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ポストコロナ時代の企業経営 第3回:企業規模拡大へ向けた産業組織の再デザイン

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2020/09/24

新型コロナウイルス感染症の第二波は、いったん小康状態になりつつある。しかし、9月8日に内閣府が発表した2020年4-6月期のGDP成長率(2次速報)は年率換算で-28.1%という厳しい現実となった。今後、秋冬の第三波も想定され、経済が元に戻るには相当程度の時間がかかることを覚悟する必要がある。企業経営は大きな影響を受けざるをえない。
日本の産業組織の特徴は、中小企業が雇用と付加価値を支えていることである。中小企業(中規模企業と小規模企業の計)に所属している従業者数は日本企業全体の69%、中小企業が生み出す付加価値額は全体の53%と過半となっている(図1)。このような中小企業に経済、雇用を依存する日本の産業組織構造が、コロナ問題の影響を深刻化させているのである。

まず、新型コロナ問題が直撃している旅行、飲食、サービスといった産業は中小企業のウェイトが高い。また、中小企業の多くは労働集約型や現場業務型などの業務的特徴を有するため、テレワークに移行することが難しく、新型コロナウイルスへの対応策が後手に回りやすい。さらに、中小企業はITの専門家が不足するなど人的資源に制約があることに加えて、投資力も低いためにIT化が遅れており、問題を深刻化させてしまうことになる。
このような新型コロナ問題がもたらした中小企業へのインパクトは、体力のある大企業にも直接的、間接的に影響をもたらすことになる。まず、中小企業の経営の脆弱性が雇用と個人消費の落ち込みをもたらし、大企業も売上の減少に直面することが想定される。
次に、大企業の川下側サプライチェーン(納入先、卸売り、小売り等)は中小企業であることも多く、体力の低い中小企業の倒産が与信リスクの上昇につながることが想定される。また、大企業の川上側サプライチェーン(調達先)に中小企業が組み込まれていることもあり、こうした場合にはサプライチェーン全体に影響する可能性がある。

企業規模成長を通した産業組織の再デザイン

新型コロナ問題を機に、日本の産業組織構造を再デザインすることが経済構造と雇用構造の課題解決になると考えられる。その鍵は企業規模の拡大である。
製造業を例にとると、日本の場合、他の先進国と比較して企業規模が拡大すると生産性がより線形的に増加する関係にある(図2)。

賃金の構造も生産性と同様で、企業規模が大きくなるほど賃金は高くなる傾向を示している(図3)。重層的系列取引を行う大企業にとって、廉価な経営資源として中小企業を活用することは、日本の高度成長期に強みとして機能してきた。系列の中小企業にとっても、大手の取引先との関係が経営の安定と成長を保証するという点で、相互依存関係という側面もあった。しかし低成長下で、新型コロナ問題への対策が中小企業の体力の限界を超えている現実に直面する中で、この相互依存関係は成立しないことになる。

またOECD諸国においては、企業規模が小さいほど労働分配率は高い。このことは、中小企業の付加価値の大部分が賃金に振り向けられ、設備投資やデジタル投資は劣後することを意味している。中小企業が労働集約型的業務を担う中で、生産性改善の投資ができず、成長や規模拡大が後手に回ってきた現実の結果であろう。
企業規模の拡大にともない、生産性が上昇し利益が増加する中で、賃金が増え、優秀な人材を集められ、成長戦略を実現しやすくなるという好循環ができれば、日本の経済や雇用にとっても魅力的である。深刻な新型コロナ問題の解決に直面している今、むしろ良好な経営循環を再デザインするには好機といえるのではないか。

良好な経営循環へ向けた課題

「規模の経済」といわれるように、一般的には企業規模の拡大は経済合理性をもっているのだが、現実には企業規模の拡大は進みにくい。当然ながら、そもそも企業規模の拡大が合理性を持たない業種もある。しかし日本には、企業規模の拡大余地があるのに進まない構造的な要因があることを見過ごすことはできない。
第一に、経営者のマインドが企業の成長にコミットしきれないことである。日本の中小企業の資金調達がエクイティではなく、経営者の個人保証や個人資産を担保とするような融資に依存しており、リスクをとれない構造があるからだ。このことは、所有と経営が一体化した家業的なビジネスを手堅く守るといったマインドを強くすることにもつながる。
第二に、政府の従来の中小企業政策が、中小企業の「保護」に重点が置かれ過ぎていて、企業を強化し、成長を促すという方向に振り切れていない。
第三に、企業の成長を促進させるステークホルダーが不在である。上場企業であれば株主からの監視があるため、経営陣に成長を促進させる構造を有する。中小企業の場合には、成長をドライブできるプレイヤーはローンの貸し手になるはずだが、その中心にいる銀行は、借り手企業の成長の促進、企業の合併、事業継承等の出口戦略を促すといったリーダシップをとるところまでいっていない。

強い企業体の産業組織への再デザインに向けて

平成バブルの崩壊、リーマンショックと、日本が大きな不況を経る度に、大企業はスリム化を図り、強靭な経営体質を作ってきた。今回、新型コロナ問題による需要の揮発に際しても、色々な経営施策を打ち出し、生き残りを図るであろう。
一方、中小企業政策は強い企業づくりというよりも保護や延命という観点が重視され、十分な構造改革がなされないまま、今回の新型コロナ問題に直面した。通常であれば生存できる中小企業も、中長期の影響を受ける中で倒産リスクが高まることとなる。
当然ながら、政府としても、厳しい経済環境の中で保護的な観点は必要である。しかし、日本の経済・雇用の将来を考えると、生き長らえさせるという延命観点だけではなく、業界再編や企業合併も含めて、強い体質の企業を作る転換期とすべきである。特に、新型コロナ問題は企業の体力や経営力の格差を顕在化させる機会と考えると、構造改革の好機と考えられる。
これを実現するには、産業政策だけでなく、産業組織を再デザインし、潜在的なリーダシップをとれるプレイヤーの活躍を期待したい。特に中小企業の成長には、資金の貸し手となっている銀行、特に地銀の役割は大きいものと考えられる。2000年代の不良債権処理において、有力地銀は貸出先の財務処理を目的とした業界再編を主導し、成果を上げてきた。また体力のある大企業も、サプライチェーンの維持・強化の観点で、川上・川下にある中小企業群の経営をチェックし、しかるべき手を打つことも有効であろう。
このようなプレイヤーによるダイナミックな産業組織の再デザインの実行を期待したい。

執筆者

村田 佳生

顧問

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