本研究では、日本の家計の決済行動を分析するとともに、動学的確率的一般均衡(DSGE)モデルを用いて、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の社会厚生を最大化する最適流通量を推計する。野村総合研究所が2024年に実施した全国8,000人規模のアンケート調査によれば、家計は保有する現金の約15.6%、預金の約12.7%をCBDCへ転換する意向を示しており、デジタル円が既存の決済手段を部分的に代替する可能性が示唆される。日本のマクロ経済・金融データでモデルをキャリブレーションし、アンケート調査に基づく家計の流動性選好を組み込んだ結果、CBDC金利をゼロに設定した場合の最適CBDC流通量は四半期GDPの92%となった。これはユーロ圏の64%(Burlon et al., 2024)を上回る水準である。日本においてより大きな最適流通量が推計される背景には、家計の流動性選好の違いに加え、中央銀行バランスシートの規模やGDP比で高い企業向け貸出比率といった金融システムの構造的特徴が影響している可能性がある。

⽇本における家計の決済⾏動に関するアンケート結果とCBDC最適流通量の分析

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執筆者情報

  • 執筆者
    石川 純子
    部署
    株式会社野村総合研究所
    所属・職名
    エキスパートリサーチャー
    プロフィール
  • 執筆者
    砂川 武貴
    部署
    ⼀橋⼤学⼤学院経済学研究科 教授