近年、都市空間や建設・不動産分野では、サステナビリティ(持続可能性)がイノベーションの中心的な価値観として注目されてきた。環境負荷の低減や資源の効率的利用を目的に、建築や都市づくりの各種施策が推進されてきたことは、社会課題への応答として意義深い。しかし、この「持続可能性」への志向だけでは、新しい産業や市場の創出を十分に後押しできず、現状維持に留まるリスクも孕んでいる。
この問題意識は、図「サステナビリティ・アプローチの範囲」で示される通り、サステナブルな設計や運営が、あくまで環境負荷の軽減(ネガティブなインパクトの最小化)に目的が偏りがちである点に端を発している。現状維持型のサステナビリティは都市や建物を「守る」発想が強く、社会的イノベーションやコミュニティの再生を促す「前向きな変化」までは十分に射程に入ってこなかったといえる。
そこで近年注目されるのが、「リジェネラティブ(regenerative)」という、現状維持ではなく新たな価値・成長・コミュニティを「生み出す」方向への転換だ。リジェネラティブなアプローチは、都市や空間の「再生」や「生成」、産業・コミュニティ・環境そのものの持続的成長や拡張を目指す。これにより、都市空間は単なる資源管理や環境配慮の場を超え、活力や魅力を持続的に拡大する基盤へと進化する。
この転換は、未来の都市づくりや空間イノベーションに不可欠であり、サステナビリティとリジェネラティビティを両輪として追求することで、より豊かな社会、新たな産業やコミュニティ形成につながると考えられる。従来の「守る」社会から「創る」社会への変容に向けて、都市・空間の設計や運営にも発想の転換が迫られている。
サステナビリティ・アプローチの範囲

出所)Craft et al., 2017. “Development of a regenerative design model for building retrofits” Procedia engineering,
180, pp.658-668.より作成
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執筆者情報
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- 執筆者
- 谷山 智彦
- 部署
- 未来創発センター
- 所属・職名
- シニアチーフリサーチャー
お問い合わせ先
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NRI 未来創発センター研究レポート担当