はじめに

野村総合研究所(NRI)では、デジタル接点を通じた地方誘客の可能性と、旅行関連サービス(移動、体験、宿泊、飲食)におけるセルフサービスやロボットサービス代替の可能性を、インターネットアンケートにより調査した。その結果、AIなどによるレコメンドとポイントなどのインセンティブ提供により、半数程度の人は旅行内容も変更しうること、また旅行先でもセルフやロボットによるサービス提供といった担い手不足に対応した旅行内容も、その内容や価格次第で受け入れ可能であること、などが明らかになった。
これらは、旅行需要が集中してオーバーツーリズムの弊害が発生している地域から他の都市や地域に誘客しうることと、その旅行先でのサービス提供において従来にとらわれない方法の開発にも可能性があること示唆している。

1 国内旅行に際してのデジタル接点利用の状況

(1)利用率に年代差がない「地図アプリ利用」「経路検索」。若年層ほど利用が進む「予約決済サービス」

国内旅行におけるスマートフォンサービスの利用状況についての設問では、「地図アプリ」の利用は全世代で9割近い利用があり生活インフラとして活用されている状況が確認されたほか、「経路検索」についても世代にかかわらず6割超の利用があることが明らかになった。こうした情報収集(提供)が中心のサービスは年齢による利用の差は見られなかった。一方で「食事検索、予約」「宿のみの旅行予約」「交通予約」「宿と交通手段セットの旅行予約」「アクティビティ体験予約」については、年齢が上がると利用率が低下していく傾向が見られた。これは情報収集に加え予約というプロセスが含まれ、カード情報を含む詳細な条件などの入力において、年齢が高くなると一定の抵抗感や手間感が生じている可能性があると考えられる。

図表1:自分が利用しているスマートフォンサービス(複数回答)

(出所)NRI「国内旅行に関するアンケート調査」(2024年12月)

(2)年齢が高いほど利用が多い「従来メディア」と若年層ほど利用する「SNS」

つぎに、旅行前の情報収集(旅先、日程など)についての設問では、全体では「検索サイト」が最も多く、次いで「旅行会社などのWebサイト」、「テレビ、ラジオ」となっている。年代別に見ると、いくつか特徴的な傾向が明確になっている。年齢が高くなるほど利用率が高くなる媒体には「テレビ、ラジオ」「新聞」「旅行会社などのWebサイト」などの従来型メディアが挙げられ、60代で最も利用率が高いのは「旅行会社などのWebサイト」となっている。一方で、年齢が高くなるほど利用率が低くなる媒体としてSNSすべてが同様の傾向となった。中でも「Instagram」は20代においては「検索サイト」に次いで高い利用率となっている。これは従来のような旅行先を検討するというプロセスに加え、日常的な関心事項(「推し」など)の延長に「旅行」が発生していく思考プロセスがより重要になることが示唆される。

図表2:旅行情報収集の利用媒体(複数回答)

(出所)NRI「国内旅行に関するアンケート調査」(2024年12月)

2 個人嗜好に即したレコメンドの受容

本調査設問では「レコメンド」を「AIなどにより旅行内容などについておすすめを自動的に表示してくれる機能」と定義して調査を行った。

(1)レコメンドには「食事、飲酒の嗜好・履歴」が強いが3割の人は「そもそもレコメンドに個人嗜好は不要」

国内旅行の検討の際に自分自身のどのような情報をもとにレコメンドしてほしいかを聞いたところ、いくつかの傾向が明らかとなった。まず全体の中で最も情報反映希望が高く、かつ年代別にも明確な傾向が出たのが「食事、飲酒の嗜好・履歴」である。全体の4割弱での希望があり、かつ概ね年齢が高くなるほど希望も高くなっている。逆に年齢が低いほど反映希望が高い項目として「ファッション、インテリアなどの嗜好」など、日常生活における嗜好の項目で共通の傾向となった。また30代、40代で反映希望が高い項目が「家族構成、同行者」「年収」「旅行履歴」などの項目で、旅行のシチュエーションの反映を希望していると思われる。
なお「いずれもレコメンドに利用してほしいと思わない」という、自身の情報に基づく旅行内容のレコメンド全体を否定的に考える層も全体の3割程度いることから、レコメンドに際してはそうした層にも配慮した形での実現が必要である。

図表3:旅行レコメンドのために提供してもよい情報(複数回答)

(出所)NRI「国内旅行に関するアンケート調査」(2024年12月)

(2)4割以上の人が10%程度以下のポイント還元などでレコメンドにより旅行内容の変更も受容

国内旅行において、レコメンド次第で自身の旅行内容を変更し得るかどうか聞いたところ、全体で25%程度の人が「レコメンド内容に納得できたら当初想定していなかった旅行内容でも行ってみようと思う」との回答があった。本設問では、ポイントの還元や割引などインセンティブ有無についても聞いているが、「1~5%程度の割引やポイント上積み」「5~10%程度の割引やポイントの上積み」による変更の回答者を合わせると、20代、30代、40代では、50%近くなることから、レコメンド内容の納得性と比較的少額(10%以下)のポイント還元などにより、旅行検討時に旅行内容の変更を促すことが可能、と示唆される。

図表4:自分の旅行内容をレコメンドによって変更するか(単一回答)

(出所)NRI「国内旅行に関するアンケート調査」(2024年12月)

(3)レコメンドによる旅行内容の変更を安心して利用できるチャネルは旅行関係の公式アカウントが強い

つぎに、レコメンドされた国内旅行を予約、決済するチャネルをどの程度安心して利用できるかを聞いた設問では、「とても安心して利用できる」との回答が多いのは旅行関係(旅行会社、鉄道会社、航空会社、宿泊施設)の公式サイト、アカウントとなっている。1(2)で示したように、情報収集段階では特に20代を中心に旅行会社のWebよりもSNSの方が利用率は高い結果であるが、レコメンドによる予約決済を安心して行うという意味では、20代においても現時点では旅行会社の公式オンラインチャネルが最も信頼されているという結果となった。

図表5:レコメンドによる旅行内容を予約、決済する際のチャネルの安心感(それぞれ単一回答)

(出所)NRI「国内旅行に関するアンケート調査」(2024年12月)

3 セルフサービス、ロボットによるサービスなどの許容に関する意識

国内旅行において、セルフサービスやロボットによるサービスをどこまで許容できるかを以下の項目で確認した。

旅行活動内容分類 設問内容
交通サービスに関する個別設問 完全キャッシュレス
ロボットタクシー(完全無人運転)による送迎、移動
ナビ、アシスト機能つきセルフドライブによる移動
体験サービスに関する個別設問 完全キャッシュレス
ARグラスなどを活用した遠隔・バーチャルガイド
シェアサイクルなどセルフで利用開始、終了手続きを行うアクティビティ
宿泊サービスに関する個別設問 完全キャッシュレス
リネン(シーツなど)のセルフサービス(利用者自身がセット、片付け)
ごみ捨てなど簡易な清掃のセルフサービス(利用者自身がセット、片付け)
ロボットによるルームサービスなどの提供
飲食サービスに関する個別設問 完全キャッシュレス
ロボットによる配膳、片付け
ロボットによる案内、接客

(1)「価格次第」も含めると飲食や宿泊でも6割以上がセルフサービスとロボットサービスを「提供してほしい」

完全キャッシュレスの許容については、いずれの活動内容分類でも概ね4割弱程度が「特に割引などがなくても許容する」との結果であり、交通系ICなどですでに一定の利用者がいることから完全キャッシュレスへの抵抗も比較的少ないと考えられる。
各活動内容分類別に見ると交通、体験、宿泊、飲食で異なる傾向が見られた。「価格次第(安価になる)では、セルフサービスとロボットサービスを提供してほしい」という回答が、すべての設問で最多回答割合となっており、旅行活動にかかわるさまざまな場面で一定の価格インセンティブによりこうしたセルフサービス、ロボットによるサービスを許容する人が3割程度以上はいることが明らかとなった。特に宿泊活動の「リネンのセルフサービス」「簡易清掃のセルフサービス」で4割近い回答となっていることから、これまで「あって当然」というサービスにおいても価格面で選択肢を提示することで、サービス提供(施設)側の負担の軽減や担い手不足に対応したサービス提供ができる可能性を示唆している。
一方で、「できれば受け入れたくない」「全く受け入れられない」という拒否層は、交通が最も多く、次いで体験、宿泊、飲食の順に少なくなっており、自身の移動をロボットに依存することには抵抗があるがロボット配膳や接客には相対的に抵抗が少ない、という傾向が見られる。

図表6:旅行におけるセルフサービス・ロボットサービスを受け入れられるか(それぞれ単一回答)

(出所)NRI「国内旅行に関するアンケート調査」(2024年12月)

(2)レコメンドをポイント付与で受容する層はセルフ・ロボットへの許容度も高い

つぎに、レコメンドによる旅行内容の変更受容の程度と、セルフサービス・ロボットサービスの許容についてクロス集計でその関係を分析したところ、キャッシュレスを除くすべての旅行活動内容サービスの調査項目で「ポイント受容層」が最もセルフサービスやロボットの許容度が高い結果となった。「ポイント受容層」とは図表2のとおり、自分の旅行内容をレコメンドによって「ポイントが10%もらえるなら変更する」と回答した層である。特徴的な設問としてここでは宿泊項目のリネンのセルフサービスの結果を紹介する。
全体の傾向として「ポイント受容層」ではそもそも価格の割引などのインセンティブがなくとも、セルフサービスやロボットサービスの許容度は高い結果となっており、これに価格による許容を加えると7割以上の人がリネンのセルフサービスを許容すると回答しており、「全く受け入れられない」はわずかに2%程度にとどまっている。また同様に図表2で示す「納得受容層」「値引需要層」も似た傾向を有しており、価格による許容を加えると6割超の人が許容可能との回答となっている。

図表7:旅行におけるセルフサービス・ロボットサービスを受け入れられるか(それぞれ単一回答)
「リネン(シーツなど)のセルフサービス(利用者自身がセット、片付け)」

(出所)NRI「国内旅行に関するアンケート調査」(2024年12月)

4 まとめ デジタル活用による新たな旅行形態創出の可能性と今後の課題

最後にデジタル活用による旅行行動変容の可能性をまとめたい。
本調査では国内旅行ではAIなどのレコメンドを適切に利用者に提示することにより、一定の層が内容の納得と比較的少額のポイント(10%程度以下)で旅行内容を変更する可能性があることが示されており、インバウンドも含めて宿泊者が集中している東京や大阪といった大都市から、他の旅行先へ誘導することの可能性が明らかとなった。またその際に旅行の予約、決済を行うチャネルとしては旅行会社などの公式チャネルへの信頼度が年代を問わずに高く、こうしたチャネルでの決済へのスムーズなユーザー体験は、そうした行動変容を具体化する可能性も明らかとなった。
ただし、旅行内容の情報収集の段階では若年層ほどSNSの利用度が高いため、今後は情報の取得先であるSNSでの旅行内容のレコメンドと、そこから予約決済のチャネルに至る動線がますます重要になることや、自身の情報をレコメンドに利用してほしくないと考える層も、年代を問わずに一定存在していることなどに留意した取り組みが必要である。
一方で、旅行先におけるサービスの在り方についても、セルフサービスやロボットによるサービスに対する許容度は一定程度広がっており、人手不足が必ずしも地方への誘客の制約になるとは限らないことも示唆された。特に飲食や宿泊については「価格次第で許容」を含めると6割以上となることは、提供するサービス形態には幅を広げられる可能性があると考えられる。また、旅行先でのセルフ・ロボットサービスの許容は、レコメンドの受容性との親和性も高い。そのため、従来型の移動、宿泊、飲食サービスの形態にとらわれない新しい形での提供なども、レコメンドにより誘導することにも十分に可能性がある。

このように、デジタル接点でのAIなどによるレコメンドは人の旅行行動変容を促し、かつ旅行先でのサービスについてもロボットなどによる提供も許容度が大きいことが明らかとなったが、こうしたコミュニケーションには個人の情報の扱いはもちろん、いわゆるダークパターンなどへの対策など多くの課題も存在する。
一方で、旅行需要の大都市への集中を放置することは、過度の集中による弊害も含め大都市の生産性を低下させ、ひいては国全体の経済社会の劣化につながる恐れが大きい。そうした方向を転換し地方への誘客を進めるためにも、関係する主体がさまざまな協働のもとで、スマートフォンなどのデジタル接点を通じたレコメンドなどコミュニケーションによる地方への誘客を実現していくことを期待したい。

ご参考:アンケート調査概要

国内旅行に関するアンケート調査
実施時期 2024年12月19日~2024年12月20日
調査方法 インターネット調査
調査対象 全国
有効回答数 1,310
主な調査項目 国内旅行の予約の際に利用するメディア、Webサイト、アプリなど
国内旅行の際に体験したい内容、レコメンドしてほしい内容など
レコメンドされた内容に関する受容度など
利用したことのあるオンラインサービスなど

AIレコメンドとロボットによる地方誘客の「起こし方」

執筆者情報

  • 執筆者
    持丸 伸吾
    部署
    未来創発センター デジタル都市インフラ研究室
    所属・職名
    チーフエキスパート
    プロフィール

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