2020/07/02
要旨
- 今回のショックは、2020年5月1日の処方箋(1)で提言したように、従来の危機と異なり、三つの段階や区分ごとに生じるリスクが同時に一体となって多発する三位一体のショックとなっているのが最大の特徴である。国際的に中国等の台頭など地政学的変容をもたらすだけでなく、各国や各地方自治体、各企業や各学校、各家庭や各個人など一体同時にリスクをもたらす。他方、未曽有のショックに対する各々の対応やその好事例は異なり、過去の常識からでは評価・活用が困難なため、デジタル技術を活用してデータ収集、分析し、官民・内外連携してリスク・マネジメントに活用しつつ、国や地域の持続可能な再興への方策を検討する際の手本として活用すべきである。
- 今回の危機のリスクの根本原因等を捉え、弱みを強みに変えて再興する処方箋(3)として、三位一体ショック対応の好事例やデータを「教育」再興方策の手本として、具体的にどう官民・内外連携活用できるか検討し、GIGAステューデントから、デジタル能力向上した消費・投資を呼び込み、学びの社会経済システムの再構築と再興を提言する。
GIGAスクールからGIGAステューデントへ
~三位一体ショック対応の好事例やデータ活用
今回のショックは、2020年5月1日の処方箋(1)で提言したように、従来の危機と異なり、三つの段階や区分ごとに生じるリスクが同時に一体となって多発する三位一体のショックとなっているのが最大の特徴である。例えば、時間的に短期・中期・長期で生じるリスクが同時に起こり、ヒト・モノ・カネの区分間で行われる取引や最終的に三面等価となる生産、分配(所得)、支出のフローが同時に一体となって止まり、空間的に日本・先進国・途上国で同時にリスクが発生し、世界共通目標であるSDGs(持続可能な開発目標)の経済・社会・環境(生物圏)にも同時に一体となってショックを与えている。これらは、国際的に中国等の台頭など地政学的変容をもたらすだけでなく、各国や各地方自治体、各企業や各学校、各家庭や各個人など一体同時にリスクをもたらす。他方、未曽有のショックに対する各々の対応やその好事例は異なり、過去の常識からでは評価・活用が困難なため、デジタル技術を活用してデータ収集、分析し、官民・内外連携してリスク・マネジメントに活用しつつ、国や地域の持続可能な再興への方策を検討する際の手本として活用すべきである。
今回の危機のリスクの根本原因等を捉え、弱みを強みに変えて再興する処方箋(4)として、三位一体ショック対応の好事例やデータを、ウィズコロナ・アフターコロナの学びのデジタル&リアルな社会経済システムとしてとらえた「教育」再興方策の手本として、具体的にどう官民・内外連携活用できるか検討する。
GIGAステューデント
~デジタル&リアルな学びの社会経済システム
今回の未曽有の三位一体ショックに対応される中での実体験として、生まれた時からITに囲まれたデジタルネイティブと呼ばれる若い世代を中心に、年齢層の高い経営陣・管理職が想定していた以上に従業員や顧客のデジタルケイパビリティが高いことに気づき、それら従業員体験、顧客体験(CX)をスマホの寵児であるGAFAはじめデジタルプラットフォーマーがいかに掌握・活用しているか実感したとの声が多く聞かれる。自社の身近な従業員や顧客の体験からデジタル変革(DX)のカギとして耳を傾け、テレワークなどデジタルを活用した新しい働き方、eラーニングなど新しい学び方、新しい衣食住ならぬ医食住が、今回の危機対応・再興のカギとなることに気づかれた経営陣・管理職、従業員・顧客、そして生活者も多いのではないか。
新しい生活様式を支える経済社会システム構築の主体は、その体験がデジタル変革(DX)のカギとなる従業員、顧客、そして生活者である。そして経営陣・管理職にとっても自分事の体験や生活者としての体験こそが自社・自国再興に向けた宝箱、そしてそれを開けるカギだ。「教育」ではGIGAスクールからGIGAステューデントなど「社会インフラ(教育)強化への挑戦」が出発点となり、スクール(学校・大学)の顧客であるステューデント(生徒・学生)、従業員である教職員・先生など教育関係者の体験情報こそが主人公となる。オンライン・リモート教育体制を整備するための基盤投資や、リカレント教育消費の促進、個人別の教育・学びログのトラック・レコード化等が検討できると考えられ、これらのデータ駆動型サービス創造、GIGAスクールとして、国民全体のデジタルケイパビリティ向上、SDGsなど目指す健幸型社会創造、設備投資・自給率向上、需要創造・消費刺激、新産業・輸出振興を通じた、新たな経済循環モデルの実現からなる新三位一体成長モデルとなって日本の「V字回復」の可能性を生む。
(1)GIGAスクール
集合して学ぶだけではなく、コロナや災害時など、「学びを止めない」ためにはオンラインによる学習の手段を整備しておく必要がある。
子どもたちの ICT 環境整備については、政府はビフォア・コロナから既にGIGAスクール構想にてすでに着手していた。
萩生田光一文部科学大臣は、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言発出を受け、GIGAスクール構想における、全学年で「1人1台端末」を早期実現するための支援などを積極的に推進すると表明した(2020年4月7日)。
「学校のICT環境については、私も就任以来、令和の時代のスタンダードとしてその実現を進めてまいりましたが、このたびの補正予算案により、ICTを活用することで、家庭学習を含め全ての子供の学びを保障できる環境を早急に実現してまいりたいと思います。」
1人1台端末について緊急事態宣言が出た地域を優先に配備するか、学びを止めないための支援で、同時双方向型のオンラインの指導やネット授業についてどう考えるかに答え、
「ご質問といいますかご指摘のとおり、これから対応が二手に分かれると思います。一つは、緊急事態宣言の指定区域内でありますけれども、これは、実際に学校に子供が来ないことを前提になりますので、例えば、高速大容量のインフラ整備などは、子供がいないほうが工事をしやすいものですからその工事を進めてもらおうと思っています。他方、もうすでに補正予算でも予算計上を認めていただいてますので、パソコンなりタブレットの購入は自治体が判断をすればすぐに購入できるようになっておりますので、特にこれから長期にわたって、1ヶ月間、学校が休校する自治体につきましては、できる限り、早期の購入を促すべく、文科省としてもお手伝いをさせていただきたいと思っています。」
「そして、オンラインの授業のことですけれども、率直に申し上げて、もちろん先進的な自治体ではですね、対面で小学校や中学校でも授業ができる環境が整っているんですけれど、残念ながら全国レベルで見ますと、そもそもその学校にあるパソコンが5.5人に1台ベースでしか今までなかったわけですから、ここで一気に増やしたとしてもですね、全てのお子さんがお持ち帰りになって、そして学校とタブレットをつないで授業をやるというのは現実的に不可能だと思います。(中略)ただし、それは必ずしもリアルタイムのオンタイムの授業じゃなくて、ビデオオンデマンドであらかじめ録画した動画などで授業をとってもらうとか、それからNHKなどの様々なコンテンツなどのご紹介もさせていただいております。文科省としてもできる限り、学年ごとに分かりやすいコンテンツを集めて紹介をしてまいりたいと思いますので、学校の休業期間中に、できるだけこのICTを活用して授業の遅れがないように、しっかり授業をやっていきたいと思っています。(略)」
と表明している。
今回の二次補正予算により、特別警戒自治体では8月注には生徒一人一台のタブレットが配布されるが、GIGA化されるステューデント(生徒・学生)は、生まれた時からITに囲まれたデジタルネイティブと呼ばれる若い世代であり、家庭によるハードのIT機器の有無への対応といった問題はあるものの、ソフトの利活用について不安の声は多くない。ただ、GIGA化されるスクール(学校・大学)とその従業員である教職員の皆さんの中にはハードのIT機器対応やソフトの利活用に不安や苦労を訴える声が聞かれる。先駆的、先進的にe-ラーニングを導入してきた私立や一部の公立小中高大学かそれ以外かでこの夏がその場の対応に追われる暑い夏になるか、涼しい顔をしてGIGAスクールから、さらに生徒・学生が主体的・自律的に情報を取り、共創し、発信するGIGAステューデントとしていけるか分かれ目となるとの声も、教育現場から聞こえてくる。
新型コロナウイルス感染症拡大と政府の臨時休校要請への学校現場の対応として、大きく(1)リアルタイム学習、(2)オンデマンド型、(3)課題提出型、(4)コミュニケーション重視型と分けて見てみたい。
日本でも、zoom を使って(1)のような講義をしているところもあれば、リアルタイムではないが、映像講義を準備し、生徒側がみられる時間に視聴する(2)、科目ごとに課題が出てそれに対して提出を求める(3)という学校もある。(4)については主に(2)や(3)と抱き合わせで実施する、先生が生徒の学習状況や現状を個別に、あるいは複数の生徒を集めておしゃべりしながら把握する、というもので、学校でお友達に会えない生徒側の抱える辛さを解消するという効果が期待できる。なお、ICT 教育が進んでいるフィンランドでも、日本と大して変わらない状況のようである。
(最近のフィンランドの事例参照: https://edtechzine.jp/article/detail/3816)
⻑期的課題として、先生の数が足りないという問題もある。これについて、いわゆるベーシックな学問については映像授業+レポート(テスト)という形にし、各担任の先生は生徒一人ひとりの進捗状況を把握し、生徒の学びのナビゲーターとしての役割を果たす、という役割分担が例えば考えられる。
例として、早くからe-ラーニングをベースにしたN高を見てみたい。高校卒業資格をとるための講義はベーシックプログラムで映像学習(東京書籍のものを使用)、それ以外のできた時間で、自分自身がやりたいものを選べるアドバンスドコースを選択し、オンラインで学ぶ。卒業 単位の取得のために年 5 回スクーリングに行く必要があるほかはオンライン で学べるため、主体的に自分の学びたいものを選び、好きな時間に学びを進めるという利点がある。
こうした多面的な運用をうまく活用すれば、いわゆる不登校生徒の出席日数不足や単位不足の問題も解決可能となるだけでなく、横並びの均一教育から、児童生徒個々の個性や興味を伸ばしたり、会得・習得の早い児童生徒の先取り教育、逆に遅い児童生徒の取りこぼし防止に役立つものとなることは間違いない。
(2)GIGAステューデントが主体となるGIGAスクールを
これは、いわばスクール(学校・大学)のデジタル変革(DX)そのものであり、そのカギを握るのは、顧客であるステューデント(生徒・学生)、従業員である教職員・先生など教育関係者の体験となる。それをデジタル情報としてマイナンバーなど情報秘匿性の高い媒体等に蓄積していき、ちょうど医療における処方箋やお薬手帳のように、進級・進学とともに持ち上げり、リカレント教育・研修に活用されていくべきであり、その主体となるのはスクール(学校・大学)ではなく、ステューデント(生徒・学生)そのものである。
これは、世界共通の目標である国連SDGsの社会・経済・環境課題で言えば、社会課題のSDGs目標4の教育にあたるが、これは同時に経済課題の、持続可能な経済社会システムにも直結する。具体的には、オンライン・リモート教育体制を整備するための基盤投資や、設備投資・自給率向上、リカレント教育消費の促進、需要創造・消費刺激、個人別の教育・学びログのトラック・レコード化等が検討できると考えられ、これらのデータ駆動型サービス創造として、新産業・輸出振興に、GIGAスクールとして、国民全体のデジタルケイパビリティ向上、SDGsなど目指す健幸型社会創造、新たな経済循環モデルの実現からなる新三位一体成長モデルとなって日本の「V字回復」の可能性を生む。
GIGAスクールからGIGAステューデントへ、生徒・学生がより主体的な学びとなることが鍵となっている。主体的な学び、というのは「なんのために何を学ぶのか」というところから考える学びのことをいう。したがって、既存の与えられたプログラムのみならず、自分が何をしたいのか、どんな考えなのか、それを実現するために高校でどのように時間を使って何を学ぶのか、ということを考えることになる。この思考は、起業家や創業期の経営者のそれと似ている。例えば、自分はなんのために働き、何を提供することでその使命を果たすのか、そのためにはどのように経営資源を使ったらいいのかに相通じる。
したがって、全ての学校がN高のような形態に、ということではない。このような学校が複数出てきてもいいし、あるいは従来の学校の中でも、基本は対面授業であったとしても、オンラインで moocなど、本格的に学べる手段を学校側が準備する、あるいは各生徒を一人ひとりきちんと見た上で推奨する、ということがあってもいいのかもしれない。
また、できれば高校生になる段階ではこのように一定の「自己選択」ができるように、小学校高学年くらいから、個々の生徒が「自分はどう思うか、それについて意見の違う人たちとどのように議論するか」といったことを積極的に考え たり討論できたりする内容の授業ないしは場を準備することも必要なことのように思う。
こうした主体的な学びの基礎があれば、現在盛んにその重要性が言われているリカレント教育にも大きな力となる。今後は、企業に研修をしてもらうだけではなく、個人がキャリアを自分でマネジメントしながら、働いたり学んだり、暮らしを重視する期間があったり、という「人生 100 年時代」を生きるようになる。生涯主体的に「学び」を実践していくために、今の状況でできることはたくさんある。
デジタル&リアルな学びの社会経済システム
(1)コロナ禍の学びの社会経済システムとしての「教育」の現状
今回の新型コロナウイルス感染症の拡大や地震や台風・大雨等による洪水といった自然災害など、「物理的に集合して学ぶ」場面が遮断されることによって学びが止まる事例が、国土強靭化だけでなく、同じく国家の基本である国民、国富の強靭化(レジリエンス、しなやかな復元力)の課題としてニュースなどで聞かれることも増えている。自然災害では被災地の課題だったが、今回の感染症の拡大では、中国の武漢市の課題であったところ、2月27日の安倍総理による翌週からの臨時休校要請にはじまり、4月7日から5月25日までの新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく緊急事態宣言に至る、いわゆるコロナ第一波で全国、特に都市を中心とした特定警戒都道府県の共通課題となった。子どもたちの一斉休校と両親はじめ大人たちを含む外出自粛や自宅待機要請により、子どもたちの学びの重点が家庭に行き、デジタル技術によるe-ラーニングが途上の公立小中高校中心に家庭頼みの休校中の学習計画により両親、特に母親、ひとり親の教育負担が増大し、私立と公立、e-ラーニング対応の予備校や家庭教師など学習補助の有無など、子どもの頑張りによらない家庭の経済状況や両親の教育熱に、SDGs目標5はじめ本来公平性が求められる教育機会が家庭環境(親の関与度合い)によって格差がさらに加速する可能性が見られた。
また、小中高校の個々の先生や各教育委員会、大学や個々の教員によって、人員だけでなく情報リテラシーや意識に格差が見られた。(ないしは 意識)に格差がある。一部には、未だに「オンライン講義はよくない、対面講義が 一番だ」が聞かれている現状があり、文部科学省の現役課長も動画で明確に指摘されている。
特に公立校などに通う子どもたちのデジタル環境が、私立や他の先進国・地域と比べて、まだ十分でない課題が浮き彫りになっている。
(2)リカレント「教育」再興策~子どもの学びから大人の学びまで
GIGAステューデントとして自主・自律的に学ぶ思考は、起業家や創業期の経営者のそれと似ていると言ったが、こうした思考の必要性が言われる20年前からPBL(Project Based Learning)環境の構築、教育界と産業界の連携、さらに公共の目標であるMDGs、SDGsとの連携へと、一貫した手法を開拓しつづけ、昨年から野村総合研究所及び日本青年会議所IT部会と連携したSDGs Innovation HUBにおいて、共育「教育」と共創「起業」、連携「経営」が共通のワークシート・アンケートを解きチームを組んでハッカソンを行うプロジェクトで協働している㈲ラウンドテーブルコムとSDGs Online School、SDGs Pointについて、子どもの学びから大人の学びまで、リカレント「教育」再興を行ってきた先駆的な取組みの一例として簡単に紹介したい。
ポストコロナの教育現場に必要なのは、企業連合パートナーシップによって支援するe-learning環境である。SDGs Online Schoolは、
- 非同期型協働教育時におけるプロジェクト・ベースド・ラーニング(以下PBL)環境のサポート、協働学習時の自学自習できる学習者の育成
- プロジェクトマネジメントの手法を身につけた学習者と次学年の学習者の協働学習を促すカリキュラム開発による、教員の負荷の軽減
- 個別指導における、国立大学でも利用されているLMS(moodle)の利用促進、学習者、教員の経験値の向上と非常時におけるクラス運営維持のリスク対策
- 教育用SNSとの運用連携による、外部の企業、社会人との協働プロジェクトを支援
- SDGs学習ログ(野村総合研究所および日本青年会議所IT部会と連携したSDGsワークシート・アンケートなど)を通じた、SDGsプロジェクトの経年変化データの分析
を可能にする。
例えば、導入予定先の一つである公立中学校において、「新型コロナウイルス三位一体ショック」で浮き彫りとなった改善されるべき課題として、
-
①
家庭学習時間を活用したSDGs PBL環境のオンライン化(分散登校等への対応、協働学習体験の充実)
-
②
学習ログ、ポートフォリオを中心とした非同期型オンライン学習サポートの実現(学習者の学習意欲の向上、教員の新しい学習サポート環境の体験)
-
③
地域社会、企業との連携プロジェクトの実現(市民科の授業時間の担保)があった。
デジタル技術を活用して産業界と教育界が連携するPBL環境の導入により、
①については、登校での授業サポート時間が不足する中、オンサイトサポートは主要科目の授業時間確保が先決になりやすい中でも、オンラインサポートで授業時間数の確保を目指し、その学習の成果の記録を残すこと
②については、ビデオ講義等の一方通行のサポートだけでは、学習意欲の維持が難しい中、協働学習環境を提供し、その記録を残すことで、学習者の学習の継続を促し、教員はオンラインのサポートでの学習意欲維持の為のエッセンシャルクエスチョン等の開発を体験すること
③については、教室に閉ざされたPBL環境をオンライン化することにより、地域社会、企業などとの連携が非同期型のサポートで実現しやすくなり、学校の時間に制限されることなくネットワークの構築を促すこと
ができる。そして期待される変化の有効性については、①については、家庭学習を中心とした学習時間数のカウントとその証拠となるデータの量と質、②については、PBLの自己評価表の作成と、各学習の前と後での調査、③については、SDGsをテーマとし連携した地域社会、企業の記録の量と質で検証しようとしている。
SDGsを共通テーマとすることで、こうしたPBL環境を支える多様な主体が集結し、連携モデルが構築されつつある(上図参照)。小中高大の教育機関の学習者に対し、日本青年会議所/国際青年会議所の会員企業やハッカソンに参加するNPO/NGOなどが社会課題を提案し、自分たちの取組を説明したり、企業連合パートナーシップがコンテンツを提供したりという形でPBL機会を提供する。学習者はそれに対し、取組を評価したり、PBL事業の提案を行ったりする。そこを取り持つのがSDGs Pointというポイントシステムである。オンライン学習環境の、いわば「器」の整備であるGIGAスクールにおいても、その中身となる教材を教育機関に提案し、教育機関からは教材カスタマイズのための情報提供を行ってもらう、といったことがSDGs Pointの活用で促進されることを、「学びの社会経済システムへの処方箋」として提言したい。
(3)病弱児の学びから学ぶLearning Continuity Plan (LCP)
GIGAステューデントが学びの社会経済システムへと進化するために参考にしてみたいのが、入院中の子どもたちへの学習支援を行なっている特定非営利活動法人 Your Schoolの取組みだ。執筆者が金融庁市場課で成長マネーのエコシステム醸成を仕事としているとき、歴史あるKBC(慶應大学ビジネスコンテスト)でグランプリを獲得し、第2回日経ソーシャル・ビジネスコンテストでファイナリストとして選出され、大学在学中に同法人を設立した、吉田輝々氏を紹介したい。医療系学部生が小児病棟に出向き、一緒に学校の宿題をやったり、理科の実験をしたり、本を読んだりなど、入院中の子どもたちに“学び”を届けている。1人で活動を開始したのが今や50人超になり、慶應義塾大学病院と駒木野病院で展開し、学生のボランティア活動から本業・副業として、プロボノとして支援の輪が広がっている。
入院中の子どもたちは、ビフォア・コロナから治療のため学校に通うことのできない期間が長く、学習の空白・学習時間の確保・運動や遊びの制限・集団活動の不足・経験の不足や偏り・人との関わりの制限など、今まさに全国・世界の子どもたちが向き合っている課題と向き合っている。学校に行けずとも、e-ラーニングと病弱児学級やNPOの活動を総合して、サイバーとリアルの学びのベストミックスを探ってきている課題解決の先輩で、GIGAスクールが、GIGAステューデントになり、第一義的に子どもたちの心身の成長・安心・学び甲斐にどう影響し、その後の職業・働き/生き甲斐、それが親や教員・支援者といった周囲の大人たちにどう影響していくか、まさにInnovationの宝庫になっている。
(4)GIGAステューデントのCanvas/moodle/adviシステム構築による世界共通目標SDGs目標4達成へのインパクト
NRIは執筆者を中心に地域や世界の若きSMEs経営者の集まりである公益社団法人日本青年会議所(JCI Japan)や国際青年会議所(JCI)と協力して、11月の横浜でのJCI世界会議で「SDGsでつながるハッカソンでビジネス×ファイナンスを創る~地域や世界の仲間とSDGsやTechでInnovationのHUBになる~」をテーマに、世界の先進SMEsと連携・共創する国際ハッカソンを、完全リモートを基本に可能な状況になっていればオフラインで実施する。新結合Innovationビジネスとこれらを持続可能にするファイナンス支援制度や市場・エコシステムやHUBの構築が期待され、こうした取組みをSDGsが目指す2030年まで10年は続けようと、各国の国や自治体、企業や金融機関、国際機関等と中長期的なパートナーシップの輪が広がっている。
SDGs Innovation HUB(SIH)では、上述によるハッカソンをはじめとして様々な事業を計画している。各事業の重要な点として、事業に即したパートナーシップを結ぶことによる相乗効果と、見出されるInnovationが世の中に拡散し、より良い世界になることを期待しており、SDGs目標17に通じるものといえる。
SIHではCanvasを採用し、登録や調査、コミュニケーションや情報の共有ツール、E-LearningのHUBとしてLMSを活用している。Canvasは世界トップシェアを誇るLMSで日本の多くの大学で採用されている。講師や教員は、自由に文章や画像・動画等を用いて講義をし、課題を設定して生徒の学びの状況確認や進捗を確かめ、疑問質問もオンライン上で解決できる。さらにGoogleやAdobe、Zoomをはじめとした世界中で利用されているツールとの連携もでき、文系理系という括りだけでなく、クリエイティブな分野の学びの場としても活用できる。GIGAスクール/GIGAステューデントを軌道に乗せるために欠かせないLMSがCanvasといえる。
SIHが2020年5月に実施した事業ではCanvasを活用し、上場企業・中小企業・NGO/NPO・個人・大学・官僚まで、25チーム144名の国内外から様々な法人/個人の参加・協力があり、Zoomにて多くの発表がなされた。既に事業化されているものもあり、今後の発展が期待される。
SIHでは、様々なバックグラウンドをもつチームから発表される事案と、大手企業やファンドをはじめとする投資主体からのファイナンスを結び付け、協力団体からのサイバー&リアル支援を得ながら、イノベーションによる持続可能な事業として羽ばたかせるHUBとして機能させていく。そこで得られたデータは国際機関や研究機関により分析され、将来のために役立てていく。
他の取り組みとしては、SDGs Indexを設定することで、世界のSDGs事業をランキング化して評価し、上位の事業者には表彰と記念品を贈呈することとしている。
SIHはファンドレイジングを念頭に運営している。日本にあるNGOやNPO、地域団体は多くがボランティアのような運営であり、事業が大きくなるほど、年数が経つごとに運営側が疲弊する傾向がみられる。しかし、これでは持続可能な活動が困難であり、良い発想、良い取り組みが途絶えてしまう。これを解消する先駆的な団体としてもSIHはチャレンジしていく。SIHのファンドレイジングは、100の資金=協賛金があれば、それを活かして150、200の効果を生み出す事業をおこない、かつ、運営者にも相応の報酬を支払うという会社運営に近い形態をとる。これまでは、100の資金=協賛金を支出する個人や企業は、その100をそのまま事業に充てることを期待していたが、無報酬では、多くの効果を生み出せる有能な人材による事業は期待できない。そこで、これまでの100の資金=100の効果、ともすれば諸経費を差し引くと80の効果しか出せない事業を、100の資金=20の報酬+150の効果になるように企画し実行することにした。海外の例では、有能なNGO/NPO運営者は、年間1,000万円以上の報酬を得ている。日本においてもNGO/NPOに経営の観点を取り入れ、持続可能な事業を展開できる団体が増えてくることを願っている。
提言:デジタル&リアルな学びの社会経済システムの再構築を
新型コロナウイルスのショックは、GIGAスクール構築中の学校現場を直撃し、全国一斉に臨時休校を求めざるを得なくなり、経済活動だけでなく、学びの社会活動の停止を余儀なくされた。デジタルを駆使したeラーニングによって主体的な学びを先駆的に指向してきたN高などの私学が意図したLearning Continuity Planがなくとも今回の危機に対する耐性・強靭性(レジリエンス)を発揮し、今回の危機を学びの課題としてチャンスに変える余裕と意欲を見せ、これは三位一体ショック対応の好事例やデータそのもので、「教育」再興方策の手本として、官民・内外連携活用すべきである。他方、GIGAスクール構築中の他の多くの学校との間に、学びの機会の格差が拡大してしまった。政府は「新しい生活様式」を求め、これは新しい勤務様式、学習様式も含まれ、その推進はもはや政府や学校頼みでは不可能で、デジタル技術を駆使したGIGAステューデントの主体的な学びを、も人間も誰も邪魔している余裕ななく、邪魔している国・地域・社会・会社・学校・家庭の持続可能性を許さない全く新しい世界を出現させた。
デジタル変革(DX)の鍵を握るのは最も変化が速いビジネスでは顧客体験(CX)と従業員体験で、これを学びの現場に当てはめると、ステューデント体験とティーチャー体験だ。このDXの主人公である生徒・学生と先生・教員にデジタル武装をしたGIGAステューデントとGIGAスクールとなり、ボトムアップの経済社会システムを再構築すべきである。
リスクの根本原因をステューデント体験とティーチャー体験の未来創発の宝となるデータの放置や個人情報保護に名を借りた投棄に置き、その弱みをデジタル技術で大きな痛みや意識変革などなしに強みに変えるDXで再興する処方箋(3)として、GIGAステューデントから、学びの社会経済システムの再構築と、今回の危機の外出自粛で生じた消費余力とデジタル化による消費者余剰で消費を、デジタルやリアルな設備投資、そうした新たな質の高いインフラの輸出につなげ、経済社会の構造改革と持続可能な生産性と成長力の向上で、「V字回復」を夢でなくする再興策を提言する。
新型コロナウイルス三位一体ショック再興戦略 研究会
執筆者が英国ロンドンで王立国際問題研究所(チャタムハウス)客員研究員やG7、G20担当をした際にご縁のあった日本・先進国・途上国で活躍する有志がNRIにリモートで集い、「新型コロナウイルス三位一体ショック再興戦略研究会」で再興への処方箋を議論する中で、
㈱チャレンジ&グロー代表取締役、中小企業診断士 小紫恵美子氏
㈲ラウンドテーブルコム,SDGsポイント研究所@ジャパン代表 柳沢富夫氏 同木村京子氏
特定非営利活動法人Your School代表 吉田輝々氏
慶應義塾大学大学院講師、JCI Senator、SDGs Innovation HUB理事 米倉ユウキ氏
にご寄稿ご協力いただき、執筆者とりまとめで、本提言が生まれた。
ここに謝辞を述べるとともに、引き続き、議論を続け各界への提言につなげていきたい。
執筆者
御友 重希
未来創発センター 制度戦略研究室
お問い合わせ先
【提言内容に関するお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 未来創発センター
E-mail:miraisouhatsu@nri.co.jp
【報道関係者からのお問い合わせ】
株式会社野村総合研究所 コーポレートコミュニケーション部
E-mail:kouhou@nri.co.jp