メタバースとは?
メタバースとは、インターネット上の仮想空間です。現実世界を超える体験とコミュニケーションを通して経済活動が生み出されます。
ユーザーは、3次元で構成された仮想空間の中で、自分自身の分身であるアバターを介して自由に動き回り、他者と交流し、商品やサービスの売買など 様々なことを体験できます。
なぜメタバースが注目されているのか
メタバースの概念が初めて広く人々の目に触れたのは2007年頃です。 3DCGで構成されたインターネット上の仮想世界(Second Life等)が一時話題となりましたが、定着はせず一過性のブームとなりました。
再び注目されるようになったのは2021年で、FacebookがMeta Platformsに社名変更したことや、コロナ禍でオンライン需要が増えたことを契機に、メタバース市場に参入する企業が続々と増え始めました。2021年11月時点で発表されたEMERGEN Research社調査によると、メタバース市場は、2028年にはグローバルで100兆円前後になると予測されています。
いまメタバースが注目されているのは、ユーザーが過ごす場が、現実世界からインターネット、そして仮想空間へと変化してきていることが背景にあります。メタバースが、新しい交流・体験・遊びとともに経済活動の場として捉えられるようになっているのです。
仮想空間で過ごすユーザーも増えており、数十万以上のユーザーを抱えるメタバースも出始めました 。在宅勤務やコロナ過を通して、ユーザーのオンラインコミュニケーションの能力が向上したことに加え、3D技術や通信技術、PC・モバイル端末の発達によって、より現実的に感じられる仮想空間が生まれてきたためです。
オンラインや仮想空間で過ごす中で、ユーザーの価値観も変化しつつあります。今後、例えば現実世界で美容院に行って髪型を変えるよりも、仮想空間上の自分自身であるアバターの髪型を変更するために課金をする といったユーザーが生まれてくることが考えられます。
NFT (Non-Fungible Token:ブロックチェーン上での非代替性トークンのこと) 技術により、所有者の証明やクリエイターが収益を受け取る仕組みの構築 が容易になりました。デジタル資産をNFT化することでメタバース空間での経済活動がしやすくなり、様々なビジネスが生まれ、そこに関わる人も増えています。現在はゲームやイベントといったものが目立っていますが、唯一無二のアイテムを作って売ったり、土地や絵画の売買など、その対象範囲は拡大しています。
商品・サービスを提供する企業側から見ると、仮想空間はECサイトよりもより現実感のある商品展示や接客が行える魅力的な場となります。そのため、商品販売の新たな顧客接点としてメタバースに着目する企業が増えています。
それに加え、短時間での世界旅行や、空を飛ぶ、といった現実では実現できない体験を提供する新たなサービスも考えられています。
メタバース空間とデバイス
メタバース空間(仮想空間)を実現する技術は総じてXR(クロスリアリティ)と言われており、デジタル映像の世界と現実世界の位置づけに合わせて3つに分類されます。
メタバースは3次元空間ではありますが、3次元専用のデバイス(VRデバイス等)がなくても、PC、スマホ、タブレットからでも接続できるサービスが多いです。
VR(Virtual Reality:仮想現実) デジタル映像のみで構成される空間
PC、専用のVRデバイスで接続することができますが、専用のVRデバイスで接続することで、CG で作られた世界や 360 度動画等の実写映像を「あたかもその場所に居るかのような没入感」で味わうことができます。
AR(Augmented Reality:拡張現実) 現実世界にデジタルの映像、文字情報を重ね合わせた空間
スマートフォンやARグラスなどを用いて、現実世界にデジタルな映像や文字情報が重ね合わされた世界を体験できます。
MR(Mixed Reality:複合現実) 現実世界と仮想現実(VR)が融合している空間
カメラやセンサを備えた専用のデバイスにより、現実世界、仮想現実を同時に体験できます。現実世界にデジタル映像を表示するという点ではARと似ているところもありますが、仮想現実上のデジタル映像を直接操作したり、複数人で共有したりすることができます。
メタバースのバリューチェーン
ユーザーがメタバース上で価値を得るまでには、様々な活動や技術利用が行われています。メタバースにビジネス参入するにあたっては、メタバースのバリューチェーンを理解したうえで、プラットフォーマーとして空間を創造するのか、ユーザー体験を提供するのか等、どこをターゲットするのか考える必要があります。
以下の表は米Beamable社のCEOである Jon Radoff氏はメタバースバリューチェーンの説明です。彼は、メタバースに求める体験から、それを可能にする技術や環境を提供する事業を7つのレイヤに分類しています。
1 |
Experience
(体験) |
ゲーム、ソーシャル、eスポーツ、シアター、買い物、ゲーム、社会的体験、ライブ音楽などを体験できる環境・サービス |
---|---|---|
2 |
Discovery
(発見) |
アドネットワーク、ソーシャルキュレーション等を通じて人々が体験を通じて発見すること |
3 |
Creator Economy
(クリエイター経済圏) |
デザインツール・デジタル資産マーケットプレイス等、クリエイターがメタバースのためにモノを作り、マネタイズするためのあらゆるもの |
4 |
Spatial Computing
(空間創造) |
3Dエンジン・XR(VR・AR・MR)・地理空間マップなど、物体と対話できるようにするソフトウェア。3Dエンジン、ジェスチャー認識、空間マッピングなど |
5 |
Decentralize
(非中央集権環境) |
エッジコンピューティング・AI・マイクロサービス・ブロックチェーンなど、エコシステムの多くを分散環境に構築・移行し稼働 |
6 |
Human Interface
(デバイス) |
メタバースへのアクセスを助けるハードウェア。VRヘッドセットや高度なスマートグラスなどのデバイス |
7 |
Infrastructure
(インフラ、通信) |
5G・6G・半導体・クラウドコンピューティング・通信ネットワークなど |
(出所) https://medium.com/building-the-metaverse/the-metaverse-value-chain-afcf9e09e3a7
メタバースの活用ケース
メタバースはゲームやコミュニケーションの分野から広がりを見せていますが、それ以外にも様々なところで活用され始めています。
企業内や企業間においては、距離の制約なく現実感のある体験ができるところを活かして、身振りや手振り、目線を感じながら行えるミーティングや、現実では難しい疑似体験による研修といった用途があります。
1 | カンファレンス、セミナー | どこからでも参加でき、相互コミュニケーションによる一体感のある場 |
---|---|---|
2 | ミーティング | 身振り手振りなどを通して、より臨場感のあるミーティングにより効率を向上 |
3 | 社内交流 | コロナ過のようなリモートワーク時代の働き方の中での従業員間の交流機会の増加 |
4 | 教育 |
より臨場感のある研修によりモチベーションの維持や研修効果を向上
相手からの目線を体験するなど特殊な環境の疑似体験 |
5 | 採用 | 採用時の応募者との接点の増加、先進性のアピール |
コンシューマ向けのビジネスでは、メタバースで顧客接点を作り既存事業へ誘導する形や、メタバース上で仮想空間ならではの体験を提供する形のサービスが生まれています。
1 | エンターテインメント | 仮想空間ならではの体験や演出 |
---|---|---|
2 |
マーケティング
ブランディング |
ゲーム等の体験を通して製品の良さをアピールしたり、普段接点のない顧客の創出 |
3 | 商品・サービス販売 |
バーチャル店舗を出店し、インターネットサイトよりも現実店舗に近しい接客を実施
現物を手に取って確認できるため安心して購入可能 |
4 | デジタル商品販売 |
仮想空間上での限定品や製品の販売
土地、絵画、アバター、等 |
5 | 旅行・観光 | 解像度の高い映像をもとにした疑似的な旅行 |
企業ビジネスだけではなく、政府や地方自治体主導での街づくりや活動でもメタバースの活用が考えられています。
1 | 地方創生 | 生産者とのコミュニケーションや特産品の販売、地方の魅力をアピール |
---|---|---|
2 | バーチャル万博 | 実際に会場に訪れることが難しい高齢者や障がい者、海外居住者もイベントに参加が可能 |
3 | 実際の都市情報の活用 | 現実の都市空間を3D空間に再現し、災害時のシミュレーションや、実際の都市にいるかのような体験を提供 |
メタバース普及を阻む4つの壁
メタバースを利用するユーザーは増えているものの、様々な面で課題を抱えている状況です。ここでは、メタバース普及を阻む4つの壁について説明します。
1つ目の壁は、デバイスの普及です。専用デバイスがなくても利用できるサービスは多くありますが、メタバースならではの体験にはVRデバイスによる没入感が必要です。しかし、現在のVRデバイスは、値段やサイズ、重量の問題などにより、気軽に使うにはハードルが高くなっています。一般消費者が持つスマートフォンでは、VR等で没入感のある体験をするにはスペックが不足しています。VRデバイスの普及に向けては、低価格化・小型化・軽量化が鍵となります。
2つ目の壁は、集客・定着です。いざVRデバイスを用意してメタバース空間に入ったとしても、長く過ごしたい、また戻ってきたい、と思わせるコンテンツが必要です。現時点では、例えば、メタバース空間上でのセミナーやコンサートなどのイベント、仮想店舗出店など、多くの取り組みが行われていますが、これらは注目度の高いメタバースを利用したスポット的なプロモーションや、ナレッジ、データ収集を目的とした実験的な活動である場合がほとんどです。メタバースならではの体験・コンテンツを提供することで、集客・定着させる必要があります。
3つ目の壁は、マネタイズです。集客が定着したとしても、メタバース空間上でマネタイズ出来る仕組みが無いと、ビジネスとしては成立しません。先述の通り、現時点ではイベント的な使われ方が多いですが、例えばメタバース空間上での販売や広告、サブスク、マッチング等のビジネスモデルを確立させ、マネタイズ化する必要があります。
4つ目の壁は、ガイドライン・標準化です。現在は、各社のメタバースサービスが乱立し、またデバイスも独自仕様のものが混在している状況です。将来的には、メタバースに関する法令やガイドラインが整備され、合わせて標準化が進み、サービス間の相互運用が確立されることで、自らのアバターが複数のメタバース空間を行き来するユーザー体験が可能となり、メタバースが広く普及していくことが見込まれます。
メタバースの将来について
メタバースは黎明期であり、しばらくは新たなプラットフォーム、サービスが生まれては消えていくといった状況が続くでしょう。企業においては、ビジネスを展開していくにあたり、これら新しいサービスや法整備の情報にアンテナを張り続けるとともに、メタバースによって変化した世界で、自分たちがどういった形で価値を創造するのか、メタバースとどう関わるのかをイメージしていくことが必要です。