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NRI トップ 新型コロナウイルス対策緊急提言 コロナ禍における鉄道利用に関する意識と「近場」に着眼した事業の可能性について

コロナ禍における鉄道利用に関する意識と「近場」に着眼した事業の可能性について

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2020/09/16

  • 野村総合研究所は、2020年9月4~5日に、鉄道(新幹線以外)利用に関する不安理由や今後の利用意向を把握するため、全国47都道府県の20代から60代を対象とした「鉄道利用等に関するアンケート調査」(回答者数2074人)を実施した。調査時期は、新規感染者数の伸びが8月上旬のピークから緩やかに減少しているが、まだ高い水準にある時期である。
  • 鉄道会社大手20社の第一四半期決算では、新型コロナウイルスの影響で、全社が赤字となっている。既に定期券から実費精算へ移行したり、テレワーク手当を支給する企業が登場している。安定収益の減少リスクを解消するため、鉄道事業領域に留まらず、非鉄道事業領域でも新事業の創出、既存事業の活性化が望まれる。
  • アンケート調査の結果、利用者の82%が鉄道車両内に不安を感じており、さらに不安を感じている人の36%が “肩が触れ合う” “隙間がない”状態になった時、約62%が“空席がない、または半数以下”、“立っている間隔が2m以内”なら、乗車を避けたいと思っていることが分かった。一方、不安を感じない人は8%にとどまった。
  • 更に、非鉄道事業の新事業仮説とした「近場にある個室スペース」に関心があり、会社負担で利用できる場合は「オフィスワーク中心」「外回り中心」の職業の方の関心度は50%以上であることも分かった。
  • 本稿では、鉄道利用の不安に対する生活者の意識、公共交通機関以外の移動手段、自宅勤務の課題や「近場にある個室スペース」の関心度を確認し、「近場」に着眼した事業仮説が成立しうるかを検討する。
  • 本稿では、日常に多用する新幹線以外の鉄道を扱い、以下、「鉄道(新幹線以外)」の意味として「鉄道」と記載して分析する。

リスク感度は約8割が楽観派、2割が悲観派

公共交通機関は、様々なリスク感度をもつ不特定多数の人が同時に同じ空間を共有する。そのため、新型コロナウイルスに感染した場合、どのような状態になると思うかを聞いたところ、「無症状か風邪より重い症状がでる」と考える人(以下、「楽観派」と呼ぶ)が79%、「後遺症が残ったり、重症化や重篤化する可能性がある」と考える人(以下、「悲観派」と呼ぶ)が21%存在した。20代~40代では悲観派は20%以下だが、50代60代では20%以上であった。(図1)

8割強が「車両内」に不安。「マナー違反」「対面」「接近」を避けたい意識

公共交通機関と駅ビルなど関連施設のうち、不安を感じる場所を聞いたところ、41%が「鉄道車両内」で不安の程度が大きいと回答し、やや不安と回答した人も含めると82%となった。(図2)地域別でみると都市部において不安が特に大きいわけではなく、関東・近畿以外は、83%以上の人が不安を感じていた。(図2-2)

鉄道車両内に明確に不安がないと回答した人以外に具体的な不安理由を聞くと、85%以上が「手で触るものが多い」、「乗客が守るべきルールが分からない、または不足・不徹底」、「混雑状況が乗車するまで分からない、または混雑緩和が不足・不徹底」の3点を挙げた。(図3)

避けたい乗車状況は、70%以上が「マスクをしていない人が乗っている」や「大きな声で話している人がいる」などの“マナー違反”を挙げ、40%以上が「目の前の吊革に人が立っている」、「ボックス席で向かいに人が座っている」などの“対面”を挙げた。(図4)
また、どのくらいの混雑具合になったら、乗車を避けたいと思うかを聞いたところ、不安を感じている人の36%が “肩が触れ合う” “隙間がない”になった時、約62%が“空席がない、または半数以下”、“立っている間隔が2m以内”なら乗車を避けたいと思っていることが分かった。(図5)

アンケートからは、物理的距離の確保、マスク未着用、座席・立席の在り方についても不安が残っており、不安を解消するための施策がまだ必要な状況である事が分かる。

今後、感染不安があると、鉄道・バスの利用意向は半減

コロナ禍において密を避ける移動のあり方を見直す必要に迫られ、自転車で移動する動きが日本でも諸外国でも見られた。今後、新型コロナウイルスの感染が収束して不安を感じなくなった場合も、再び感染不安を感じる場合でも、普段の通勤・通学・買物に出かける時に利用したい移動手段は、やや利用したい人も含めると「所有する乗り物」とする人が80%前後と高い割合で存在する。(図6)
それに対し、感染不安がある時、鉄道の利用意向は57%から22%に減少、バスも45%から14%へ減少する。一定期間借りられる月額定額制などのレンタル制度の利用意向は「車」「自転車」とも30%で、鉄道やバスを抜いた。また、車より利用の壁が低いと思われる自転車の利用意向は、関東や近畿で高い傾向となっている。(図7)

このことから、日常の移動手段は「所有する乗り物」や「一定期間専有できるレンタル方式」なども活用し、できるだけ感染リスクを下げようとする意識が垣間見られる。

「週4回以上」通勤したい人は約4割弱。感染不安を感じると移動控えも4割

今後、感染不安がなくなると、全体の38%が公共交通機関を利用して「週4回以上」通勤すると考え、特に「オフィスワーク中心」や「外回り中心」の人の場合、55%以上となる。(図8)しかし、ひとたび感染不安を感じると、全体の40%が移動をやめたり減らし、移動控えが生じる。(図9)

約2割が自宅勤務を実施。課題は、「メリハリの欠如」、「家族の存在」「専用スペースの欠如」

新型コロナウイルスの感染拡大以降、感染リスクを避けるために、鉄道会社からも乗客に向けリモートワークのお願いをアナウンスした。全体の21%が自宅で仕事をする機会があったが、「オフィスワーク中心」は38%、「外回り中心」の人は39%であった。(図10)

そのような中、自宅勤務で感じた問題は、「メリハリがつかない」(35%)、「運動不足になりがち」(25%)、「家族がいるので、集中できない」(20%)や、「仕事の専用スペースがない」(19%)等が挙げられた。家族の存在や専用スペースの欠如は直ちに問題として顕在化し、メリハリの欠如は直ちに問題とはならないかもしれないが、いずれリモートワークの生産性低下に繋がると想定される。(図11)

近場にある個室スペース(窓有り)は、「オフィスワーク中心」「外回り中心」の5割以上が関心あり

今後、感染不安がある時や自宅勤務指示などがある場合に、「そもそも働いていない」と回答した人以外に、自宅から自転車や鉄道で30分程度で行ける程度の近場の個室スペース(窓有り)で仕事をする関心度を聞いた。
利用料が会社負担の場合、世帯別で比較すると「三人以上世帯」「二人世帯」「単身世帯」を問わず、関心度は44%~50%と高い。年代別では20代~40代が51%~59%が関心を示し、(図12-2)職業別では、「オフィスワーク中心」「外回り中心」の50%以上に関心があった。(図12-3)

自宅勤務の課題で見た、「メリハリの欠如」や「専用スペースの欠如」「家族の存在による集中しにくい環境」の解消のため、関心度が高いと推察される。

遠方の父母・祖父母とのオンライン会話支援サービスは3割

コロナ禍では、帰省を取りやめるケースが発生した。仮に鉄道会社が上記の「個室スペース事業」を行うとしたら、高齢者向けの付属事業に対するニーズがあるかを確認した。高齢者がオンライン会話を行うには、ITリテラシーの問題から自分でPCやスマホの保有と操作、ネット接続などができない可能性がある。
父母・祖父母の自宅の近場(30分以内で行ける距離)にある個室スペース(感染症対策済)で、父母・祖父母が自分とのオンライン会話のために、ネット接続支援をしてもらえるとしたら、関心があるかを尋ねた。近場とは、父母・祖父母が自転車や鉄道で30分程度で行ける程度の距離を指す。結果、全体の31%が関心を示し、年代が若くなるほど関心を示した。(図13)

安心できる移動空間づくりと新事業創出に向けた継続検討を

鉄道会社は、以前より感染症対策を行ってきたが、アンケートからは、まだ鉄道利用に対する不安が強く、マナーの遵守や物理的距離の確保に関する対策の努力を高めないといけない事が分かった。

また、安定収益の減少リスクを解消するため、ワーケーションの検討などを進める鉄道会社もあるが、アンケートからは「近場」に着眼した働き方支援事業にもニーズがある事が伺えた。
例えば、鉄道会社が、「近場での働き方支援」として、ターミナル駅や準ターミナル駅でない駅についても、遊休地も活用しながら、初期費用とランニングコストを抑えた「個室スペース」を提供し、企業がリモートワーク支援の一環として利用する事も考えられる。その際、コストを抑えるために、デジタルを活用して無人で稼働させる事や、付属事業として車や自転車などのレンタルやオンライン会話支援事業を行う、ことなども検討の余地がある。

鉄道会社は、今までもターミナル駅の商業施設の開発、住宅開発や流通事業、交通手段の提供、観光地・ホテル事業など非鉄道事業による街づくりを行ってきた。
最も望まれることは、感染症の心配がない世界で、以前のように自由に移動できるようになることであるが、他方で、今回の公共交通機関の利用控えや「働き方」の変化を受け、日常を支える移動手段の提供者として、かつ、街づくりの一環として沿線価値を高めるために、何ができるかの検討を続けることが求められる。

ご参考

「新型コロナウイルス感染拡大による鉄道利用等に関するアンケート調査」の実施概要

  • 【調査方法】

    インターネットアンケート調査

  • 【対象】

    全国の20代~60代の男女個人(地域と年代の組み合わせで人口動態割付)

  • 【有効回答数】

    2074人

  • 【実施時期】

    2020年09月04日(金)~2020年09月05日(土)

執筆者

佐野 則子

戦略IT研究室

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