に応じ適時に把握できる医療における情報インフラのグランドデザインを定め、医療現場の課題を抽出し、医療従事者の負担を減少させ、より効率的な医療情報連携を進めるべきである。
国民の生命・健康を守るために実施すべきは、図1のように臨床現場の課題を解決するシステムであり、ペイシェント・ジャーニーと集中治療供給体制に至るまでの医療現場のフローの双方から課題とニーズ分析するための、患者の症例情報・電子カルテ情報、医療現場の稼働状況、必要な医療資源の流通、在庫の確保に足るまで医療情報及び稼働状況、必要な医療資源の情報を連携させたシステムの構築を検討すべきである。
これに関し、集中治療の現場で未知のウイルスへの対処法を共有化していくため、重症化した患者の情報基盤として、日本 COVID-19 対策 ECMO net(日本集中治療医学会など関係学会による組織)は、国内での COVID-19 発生初期から重症患者への対応を開始した。同時に COVID-19 に限らず、パンデミックや災害等の危機的な状況での患者および集中治療リソースの共有を目的に、医療現場のバックヤードの状況を把握するために横断的 ICU 情報探索システム(CRISIS: CRoss Icu Searchable Information System)が構築され、かなりの集中治療室のある病院間で、学会の協力のもと、任意に広がり現場の努力が1つの成果を生んだ。しかし、このような活動に対する民間の支援や政策的な支援まだまだ必ずしも活発ではない。
(2)「医療」現場のニーズを踏まえたシステム化の必要性
未知の疾患への対策を講じるために、まず「ウイルスという敵を詳細に知るための症例」と「既往症・ゲノムのコホートデータベースまで連携して未知のウイルスによる疾患の正体を明らかにする症例情報」を共有した研究基盤インフラを整備することは有用である。これが直ちに治療法、創薬につながらなくても疾患の特徴を抑え、重症化因子がより精密に特定ができれば、病院の役割分担、患者のトリアージに生かし、これを医療現場の実務に適時に反映することもできる。特に前述の通り、最後の砦となる集中治療体制の崩壊を阻止するための、重症化因子を持った患者を適切にトリアージして、軽症者のホテル等での隔離体制、中症状の患者と重症者の患者の扱いの病院間連携による役割分担をリアルタイムで把握できるようにしておくことは重要である。このような役割分担を実現すれば必要に応じて適切な役割を果たすべく、ホテルから病院、病院から病院への搬送を迅速に実現することも可能性もある。
その他、前述の図1のような医療情報の連携が行われれば、医療資源フローの観点から、各病院への患者の集中度の動向をシステムにて把握しつつ、適切に防護服やマスク、必要な医薬品といった医療資材や薬の不足の状況を把握し適切に配分する仕組みも実装することも可能となる(医療資源フローからの分析)。
また、既往歴の確認も医療情報システムにて迅速にできれば意識が混濁している患者が集中治療室等のある病院に搬送された際に疾患情報にアクセスし、迅速な治療に着手できる可能性でてくる。
さらに、医療にアクセスする前の健康管理段階においても、一律の健康管理ではなく重症化因子を特定できれば、新たな因子を問診していき、特に重症化しやすい因子をお持ちの方には注意喚起や適切な指導が行えるPHR(Personal Health Record)サービスも想定できるかもしれない。
当該サービスについては、開業医や地域住民協力のもと、利用にあたっての課題抽出について協力を要請し、住民参加型で意見を出していく欧州にあるリビングラボ※3のようなコミュニティを形成していくことも考えられる。
(3)高齢者になっても健康を、地域と世界の健幸を構築する
最後に、地域から全国へ、SDGs目標3の健康と幸福が両立した健康寿命を延ばすことで、地域や国の医療費を削減し、より積極的に真の福祉や豊かさに投資できるようにする先駆的・先進的な取組みを紹介したい。執筆者が環境省に出向し、2016年5月のG7富山環境大臣会合準備室事務局長として、富山やG7サミットのある伊勢志摩の三重、全国の市民と共に、近所の公園からパートナーシップを組んでSDGsを達成する「みんなの地球公園(Commonearth Park)」国際コミュニティ創設をお手伝いした時以来、連携させていただいている筑波大学体育系教授の久野慎也氏の「Smart Wellness City首長研究会( http://www.swc.jp/ )」などの健『幸』社会の実現に向けた、市民・エビデンスベースの取組みである。
(出所)Smart Wellness City首長研究会ホームページ(http://www.swc.jp/)
同氏は、筑波大学と茨城県大洋村(現、鉾田市)の共同プロジェクトによる「寝たきり予防と医療費削減を可能とした地域の健康づくりシステム」の成果を基に、研究成果を確実に現場で活用してもらいたいとの思いで、㈱つくばウエルネスリサーチを設立した。地域という現場に出てみて、研究者の中では常識となっている研究成果が、地域の健康づくりにほとんど活かされていないという実態を目の当たりにし、これまでの研究者としてのやり方だけではいけないと強く思った。そのことが動機で、少子高齢化・人口減社会においては、高齢になっても地域で元気に暮らせること、それ自体が「社会貢献」であるとの基本的考えに基づき、健康を維持することによる個人と社会の双方にとってメリット(生きがい、豊かな生活、医療費の抑制)を満たす健幸社会の実現に向け、健幸アンバサダーなど「ヘルスリテラシー」と「ソーシャルキャピタル」の向上を促進する「Smart Wellness City」を全国に拡大させている。執筆者はGIGAペイシェントの基本的な姿となると考えている。
先端医療研究拠点からメディカルニューディールCovid-19を超え将来に向けた「医療」の更なる発展
我が国が先進的な医療を効率よく提供し続けるために、Covid-19で疲弊した医療現場の負担軽減だけではなく、革新的に進化させることも検討したい。情報連携のみならず先端的医療研究拠点として、国立の病院や大学病院など研究の拠点となるような病院などで新たな医療機器、創薬、健康管理サービスを実現するため、地域社会と一体となる先端的医療研究・産業集積拠点形成を行い海外との窓口として整備することについ提言する。
(1)長期対応:地域社会と一体となる先端的医療研究・産業集積拠点形成とまちづくりの視点
医療現場の医療従事者の負担軽減、現場の課題の解決、医療を利用する患者である市民がくらすまちづくりの観点も、健幸社会経済システムの再構築のために重要である。今日の創薬、医療機器、新たな治療技術は現場の実際のニーズと一致している必要があり、治療拠点と開発拠点が連携していることが望ましい。
以下の図の豪州のアイケンヘッド医療開発センターなどでは、治療拠点となる大学病院や、臨床研究中核病院、国立の各種医療センターなどを中心に、各種関連研究を行っている、情報系、工学系、医学系、生命科学系の大学の研究室、不動産事業者、製薬メーカ、医療機器メーカ、専門性のある投資家、各種関連産業を集積させた。創薬や医療機器の研究開発のみならず、住民中心の高度な健康管理に注力したまちづくりを実践し、市民参加型で、PHR(Personal Health Record)などのプロトタイプを活用して開発に意見を述べていくリビングラボ的な市民の協力を連携させている。医療に閉じた考えではなく、このような先進医療都市として街づくりを行う構想を政策として実行すべきである。
(出所)エイケンヘッド医療開発センターのホームページ(http://acmd.org.au/)から作成
(出所)エイケンヘッド医療開発センターのホームページ(http://acmd.org.au/)から作成
(2)地域社会と一体となる先端的医療研究・産業集積拠点形成における各種モダリティごとの違いにおける留意点
研究基盤・産業実装の視点として考えた場合、各種モダリティ、すなわち、再生医療、遺伝子治療、バイオ医薬品等で産業実装に向けて必要となるインフラが異なる。
分野毎に如何なるサプライチェーンやエコシステムが必要かを留意した上で、例えば、再生医療の培養拠点、運搬などのサポートインダストリーの支援、バイオ医薬品のCDMOの育成※4など拠点を中心にインフラを整備する政策を議論し、高度な医療をもってこれを新規事業として、国民の健康を守りつつ、これを輸出して世界にも貢献していくべきであり、世界の多くの拠点がこれを治療拠点と連携させて行くべきである。
この点、下図のGSKの研究所の跡地を生かした英国のカタパルトの再生医療のプロジェクトの培養実証拠点としての取り組みは、再生医療において、細胞の培養を整備し、そこからそのデリバリーまでのサポートインダストリー連携を含む培養実証拠点と結び付け、再生医療分野の産業実装を考えている。他にも、国際的に介護現場の実証拠点をネットワーク化した認知症の課題に解決に取り組むカナダのベイクレスト病院などの取り組みがある。
(出所)英国カタパルトGene and Cell Therapyホームページ(https://ct.catapult.org.uk/manufacturing-centre)から吉澤尚氏作成
日本においても、先端医療研究拠点を治療拠点として関連産業、大学も連携させるべきである。前述のような豪州、英国などの創薬や医療機器の開発、そして市民の健康医療をデジタル技術で守るイノベーションの拠点をしている事例※5を参考に我が国の臨床研究中核病院や一定規模の拠点病院を中心にこのような環境を整備し、より良い医療サービスを共に作っていくインフラを形成し、拠点を窓口として、医療先進国として、グローバルヘルスに貢献し、投資をも呼び込める地域社会と一体となった国際的な先端的医療研究・産業集積拠点を作っていくことをメディカルニューディールとして提言したい。
(3)先端医療研究・産業集積拠点の国際協調、戦略の視点
中国、米国などはワクチン開発や治療薬をめぐり医療を次の事態の通商戦略、外交戦略のカードとして動いてきており、国際的な対立にこの分野も世界的に問題が生じてきている。こういった対立に巻き込まれずに、中立的にグローバルヘルスに貢献するグローバルヘルス立国として、オランダ、デンマーク、豪州、シンガポール、カナダ、ニュージーランドなどの国々と連携して研究基盤の協力関係を構築すべきである。これまで述べてきた治療拠点を中核とする先端医療研究・産業集積拠点をイノベーションを世界の研究クラスターと連携させ、国際協調も実現することを目指すべきである。
提言:GIGAペイシェントや先端医療研究拠点と連動するデジタル&リアルな健幸社会経済システムの再構築を
新型コロナウイルスのショックは、まず感染した患者と医療現場、未感染の生活者と公衆衛生の主体となる国や自治体の担当機関や医療施設を直撃し、一気に医療崩壊のリスクを高め、緊急事態宣言など外出自粛により経済活動も三位一体・同時に停止した。デジタルを駆使した様々な新たなサービスが誕生し、今回の危機に対する耐性・強靭性(レジリエンス)を発揮し、三位一体ショック対応の好事例やそのデータそのものである。中でも医療関係は「医療」再興方策の手本として、官民・内外連携活用すべきものである。政府は「新しい生活様式」を求めるが、その推進はもはや政府や病院頼みでは不可能で、デジタル技術を駆使した患者主体GIGAペイシェントの主体的な予防や健幸の増進を実現するべきである。
デジタル変革(DX)の鍵を握るのは最も変化が速いビジネスでは顧客体験(CX)と従業員体験で、これを医療現場に当てはめると、その課題の宝庫はペイシェント体験とドクター体験だ。三位一体ショック対応の好事例やデータの活用を、「医療」再興方策の手本として官民・内外連携活用する具体策として、①ペイシェント・ジャーニーからの分析とGIGAペイシェント(患者)の診断や処方含む自己データの自律管理ネットワークの構築、②バックヤードである医療現場の病院の状況を把握して病院をネットワーク化して役割分担の効率的化が挙げられる。地域社会の医療を支え、そして、新たなデジタルヘルスインフラ、創薬や医療機器の開発とも繋げるため、国内外の医療研究だけではなく産官学の関連当事者が連携的に集積した先端的医療研究・産業集積拠点形成との連携が重要である。
未病生活者を新たなデジタル主体としての患者であるGIGAペイシェントとしてとらえ、その健康と幸福を支え、さらに内外の「人間の安全保障」を促進する窓口でありグローバルヘルスにも貢献する地域社会と一体となった国際的、先端的医療研究・産業集積拠点を含む医療インフラを整備し、メディカルニューディールを実現し、官民・内外連携して展開する、新たなデジタルヘルスインフラ、創薬開発基盤、医療機器の産業も勃興させ、さらに健幸社会経済システムの再構築及び強化を提言する。
リーマン・ショックの時と同様、Covid-19三位一体ショックは国際的に中国等の台頭など地政学的変容をもたらしており、デジタル患者主体GIGAペイシェントのスタートアップも香港・シンガポールなど東南アジアに広がり、程無く、中国の政府機関の大型な資金投入が始まっている。米中以外の第三局とも連携する先端的医療研究・産業集積拠点形成を窓口としつつ、インバウンド・アウトバウンド含めた「メディカルニューディール」はアフターコロナの「V字回復」のツボとなる戦略的視点である。コロナ第2波・第3波が予想される世界で、日本が米中以外にも英国、フランス、ドイツ、デンマーク、オーストラリア、カナダと連携しながら、アジア、アフリカ途上国に向け、中国のようにデータを中央政府が管理したり、米国のように企業が管理したりしない、中立的かつ民主主義的な資本主義の新たな健康医療のグローバルスタンダードとして構築することは、グローバルヘルスに貢献することにつながり、日本の国際社会で名誉ある地位につながるものである。
新型コロナウイルス三位一体ショック再興戦略研究会
執筆者が英国ロンドンで王立国際問題研究所(チャタムハウス)客員研究員やG7、G20担当をした際にご縁のあった日本・先進国・途上国で活躍する有志がNRIにリモートで集い、「新型コロナウイルス三位一体ショック再興戦略研究会」で再興への処方箋を議論する中で、
漆間総合法律事務所副所長、イノベーション政策強化推進のための有識者会議「バイオ戦略」 有識者 吉澤尚氏
筑波大学体育系教授、「Smart Wellness City首長研究会」事務局長・幹事 久野譜也氏
にご寄稿ご協力いただき、執筆者とりまとめで、本提言が生まれた。
ここに謝辞を述べるとともに、引き続き、議論を続け各界への提言につなげていきたい。
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※1
製薬メーカのノバルティス社のウェブサイトの記載:「データとデジタルテクノロジーが実現することは、より良いデータを収集することができ、創薬アプローチや新薬創製に近づく方法をよりスマートで効率的にすることができます何十年にもわたって収集したデータを分析し、データベースを更新し続けることで、病気の理解を深め、新たな治療戦略に生かします医薬品開発に革新的でスマートなソリューションを適用し、研究開発の情報量と価値を増大させます。ノバルティスはデジタルテクノロジー企業などとの業種を超えた連携により、イノベーションを起こしていきます。」とし、①分散型治験・バーチャル治験、②AI・ビッグデータを活用した患者のアウトカムの改善への取り組み、③センサー技術を用いて、中枢神経系の慢性疾患「多発性硬化症(MS)」の運動機能障害を数値で評価し、臨床試験の向上や障害の経時的な変化の把握に役立てるデジタルツール「Assess MS」をマイクロソフト社と開発するなどIoT技術の活用も考えている。
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※2
患者さんが疾患や症状を認識して、最終的に病院での受診や服薬など、治療するまでの患者さんの「行動」
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※3
リビングラボはユーザー中心のオープンイノベーションであり、参加型で新たなインフラを市民が開発に意見を出していく仕組み。JCなどの団体の支援を受けて開業医などのメンバーに協力を募り活動する動きを提示してもよかろう。プライバシーの課題も初めから否定するのではなくシステムの設計に意見を出して改善する取り組みを行う場所として市民が参画して行く場を作るのも一案である。
https://en.wikipedia.org/wiki/Living_lab -
※4
Contract Development and Manufacturing Organization、受託製造会社として、受託開発・製造組織と呼ばれることもあり、製薬業界の他の会社に契約ベースで医薬品開発から医薬品製造までの包括的なサービスを提供する会社
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※5
豪州メルボルンのアイケンヘッドhttp://acmd.org.au/
カナダのベイクレスト病院のDimentia向けの拠点https://www.cabhi.com/
執筆者
御友 重希
未来創発センター 制度戦略研究室
横内 瑛
グローバル製造業コンサルティング部
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